カースオブダンジョン~あなたと私の心中旅行~
知るべきこと
「正直なことを言うと、俺だって本当は死にたい訳じゃない。でも俺は、例え現実世界に帰る方法があったとしても、現実世界に戻ってはいけない。」
「なぜ、戻ってはいけないんですか?」
「俺にはもう、『死ぬ以外に方法が無いからだ』」
「……死ぬ以外に?」
「ああ、KUMIちゃんはさ、現実世界にいた時に、『Tell』って名前を聞いた事ない?」
「……いえ、初めて聞いたと思います。Tellさん以外の『Tellさん』を知らないので……」
「俺、現実世界にいたころは、プロゲーマーを目指していたんだよ。1度だけゲームの大会で優勝したこともある。」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、FPSゲームの大会だよ。アマチュアで優勝できたのは、今までで、俺一人だけだったから、そのことを買われて本格的にプロ入りの相談を持ちかけられていた。」
FPSゲーム、お互いに銃を撃ち合う一人称視点のゲームだ。ゲームの世界に入る『カースオブダンジョン』も、言わば一人称視点。似通った点も沢山ある。
だからTellさんは、このゲームでもここまで強くなれたんだ……
「でも、プロ入りの夢が叶うことは無かった……叶わない定めだったんだよな……」
「叶わない……定め?」
「俺たちの家系は代々、『医者の家系』だったんだよ。」
親父の英才教育の影響で、子供の頃から成績は優秀だった。中学の時も、授業を軽く聞き流すだけで勉強にはついていけてたんだ。
でも、そういう勉強の努力を知らない奴は、後になってから苦労する。
「今の成績では……医学部には入れないと思います……」
完全に落ちこぼれた。でも、それで良かったんだ。おかげでゲームに出逢えたし、自分のゲームの才能に気付けた。
「いつまでも燻ってるんじゃない!! 今からでも遅くはない、医学学校に行け……」
「もう辞めてくれよ!! 俺に医者になる才能なんてないんだよ!!もういい、俺はこの家を出ていく!!」
そうして、俺は家を飛び出し、同じゲーム仲間の家に転がり込んだ。そこからは適当なバイトで食いつないで、仲間とゲームに没頭する毎日だった。時には上手い人のプレイを参考にしたり、オリジナルの戦法を考えてみたり、そうやって仲間と切磋琢磨しあって、ようやく……
「勝者!! Tell選手!!」
栄光を手にした。そこにたどり着くまで長い旅路だった。優勝賞金は200万。裏切った両親への償いと、親孝行をするには充分な額だった。
俺はその200万円の小切手が入った封筒を手に、すぐに親の住む実家に向かった。
たとえ医者にならなくても、結果を出せば、親父は認めてくれると思ってた。でも親父の返答は俺の思っていたものとは異なるものだった。
「お前は何度言ったらわかる!! ゲームの大会の賞金だと……!? そんな恥ずかしいものを持ってくるな!! 俺たちは代々医者の家系なんだよ!! 人の命を救う使命があるんだ!!」
胸ぐら掴まれて怒鳴られたよ。最後まで俺を許そうとはしてくれなかった。
「ゲームで人の命が救えるとでも思っているのか!!貴様ァァ!!」
「お父さんもうやめてください!!」
お袋が止めに入ったが、親父の怒りは収まらなかった。その修羅場を目の当たりにした瞬間、俺は自殺を決意した。
「プロゲーマーを目指す前から、このゲームのことは知っていた。どうせ死ぬならゲームに殺されたい……だからこのゲームをインストールした。」
自分では想像もできない、あまりにも壮絶な過去に、私は返す言葉が見つからなかった。
「照倉 療太、現実世界での俺の名前だ。忌まわしき父親から授かった、忌まわしき名前だよ。この名前を捨て、果たすことの出来ない使命から逃げるためには……『死ぬ以外の方法』なんて無いだろ……?」
「Tellさん……」
「見つけたぞ……Tell……」
「ッ!!?」
「バグォォォン!!」
背後から轟音が響き、私たちの隠れ家はあっけなく破壊されてしまった。
「……GENN、ついに見つかってしまったか……」
