後輩は積極的

Joker0808

第38話




「ん! 美味しいなこの料理!」

「確かに美味しいっすねぇ~」

 卓球を終え、現在俺たちは晩飯を食べていた。
 結局卓球は店長が優勝して終了した。
 俺は卓球の後、みんなから「おっぱい星人」と言うあだ名を付けられた。
 正直もう死にたい……。

「先輩、先輩」

「ん? どうした?」

 俺が食事をしているお、急に横から愛実ちゃんが話し掛けてきた。

「はい、あーん」

「え? いや、なんで……」

 愛実ちゃんはそう言いながら、俺の方に箸を向けてくる。

「なんとなくです、食べさせてあげます」

「いや、自分で食えるし」

「まぁまぁ、遠慮せずに」

「いや、良いって」

 俺は無視して食事を続ける。
 そんな俺の態度が気に入らなかったのか、愛実ちゃんは頬を膨らませて、俺に向けていた箸を自分の口元に持って行く。

「折角私が優しくあーんしてあげたのに! 先輩これで一生女の子にあーんして貰えませんよ?」

「そんな未来を俺は信じない」

 そう言いながら俺は食事を続ける。
 一体何がしたいのか……。
 俺がそんな事を思っていると、今度は目の前の席の小山君が、俺にビール瓶を差し出してくる。

「岬君もどう? 美味しいよ」

「あぁ……じゃあ少しだけ」

 俺はコップを手に取り、小山君からビールを注いでもらう。
 自分で言うのもなんだが、俺はお酒は強い方だ。
 記憶もしっかり残るし、あまりフラフラにもならない。
 しかし、あまり飲み過ぎると直ぐに寝てしまう傾向がある。
 俺はビールを一気に飲み干す。

「ぷはぁぁぁ! うめぇな!」

「あんまり酔っ払っちゃダメだよ? 未成年も居るし」

「それは小山君もだろ、それ何本目だよ」

 小山君は既に缶ビール日本と瓶ビール一本を飲んでいる。
 なんでも小山君はビール党らしく、最初から最後までずっとビールらしい。
 ちなみに俺はビールは最初の一杯で終了だ。
 なので二杯目は自動的に缶酎ハイになる。

「先輩、酔っ払って私を襲っちゃダメですよ?」

「安心してよ、酔っ払っても愛実ちゃんは無いから」

「それはどう言う意味ですか?」

「いだだだだ!! ごめん! ごめんって!」

 愛実ちゃんは俺の脇腹を思いっきり抓る。
 一応安心させるために言ったのだが、逆効果だった様子だ。
 とは言っても、俺は本当に酔わない。
 友人と酒を飲みに行っても、少し口か数が多くなる程度だ。
 小山君もそこまで酔っている感じはしない、問題は……。

「てんちょ~じきゅう上げて~」

「ま、真嶋さん……飲み過ぎ……」

 既に酔っ払ってしまっている真嶋さんだ。
 顔を真っ赤にし店長に絡んでいる。
 いつもの真嶋さんでは、絶対にありえない様子だった。
 浴衣も着崩れており、少しセクシーな感じになっている。
 対する店長は、真嶋さんがそんな感じだからか、あまりお酒が進んでいない。

「じきゅうあげろよぉ~この雇われ店長!」

「ま、真嶋さん……酔いすぎだよ」

「ん? よってないよぉ?」

「酔っ払ってますよ、少しお水飲んで下さい」

「ん……おしゃけが良いです……」

「ダメだよ、ほら少し酔いを覚まさないと」

「じゃあ、おそといく……」

「え? 外?」

 真嶋さんは真っ赤な顔でそう言い、店長の袖を掴んでそういう。
 なんと言うか……いつも大人っぽい人が、子供っぽい事を言うと可愛いな……。

「先輩」

「ん?」

「今、真嶋さんの事可愛いとか思いました?」

「もちろん」

「えーい」

「だから脇腹はイダダダダ!!」

 なぜか知らないが脇腹を抓られてしまった。
 俺と愛実ちゃんがそんな事をしている間に、店長は真嶋さんを連れて外に出て行こうとしていた。

「ごめん、ちょっと真嶋さんを介抱してくる」

「ん~てんちょ~早くいこ………」

「わかったから……じゃ、ちょっと行ってくるね」

「了解です」

 店長はそう言うと、真嶋さんを連れて外に行った。
 残った俺たちがは料理を楽しみつつ、雑談をしていた。
 俺は小山君と安達君と酒を飲みながら、バイトの話しをしていた。
 もちろん安達君の飲み物はジュースだ。

