戦国生産無双伝!
022_調略
ロイド歴3884年6月
4月に王より『イシキ討つべし』と檄文が大平城のキシンの元に届いた。
だが、今のアズマ家はイシキ家と戦える状況ではない。京の都まで出兵するには近江、いやこの世界ではアワウミの国を通る必要があるが、このアワウミの国を治めているハッカク家はイシキ家とミナミ家の戦いを傍観している。どちらにつくか旗色を明確にしていない国を通るのは現実的に無理がある。
そして仮にアワウミの国を通行できたとしても、ミズホ国内が定まっていない状況下で他国に出兵などできない。出兵中に空き巣に入られたくはないからだ。
つまりどう考えてもアズマ家が京の都で起きている戦いに参加するのは不可能だということだ。ならばどうするか、アズマ家としては国内の再統一を成し遂げるしかない。
キシンはカモンの伯父上や他の十仕家からくる上京の求めを保留して、先ずはミズホ国内を再統一し、その時に京の都がまだ荒れているのであれば上京を考えると家中には説明をしている。
「ソウシン、ブゲン、しばらくは戦づけとなるようだ……」
「どの道、ミズホの再統一は我らの悲願。やるしかありませぬ」
「……」
俺は特に何も言うことはない。俺が海を得る為にはアズマ家にはミズホだけではなく他の国も領有してもらわねばならないのだから。
「9月に金華に向けて出陣する。準備を怠るな」
俺とブゲン大叔父は頷きキシンの部屋を後にした。翌日には評定が行われて9月の出兵が最終決定した。
「若、シゲアキ・マツナカ殿がお味方するとのことです。此方がマツナカ殿よりの書状に御座います」
「これに」
シゲアキ・マツナカはマシマ家の重臣で軍師的な人物だ。以前から調略を進めていたがやっと色好い返事が返ってきた。
隣国であるビバリの国のサトウ家が攻めて来た時にはビバリの兵をジワジワ引き入れ先鋒と本隊、それに後詰の間が開き連携が取れなくなった処で攻撃を仕掛け撃退した。それ以外にも彼が指揮した戦では負けがないという戦上手だ。
「すぐにお会いする段取りをしてくれ」
書状には俺と直接会って話がしたいと書いてあった。ちょっと胡散臭いな。軍師だけに策謀はお手の物だろうから用心した方が良いだろう。
さて、本気で寝返ったか、それとも罠か、いずれにしろ会ってみれば分かることだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロイド歴3884年7月
戦の準備は順調だ。アズマ家は兵は1万4千人を投入できる予定だし、対するマシマ家は1万人を動員できるだけのスペックはあるが、残念ながら今回は農民の徴兵は難しいので2千人を動員できればいいところだろう。
但し、今回はミズホの国だけではなく、ワ国でも有数の堅城と言える金華城を攻めるので兵もそうだが、兵を率いる武将も減らしてから攻めたい。
だからシゲアキ・マツナカに会いに行く。
「シゲアキ・マツナカに御座いまする」
密会の場所には既にシゲアキ・マツナカがいた。想像していたより細い体だが背は比較的高い。それにキシンのような刺すような殺気ではなく、もわっとしたなんともつかみどころのない感じがする御仁だ。
「ソウシン・アズマで御座います」
俺が一礼すると「ほう」と感心するような声が聞こえた。俺が礼をするのがそんなに珍しいかな。あぁ、アズマ家に帰順した以上は俺は主家の長子だからか。
「こうしてお会いするまでは信じられませんでしたが、やはりお若い」
「今年で14歳になりました。この年であれば元服される方も多いでしょう?」
「元服したからと言って大人になったわけではありませぬ、心が幼い者はいくらでもおりまするゆえ」
シゲアキ・マツナカ。中々に分かっている。図体がデカくても子供みたいな奴はいくらでもいるし、幼く見えていても自立している者もいる。俺は自立……しているよな?
「さて、お時間もありませぬゆえ、本題に入りたく存ずる」
俺は首肯を返した。
「マシマ家は降伏致します。当主アイノスケはじめマシマ一族の命の保障と所領安堵をお願いしたく存ずる」
何とまぁ、彼はマシマ家の降伏の使者……なのか?
それならそれで話が簡単でたすかるのだけど、多分違うな。シゲアキ・マツナカ自信は降伏する気のようだが、マシマ家の面々が納得しているとは到底思えない。
「それはアイノスケ・マシマ殿もご承知なのでしょうか?」
シゲアキ・マツナカは首を横に振る。やはりな。
「これから説得致しまする」
「説得する自信がおありで?」
「勿論で御座る。それ故にこうしてお願い申し上げております」
誇張しているわけではなさそうだ。だが、はいそうですか、と言うわけには行かない。
「マシマ家は国守たるアズマ家を蔑ろにし、領地を横領していたのです。所領安堵は虫が良すぎませぬか?」
「ではソウシン様の条件をお伺いしたい」
俺はシゲアキ・マツナカの帰順を確実にするためにここにやってきている。マシマ家についてどうこうすることなど考えてもいなかったし、そんな権限もない。
「マツナカ殿、マシマ家が降伏するのであれば口添えをいたしましょう。されど降伏条件について私がここで話すことは何も御座いません」
シゲアキ・マツナカはピクリと眉を動かすが平静を装った。俺がマシマ家の降伏を拒否したと受け取ったのかな?
「早急に当主アイノスケ殿を説得し使者をお立て下され。所領安堵については保障しかねまするが、決して悪いようには致しませぬ。このソウシンの名においてお約束いたします」
「そのお言葉がお聞きできただけでお会いした甲斐が有り申した。何卒宜しなに」
俺に深々礼をするシゲアキ・マツナカは頭を下げているのに堂々とした雰囲気がある。こういう御仁が敵方にいるだけでアズマ家の損害となるだろう。
シゲアキ・マツナカは主家を守る為に寝返りを了承した。あとは主家であるマジマ家を説得するだけだ。しかし、その説得が一番の難題のはずで、成功するかは半々、いや、3割といったところだろう。
俺としてはマジマ家よりもシゲアキ・マツナカを手に入れたいと、この会談で強く思うようになったので、彼との間にパイプができたことの方が嬉しい。
「私は貴方のお眼鏡に適いましたか?」
立ち去る直前、俺はシゲアキ・マツナカに振り向きもせず聞いてみた。
「某の思う以上に」
そして俺たちは別れた。
夜の闇の中、馬を走らせながら俺は考えた。アズマ家はマシマ家よりも勢いがあるのは間違いない。しかし国力はほぼ同じなのだから交戦を主張する者は多いと思う。それをどう説得するのか、シゲアキ・マツナカの腕の見せどころだ。
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