Tellさんが剣をかまえ、私の前に出た。
「他殺じゃ、意味無いんだろう……ならお前じゃ俺を殺せないはずだ。」
Tellさんは、憎しみの込められた激しい声で、GENNの『名前』を叫んだ、
「お前は俺が必ず倒してやる……GENN……いや、照倉……弦一郎!!」
本当の名を叫んだTellさんに、GENNは少し驚いていた様子だった。
「ほう……父親の名を覚えていたとはな……ならば私も『Tell』ではなく、お前を『療太』と呼ぼう、」
「なぜ……こんなことをする……?」
「私は悔いているのだ、お前の意志を尊重出来なかったことに……」
「あれだけのことをしておいて……何を今更……!!」
「あの時の私は家系を絶やさぬことに気を取られ、親として間違ったことをしてしまった。お前の真意に、気づいてやれなかった……お前の考えを否定して、道を閉ざさせてしまった。」
「それが、ここにいる全員を殺すことと、なんの関係がある!」
「これは、お前の願いを叶えるためだ。お前は優しすぎる……お前には死にたいという願望があるのに、周りの友たちのことばかりを気にして、自分の真意を叶えられないままでいる。私は父親として、最後だけは、お前の真意を尊重してやりたい、お前が余計な気遣いをせず、安らかに自殺ができるよう、私がお前の友たちを先に送ってやるのだ……」
そんな……身勝手すぎる……
「お前は何も分かっていない……そんなことをして……俺が安らかに死ねると思っているのか!!」
「そうでもしなければ!!……お前は一生死ねないままだ。 いつまでもこの世界で死を躊躇っているお前が、いい証拠じゃあないか!!」
「貴様ァァ!!!」
2人の剣が激しくぶつかる……その瞬間だった。
「ドガァァァン!!」
「グッ!!?」
「なんだ!? 爆発……!?」
爆発音とともに砂煙が舞いあがる……その後、煙の中から現れたのはネームレスの姿だった。
「そんな理由で……KUMIたちを殺そうとしてたのか……」
その声に、かつて私たちに、飄々とした態度で接していた頃の面影はなく……ただ静かな怒りだけが感じ取れた……
「なぜ、戻ってはいけないんですか?」
「俺にはもう、『死ぬ以外に方法が無いからだ』」
「……死ぬ以外に?」
「ああ、KUMIちゃんはさ、現実世界にいた時に、『Tell』って名前を聞いた事ない?」
「……いえ、初めて聞いたと思います。Tellさん以外の『Tellさん』を知らないので……」
「俺、現実世界にいたころは、プロゲーマーを目指していたんだよ。1度だけゲームの大会で優勝したこともある。」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、FPSゲームの大会だよ。アマチュアで優勝できたのは、今までで、俺一人だけだったから、そのことを買われて本格的にプロ入りの相談を持ちかけられていた。」
FPSゲーム、お互いに銃を撃ち合う一人称視点のゲームだ。ゲームの世界に入る『カースオブダンジョン』も、言わば一人称視点。似通った点も沢山ある。
だからTellさんは、このゲームでもここまで強くなれたんだ……
「でも、プロ入りの夢が叶うことは無かった……叶わない定めだったんだよな……」
「叶わない……定め?」
「俺たちの家系は代々、『医者の家系』だったんだよ。」
親父の英才教育の影響で、子供の頃から成績は優秀だった。中学の時も、授業を軽く聞き流すだけで勉強にはついていけてたんだ。
でも、そういう勉強の努力を知らない奴は、後になってから苦労する。
「今の成績では……医学部には入れないと思います……」
完全に落ちこぼれた。でも、それで良かったんだ。おかげでゲームに出逢えたし、自分のゲームの才能に気付けた。
「いつまでも燻ってるんじゃない!! 今からでも遅くはない、医学学校に行け……」
「もう辞めてくれよ!! 俺に医者になる才能なんてないんだよ!!もういい、俺はこの家を出ていく!!」