「岬さんのポテトの塩加減丁度良いですよね」

「そう言う安達君は塩振り過ぎだって」

「でも、忙しくなると振り過ぎちゃうよね~」

 話しはバイトあるあるだ。
 あの常連が最近来ないとか、新作のハンバーガーがどうとか内容はそんな感じだ。

「それより岬君」

「ん? 何?」

 俺が三杯目の缶酎ハイに手を掛けたのと同時に、小山君が聞いてくる。

「愛実ちゃんの事は本当になんとも思ってないの?」

「へ? なんで?」

「そうっすよ、仲も良いし付き合えば良いのに」

「いや、なんて言うか……愛実ちゃんは妹みたいな感じだしなぁ……」

 愛実ちゃんは女子高生同士で話しをしていて、一切こちらには気がついていない。
 俺は酒のせいで少しテンションが高く、思っている事を包み隠さず話す。

「確かにさ、愛実ちゃんは可愛いし……おっぱいも………」

「流石はおっぱい星人」

「安達君黙れ」

「すんません」

「えっと、話しを戻すけど……愛実ちゃんは可愛いよ、でも俺のこの可愛いは、恋愛感情の好きじゃないんだよ」

「そうなのかい?」

「あぁ、なんて言うか……実家の妹を見ているようっていうか……」

「わかった! つまり岬君はシスコンなんだね!」

「どうしてそうなる?」

 どうやら小山君は、酔い始めているようだ。
 俺はそんな小山君を放って、愛実ちゃんの方を見る。 大きな瞳に綺麗な肌、胸は大き過ぎず小さくも無い。 手足もほっそりしていて、俺が同い年だったら確実に好きになっていたと思う。

「あの子はそのうち彼氏が出来るよ」

「だろうね、モテるし」

「この前もお客さんにナンパされてたっすよね?」

 出会ったばかりの頃は少し苦手なタイプだった。
 しかし、話しをしていくうちに仲良くなっていき、今では一緒に買い物に行く程の仲だ。

「ホント……可愛いよな」

 遠くで笑う彼女を見ながら、俺はぼそりと呟く。
 そんな時だった、部屋の扉が急に開き、店長が帰ってきた。
 背中には真嶋さんを背負っている。

「真嶋さん酔っ払って寝ちゃってから、女性陣の部屋につれて行きたいんだけど、鍵開けて貰って良いかな?」

「あ、じゃあ私が」

 店長からそう言われ、椎名さんが立ち上がり、店長と共に部屋を出て行く。

「岬君、飲み物買ってきてくれないか?」

「え? 有るだろいっぱい」

 小山君の頼みに、俺は机いっぱいに置かれた酒とジュースの山を指さす。

「いや、お茶を買ってくるのを忘れちゃってね、買ってきてくれる?」

「あぁ、まぁいいか……ちょっと待ってて」

「ありがとう」

 俺は小山君に言われ、財布を持って部屋を出る。





「愛実ちゃん、愛実ちゃん」

「はい? なんですか小山さん」

 私が心桜ちゃんと話しをしていると、突然小山さんから話し掛けられた。
 
「今、岬君が飲み物を買いにコンビニまで行ったから、追いかけてきな」

「え? 本当ですか」

「うん、二人きりになるチャンスだよ?」

 小山さんにそう言われ、私は勢いよく立ち上がった。
「い、行ってきます!」

「うん、気おつけてねぇ~」

 私は小山さんに見送られ、先輩を追いかけて部屋を出た。
 先輩と二人きり!
 小山先輩ナイス!
 私はこの旅行中、先輩と二人きりになる瞬間を何度も狙っていた。
 お昼に二人きりになった時も良い雰囲気になれたが、夜に二人きりと言うのは、雰囲気が全然違う。
 
「あ、いた!」

 少し歩いて私は先輩を発見した。
 
「先輩!」

「うぉ! ま、愛実ちゃん? どうしたの?」

 私は先輩の背中を叩き、先輩に声を掛ける。
 先輩は先ほどからお酒を飲んでおり、少しお酒の匂いがした。

「私もコンビニ行きますぅ~」

「あぁ、そういうことね……夜だから足下気を付けるんだよ」

「私は先輩に危険を感じちゃいます」

「なんで?」

「酔っ払った先輩が、私を襲っちゃわないか……」

「安心してよ、絶対無いから」

「むぅ……」

 私は頬を膨らます。
 別に私は先輩になら襲われても良い。
 確かにお酒の勢いとかは嫌だが、お酒が入っているのに、絶対無いとまで言われるのはなんだかムカつく。
「本当に絶対襲いませんか?」

