戦国生産無双伝!
004_戦の裏
ロイド歴3875年10月中旬。
キシンが兵を率いて出陣した。隣りの領のオンダ家が兵を率いて攻めて来たらしい。
俺が生まれてから初めての戦だ。
俺は出陣するキシンをコウちゃん、フジオウ、フジオウの母親、ソウコ、ソウコの母親、他多数と見送った。
キシンは笑顔で出陣していったし俺たちも笑顔で送り出した。
本当は泣きたかった。キシンが戦争に行くなんて嫌で仕方がなかった。
だけどコウちゃんが笑顔で送り出すのが慣わしだと何度も言い聞かせられたので泣かなかった。多分だけどコウちゃんも本当は泣きたかったんだと思う。
キシンは俺の創り出した『六鋼板当世具足』を身に纏い腰には『ミズホ鋼の長太刀』をしっかりと佩いている。
これらを贈った時にはキシンが泣いて喜んでもう大変だった。特に髭面で頬ずりするのは止めてほしい。ジョリジョリして俺の白魚のような柔肌には痛いんだ。
それは置いておいて、鎧と太刀よ、どうか俺の代わりにキシンを守ってやってくれ。
この時初めて弟と妹に会った。いるとは聞いていたが会うことはなかった俺たち三人が初めて顔を合わせたのだ。
フジオウは聞いていた通りの我儘坊主だった。初めて会った弟っていうだけで特にこれと言って感慨深いわけでもないし、親しみを感じるわけでもない。俺に懐くほどの時間があったわけでもないし。
ソウコの方は聞いていたよりやや大人しい印象を受けた。キシンが何処かに行ってしまうと思ったのか目に涙を溜めていた。流石に慰めてやりたいと思ったが、どうもコウちゃんと側室たちには壁があるようでキシンの姿が見えなくなると声も掛けずに三々五々と散って行った。
しかし側室が5人も居るとは知らなかった。キシンめ、どんだけお盛んなんだよ。ハーレムがこんなに目の前にあるなて、何て羨ましい、じゃなかった、けしからん!
そりゃ~コウちゃんも機嫌悪くなるよな。キシンの野郎、いつかギャフンと言わせてやる!
氏名:フジオウ・アズマ
年齢:3歳(ロイド歴3872年2月18日生まれ)
性別:♂
身分:アズマ家次男
職業:【槍士】レベル1(0/100)
能力:HP12/12、MP5/5
スキル:【槍術】
氏名:ソウコ・アズマ
年齢:2歳(ロイド歴3873年6月9日生まれ)
性別:♀
身分:アズマ家長女
職業:【狙撃手】レベル1(31/100)
能力:HP11/11、MP8/8
スキル:【遠見】【銃術】
2人は本当に先天性の職業を持っていた。
それとソウコの【狙撃手】は弓ではなく銃の使い手だった。つまりこの世界に銃が存在するってことだ。とは言え残念なことにアズマ家は銃を所持していない。
ソウコが俺に懐いてくれたらいつか俺がソウコに銃を創ってやろう。【狙撃手】なので拳銃ではなくライフルの方が良いだろう。
フジオウは【槍士】なので槍を扱わないと経験値が得られないが、ソウコはどうやら【遠見】を発動させて経験値を入手しているようだ。
意識してなのか無意識なのか分からないけど、ソウコはスキルを使うことができるわけだ。
もしかしたら俺のような転生者の可能性もあるけど、それならもう少し使い勝手の良い職業を選ぶ気がする。あくまでも職業を選ばせてくれるという前提があるけど。
ロイド歴3875年11月中旬。
一月に渡ったオンダ家との争いも気温が下がると共に決着がついた。
オンダ家は兵力1000で攻め込んで来て、対するアズマ家は兵力600でこれを迎え撃った。
兵力では負けているがキシンはあのオバサン神様が言っていたように、なかなかの戦上手でオンダ家の兵を翻弄したようだ。
ただ、兵力に差があるが故に決定打とまではならなかった。
それでもほぼ倍の敵を追い返すなんて、やるじゃないのキシン君。俺は心の底からキシンの帰りを喜んだ。
「キミョウマルの創ったこの鎧のおかげで命拾いをしたぞ!」
キシンが帰ってきて早々口を伝って出た言葉がこれだ。
確かに脇腹付近に大きな傷が付いているので刀なのか槍なのかの攻撃を受けたのは間違いないだろう。てか、総大将がなんで戦っているんだよ!
