戦国生産無双伝!

なんじゃもんじゃ

016_暗殺

 


 ロイド歴3882年7月。


 夏も本番を迎えオノの庄の水田も青々し、そこかしこで農民の活気ある声が聞こえる。


「ご、ご領主様!」


 水田の状況を視察している俺を見て農民たちが平伏した。そういうのはいいから、仕事を続けてよ。


「そのように平伏せずとも良い。こちらは勝手に見させてもらう故に普通にしなさい」


 俺は許可したが農民たちは作業に戻ることなく平伏したままだ。だから俺の護衛としてついてきているダンベエたちが作業に戻るように農民たちに再度促して、やっと仕事に戻っていった。
 オンダ領から受け入れた流民に与えた田畑の視察をしていたので、彼らからすれば生きる糧を与えた俺に感謝しているんだろう。まぁ、それ以前に俺がオンダの経済封鎖をしたことで農民も被害を受けたってのがあるので、あまり感謝されるのも尻がむず痒い。


 田畑は順調に広がっていて、俺は生温かい風を受けながら馬に揺られて進む。暑い。夏が暑いのは当然のことだけど、勘弁してほしい。


「ダンベエ、暑いの~」
「そんなことよりも、早くお戻りくだされ。若は刺客に狙われているのですぞ!」
「そんな堅いことを言うなよ。お前が守ってくれるんだろ?」
「しかし、もしもということがありますれば」
「ダンベエは心配性だな」


 その時だった、ダンベエが言葉を発しようとしたが、俺は左肩に激痛が走りフワッとした感覚の後に意識が暗転した。


 ここは……? そうか、俺はまた死んだのか……。また転生をするのかな?


 俺はまたあの白い空間にいた。白い空間にいるということは、俺は死んでしまったのだろう。オバサン神様が出て来る前に俺が死んだ理由を考えるとするか。
 確か馬に跨ってオノの庄の稲の育成状況を視察していたんだよな。そして農民が畏まってしまって作業に戻すのに時間が掛かり、更に視察を進める為にダンベエと話ながら進んでいたら……そうか矢だ、矢を左肩に受けて馬から落ちて……意識を失たのか……そして気づいたらこの白い空間にいたってわけだ。
 たった12年の歳月しか生きていなかったけど、それなりに楽しく過ごした。心残りがないと言えば噓になるが、親にも恵まれたし可愛い弟のドウジマルや妹ソウコたちにも会えた。
 前世、いや、前々世に比べれば半分も生きていないが幸せに総量があるのなら間違いなく前々世よりも多い幸せな人生を送れた。これもオバサン神様が運を上げてくれたお陰だと感謝をしておこう。


 さて、俺の死因が矢による傷が致命傷になったのか、または落馬して打ち所が悪かったかのどちらかだと思われるが、最大の原因は矢が俺に左肩に命中したことだ。
 誰があの矢を放ったのか? 誰がそれを命じたのか? 言うまでもなく、オンダの放った刺客だろう。
 ダイトウ・タナカやダンベエたちが注意してくれたのに、俺が無理に視察をしたから罰が当たったのだろう。あれ、そうなるとあのオバサン神様が俺に罰を当てたのか? オバサン神様が罰を当てたのであれば、何か理由があるのか?


 その他に考えられるのは、ミズホの国の他の2勢力か? それともフジオウ派かな?
 ミズホの国には、アズマ家とオンダ家の他に2つの勢力がある。クニシマ家とマシマ家という勢力だけど、家柄で言うとクニシマ家が国守代なのでアズマ家に次ぐ家柄で、マシマ家の方はミズホの国の最大勢力になる。
 共にオンダ家の経済封鎖の余波を受けているのは間違いなく、ミズホの国は昨年不作だったので米の高騰はクニシマ家とマシマ家も苦しめていると言ってよい。まぁ、俺もそれを狙ってやっているわけだから恨まれても仕方がないと自分でも思っている。ただ、クニシマ家は忍を使っていないはずだから可能性的にはマシマ家の方が圧倒的に高いだろう。


 3つ目の可能性としては、ゼンダユウ・クサカなどのフジオウ擁立派だ。可能性としては他家に比べると低いとは思うけど可能性を捨てることはできない。
 家中での俺は嫡子として、次期当主としての地位を固めつつある。フジオウ派には俺が邪魔なのは間違いないだろう。アズマ家を金銭的に支えている俺だけど、俺が当主になることで利益が得られないと思っている者もいるだろう。しかし、あのタイミングで俺を殺すのは下策だ。俺を殺すのであればオンダ家と決着をつけた後に美味しく頂けるタイミングで殺すべきだろう。態々オンダ攻めを目前にした今の時期を選ぶのは考えなしの愚考と言えるだろう。どうせ殺すなら脂がのってからの方がいい。


 と、こんなことを考えてもせん無きことである。死んだ俺にはどうでもよいことだ。別に俺を殺した者に恨みがあるわけじゃない。だって俺だって結果として多くの人を殺しているのだから、俺はよくて他者は悪いなんて自己中な考え方をするつもりはない。死する覚悟なく殺めるなかれ。あの世界で生きてきた俺の座右の銘だ。


『よい心がけですね』


 そうだろう、俺もそう思う。……っていたの? 何時からいたのさ?


『ええ、いましたよ。最初からね』


 ……今まで俺がグダグダ考えていたのを見て楽しんでいたの?


