チートスキルはやっぱり反則っぽい!?
チート! 008 森のクマさんは女王様でした!
自由の身になって5日目。
今日は狩りに出る事にしたシローの狙いはレッドアイズラビットとアースボアだ。
この2種類の魔物の肉は美味しいと聞いたのだが、持っていた肉を全て売ってしまってから聞いたので食材調達の狩りとなる。
この先、旅をする為に食材はいくらあっても良く、旅の準備を兼ねての食材調達になる。
そしてデリンボのところで購入した鋼の片手剣の使い勝手も確認しがてらの狩りになる。
因みに鋼の片手剣の切れ味は流石でシローの手によく馴染む事でシローは夢中になりすぎてついつい狩りすぎるのだった。
6日目は宿屋の厨房を借りて料理をする。
女将さんのジルさんに何度も頼み込んでやっと厨房を借りる事ができたが、早々に引き上げなければならず時間を有効に使う必要がある。
早速ウサギのローストを作りそのウサギのローストを野菜と一緒に生地で巻いたトルティーヤ、ボアのステーキ、ボアのベーコン、野菜とウサギ肉のスープを作り、厨房を貸してくれたジルさんにも少しおすそ分けする。
「この肉はアースボアかい?干し肉とも違うようだけど匂いが良いね」
ボアのベーコンをひとかじりして更に目を見開くジル。
「干し肉とは全然違って塩辛くないし、硬くはないけどしっかりと歯ごたえもあり、いいね。気に入ったよ!」
「有難うございます。これはベーコンのレシピです」
「こんな大事なものを良いのかい?」
「構いませんよ、今後はベーコンもメニューに入ると期待していますから」
「あははは、そうだね、期待してておくれ」
前世では肉料理が得意だったと言うよりは山に篭って野ウサギやイノシシなどを密猟していたシローなのでこのような肉料理は嫌でも覚えている。
それでも念のために【料理人】のスキルを取っている。
この【料理人】のスキルはレアスキルになり、実を言うとノーマルスキルに【料理】と言うスキルがあるのだが、当然の如く【料理人】の方が良いスキルだ。
この2つのスキルの違いは【料理】は才能値であり努力すればそのレベルの料理が作れると言うものに対し、【料理人】は実力値で既にそのレベルの料理が作れると言う意味なのだ。
これは【剣術】と【剣士】などの戦闘スキルにも当て嵌まり、【剣術】が才能値で【剣士】は実力値となる。
シローは最初【剣術】を【チート】に願い取得し、才能値だという事に気付かずに【剣術】のレベルを上げようとして剣を振っていたのだが、いつまで経ってもレベルが上がらない事で不思議に思っていた。
そこで【剣術】スキルについて調べてみたら【剣術】は才能値で努力してもレベルが上がらない可能性があると気付いたのだ。
そして自分が努力ではスキルを伸ばせないと気付いたのもこの頃で、シローにとっては死にスキルとなってしまった。
才能値のスキルと実力値のスキルがあるシステムだったと分かった時はちょっと予想外だったので神様を少し恨んだシローだった。
勿論、全てが当て嵌まるわけではないようだが、最初に教えておいて欲しかったと今でも思っている。
7日目は午前中にオークを狩りに行く。
青い肌で体長が2m近い人型の魔物のオークは肉が美味しいと聞いたので追加の食料調達だった。
人型なので殺す事に抵抗があるかと予想していたが、そうでもなくサクサクと狩ってしまった。
恐らくだが【エクリプ神の加護】の『状態異常無効』の効果ではないだろうかと考えるシローだった。
オークは顔が豚なので予想はできたが豚肉のような肉質でオークも良い感じでシローの胃袋とストレージに納まって貰う。
翌日のオークションはギルド会館の2階にある大ホールで行われる。
ギルド会館は4階建ての大きな建物でフロアーあたりの面積は日本の小学校などにある体育館より大きく感じる。
時代的に中世ヨーロッパ程度の文化レベルなのでこれだけの建物を建てるのは大変だろうと思っていたら、建物の構造は基本的に【地魔術】や【地魔法】で造るそうだ。
その為に建物は大きな空間を確保する事もできるが、【地魔術】や【地魔法】の使い手で【建築学】や【建築家】を有している者は少ないので商売としては引く手あまたらしい。
シローは翌日のオークションの前にデリンボの店で頼んでいた刀と革鎧を受け取る予定なのでデリンボの店に向う。
街中でシローが聞いた噂話ではデリンボはこの街1番の鍛冶師で名人デリンボと言われているらしい。
