後輩は積極的

Joker0808

第26話

「じゃぁ、本当に付き合ってないの?」

「いや、俺と先輩が付き合うなんて、今後もないよ」

「それにしては、仲が良すぎるような……」

 仲が良いように見えても、実際はそうなのだから仕方ない。
 てか、俺と先輩が付き合うなんて、そもそも前提がおかしい。
 先輩からは散々「岬君はモテない」だの「岬君は独身貴族になりそう」だのと言われてきたのだ、そんな事を言う相手と付き合いたいなんて思わないし、自分がいかに魅力の無い人間なのかも分かってしまう。

「まぁ、先輩に彼氏が出来たら俺も自由の身になれるんだけど……」

「それって、岬君に彼女が出来ても自由になれるんじゃない?」

「じゃあ、私と付き合ってみる?」

「は?」

 俺は古瀬の言葉に思わず間抜けな声をだしてしまう。
 古瀬は俺の方を見てニコニコしている。

「からかうなよ、古瀬なら彼氏なんて選び放題だろ?」

 そうだ、きっと古瀬も俺の事をからかっているに決まっている。
 ヤリサーと名高いテニサーに所属しているし、ルックスだってかなり良い、きっと童貞の俺をからかって遊んでいるに決まっている。
 俺がそんな事を考えていると、俺のポケットのスマホが音を出して震え始めた。

「すまん、電話だ」

「いいよ、出て来て」

 俺は席を立って、一旦店の外に出て電話に出る。

「もしもし?」

『先ぱ〜い』

 声の主は愛実ちゃんだった、声の感じから不機嫌あ様子が伝わってきた。

『早く帰りましょうよ〜暗くなっちゃいますよぉ〜』

「あー、それなら先に帰ってて良いよ?」

『か弱い女子高生に、夜道を一人で帰れと?』

「いや、まだ夕方だし……」

『早くしないと、この前のプールで先輩から胸を揉みしだかれたって、みんなにバラします』

「直ぐに行きます」

 あの日の自分を恨みながら俺は電話を切って、古瀬の所に戻る。

「悪い古瀬! ちょっと用事あるから、先に帰るな」

「え? あぁ……うん、じゃあまたね」

「あぁ、またな!」

 俺は古瀬にそう言うと、急いで店の休憩室に戻る。
 休憩室にはすごく不機嫌そうな愛実ちゃんが、腕を組んで仁王立ちしていた。
 別に俺が悪いわけじゃないのに、なんでこんなに愛実ちゃんは怒っているのだろうか?

「ま、愛実ちゃん? か、帰るんだよね?」

「はい、帰りますよ。あの人は良いんですか?」

「え? あぁ、古瀬のことか……まぁ、別に特別仲が言い訳じゃないしな」

「ふーん……」

「な、なに?」

 愛実ちゃんはそう言いながら、ジト目で俺を見てくる。
 別にやましいことをしてきた訳じゃ無いのに、なんか俺が悪いみたいで居心地が悪い。

「先輩、早く帰りましょう」

「あ、あぁ……そうだな」

 俺と愛実ちゃんは裏口から外に出て、いつものように帰宅し始める。
 愛実ちゃんは帰り道もずっと機嫌が悪かった。
 
「愛実ちゃん? なんで最近そんなに機嫌悪いの?」

「そんなことありませんー!!」

「不機嫌じゃん……」

 俺はため息を吐きながら愛実ちゃんの後ろを歩く。

「先輩は随分モテるんですね」

「は? モテる? 一体何を言ってるんだ?」

「だって! ……なんでも無いです」

 何かを言おうとした愛実ちゃんだったが、途中で言葉を止める。
 
「俺がモテてたら、夏休みもバイトなんてしてないよ」

「ふーん」

 それと愛実ちゃんの機嫌が悪い理由と何が関係あるのだろうか?
 俺は不機嫌な愛実ちゃんを家に送り届け、家に帰宅する。





「岬君、覚えてないのかな?」

 私、古瀬優華は貸し切り状態の店内で一人呟く。
 先ほどまで話をしていた彼は急いでどこかに行ってしまった。
 私はそんな彼が座っていた席を見つめながら昔の事を思い出す。
 あれは私が高校二年生の時だった。
 実は私は岬君の卒業した高校のすぐ近くの女子校の出身だ。
 彼と始めて出会ったのは大学では無い。
 実は高校二年の夏に一度会っているのだ。

「彼女……居ないんだ」

 私は彼には一個年上で、ミスコンの優勝者の彼女がいると先ほどまで思っていた。
 しかし、それは私の勘違いだった。
 だから思わずあんな事を言ってしまったのだ。

「……で、電話とか……しても良いのかな?」

 私は緊張で手を振るわせながら、スマホの連絡帳にある彼の名前を見る。
 彼があの時から何も変わっていなくて、私は安心した。
 あの時のまま、優しくて誠実な彼で……。
 私はスマホをポケットに入れ立ち上がり、店を後にする。
 昨日から私はずっと彼の事を考えていた。

「ちゃんと言えば良かったなぁ……」

 さきほどの話の内容を思い出し、私はため息を吐く。
 思わず「付き合ってみる?」なんて言ってしまい、岬君は私がからかっていると思っているかもしれないが、私は結構本気だったりする。

「今度はちゃんと言わなきゃ」

 私はそんな意気込みをして、自分のアパートに帰って行く。





 古瀬が店に来た次の日。
 俺は愛実ちゃんからの電話で目を覚ました。

「もしもし?」

『先輩、映画に行きましょう』

「え? なんで?」

『プールに言ったとき約束したからです』

 そう言えばそんな約束したなと思いながら、俺は愛実ちゃんに言う。

「また今度じゃダメ?」

『ダメです! 一時間後に駅前に集合です!!』

 愛実ちゃんはそれだけ言い残して、電話を切った。
 俺はため息を吐いて肩を落とし、仕方なく映画に行く準備を始める。
 最近機嫌が悪いので、あまり愛実ちゃんと二人で出かけたくは無いのだが、約束してしまったのだからしょうがない。

「はぁ……今日も不機嫌なままじゃないよな?」

 俺はそんな事を考えながら、服を着替えて出かける準備を続ける。
 それよりも、愛実ちゃんは受験生なのに、こんなに遊び歩いて良いのだろうか?
 俺はそんな事を考えながら、愛実ちゃんにSNSにメッセージを送る。

【勉強大丈夫? 遊びすぎじゃない?】

 送って直ぐに愛実ちゃんから返信が来た。

【先輩と違って成績優秀なので】

 嫌みなのか、それとも怒っているのか、それともそのどちらもなのか、俺はそんな疑問を抱きながら荷物を持って外に出た。

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