後輩は積極的

Joker0808

第22話




「先輩」

「どうした?」

「暇ですね」

「そうだな」

「珍しいですよね」

「そうだな」

 夏の日の昼、今日も俺はバイトに明け暮れていた。
 しかし、今日はいつものバイトとは少し違っていた。
 その理由は店内にあった。
 昼時だと言うのに、客がまったく居ない。
 平日とはいえ、結構忙しくなるのだが、今日はおかしい、フロアにお客さんがゼロなのだ。

「暇だね」

「あぁ、暇だ」

 本日の昼のメンバーは、俺と小山君と愛実ちゃん、そしてパートのおばさんと店長だ。
 小山君と俺は厨房で何をして良いか分からず、先ほどから雑談をしていた。
 そこに愛実ちゃんも入って来て、現在は三人でお客さんが来るのを待っていた。

「今日なんかあったっけ?」

「いや、イベント事は何も無いと思うけど?」

「なんでお客さん来ないんだろうな?」

 先ほどから掃除をしたり、材料の補充をしたりして暇を潰していたのだが、大体の事が終わってしまい、本格的に暇になってしまった。

「もしかして、これのせいですかね?」

「ん? チラシ?」

「今日からオープンらしいですよ」

 そう言って愛実ちゃんが持ってきたのは、一枚の折り込みチラシだった。
 そのチラシは、新しくオープンするハンバーガーショップの物だった。

「へー、うちの店より安いな……」

「ですよね、しかも量も多そうです」

 店はうちの店からかなり近い上に、駅の近くだ。 
 おまけに料金も全体的に安いし、店の内装なんかもオシャレだ。

「これのせいか」

「どうしましょう! このままじゃ、うちの店潰れちゃいますよ!」

「いやいや、大丈夫だって。そう簡単にうちが潰れるわけ……」

「いや、分からないよ」

 そう言ってきたのは、小山君だった。
 顎に手を当てて、なにやら思い出すように話を始める。

「こんな話しを聞いた事がある。とあるコンビニの話しだ」

「お、おう」

「その店は、周辺にライバルと言えるお店も無く、何もしなくても客が店に来ていて、売り上げもよかった
らしい」

「あぁ、それで?」

「しかし、ある日近くに新しいコンビニが出来た。名前も聞いた事のない小さな店だったので、そのコンビニはあまり気にしていなかった。しかし、それが運の尽きだった」

「なんでだ?」

「新しく出来た店は、コツコツと営業努力を行い、着実に客数を増やしていっった。一方の昔からあるコンビニは、なんの経営努力もしなかった為、売り上げはどんどん落ちてしまった。そして結果……」

「潰れたと?」

「そうだ、だからこの店舗もうかうかしてられないかもね」

 まぁ、確かにそうかもしれない。
 向こうの店は、オープン記念でポテトが無料で貰えるらしい。
 みんなそれ目的で向こうの店に行っているようだし、こっちも何か手を打たないとまずいんじゃないか?
 なんて事を考える俺だが、バイトがいくら心配してもしょうがない。
 こういうことは、店長や社員の人が何か手を打つだろう。

「ま、そう言っても俺たちが心配する事でもないし、バイトが口を出す問題じゃないだろ?」

「そうだけど……」

「売り上げに影響があった訳でもないし、ヤバくなったら店長が何とかするだろ? じゃ、俺は休憩行くから」

「あ! 先輩ずるい!!」

 俺は二人にそう言って、バックヤードに引っ込んでいく。
 この分なら、俺が一人抜けても大丈夫だろう。
 俺は店長に休憩に入る事を言いに店長室に行く。

「店長、店暇なんで先に休憩入ります」

「ん、あぁ分かったよ」

 店長はいつも通りだった、特別焦った様子もなく、パソコンに向かっていた。

「店長、近くにライバル店が出来たっぽいですけど、余裕そうですね」

「ん? まぁ、あぁ言うのは一時的に話題になるだけだからね、いざとなったらがんばるけど」

「そう言うもんすか?」

「そう言うものだよ。うちだって、長い間ここで頑張ってきたんだ、リピーターだってたくさん居るからね」

 店長はあまり気にしていない様子だった。
 流石店長と言うべきか、こんな時でも落ち着いて言る姿を見ると、やっぱり大人だなと感じる。





「お疲れ様でした」

 俺はそう言って、店の裏口から出て行った。
 今日のシフトはこれで終了、時刻は夕方の18時で夕焼けが綺麗な時間だ。

「さて、何を食べて帰りましょうか!」

「当たり前のように言うのやめてくれない?」

 そう行ってきたのは、俺の隣を歩く愛実ちゃんだ。
 今日は夏休みに入ってから珍しく、上がりの時間が一緒だった。

「最近行ってないじゃ無いですか〜」

「行ってない代わりに、プールでも祭りでもお金を使わされたけどね」

「じゃあ、今日はあのチラシのお店に行ってみますか! チラシも入ってましたし!」

「結局行くのね……」

 俺は彼女に言われ、噂のハンバーガーショップに向かった。

「うわ……」

「け、結構いますね……」

 夕方だと言うのに店はかなり賑わっていた。
 しかも、やっぱり値段が安い。

「何食べてみる?」

「スタンダードにハンバーガーとポテトですかね?」

「じゃあ、並ぶか」

「はい!」

「……しかし、店員の女の子は結構……可愛いってぇぇ!!」

「あれ〜? 先輩どうかしましたぁ〜?」

「俺……バイト先変えようかな……」

 こっちのバイトの女の子の方が、なんだか優しそうだと思ってしまった。
 注文を終え俺たちは空いている席に座る。

「見た目は普通ですね」

「まぁ、ハンバーガーなんてみんな似たようなもんだろ? 問題は味だが……」

 そう言って、俺と愛実ちゃんはハンバーガーを口に入れる。

「ん! 結構美味しいですね!」

「確かに美味しい……この味でこの値段だったら、結構良いかもな」

「ポテトも揚げたてですね」

「ここのポテトはうちの店のポテトより細いね」

 自分の店の味と比較しながら食べていると、俺はあることに気が付いた。
 

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