戦国生産無双伝!
018_オンダ攻め
ロイド歴3882年9月4日。
オンダ家との最前線である豊新城に到着した。
情報衆のダイトウ・タナカからはオンダの家中は徹底抗戦派と講和派に別れ喧々諤々だそうだ。徹底抗戦派の中には俺を暗殺しようとしたオンダの嫡男であるゲンジロウ・オンダもいて徹底抗戦派を主導しているそうだ。ゲンジロウとしては暗殺未遂とは言え、俺に大怪我を負わしていることで後には引けないのだろう。
俺を暗殺しようとしたのがゲンジロウだと知ったのは俺が目覚めてから1カ月ほど経ってからだ。ダイトウ・タナカが率いるタナカ衆からの報告で知った。
ダイトウ・タナカに声を掛けられた時には謝罪・謝罪・また謝罪だった。俺を情報的に守るのがタナカ衆の仕事なのでダイトウ・タナカもかなり責任を感じていたけど、あれは俺の油断が原因なのでダイトウ・タナカを罰するつもりはないと言うのに、平伏しっぱなしだった。
ミズホの国を含めた周辺国で米の価格が高騰しているのは俺が主導したからだ。そのことは隠していてもミズホ屋とイズミ屋が米を買いあさっているので俺が後ろにいると言うのは誰にでも分かるだろう。ミズホ屋とイズミ屋とくればアズマ家の御用商人なのは、この数年で京の都から北国まで広く知れ渡っている。多少の情報収集能力があれば俺へ行き着くのは難しくないだろう。
オンダ家も米の高騰がアズマ家、ひいては俺が裏にいるのだと知って、なんらかの対策を考えた結果が嫡男ゲンジロウによる暗殺計画だ。当主のソウゴウ・オンダは反対したようだが、ゲンジロウは俺の暗殺を雇われ忍に命じたらしい。
雇われ忍というのは特定の家に仕えず、金銭で仕事を請け負う忍者のことだ。
結局、俺はこうして生きているので雇われ忍は仕事を失敗したってことだね。こういう失敗の噂は広まるのが早いらしくその雇われ忍は評価を下げることになったそうだ。
雇われ忍が悪くないとは言わないけど、雇ったのはオンダなので、オンダにはしっかりお礼をしないといけないと心に誓った。別に俺が殺されそうになったのを怒っているわけではない。だけど、俺が大怪我をしたことによってコウちゃんやアズ姫を始めとした多くの人に心配をかけたし、ダンベエは腹を切らされそうになった。これらは俺が招いたことではあるが、オンダ家にもしっかりとその償いはさせるつもりだ。
暗殺が悪いとは言わない。今のオンダ家にとって俺が邪魔なのは分かるし、兵を出したくても兵を維持するための米がないのだ。略奪目的ならともかく、元は自分たちの土地だった場所で略奪なんてできないからな。そうなると、暗殺に頼るのも仕方がない。
だからと言ってオンダ戦で手心を加えるつもりはないし、逆に徹底的にできると思っている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロイド歴3882年9月17日。
オンダ家の支城は抵抗らしい抵抗をしなかった。抵抗したくても兵がいないのだ。それ以前に領民が逃げ出していて徴兵できない城もあった。
戦力がないことは知っていた。ただ、ここまで抵抗がないとは思っていなかった。まぁ、そのおかげで兵の損耗もなくオンダ家の本拠地である大平城を包囲することができたけど。
大平城はオンダ家の本拠地だけあって城下町の規模も大きい。それに平地に築かれた平城だけあって城下町も城壁の一部として使う想定になっている。城下町に住んでいる民は避難できる者はしたようだが、多くは木戸を閉めて家の中で戦が終わるのを待っている。人がいなければ全てを焼き払ってその後に町を築き直すってのもいいかと思ったけど、人がいるのことで火攻めという選択肢はなくなた。この戦いが終わったらアズマ家の領地になるのに、領民を殺しては後々面倒になるからだ。
大平城に立て篭もっているのはオンダ一族と僅かな家臣のみで、アズマ家が攻め込むと多くの者はアズマ家に臣従を申し入れてきた。これは事前に切り崩し工作をしていたので、驚くことはない。
臣従してきた元オンダ家の家臣たちに聞くと立て篭もっている兵は1000もいないそうで、農民兵は皆無だそうだ。どうやら相当酷く米を取り立てたそうで、かなりの農民が流出しているそうだ。まぁ、俺がその受け入れをしている張本人ですが、何か?
