戦国生産無双伝!

なんじゃもんじゃ

015_忍者

 


 結婚初夜……アズ姫は自分を醜女と言って顔を見せるのを嫌がった。
 可哀そうだから、無理に見せろとは言わず、話をして一夜を明かした。話ていたらいつの間にか夜が明けていたのだ。


「もう朝か。障子を開けるぞ」
「はい」


 俺は障子を開けて朝の光を全身に浴びた。光合成をしているように力が湧いてくる感じがした。
 ふと、振り向いてアズ姫に視線を向けると、アズ姫は朝日の眩しさを手で遮っていた。
 ん? ……おいおい……マジかよ……。


「アズ姫……」
「あ……」


 俺がアズ姫の顔をジッと見つめているのに気がついたアズ姫は顔を伏せた。もう遅い。俺はしっかりとアズ姫の顔を見てしまったのだ。


「見ないで」


 いやいやいや、見るだろう!
 めっちゃ可愛いじゃん!
 もろ俺の好みの顔立ちです! 少し幼いけど、もう少ししたら絶世の美女になるだろう!
 何で醜女なんて言うかな、信じられないよ!
 あぁ……そうか、この世界ではぽっちゃり系のタレ目が美人と言われているけど、現代日本の美的感覚を引き継いでいる俺からしたら、とても美人とは思えなかったっけ。
 そう、アズ姫は現代日本風の美少女なんだ。醜女なんてとんでもない!


「綺麗だ」
「え?」
「アズ姫は綺麗だ! 俺の好みだ! 醜女ではない!」
「えぇぇぇっ!?」


 すっげー嬉しい。こんな美少女が俺の妻になるなんて。
 やっぱ女性は顔も大事だよな!
 ははは、とても嬉しいことじゃないか!


「若様」
「……ハルか、どうした?」


 乳母のハルが俺とアズ姫の会話を聞いていた。


「はしたないですよ。そう言うのは誰もいないところで囁くものですよ」


 周囲を見渡すとハルを始めとした侍女たちがニタニタと俺の方を見ていた。めっちゃ恥ずかしい。


「そ、そうだな……よし! アズ姫、今から囁くぞ!」


 そう言って俺は障子を閉めてアズ姫の横に行って腰を下ろした。


「しっかりと顔を見せてくれ」
「……」
「アズ姫は可愛いぞ! 俺がそう言うのだから、アズ姫は可愛いのだ! よいな!」
「は、はい!」


 アズ姫は俺の目を見つめ返してくれた。うん、可愛いぞ!
 目がぱっちりとしていて、鼻筋が通った美少女だ。綺麗な黒髪もいいし、いい匂いもする。スーハー、スーハー。


「あ、あの、匂いを嗅がないでください」
「何を言っているか、アズ姫はいい匂いがするぞ! そうだ、オノの庄に帰ったら俺の創ったシャンプーとリンスをあげるから、それで髪の毛を洗ってごらん。髪の毛がもっと綺麗になるから」
「本当ですか!?」


 アズ姫はシャンプーとリンスに喰いついた。女性にとって髪の毛が綺麗になるということはとても大事なことらしい。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ロイド歴3882年5月。


 俺は12歳になった。領地も順調に発展している。
 民の顔に笑顔が絶えないのはいいことだ。


 ミズホ屋とイズミ屋の話では、ミズホの国周辺の米の値が昨年の3倍ほどに跳ね上がっているそうだ。これは言うまでもなく、俺が仕掛けたオンダ殺しの一手だ。
 オンダ家は農民から追加の税を徴収したそうだが、元々不作だったので農民の手元にもそれほど米があるわけではない。そんな状況なので、農民流出が止まらないらしい。
 そこに俺がオノの庄に農民を受け入れると触れ回れば、どうなるか。しかも農民には農地と家、そして農具を与え、今年の収穫が得られるまでは米を支給すると触れ回っているのだ。オンダの領民は身一つで逃げ出してきている。
 さらに、農民から離れたいという者には傭兵として受け入れると触れ回っているので傭兵も増えている。
 そういったことをするのが俺の情報衆だ。


 サヨに情報操作や後方攪乱ができる忍者に心当たりがないかと聞いた所、何家か地に埋もれた忍びの家を知っていると答えが返ってきた。だから、全ての忍者家を家臣にしたいとサヨに橋渡しを頼んだ。俺も贅沢なことを言うと思ったけど、情報は大事だ。


