戦国生産無双伝!
56話
ロイド歴三八八九年二月中旬
シュテンの婚約が決まった。キシンたちと話し合ったウラツジ家の姫で一一歳の少女だ。
決まったと言うのは語弊があるな。婚約を発表するのはウラツジ家の蟄居謹慎が解けてからとなる予定だ。
とは言え、婚約から即結婚となるだろう。
その為にカモンの義父殿にはウラツジ家の蟄居謹慎の解除を王に働きかけてもらっている。
王もイシキ家に組したウラツジ家やセイワ家を潰す気なら既に行っているはずで、それをしなかったのは時期を見て赦すつもりのはずだ。
その時期が何時か、だが、そこはカモンの義父殿に任せるしかない。
そしてオダのイチ姫とシロウの結婚も決まった。
来月にはシロウが湖桟山城に入り元服させることになる。そしてシロウは経済衆に所属となる。
あいつ、何年も前に会った時には職業を持ってなかったのに先月会った時には職業を持っていやがった。
どれだけ努力したのだろうか?後天的に職業に就ける者はほんの一握りしかいないのでシロウがどれだけ努力したか想像できない。それほど頑張ったと言うことだ。
まぁ、俺の【神育成】を使えばある程度の努力で職業に就けるけどね。でもシロウには【神育成】は使っていないから物凄い努力をしたということは分かる。
ロイド歴三八八九年二月下旬
鳥型偵察ゴーレムが完成した。
政務の合間に少しずつ創作と試験を行い完成させたのだ。
因みに鳥型のゴーレムは俺の【神人形生成】によって創り出しているが、そこに【神生産】による重力制御機能を追加している。
つまり鳥型ゴーレムの上方に重力場を形成し上昇や下降を制御し、前方にも同じように重力制御機能で重力場を形成し前方に進む。この前方に発生する重力場は左右一八〇度に重力場の中心を移動させることができるので進行方向を簡単に変えることができる。
そして風魔法により空気抵抗を軽減しているので大嵐などに会わない限りまず墜落は無いだろう。
最初は普通の鳥型ゴーレムを創り、そして飛ばそうと思ったのだが……飛ばなかった。
いや~、清々しいほど飛ばず地上をよちよち歩いていたよ。あまりの予想外のことで思わず笑ってしまったよ。
その次は風魔法による飛行を試みたが飛ぶには飛んだが姿勢制御が上手くいかなかった。
そして考え出したのが重力制御だ。
色々考え倒して到達した飛行できるゴーレム。しかもカメラを搭載しその映像を受信機にリアルタイムで届けてくれる偵察ゴーレム、称して鳥型偵察ゴーレムだ。
見た目や大きさはイヌワシで、超高高度の飛行と高速飛行が可能なゴーレムとなっている。
鳥型偵察ゴーレムを一〇体作成し、二体は北アメリカ大陸、二体は南アメリカ大陸、二体はオーストラリア大陸の発見目的で飛ばす。
もしこれらの三つの大陸を発見したならば早めに入植して大陸の領有権を主張したいと思う。だが、もし既に南蛮人が入植していたら南蛮人が支配していないエリアを抑えたいとも思う。
残った四体はヤマミヤの国(京の都がある国)に二体、アサクマ家が治めるオチゼンとの国境付近の監視に一体、オチゼンの港の監視に一体を飛ばす。
京の都においては王が退位するにあたり、近々後継者を指名することになっているので不穏な動きを監視するのが目的だ。
昨年は二之宮を推す勢力が動き、その中で俺はニシバタケ家を滅ぼしたし、筆頭であるアサクマ家はキョウサとアワウミに攻め込んで来たので今年はアサクマ家とも戦うことになると思っている。
ニシバタケ家が滅んだことで多くの宮廷貴族が二之宮からの鞍替えをしており、その殆どがカモン家やホウオウ家が推す五之宮支持に回っている。
今回の件で五之宮が次期王争いで一歩も二歩も抜け出した形となっており、そうすると一之宮を推すヒノコウジ家やツキノコウジ家などが大人しくしているかが不安になってくる。
だから鳥型偵察ゴーレムをヤマミヤの国にも飛ばしているのだ。
ロイド歴三八八九年三月上旬
アズマ家からシロウが到着した。
「宜しくお願い申し上げます、兄上」
「よく来た、シロウにオダの姫を押し付ける形となったこと、すまぬと思うておる。許せよ」
「いえ、オダ家とて今は一国の主。そのオダ家との縁が某によって保たれるのであると思えば寧ろ誉に思いまする」
色白で細身のシロウはまだ一一歳なのでこれから育つだろうが、それでも同じ年代の頃の俺よりも戦闘向きではない感じだ。しかし頭の回転が速いように見受ける。流石は自力で【経営者】の職を取得しただけのことはある。
