クランを追い出されたのでクランを作って最強になる

なんじゃもんじゃ

006

 


「……ここは?」
 行き倒れは13歳ほどの赤毛の少年だった。
 僕がスープを作っているとその少年が身じろぎした気がしたので振り向いて彼を見る。
 僕と少年の目が合う。
 どうやらスープの美味しそうな匂いに起こされたようだ。


「む、起きたか」
 赤毛の少年を覗き込むユニクス様。
「あ、あなたは!?」
「ほう、我のことを覚えておるのか?」
 ユニクス様は赤毛の少年のことを知っていた。
 ユニクス様はこの少年と過去に何度か会ったことがあり、言葉も交わしているそうだ。
 だから恥ずかしがり屋のユニクス様でも少年と話がスムーズにできる。
 もし、顔見知りではなかったら自分の部屋から出てこなかっただろう。


「ユニクス様……」
「何があった? 仮にも上級神が道端で行き倒れとはただごとではないぞ?」
 少年は上級鍛冶神のブリーイッド様だった。
 大神に次ぐ位階の神であり、道端で行き倒れになってよい存在ではない。


 僕は窯にかかっていた鍋からスープを皿に盛る。
「ブリーイッド様、起きられますか? 大した物はだせないですけど、スープを用意しました」
 ブリーイッド様は雨に濡れていたことで躰が芯から冷えていた。
 神でも風邪をひくそうなので意外と人間臭いところもあるのだ。
 だから温かいスープで体を温めるのは効果的だ。


「ありがとう」
 ブリーイッド様はベッドから降りて木でできた質素な机の椅子に座り、スプーンを手に取りスープをすくって口に運ぶ。
「美味しい……」
「そう言ってくれると嬉しいな。あ、そうだ、僕はゼクスです」
「僕は……ブリーイッド。上級鍛冶神だよ」


 ブリーイッド様がスープをお代わりしたので、それを飲み終えるのを待ち話を聞いたユニクス様と僕。
「そうか、使徒が倒されたのか」
「はい……神器まで奪われてしまいました……」
 神器とは神が創りだした使徒用の強化アイテムのような物だ。
 僕も短剣型の神器を持っているけど、神器は使徒が生きている限りは例え盗まれても使徒の元に戻ってくる。
 しかし使徒が殺されて神器を奪われると、神の元にさえも戻ってこないそうだ。


「そのため、クランは空中分解してしまって……」
「お主を養う者がいなくなったのだな……」
「はい……」
 神器はまた創ることができるけど、それは使徒が殺されてから一年経たなければならない。
 それまで使徒と契約もできないらしい。
 つまり、クランの活動は休止となり、その間は神を養うのが厳しくなる。
 ブリーイッド様のクランはそれほど裕福ではなかったようでソロモンの天支塔に入れなくなって資金的に厳しい状況に追い込まれたそうだ。


「何故、天上界に戻らなかったのだ?」
 地上界で具現化しているから腹が減るのであって、天上界へ戻り本来の姿に戻れば神が空腹で行き倒れることはない。
「地上界にどうしても放ってはおけない者がいたので……」
 ブリーイッド様は一カ月ほど前にクラン員になった人を放ってはおけなかったそうで、面倒を見ていたと話す。
 現実には面倒を見られていたのかもしれないけど、それは本人の受け止め方によって違ってくると思う。


「それで、その者はどうしたのだ?」
「僕と一緒にいたと思うのですが……」
 どうやら二人で行き倒れていたようだ。
「大変だ。ちょっと探してきます!」
 僕は急いでブリーイッド様が倒れていた場所に向かった。
 雨の中、ぬかるみに足をとられそうになりながら走った。


「……どこに?」
 ブリーイッド様が倒れていた場所の周囲を探す。
 なかなか見つからない。
 雨脚は相変わらず強い。
 ブリーイッド様を連れ帰ってから2時間は経っているので心配が増す。


「いた!」
 ブリーイッド様を見つけた路地からさらに細い路地に入ったところで少年が倒れていた。
 僕は少年の息があることを確認してすぐに家に連れ帰る。
 長いこと雨にあたっていたため、少年の躰は冷え切っていた。
 今日は特に気温も低いので心配だ。


 濡れ鼠のような少年の躰をふいてやりベッドに寝かす。
 ブリーイッド様も少年のことが心配で仕方がないようだ。
「熱があるようです……」
「ペルトは大丈夫かな?」
 少年の名前はペルトというらしい。