そうして、俺は家を飛び出し、同じゲーム仲間の家に転がり込んだ。そこからは適当なバイトで食いつないで、仲間とゲームに没頭する毎日だった。時には上手い人のプレイを参考にしたり、オリジナルの戦法を考えてみたり、そうやって仲間と切磋琢磨しあって、ようやく……
「勝者!! Tell選手!!」
栄光を手にした。そこにたどり着くまで長い旅路だった。優勝賞金は200万。裏切った両親への償いと、親孝行をするには充分な額だった。
俺はその200万円の小切手が入った封筒を手に、すぐに親の住む実家に向かった。
たとえ医者にならなくても、結果を出せば、親父は認めてくれると思ってた。でも親父の返答は俺の思っていたものとは異なるものだった。
「お前は何度言ったらわかる!! ゲームの大会の賞金だと……!? そんな恥ずかしいものを持ってくるな!! 俺たちは代々医者の家系なんだよ!! 人の命を救う使命があるんだ!!」
胸ぐら掴まれて怒鳴られたよ。最後まで俺を許そうとはしてくれなかった。
「ゲームで人の命が救えるとでも思っているのか!!貴様ァァ!!」
「お父さんもうやめてください!!」
お袋が止めに入ったが、親父の怒りは収まらなかった。その修羅場を目の当たりにした瞬間、俺は自殺を決意した。
「プロゲーマーを目指す前から、このゲームのことは知っていた。どうせ死ぬならゲームに殺されたい……だからこのゲームをインストールした。」
自分では想像もできない、あまりにも壮絶な過去に、私は返す言葉が見つからなかった。
「照倉 療太、現実世界での俺の名前だ。忌まわしき父親から授かった、忌まわしき名前だよ。この名前を捨て、果たすことの出来ない使命から逃げるためには……『死ぬ以外の方法』なんて無いだろ……?」
「Tellさん……」
「見つけたぞ……Tell……」
「ッ!!?」
「バグォォォン!!」
背後から轟音が響き、私たちの隠れ家はあっけなく破壊されてしまった。
「……GENN、ついに見つかってしまったか……」
Tellさんが剣をかまえ、私の前に出た。
「他殺じゃ、意味無いんだろう……ならお前じゃ俺を殺せないはずだ。」
Tellさんは、憎しみの込められた激しい声で、GENNの『名前』を叫んだ、
「お前は俺が必ず倒してやる……GENN……いや、照倉……弦一郎!!」
本当の名を叫んだTellさんに、GENNは少し驚いていた様子だった。
「ほう……父親の名を覚えていたとはな……ならば私も『Tell』ではなく、お前を『療太』と呼ぼう、」
「なぜ……こんなことをする……?」
「私は悔いているのだ、お前の意志を尊重出来なかったことに……」
「あれだけのことをしておいて……何を今更……!!」
「あの時の私は家系を絶やさぬことに気を取られ、親として間違ったことをしてしまった。お前の真意に、気づいてやれなかった……お前の考えを否定して、道を閉ざさせてしまった。」
「それが、ここにいる全員を殺すことと、なんの関係がある!」
「これは、お前の願いを叶えるためだ。お前は優しすぎる……お前には死にたいという願望があるのに、周りの友たちのことばかりを気にして、自分の真意を叶えられないままでいる。私は父親として、最後だけは、お前の真意を尊重してやりたい、お前が余計な気遣いをせず、安らかに自殺ができるよう、私がお前の友たちを先に送ってやるのだ……」
そんな……身勝手すぎる……
「お前は何も分かっていない……そんなことをして……俺が安らかに死ねると思っているのか!!」
「そうでもしなければ!!……お前は一生死ねないままだ。 いつまでもこの世界で死を躊躇っているお前が、いい証拠じゃあないか!!」
「貴様ァァ!!!」
2人の剣が激しくぶつかる……その瞬間だった。
「ドガァァァン!!」
「グッ!!?」
「なんだ!? 爆発……!?」
爆発音とともに砂煙が舞いあがる……その後、煙の中から現れたのはネームレスの姿だった。
「そんな理由で……KUMIたちを殺そうとしてたのか……」
その声に、かつて私たちに、飄々とした態度で接していた頃の面影はなく……ただ静かな怒りだけが感じ取れた……
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