 最初の家はミズホの国の山間部でひっそりと暮らすタナカ家だ。このタナカ家はサヨと同じ流れをくむ家だが、家の格としてはサヨの方が本家筋となる。しかしサヨの一族は以前起きたオンダ家とマシマ家との戦いで滅んでおり、サヨと一部の者しか生き残っていないらしい。生き残ったサヨはアズマ家に、他の者は分家筋のタナカ家を頼って暮らしを立てていたそうだが、俺ならばと推挙してくれた。


 二つ目の家は東国のカザマ家で、俺は一瞬北条家に仕えた風魔忍者を思い浮かべた。得意分野は後方攪乱や戦闘術でかなりの武闘派忍者軍団らしい。数十年前に主家が滅んでしまったらしく今は傭兵のようなことをしているらしい。


 三つ目は家と言うよりは集団と言った方が良いらしい。主に河原に住む『河原者』と言われる集団で、ワ国全域にその情報網を持っているらしい。但し、ミズホの国の河原者を引き入れることができても他国の河原者を引き入れたとは言えないらしい。
 前世の記憶にある浮浪者のような集団で、戦闘力はあまりない代わりに情報収集力がずば抜けているらしい。


 取り敢えず全部に声を掛けたらタナカ家は早々によい返事をもらうことができた。当主はダイトウ・タナカと言う40歳代の男で特に特徴のない顔をしていた。雰囲気も空気のようでいるのかいないのか分からない感じの男だ。
 タナカ家は総勢500人ほどの一族で俺はオノの庄に知行地を与え、正式に家臣の列に加えると条件提示する。


「タナカ家には1500石の知行地を与える。どうだろうか?」
「そのような好条件を……」


 ダイトウ・タナカは目を潤ませて俺を見てきた。そんなに好条件か? ダイトウ・タナカを筆頭に小頭が12人いて、総勢500人の忍を雇えるのにたった1500石でいいのかと逆に思ったほどだぞ?


「ソウシン様! 我が一族郎党、ソウシン様に忠誠をお誓いたし、身命を賭してお働き致す所存!」


 こうしてタナカ家が俺の家臣に加わった。


 河原衆からはよい返事が返ってこなかったが、カザマは後日棟梁が俺に会いに来ると返事があった。
 そして今に至っているわけで、タナカはオンダの地盤を崩すのに良い働きをしている。
 オノの庄の人口は鰻上りだし田畑にする土地はまだまだ余っている。田畑を創ることはできても穀物を育てて管理するのは、俺には無理なので農民が増えるのはいいことだ。
 そして生産量が増えると養える傭兵の数も増える。今年の田植えを見るに秋の収穫が例年並みでも2万石は見込める。
 傭兵は基本的に月収制で銭を与えているので、俺が生産して稼いでいる銭で賄える。だから石高に頼る必要はないが、戦になれば兵糧を用意するのは領主の役目なので石高が増えるのは地味に嬉しい。


「若」


 暗闇の中で俺を呼ぶ声がした。ダイトウ・タナカだ。


「どうした」
「オンダが若の思惑に気づいたようです」
「ほう、それで何か動きがあるのか?」
「どうやら若に刺客を差し向けようとしているようです」


 刺客か。ある意味一番効果が高いやり方なのかもしれない。俺がいなければオンダへの経済封鎖は成立しないのだから。兵を出して戦うよりも安上がりで、それでいて友好的な手段だ。


「その刺客とは?」
「申し訳ございません。そこまではまだ……」
「構わぬ、よく知らせてくれた。引き続きオンダの動向を探ってくれ」
「はっ!」


 ダイトウ・タナカから刺客のことを聞いた俺は館に警報器を設置することにした。それとは別にダンベエとエイベエ兄弟に館の警備を厳重にするように指示した。
 情報があれば事前に色々とできる。空振りに終わることもあるだろうが、だからと言って情報を無視することはできない。俺やアズ姫の命に関わることなのだから。


「若、町も農地も順調に発展しております」


 キザエモンが報告書を読み上げて、意見を述べた。今日は週に一度の評定の日だ。俺が館にいるときは週一の頻度で評定を開いて状況の確認をしている。
 それと同時に備蓄米の量も確認をしている。これは俺が米を買いあさっていることで、米の値を上げてオンダを経済的に追い込んでいるからだ。ダイトウ・タナカの報告ではオンダの財政は日に日に悪化していて、順調に弱っているそうだ。


「ミズホ酒を始めとした商品の販売はどうなっている?」
「はい、ミズホ和紙は価格が安定していますが、ミズホ酒と麦焼酎は生産しても需要に追いつかず、値が上がっております。他の―――」


 細かいことも漏らさず報告するあたりがキザエモンらしい。こいつは堅物で融通が利かないところがあるが、それでも俺の筆頭家臣としてよく働いてくれている。政治に関してはキザエモンに任せておけば悪いようにはならない。


 

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