店でデリンボが鍛えた剣を実際に見ているシローはその噂に納得し、そんなデリンボに刀を売って貰えると思うと嬉くてたまらないので足取りも軽いというか、思わずスキップをしそうになる程である。
「素晴らしいですね。こんな綺麗な刀には初めてお目にかかります」
漆黒の刀も素晴らしかったが、ジャイアントモウの角を鍛えたこの刀は凄いとしか言いようがないと言うのがシローの初見の感想である。
アイテム名:猛牛の暗刀
スロット:2
主素材:ジャイアントモウの角、ミスリル、黒曜石
効果:攻撃+300、刺突強化(中)、自己修復(小)
強度:1,000
条件:STR100以上、DEX80以上、INT50以上
アイテム名:牛斬
スロット:2
主素材:ジャイアントモウの角、ミスリル
効果:攻撃+342、斬撃強化(中)、自己修復(小)
強度:760
条件:STR150以上、DEX100以上、INT50以上
アイテム名:癒しの革鎧
スロット:1
主素材:ジャイアントモウの皮、黒曜石
効果:防御+252、自己修復(小)、HP自動回復(小)
強度:2,160
条件:STR50以上、VIT100以上、AGI60以上
「この反り上がったフォルムが良いです! 革鎧と短い刀の方は黒く俺好みですし、長い方は切れ味が良さそうですね。」
「がははははっ! 気に入ったか? 3つとも銘つきの逸品じゃぞっ! 黒色はシローの好みぽかったからな、その黒い刀身の方が『猛牛の暗刀』というのだが刺突に優れておる上に自己修復の能力まであるんじゃ! それと白い方が『牛斬』と言い斬撃に優れているしこれも自己修復付きじゃ! 革鎧の方は『猛牛の革鎧』と言い斬撃に強いし自己修復の他にHP自動回復もあるぞっ!」
デリンボは自慢げに鼻の穴を広げ鼻息荒く捲くし立てる。
通常のアイテムであれば『種類』と言う所に『○○の刀』など、種類が表示されているのだが、この3アイテムは『銘つき』の為に『アイテム名』となっている。
この『銘つき』と言うのは品質が良く、更に付加価値が高いものに自然と付く事があるのだ。
「とても素晴らしいものですね! 俺が予想していた以上の出来ですよ! 有難うございます!」
「おう、気合を入れてやったからな、かなりの力作ができたぞ! それとこれも終わっておるからの」
デリンボは打ち直しを頼んでいた剣も用意していたのだが、その打ち直した剣が新品同様に仕上がっていたのでシローは満足する。
何度も感謝の意を伝え、デリンボの店を後にすると早速試し切りしたくなるのが人の性ってもので、西の森に向うシロー。
感知系スキルをフル活用し手頃な魔物を探し、そしてヒットしたのが今シローの目の前でシローを睨んでいる魔物だ。
ジャイアントモウやフォレストリザードよりも大きい反応だったので何かなと思い来てみたが、それなりの大物に当たってしまったようだ。
■ 情報 ■
クィン
ビックバンベア 74歳 雌
森の女王
■ 能力 ■
HP:8,340/8,340
MP:366/366
STR:320
VIT:340
AGI:230
DEX:180
INT:40
MND:20
LUK:30
■ レアスキル ■
身体硬化Lv5
咆哮Lv5
格闘家Lv5
■ ノーマルスキル ■
臭覚感知Lv5
鉤爪Lv5
突進Lv5
身体強化Lv5
■ 状態 ■
興奮状態
■ 弱点 ■
火
どうやらこの西の森の主に遭遇したようだ。
何で興奮状態なのかは不明だが、美形のシローに会って興奮しているわけではないだろう。
ステータスを確認する限り物理系の能力がシローよりもやや高いが、他の能力やスキルからすればシローには及ばない。
ただ、スキルの【身体硬化】があるのでどこまで硬くなるのかがカギだろう。
そして弱点はまたもやシローの使えない火となっているので考えない事にした。
シローが驚いたのはクマなので2足で立っても不思議とは思わないが、このクィンは2足歩行で普通に歩いたり走ったりする。
普通にしていてもプレッシャーを醸し出す体格だが、2足立ちすると5m以上にもなるその巨体の威圧感は半端無い。
殆どの魔物はシローより体格で勝るのだが、これだけ体格で劣るとシローでも少し気弱になる。
「・・・いつまでも睨み合っていても仕方がないので、殺り合いますかね」
シローはデリンボが鍛え上げた牛斬を腰に携えており、その牛斬を鞘からゆっくり抜き放ちやや下段に構える。
「森の女王よ、俺に目を付けられた不運を呪うが良い」
シローは自分に言い聞かせるように、そして勇気を奮い立たせるように呟く。