『いえ、楽しんでなどいませんよ。感心していたのです』


 そうですか。で、今度も他の世界に転生ですか? それとも同じ世界に転生ですか? 前々世の世界よりは前世のアズマ家のような家に生まれ変わりたいのですが?


『貴方は勘違いをされています。転生はありませんよ』


 え、じゃぁ、転移ですか?


『転移もありません』


 それじゃぁ、俺は消滅ですか?


『いいえ、そもそも貴方は死んでいないので転生をさせる必要はありません』


 へ? でも、じゃぁ、何で俺はこの白い空間に?


『偶々ですね。今、貴方は現世で死にかけています。しかし周囲の者が懸命に看病した甲斐あって快方に向かっていますので安心して下さい。この空間に来たのは以前この空間での出来事が貴方の魂に刻まれていて、この空間と繋がりがあることで死にかけて弱った体から魂がこの空間に引っ張られたからでしょう。意識が戻れば魂は自然と体に戻りますので安心して下さい』


 丁寧な説明を有難うございます。
 オバサン神様の説明で、俺はソウシンとしてまだ生きていけることが分かった。


『但し、今回貴方が負った傷は即死してもおかしくないほどの重傷でした。その為に貴方の体だけではなく魂も大きく傷ついてしまったようです』


 え~、それってヤバくないですか?


『一命は取り留めましたが意識が戻っても全快するかは分かりません』


 あれ~? それって半身不随とかの身体障害者になるってこと?


『いえ、体を動かすだけであれば問題ありませんが、魂が傷つけられたことで魂の自己修復時に貴方の職業、そしてスキルに重大な変化が発生する可能性があります』


 つまり俺の【創造生産師】が本来の性能を発揮できないと?


『それは貴方が目覚めてみないと何とも分かりかねます』


 分かりかねます、って……俺はどうすればいいのですか?


『どうしようもないでしょう。いずれにしろ、貴方が目覚めた時に全ては確定します。その時にありのままを受け入れて下さい』


 おぉぉぉぉいっ! そんないい加減でよいのかっ!?


『私にもどうにもできないのです』


 何てこったぁ~っ! ……分かったよ! 無理なことをどうにかしろとは言わないさ。だけど、一つだけ教えて欲しいんだ。


『……何でしょうか?』


 俺に矢を放った奴を差し向けたのは誰なんだ? 気になるんで教えて欲しいんだけど。


『……知ってどうされるので?』


 さぁ? 知らないということが気持ち悪いんで知りたいと思っただけで、知った後にどうするかまでは考えていないんだよね~。


『……良いでしょう。貴方が目覚めた後に分かるようにしておきましょう』


 ありがとうございます。


『ではそろそろ時間のようですね。貴方の今後に幸あることを願っております』


 ……体が重い。重力を感じているようだ。あの白い空間では重力があるのかさえ不明な不思議な空間だったから明らかに違うのが分かった。恐らく俺の魂が体に戻り意識が覚醒し始めているのだろう。
 しかしあのオバサンは神様じゃないのかね? 俺の今後に幸あれ、か。願うってことはもっと上の存在がいるのかもしれないな。色々と制約があるようだから天使的な立場なんだろうか? あれこれ詮索しても始まらないな。今は命が助かったことを喜ぼう。
 あれ……痛ってぇっ!? 痛たたたたたたたぁぁっぁぁっ!? 体中が悲鳴を上げている感じだ!


「……」


 痛みで目が覚めてしまった。見たことのある天井だ。オノの庄の館の俺の部屋の天井に間違いない。


「……ぁ・ぁ・・ぅ・」


 ん? えらく小さい声が聞こえたような……首を傾けるのも厳しい痛みが体中に……。


「……誰か……いる……のか?」
「……」
「……体を……動かすのも……辛い……のだ。誰か……いるので……あれば……顔を……見せよ」


 暫くしてススーっと布すれの音がし俺の顔の上に見知った女性が顔を出した。俺がこの世界に転生した短い人生の中でも最高に美しい顔をした少女と言っていい女性だ。透明感のある白い肌にスーッと伸びた鼻筋、まるで俺の姿を映す為にあると思いたくなるほどの大きくて綺麗な澄んだ瞳、この世界では見慣れぬ顔立ちだが、前世でのテレビやネットで見たモデルのような美しさを持つ美女。


「アズ姫か……美しいな」
「っ!」


 アズ姫が俺に抱き着いてきた。泣いているようだ。まぁ、新婚早々に後家さんになるところだったのだから、無理もないか。そう考えると後ろめたさが俺を襲って来た。


「泣くな……俺は、生きている」
「はい。心配したのですよ」
「心配をかけた……すまない」


 しばらくアズ姫に抱きつかれていたが、体中が痛くて動かせないし、アズ姫の重みでも傷が痛んだ。これはアズ姫に心配をかけた罰として甘んじて受け入れることにした。
 アズ姫との触れ合いの後、キザエモンやハルたちがやってきた。


「なにはともあれ、死ななくてよかったですな」


 キザエモンは嫌味と本音を織り交ぜた棘のある言葉を吐いた。怒っているのがよく分かる。


「心配をかけた」


 今まで散々喋っていたけど、喋ると傷が痛むので、あまり喋りたくない。


「キザエモン殿、まだ目覚めたばかりです。お休み頂きましょう」


 ハルが俺の体を気遣ってくれるが、目が怖い。元気になったら絶対に説教部屋行きだ。気が重い。


 

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