「オンダ家のコウゲン・クノウの太刀を受けたのだが、クノウめの太刀がポッキリと折れおったのだ。お陰で命拾いしただけではなくクノウの首を取ることができた。でかしたぞキミョウマル!」
ガッハハハハハと大声を上げて笑うキシンの機嫌はとてもいい。
キシンが言うコウゲン・クノウという者はオンダ家の重臣だったようで、年はキシンよりはるかに上で40歳代だ。このコウゲン・クノウがオンダ家では一番の武闘派だったらしい。
だからか、キシンはコウゲン・クノウの太刀を受けており、コウゲン・クノウの太刀が折れなかったらと思うとゾッとする。怪我がなかったのでいいが下手をすれば大怪我を負っていたと思うので、コウちゃんは少し不機嫌だった。
「殿、そのように笑っておいでですがキミョウマルの鎧がなければ大怪我をしていたかも知れないのです。少しはそのことを重く受け止めてください!」
「あ、う、うむ、そうだな……」
コウちゃんの剣幕にキシンも少し冷静になれたようだ。
とは言え、オンダ家の有能な前線指揮官であるコウゲン・クノウを討ち取ったのでオンダ家はかなりの痛手を負ったと言えるだろう。こういうのは兵の損耗以上に効いてくるはずだ。
これで暫くは時を稼げると思う。
だからコウちゃんに叱られてシュンとしているキシンを励ましてやろう。
「父上! キミョウマルの創った防具を褒めてくださり、キミョウマルは嬉しいです!」
「おおお、そうか、嬉しいか! うむ、そうだ! キミョウマルに仕事を与える!」
は? 仕事?
「ワシの『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の長太刀』と同じ物をそれぞれ2つ創るのだ。今回手柄を挙げた者に褒美として下賜しようぞ!」
ふむ、褒美ね。……良い考えかもしれないね。
アズマ家の領地は狭いと聞いていたから褒美で領地を与えるわけにも行かないだろうし、金銭と言ってもアズマ家はそれほど裕福でもないらしいから、俺が創った『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の長太刀』なら今まで使っていた鎧や刀よりも上等な物のはずだから褒美として与えるのもいいだろう。
ただ、問題がないわけではない。なんと言っても5歳の俺が創った物だし、そんな物をもらって嬉しい者がいるのだろうか?
俺は気になったその問題点について聞いてみた。
「ガッハハハハハ! 問題などない! 皆、ワシの『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の長太刀』を頻りに褒めておったわ! 敵の太刀を寄せ付けぬ『六鋼板当世具足』に敵の鎧を紙のように切り裂く『ミズホ鋼の長太刀』、皆この2つがほしいと言っておったわ! ガッハハハハハ」
豪快に笑うキシンにコウちゃんが視線鋭く睨みつけると、キシンはバツが悪そうに口をつぐんだ。
俺の『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の長太刀』がそんなに評判になっているなんて思ってもいなかったので俺自身も少し嬉しい。
何よりキシンが無事に帰ってきたことが嬉しい。
「分かりました、『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の長太刀』をそれぞれ二つずつですね。ただ、『ミズホ鋼の長太刀』は臣下の者たちには長すぎると思うので野太刀にされた方がよいと思いますが」
「うむ、キミョウマルの言う通りであるな。では野太刀を頼めるか?」
「はい、父上が出兵しておりました間にそれぞれ創り置きをしておきましたのでそれぞれ2つ、直ぐにでもご用意できます」
「おお、既に創ってあったか。……それでどの程度の数があるのだ?」
「はい、『六鋼板当世具足』が8着と『ミズホ鋼の野太刀』が13振りです」
キシンは少し思案をするとポンと手を打つ。
「うむ、では『六鋼板当世具足』を3着と『ミズホ鋼の野太刀』を3振りもらおうか」
「褒美を増やすのですか?」
「褒美の数は変えぬ、だがワシに考えがある」
その後、キシンの求めに応じ『六鋼板当世具足』3着と『ミズホ鋼の野太刀』3振りを供出した。
それと俺の作業小屋に警備の兵がつけられてしまった。キシン曰く機密漏洩を防ぐのと、俺の護衛らしい。
年が明けてロイド歴3876年1月。
作業小屋を訪れたキシンが俺に『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の野太刀』の供出を求めてきた。
だから『六鋼板当世具足』を10着と『ミズホ鋼の野太刀』を20振り渡してやった。そしたらキシンが俺に金を渡してきた。
「この金はキミョウマルの自由にして良い金だ。後日、出入りの商人のミズホ屋を引き合わせよう。その金でキミョウマルの好きな物を買うがいい」
「ありがとうございます」
俺は素直に礼を言っておいたが、これは恐らくミズホ屋と引き合わせるし、金も使えるようにしたから、もっとよい物を創れ、というキシンの思惑があるのだろう。
為政者としては決して悪い判断ではないだろう。しかし父親としてはどうなんだろうね?
まぁ、いいや。今回のことで自由に城下町に行けるようにもなったし。
その後のキシンの話では、最初に供出した『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の野太刀』は京の都におられる王に献上したことが分かった。
どうやら俺の創った『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の野太刀』の素晴らしさを天下に知らしめるために献上したらしい。
そして王の御前で試し切りをした『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の野太刀』を見た王がとても素晴らしいと声を挙げて賞賛したらしいのだ。
お陰で京周辺の国守や貴族から問い合わせが来ているそうで、今回の供出に繋がったわけだね。
この2つを輸出するのは賛成しかねるけど、キシンは金策の重要性に気付いているようだ。没落した家を再び隆盛させるのは非常に厳しいだろうが、俺は応援しているぞ。
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