「分かりませんが、今は安静するしかないと思います」
 毛布を二枚重ねにしてペルトにかけてやる。
 残念ながら貧乏クランのナイトユニクスにはあまり備品がないので毛布を二枚にしてあげるのがせいぜいだ。


 ペルトの額に濡れタオルを絞って置く。
 よく見るとペルトはドワーフだった。
 癖の強いブラウンの髪の毛に150㎝ほどの背丈。
 髭が生えていないのでまだ成人には達していないように見えた。


 僕は一晩中、ペルトの看病をした。
 そのおかげか、ペルトの生命力なのか、彼の熱は下がったようだ。
 ペルトの額から手を離してホッとひと息つく。


 僕は朝食を作り出した。
 その音が聞こえたのか、ユニクス様とブリーイッド様が起きだしてきた。
 パンの上にチーズを載せただけのものとスープが朝食だ。
 だけどスープには野菜が沢山入っていて少しだがベーコンも入っている。
 野菜の旨味がしっかりとスープに染み出ているので、なかなか美味しいスープになっていると僕は思う。
 ユニクス様もこのスープを結構気に入っているんだ。


 三人分の食事を机の上に用意すると、ペルトの様子を見ていたユニクス様とブリーイッド様が椅子に座った。
 そして僕も椅子に座り、三人で机を囲む。
「どうぞ」
「うむ、頂くのだ」
「ありがとう」
 ユニクス様とブリーイッド様が食べ始めたのを見て僕もスープを口に運ぶ。
「「美味しい」」
 二柱の神が僕の質素な料理を美味しいと言って食べる姿を見て僕はクスリと笑う。
 なんて微笑ましい光景なんだろう。心がホッとする。


「ゼクス。我は決めたのだ」
 ユニクス様は自分の分を食べ終わった瞬間に唐突に喋りかけてきた。
「何を決めたのですか?」
 僕はまだ食べ終わっていなかったけど、一体なんだろうと思いながらユニクス様の顔を見る。
「そこのペルトを我がクランに入れることにした」
 なんとなくだけど、そう言われると思っていた。
「ごめんね、ゼクス。僕がユニクス様にお願いしたんだ」
 勝手に話を決めたユニクス様を擁護するようにブリーイッド様が言う。
 ユニクス様はそんなことで僕は怒らないと言っていたらしいけど、神としてはとても低姿勢なブリーイッド様が僕に謝る。
 こっちが恐縮してしまう。


「お二人がそう決めたのであれば、僕は構いません。むしろ、仲間ができて嬉しいですから!」
 ペルトの人柄とか気にならないのだろうか?
 なんでそんなにお人よしなのか?
 僕も気にならないこともなかったけど、ブリーイッド様を見ているとそんな心配は稀有なことだと思うんだ。
 ユニクス様は僕のそんなところが好きだというけど、あまりお人よし過ぎてもこのご時世では早死にするよと忠告してくれる。


「ん……ここは……?」
 お二人と話していたらベッドで寝ていたペルトが目を覚ましたようだ。
 ペルトは金色に近い色の瞳を彷徨わせ周囲を窺っていた。
 そして机を挟んで座っている僕たち三人を見ると瞳の動きを止める。


「ペルト起きたんだね! 気分はどう? どこか痛いところはない?」
 ブリーイッド様は人好きのする笑顔でペルトに話かける。
「ブリーイッド様……」
 ブリーイッド様は目を覚ましたペルトを見てテンションが上がり過ぎてしばらくうるさかった。
 ユニクス様が飛び蹴りをして黙らせるまでうるさかった。


「酷いですよ、ユニクス様……」
「我は騒々しいのは好きではない!」
 ユニクス様とブリーイッド様がコントのようなことをしている間に僕はスープをペルトに渡して食べさせる。
「あ、ありがとうございます」
 恥ずかしそうにスープを受け取り、おずおずとスプーンを動かすペルト。
 ペルトもユニクス様に負けず、かなり内気のように見えた。


 全員が落ち着いたころにブリーイッド様がペルトに語る。
「今日からペルトはクラン、ナイトユニクスに所属することが決まった!」
 前置きも何もなく驚愕の事実が語られた。
 ペルトの意思は一切無視。二柱の神が決めた事実だけが脚色もなく語られたのだ。
「え? ……えぇぇぇぇ?」


 

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