「大手門は攻めにくく守りやすい故、攻めるのであれば北門の方がよろしかろうと存じまする」
オンダ家の重臣だったコウザン・イブキはアズマ家が進軍するのと同時に寝返ってアズマ家を道案内してくれた。彼は昨年の戦いでオンダ家の殿を務めた猛将でゼンダユウ・クサカたち脳筋共を蹴散らしてくれた人だ。
嬉しそうだって? そりゃぁ、ゼンダユウ・クサカのようなイノシシ武者は痛い目を見て懲りた方がいいと思う。それにあの失態のお陰でオンダの経済封鎖がやりやすくなったので俺としてはコウザン・イブキに感謝状を贈りたいくらいだ。
俺がキシンにコウザン・イブキのような猛将の切り崩し工作を進言したのだ。他にもオンダ家に不満を持っていそうな家にも声をかけた。それはもうあからさまに声をかけた。オンダ家当主のソウゴウ・オンダの耳に入るようにね。
切り崩し工作の甲斐あってソウゴウ・オンダは疑心暗鬼となって、家臣の何人かは誅殺されているし、他の家臣も疑って酷い有様だ。これによりオンダ家の求心力は急激に低下したのだった。
経済封鎖と切り崩し工作の併用だからここまでの効果を出したのだと思う。経済封鎖でオンダ家の財政を圧迫しオンダ家を物理的に追い詰めておいたから精神的な攻撃に脆くなったと俺は考えている。
「他に西門も御座いますが、攻め口が狭く兵を動かすには適しておりませぬ」
「明朝、三方向同時に攻める。ソウシンは西門、ブゲンは北門を攻めよ。大手門はワシが攻める」
今回の戦はアズマ家の兵ばかりなのでアズマ家一門が全ての指揮を執ることになっている。ゼンダユウ・クサカなどはあからさまに不満そうな顔をしていたが、兵もない将が何を言ってもせん無きことだ。
悔しかったら産業を興して銭を稼いでみろ。お前が軽んじている銭が今のアズマ家を支えているんだぞ。
銭が全てとは言わないが、銭を軽んじる者は銭によって泣くんだよ。そのことを理解して脳筋を治せよ。
軍議が終わり俺はコウザン・イブキを引き連れて自陣に帰った。何故コウザン・イブキを連れているのかと言えば、彼が俺の部下になったからだ。彼をオンダ家から引き抜いたというのが表向きの理由だけど、経験豊富で有能な彼に俺の軍を指揮してほしいと思ったのが最大の理由だ。
「コウザン殿、鉄砲は知っておるな?」
「前回のアズマ家とオンダ家との戦いでその威力を嫌と言うほど見せて頂きもうした」
コウザン・イブキは頷き、前回の戦いを思い浮かべている様子だ。
「某、あの戦いを経験して目から鱗が落ちた思いで御座った」
彼はそろそろ40歳に手が届く年齢だが、中々に頭が柔らかい。彼は戦人として素直、というよりは貪欲なのだろう。その分、新しいことを取り込んで戦術を変えていける人種なんだと思う。
「今回は鉄砲に使った火薬を使おうと思っておる」
「火薬で御座るか?」
「ダンベエ、説明を」
「はい、今回の戦いはイブキ殿が申されていたように門を越えれば勝負が決まりまする。よって我らが任され申した西門攻略には火薬を使いまする」
ここまで喋ったダンベエはひと呼吸置いた。
「西門は攻め手側の通路が狭いので、無理に攻めると我が方の被害も甚大となり得ます。よって火薬の特性を使い西門を攻略致しまする」
「火薬の特性……そうかっ!」
コウザン・イブキは火薬の使い道について思い至ったのか、膝をバンと叩きそこそこ大きな声を上げる。
「門を攻め越えるのではなく、破壊されるおつもりですな?」
俺とダンベエが頷く。その後は爆破の手順を打ち合わせし、就寝した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロイド歴3882年9月18日。
大手門の方から攻撃開始の合図である、ホラ貝の音が聞こえてきた。それとほぼ同時に喧噪も聞こえてくるが、人を殺す為の音なので気分がいいものではない。
そんなことを思っているとダンベエとコウザンが俺の顔を伺っているのが目に入った。
「コウザン殿、合図を」
「はっ!」
コウザンの合図で俺たちも西門に軍を進めた。敵は西門の狭間のような隙間から弓で矢を射かけてくる。此方は皆に丈夫で大きな木の盾を持たせ矢を防ぎながら進んだ。別に攻撃する必要はないのだ、大盾を隙間なく並べ安全に西門まで移動し火薬の入った木箱を置いてくるだけのお仕事です。
「若、火薬隊が木箱を設置しましたぞ」
「うむ、手はず通りに」
木箱を西門の目の前に設置した大盾隊が戻ってくる。設置した木箱は全部で三箱。あとは着火すればドッカーンという段取りだ。俺がダンベエに合図させると、弓隊が火矢を構えた。
「放てぇぇっ!」
弓隊を率いているゼンジが火薬に向かって火矢を放てと命じると数十本の火矢が次々放たれった。
俺の前には先ほど活躍した大盾隊が火薬の爆発に備える為に密集して防御陣を作っている。火矢の着弾を確認すると俺は素早く大盾の影に隠れた。数秒もしない間に爆発音が聞こえ更に1・2秒ほどで爆風が大盾で守られた俺たちを襲った。さらに小石やチリなどが追いかけてきて大盾に当たりバチバチと音を立てた。
しばらくすると爆風が止んで、舞っていたチリなども落ち着いた。大平城の西門は見事に破壊されており、跡形もないとはこのことだ。西門を守っていた兵たちは恐らく爆発に巻き込まれてミンチのように爆散したのだろう。西門の有様を見ると、もし生残りがいても無事ではないのは容易に想像できた。
「おーっし! 野郎ども突撃だぁっ!」
野郎どもって、ダンベエ君は盗賊か何かなのか?
