或る観測者の手記

ogura

獄中

細く長く続く廊下に自分と数名の靴音が響く。
外の世界を見るのはいつぶりだろうか。自問してみたが思い出せなかった。それ程彼は長い間ここに閉じ込められてきた。

ー”父親(ファーザー)“に。

ファーザーという存在が肉親でないことは知っていた。

幼い頃、貧しい農村の家庭に暮らした自分と、ファーザーは身分が違いすぎるからだ。

そんな自分を、突然養子に迎えた理由は何だったのか。

教育や作法を教えられ、綺麗な服を着させてもらい、暮らしは悪くなかった。けれども最も知りたい事だけは答えて貰えず、ここ数年ファーザーは訪れてもくれなかった。

ふと脚元に光が落ちていることに気づき、意識を現実に戻す。

そうだ、自分は長年の抱いてきた疑問の答えを遂に手に入れようとしているのだ。

突然送られてきた手紙は、弱々しい文字で、こう書かれていた。
「時が来た。今こそお前を迎え入れよう。」と。

ゆっくりと小さな窓に顔を向ける。

鉄格子越しに見える河の濁った水とわずかに見えた曇天の空。

それが、彼が十数年ぶりに見た外の風景だった。

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