「襲わないって」

「じゃあ、こんな事してもですか?」

「うわっ!」

 私は先輩の背中に抱きつき、自分の胸を先輩の背中に押し当てる。
 正直結構恥ずかしい。
 でも、少しでも先輩に私を意識して欲しい。
 しかし……。

「歩きにくいからやめて」

「先輩、ちゃんと付いてます?」

「何が?」

 本当にこの人は何なのだろう?
 人が恥ずかしがりながら誘惑していると言うのに、まったくなびかない。
 そんな先輩に私が若干イライラしていると……。

「ほら」

「え? なんですか?」

 先輩は私に手を差し出して来た。

「手、繋ごうよ」

「え? え!? い、いきなりなんですか!」

「いや、夜だし少し坂になってるから、転ばないように」

「あぁ……知ってましたよぉ~」

 いきなり手を繋ごうなんて言うからドキッとしたのに……。
 私は少しガッカリしながら先輩と手を繋ぐ。
 先輩の手は大きくて暖かかった。
 コンビニに向かう道は緩やかな下り坂になっており、少し気を付けないと転んでしまう。
 しかも夜と言うこともあって、足下が見にくい。

「先輩……」

「どうしたの?」

「先輩の手……暖かいですね」

「そうか? 愛実ちゃんの手が冷たいんだよ」

「彼氏とも手なんて繋いだ事ないのに……」

「彼氏居ないんだろ?」

「どうせ独り身ですよぉ~」

「俺もだから気にすんなって」

 コンビニに到着した私たちは、店内に入って目的の物を探す。
 繋がっていた手が離れてしまい、私は少し寂しさを感じた。

「えっと……お茶……お茶……お、あった」

「先輩、私アイス食べたいです」

「はいはい」

 先輩は仕方なさそうな感じで、私の持ってきたアイスを受け取り、そのままレジに持って行く。

「さて、帰ろうか」

「あ! ちょっと待って下さい!」

「ん? どうかした?」

「少し、散歩して帰りませんか?」

「え? あぁ良いけど……」

 このままただ帰るだけでは、何も進展しない。
 なんとしてでも先輩との仲を進展させたい。

「綺麗だよなぁ……」

「ふぇぇぇ! い、いきなりなんですか!?」

「だって綺麗だろ? この夜空」

「へ?」

 いきなり綺麗なんて言うから、私は自分の事だと思って勘違いしてしまった。
 ややこしいのよ!!

「先輩……もし私に彼氏が出来たら……嫌ですか?」

「え?」

 このままでは、何も始まらない!
 ここは少し積極的にならなければダメだ!
 私は先輩の横を歩きながら、そんな事を尋ねる。

「うーん……本音を言うと……ちょっと嫌かな?」

「え!? 本当ですか?」

「なんで嬉しそうなの?」

 この返答は結構嬉しい。
 そうかぁ~、私に彼氏が出来たら嫌なのかぁ~。
 私は口元が緩むのを堪えながら、先輩に尋ねる。

「な、なんでいやなんですか?」

「うーん……遊びとか誘えなくなるだろ? それは少し寂しいかな?」

「そ、そんなに私と遊びたいんですか?」

「まぁ、なんだかんだ言っても楽しいからね……」

「もぉ~先輩ったら~」

「機嫌良いね……」

 そっか~、そんな風に思ってたんだぁ~。
 お酒を飲んでいるせいか、今日の先輩はなんだか素直だ。

「それに、やっぱり可愛い子に彼氏が出来ると嫌かな」

「なんですかぁ~、私の事好きなんですか?」

「うん、好きだよ」

「え? えぇぇぇぇ!? い、今なんと?」

 突然の先輩の告白に私は驚き声を上げる。
 
「あぁ、もちろん友達としてね」

「あぁ……はいはい」

 まぁ、そんな事だろうとは思いましたけどね……。
 先輩と私は川の近くのベンチに座り、コンビニで買った飲み物を飲んでいた。

「ほい、ジュース」

「ありがとうございます」

 私は先輩からジュースを受け取る。
 先輩も自分用に買ったお茶を取り出して、飲み始める。
 私はそんな先輩の横顔をジーッと見ていた。
 私の好きな人、ずっと一緒に居たい人。
 その人は鈍感で、鈍くて、でも優しくて……。
 そんな先輩が私は大好きだ。

「先輩……」

「今度はなんだい?」

 先輩は私の問いかけに、口元を緩めながら尋ねる。
 月明かりに照らされた先輩を見ながら、私は頬が熱くなるのを感じる。
 今日の先輩はなんだかいつも以上に格好良く思えてしまう。
 なぜだろう、別に特別なにかあった訳ではないのに……。
 そんな先輩の顔を見て私は言う。

「月が……綺麗ですね」

「ん? あぁ、確かにそうだね」

「はい……」

 この言葉の意味になんてきっと気がついていないだろう。
 でも、今はそれで良い。
 いつか、私は絶対に先輩の一番になってみせるのだから。
 私はそんな事を思いながら、先輩の腕に抱きつく。

「お、おい……離れてくれよ……」

「嫌ですぅ~離れませ~ん」

「はぁ……いろいろ当たってるんだけど?」

「今日はサービスです」

「あのなぁ……」

「えへへ~」

 こんな日常がいつまでも続けば良いのに。
 願わくば、先輩と付き合う事が出来れば……。



END

 

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