「うむ、そう言ってくれると兄も心が軽くなると言うものだ。今後はこの湖桟山城にて過ごし秋頃に良き日を選び元服をさせる故、そのつもりでいるように」
「はい、有り難き幸せ」
「この湖桟山城には珍しい書物もある故、シロウの糧となるであろう」
「珍しい書物、で御座いますか?」
「そうだ、我がカモン家は大陸の呉の国や更に遠くの南蛮とも交易を行っておる。それらの国で集めさせた書を翻訳した本も多く所蔵しておる。どうじゃ、遠くの異国の書物に興味はないか?」
「あ、あります!是非にそれらの書物をシロウめに!」
嬉しそうに返事をするシロウ。こうしていると一一歳のまだ子供に見える。
「そうか、兄の書斎にある故、何時でも参るが良い」
「有難う御座います!」
シロウは俺に平伏してから座を辞した。
しかしこの時はシロウが俺の書斎に入りびたり引き篭もり生活を送るとは思いもよらなかった。正に本の虫だ。
「シュテン、シロウを気遣ってやってくれ。母を早くに亡くして後ろ盾もないのだ、それにシュテンとシロウは母上の下で共に育ったのだ、頼むぞ」
「心得まして御座います」
シロウの母親の生家はアズマ家の家臣だが家格はかなり低い。
だから後ろ盾もなく母親はかなり苦労をしたようで早死にしてしまった。
その後、コウちゃんがシロウを引き取り養育をし始めたころには俺はカモン家を継いでミズホを離れていた。
だから俺はシロウと一緒に過ごしたことはない。だから一緒に過ごして気心も知れたシュテンにシロウを任せたほうが良いと思う。
仲も悪くなく寧ろ良かったと聞いているのでシロウのことはシュテンにフォローさせれば良いだろう。
シロウが元服したら経済衆としてキザエモンの下でその力を発揮して貰うつもりだ。
何と言っても【経営者】と言う職業は経済のプロフェッショナルなので何れはキザエモン同様にカモン家を縁の下から支える存在になるだろうと期待する。
ロイド歴三八八九年三月下旬
アサクマ家に動きがあった。
兵を集めていると忍からの報告、そして鳥型偵察ゴーレムの映像でもそれが確認できた。
雪解けを待って進軍してくるようだ。
そしてヒノコウジ家やツキノコウジ家にも動きが見られた。どうやらアサクマ家と呼応して動いているようだ。
忍からの報告でもアサクマ家の手の者が頻りにヒノコウジ家を行き来していると聞いていたので予想はしていたし、ヒノコウジ家の進軍経路はエイベエに抑えさせているので問題ない。
しかし一之宮と二之宮はとても仲が悪いと聞いていたが、その二人を推す勢力が反カモンで繋がるとは思ってもいなかった。
別々で動くものと当初は見ていたので忍からヒノコウジ家とアサクマ家の繋がりについて報告を受けた時は驚いたものだ。
「此度はシュテンを総大将としてアズマ家と共にアサクマに当たる」
『ご舎弟様を!』
評定の場でアサクマとヒノコウジについて協議し、アサクマにはアズマ家より二万の兵が向かうのでカモンからは四万の兵を出すことにした。
そしてその四万の兵を率いる総大将にはシュテンを指名したのだ。
当然、まだ若く実戦経験もないシュテンを総大将にするには反対の声も上がったが、アズマ家はキシンが出て来るので態々俺が出向く必要はない。
それに北陸はアズマ家によって平らげて貰わねば困るのでカモン家は後詰としての意味合いが強い。
「シュテンは我が弟であるっ!」
俺は煩く反対意見を言って来る家臣たちを一喝する。
俺の弟が総大将では不満か?とね。
だいたい、シュテンが総大将だって戦略衆筆頭のシゲアキを付けるのだから良いだろうに。
「俺はヒノコウジに当たる。シュテンは何事もシゲアキと諮るように」
「はっ!」
シュテンの総大将は決定事項だと言うことが分かったのか、これ以上は誰も何も言わなかった。
別に独裁をしたいわけではないが、こうして荒れそうな時は早々にカモン家当主としての権力を使わしてもらう。
「では、陣容を。トシマサ」
「は!」
斎藤道三と思われるトシマサに今回の陣容を考えさせた。
基本的にはシュテンの下に旧アズマ家の家臣とキョウサとアワウミの国人を多く配した。
「次に殿の軍で御座いますが、エイベエ・兵部少輔・イズミ殿のヤマミヤ守備軍、ダンベエ・左近衛少将・イズミ殿のキエ勢、イゼ勢、スマ勢、他にコウベエ・侍従・イブサ殿と某が従軍致します」
アサクマ方面には四万、ヒノコウジ方面には五万の兵を動員して今回の戦いで決着をつけようと思う。
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