後輩は積極的

Joker0808

第6話




 夏休みに入った。
 大学の夏休みは長い。
 俺はそんな夏休みをどう過ごすかと言うと……。

「いらっしゃいませ〜」

 もちろんバイト三昧だ。
 稼げる時に稼いでおかなければ、遊ぶことも出来ない。
 俺は平日はいつもの倍の時間シフトに入っている。

「はぁ……疲れた」

「お疲れ岬君」

「小山君と一緒に上がりなんて、なんだか違和感だな」

「岬君はいつも僕より早く帰って行くからね」

 時刻は夜中の12時。
 いつも俺は遅くても夜の10時にはバイトを終えてアパートに帰る。
 こんな遅くにバイト先に居るのは、長期休みの時だけだ。

「小山君は大変だな、毎日こんな遅くまでバイトして」

「慣れちゃえば大変じゃないよ」

「そういうもんかなぁ? じゃ、俺はさっさと帰るよ」

「あ、待った。よかったら、このチケットいらない?」

「え? これって、プールの入場券?」

「あぁ、最近出来た遊園地とか映画館が入ってる、大型のアミューズメントパークだよ。僕はそう言うの興味ないし、よかったら小山君行ってきてよ」

「いや、俺も興味ないし……それに、これペアチケットだろ? 一緒に行く相手も居ないし……うん、絶対に居ない!」

「なんで二回言ったんだい?」

 なぜか知らないが、一緒に行く相手の事で一瞬先輩の事が脳裏を過った。
 あの人と一緒にプール?
 どんな罰ゲームだよ。
 男からはきっと嫉妬の視線を向けられるだろうし、先輩は先輩で俺を顎で使うに決まってる。
 そんなチケット、家にだって無いほうが良いに決まってる。
 ここは丁重にいらないと言っておこう。

「誰か別な奴に渡してくれよ」

「そっか……じゃあそうするよ。お疲れ様」

「あぁ、お疲れさま」

 俺はチケットを返して、家に帰る。
 俺の夏休みはバイトばかりしている訳では無い。
 しっかりと友人と遊びにも行くし、課題もやっている。
 しかし、残念ながら彼女なんて居ないので、ペアチケットなんて宝の持ち腐れだ。

「さて、帰るか」

 俺は少し涼しくなった帰り道を自転車で帰って行く。





「え? プールの入場チケット?」

「うん、愛実ちゃんいる? 誰かと行っておいでよ」

 バイトのシフト終わり、私は小山さんから最近出来た大型アミューズメントパーク内にある、プールの入場チケットを渡された。

「でも、一応私は受験生ですし……」

「息抜きは必要だよ? それに……岬君と行ってきたら?」

「え!? な、何を言ってるんでしゅか!! なんで私がせ、先輩と……」

「大丈夫、僕は誰にも言わないから。好きなんでしょ? 岬君の事」

「え、えっと……は、はい……」

 まさか小山さんにバレていたなんて……。
 絶対にバレてないと思ったのに、この人は感が鋭いのよね。
 
「最初は岬君に渡して、愛実ちゃんを誘うように言おうと思ったんだけどね、いらないって言われちゃったから、愛実ちゃん誘ってみたら?」

「せ、先輩とプ、プール……」

「毎日勉強がんばってるんでしょ? たまには生き抜きして来なよ」

「ぷ、プール……水着……せ、先輩とデート……」

「あぁ……自分の世界に入ってるなぁ……」

 先輩とプール!
 これはデートに誘う言い口実になるのではないだろうか。
 しかもお互いに露出の高い水着!
 先輩の水着なんて……ちょっと興奮するかも……。

「へへっ……えへへ……」

「おーい、愛実ちゃ〜ん。女の子がしちゃいけない笑い方になってるよぉ〜」

 渡しは小山さんからプールのチケットを受け取り、家に帰って来た。

「さて、どうやって先輩を誘うか……」

 私はベッドの上で寝ころびながら、チケットを眺めて考えていた。
 バイト先でも夏休みのせいもあってか、上がり時間が被ることが少ない。
 
「うーん、やっぱり電話だよね……」

 私はそう言って、スマホを手に取り連絡帳のアプリを開く。
 先輩の名前を見つけて私は考える。
 なんと言って先輩を誘えば良いのだろう?
 いや、普通に「一緒にプールに行きません?」で良いと思うのだが、断られたらショックだ。
 絶対に断られない方法を考えなくては……。
 私は勉強よりも一生懸命になって、考えた。
 どうやったら先輩に断られずに、一緒にプールに行けるか

「よし! こうしよう……」

 私は一つの結論にたどり着き、先輩に電話を掛ける。

『もしもし? どうしたの愛実ちゃん?』

「いや〜夏休みに入って女っ気のますます無くなった先輩に、可愛い可愛い私が気を利かせて電話を掛けてあげたんですよぉ〜」

『早速切りたくなってきた……』

「ダメですよ。怒りますよ」

『え? 怒って良いのって俺だよね? なんで俺がガチトーンで怒られてるの……』

「そんな事より先輩、プールに行きたいですよね?」

『いや……俺は別に……』

「私と一緒でも……ですか?」

『うん』

「怒りますよ」

 本当にこの人は乙女心を理解していない!
 私が勇気を持って、こうして誘っていると言うのに!!

「行きますよね? 私とプール」

『いや、俺は別に行かなくても……』

「行きますよね? ね?」

『そ、そんな圧力を掛けられても……課題とかあるし……大体君は受験生だろ? 勉強しないと……』

「合コンで女子高生に手を出そうとしてたって、パートのおばさん達にばらしますよ?」

『そ、それは卑怯だろ……』

 飲食店におけるパートのおばちゃん達は、言わばその店の情報塔だ。
 おばちゃん達に話せば、その話しは店のスタッフ全員に広まる。
 合コンで女子高生を口説こうとしていたなんて、そんな話しが店で広まれば、先輩は他の女性スタッフから軽蔑の目で見られて、仕事行きづらくなる。
 私はそれを利用して、先輩を脅しているのだ。

「さぁどうします?」

『はぁ……分かったよ、行けばいいんだろ?』

「やった! じゃあ、詳細はあとで送りますね!」

『はいはい、じゃあ俺はこれから風呂だから』

「奇遇ですね、私もです」

『あっそ』

「想像しました? 私の入浴シーン」

『全然』

「怒りますよ」

『だから、なんで!?』

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