ダンベエの指揮の下、傭兵たちが跡形もなく吹き飛んだ西門に殺到した。突撃した傭兵たちは全く抵抗を受ける事無く西門を越えているのが分かる。むしろ瓦礫を乗り越えて行く方が大変に見えた。
ダンベエに率いられた傭兵たちがどんどん奥に進んで行く。俺は安全が確保されないと動かない。だって、切り合いなんて怖いもん。
「若君、そろそろ後詰を」
「分かった。進軍!」
俺の合図で後詰である俺の部隊が西門跡を越えて大平城内へ進んだ。西門跡は酷い状態だ。瓦礫の山に燻る火、肉が焼けた様な臭いに焼け爛れて元の顔さえ分からない者、体が引きちぎられ肉片となっている者、生きてはいるけどとても動ける状態でない者、全て俺が命じた爆破の結果だ。かなりのスプラッターなのは間違いない。気が弱いやつなら失神しているかもしれない。
大平城内では大声で誰々を打ち取ったとかオーとか色々聞こえてくる。そんな喧騒が続く中、俺は本丸に向けて進んだ。しばらく進むと伝令が駆け寄ってきてダンベエが本丸を落としたと報告を受けた。
「でかしたぞ、ダンベエ!」
思わず大声を上げてダンベエを褒めてしまった。俺が太刀を抜くことさえなく戦いが終結したのは嬉しい限りだ。戦闘職の職業があろうが、なかろうが、12歳の俺が太刀を振り回して勝てるような者は滅多にいないだろう。
オンダ家の当主ソウゴウ・オンダと嫡男ゲンジロウ・オンダは共に討ち死にしたが、女衆は捕縛しているしソウゴウの五男で元服前のゴロウも捕縛した。
「若い女どもは家臣に与えるとして年寄りとゴロウは寺に預ける」
「ゴロウは死罪でなくて宜しいので?」
「まだ13歳の子供だ。もし再びアズマ家に反旗を翻すのであればその時に殺せばよい」
「……若は11歳で元服し12歳の現在、こうして大きな戦功もお立てになっておりますが?」
「ソウシンは特別だ。ブゲンは5歳で莫大な富を家に齎す子供をソウシン以外に知っておるか?」
「……いいえ、存じませぬな」
キシン君、ブゲン大叔父さん、ここで何故俺を出す。俺のことはほおっておいてくれ。
もう分かっていると思うけど、今は捕縛したオンダ家の者たちの処遇についてキシンとブゲン大叔父、そして俺の3人で話し合っているところだ。尤も俺は聞いているだけだけどね。
最終敵にはこの後に行われる評定で決定されることだけど、事前にこうして処遇について話し合っているのだ。この3人がそれでいいと言えば、そうなるのだ。
「寺ですか、そうしますとゴロウは郷照寺に預けるのがよかろうと存じます」
「それでよい。年寄り共は富源寺にするか」
「ではそのように」
ブゲン大叔父は1つ息を吐くと今度は俺に視線を移した。
「次に大きな戦功を挙げられた若についてですが……」
「うむ、……ソウシンには六乗山城を与えるか。ワシはこの大平城に移るとする」
……要らねぇし。俺にはオノの庄があるし、オノの庄があれば事足りる。海があるなら話は別だけどね。
「居城を移すと? しかしこの大平城は規模は大きいですが防御に不安がありますが?」
大平城は長年オンダ家の居城として城下町も栄えている。戦があったので多少は荒れているけど城下町の下地がある。キシンが復興に力を注ぎ込めばすぐに以前の賑わいを取り戻すだろう。だが、規模が大きく、そして城下が栄えようとも今の大平城は平城特有の脆さを持っている。
「城は改修し城下町には投資をする。守りは周囲の支城の縄張りを見直して大平城を中心とした城塞郡とする」
支城の見直しには時間が掛かるだろう。城塞郡の体制を整えてから居城にするのであれば構わないが、すぐには賛成しかねる。
「ならば城塞郡としてから居城をお移しなされませ」
「私もブゲン大叔父に賛成です。さらに六乗山城はブゲン大叔父に与え、後方の守りを万全にするべきでしょう」
「それではソウシンの褒美をどうするのだ?」
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