「ガルルルルゥゥゥゥ」
どちらからともなくお互い間合いを詰めるとクィンは右前足を突き出してきた。
クィンからすれば大して力を入れていないパンチのようなものだが、これを普通の人間が受ければ間違いなく体がミンチになり死ねるほどの威力があるだろう。
だが、シローにその程度のパンチが当たるわけもなく、シローはクィンのパンチを体の重心を少しずらす事で躱し、その右前足目掛け牛斬を切り上げる。
しかしクィンもさるもの、右前足を寸でのところで引き戻したと思うと間髪入れずに左後ろ足で蹴りを放ってきたのでシローは大きく後方に飛び退く。
「【格闘家】なのを忘れていたわけじゃないけど、蹴りまで放ってくるとは思ってもいなかったよ。お前は本当にクマなのか?」
「ガルゥゥゥ」
クィンがニヤリと笑ったように見えた。
クマなのに人語を解すのか? とシローが瞬考するが、それはもう少し殺り合ってみないと分からないだろう。
今度はシローから仕掛ける。
「ハァァァァッ!」
地面を蹴り瞬時にクィンの懐に入りクィンの左後ろ足に向けて牛斬で斬り付けようとしたが、クィンは躱すどころかヤクザキックでカウンターを狙い反撃してきたので軽く左に避ける。
この女王クマ様は人間じゃないの? と思うような動きだ。
「やるねぇ、流石は女王だ」
「ガルゥゥゥ」
攻守を変え今度はクィンが間合いを詰め、器用に4本の足・・・もう両手両足で良いだろう、を駆使してパンチと蹴りを雨あられのように放ってくれる。
所謂、ラッシュというものだ。
一発でも当たれば死なないまでも大ダメージは確定のラッシュが続く中、シローは冷静にそして慎重にクィンの攻撃を紙一重で避ける。
シローがパンチと蹴りのラッシュを躱しきるとクィンは不満げな顔をしているように見えた。
(この女王クマ様は絶対人間だろっ!)
シローの心の声が聞こえたのかクィンは両足でモハメド・○リもビックリのステップを踏む。
(蝶のように舞い、蜂のように刺す! ってか、キックも出してたくせにボクサーかよ!)
心の中で声にならない突っ込みを入れ、今度は自分の番と言わんばかりにシローが動く。
傍からみたらゆっくり近付いたように見えるが、その動きに一切のブレや隙はなく自然と牛斬を振り下ろす。
クィンは後方に引くが、シローが牛斬を振り下ろした時に斬撃を飛ばしているので斬撃がクィンを追いかける。
クィンはその斬撃を躱すのを諦め素早く手をクロスさせ防御姿勢をとり、斬撃を受け止めるが流石に無傷ではなかった。
深くはないがそれでも傷を付けられたのは数十年ぶりだったクィンは驚愕した。
そして向かい合い殺りあう相手が只者ではないと改めて認識するのだった。
「やっと傷をつける事ができたな。俺の本気はこれからだぜ!」
両手にズキズキと疼く傷を負ったクィン。
2人は数秒見つめ合い、そしてシローがジリジリと間合いを詰める。
しかしクィンは何を思ったのか後方に走り出した。
何をするのかと暫し距離を置き観察をしたシローだったが、クィンが逃げに入ったと気付く。
(マジかっ! これからだろうがっ!)
シローの斬撃を受けて実力差が分かったのだろう、クィンは一目散に逃げをうつ。
が、シローは当然の如く追いかける。
クィンは木々を器用に躱して2足歩行で逃げる。
クマなのに逃げるときまで2足歩行っておかしくないですか? と突っ込みたくなるが、そこはグッと堪えてクィンを追うシロー。
クィンと遭遇した場所は西の森のかなり奥だったが、クィンが逃げる先は切り立った岩山がそびえ立つ場所だ。
カウラニの街の冒険者は通常はここまで奥には入って来ないようで、人間の反応はどこにもない。
クィンは岩肌にポッカリとあいた穴に入って行ったのでシローも穴の中に入ろうかと穴の前まで移動する。
しかし【空間把握】に出ている反応を見て入るのを止める事にした。
どうやらこの穴はクィンの巣穴のようでシローの脳内マップにはクィンの子供が居るのが分かったからだ。
クィンが興奮状態だったのは子育て中だったからだと妙に納得するシローだった。
魔物とは言え、子育て中の母親であるクィンを殺すのは流石に気がひけたシローは巣穴から離れていく。
死力を尽くして戦った感がないので不完全燃焼だったが引き上げる事にし、もうすぐ夜になってしまうのでカウラニの街までは走って帰る事にした。
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