クランを追い出されたのでクランを作って最強になる

なんじゃもんじゃ

002

 


 僕は念願のソロモンの天支塔へ初めて入った。
 ソロモンの天支塔は見た目は巨大な石造りの塔なんだ。
 でも塔は雲の上まであって、一番上は地上からでは見えないんだ。本当に凄いよね。


 僕一人だけの探索だけど、それはつまり僕がクランに所属したことを示している。
 所属クラン名は『ナイトユニクス』。
 所属員は一人。つまり、使徒の僕だけしかいないクランだ。


 多くの神志ウィラーがソロモンの天支塔に入っていく中、僕も彼らに交じって入っていく。
 神志ウィラーとは神の意志を受けて戦う者という意味で、神々のクランに所属する者たちを総称して神志ウィラーと呼ぶんだ。


 入り口付近はウィラーによってごった返しているので、入り口付近には魔物はいない。
 もしいても袋叩きにあってすぐに討伐されてしまう。
 巨大な門を通って10mほどの閉塞した空間を抜けると広い空間に出る。
 これがソロモンの天支塔の一層だ。塔の中なのに空があり草木が生える大地がある。
 歴戦のウィラーは地下一層への道を行くけど、僕はこの一層に出てくる魔物を探す。


「グル」
 魔物を発見した。まだ僕には気がついていない。
 僕は息をひそめ、腰に挿している短剣を引き抜く。
 黒光りする漆黒の短剣を抜くと手を伝って淡黒い光りが僕の体全体を包み込む。
 この淡黒い光が神の加護だ。


 神の加護には色々ある。
 ある神は剣から赤い光が、ある神は槍から青い光が、ある神は盾から黄色い光が全身を包む。
 僕の場合は淡黒い神の加護だ。これが暗黒神様の加護なのだ。


 神には下級神、中級神、上級神、大神と四段階の位階がある。
 この位階が上になればなるほど神の数は減るけど、僕と契約した神は大神の暗黒神様だ。
 これまであまり表舞台に出てこなかった暗黒神様が僕を使徒にして表舞台に出てきた。
 これに関しては後に語るとして、今は目の前の魔物に集中しよう。


 僕が見つけたのはコボルトと言われる130㎝ほどの大きさの犬が二足歩行をしている魔物だ。
 武器は持っていないけど、鋭い牙と爪で攻撃をしてくる。


 短剣を構える僕。
 そろりとコボルトに近づくが、犬の魔物だけあって耳がいい。
 耳がぴくぴくとしたと思ったら僕の方に振り向いたコボルト。
 目と目が合う。コボルトがにやりと笑い凶悪な牙が見える。
 僕も負けずににやりと笑い返して白い歯を見せる。


 僕とコボルトの距離は7mほど。
 僕とコボルトは同時に走り出し交差する。
 痛い。僕が左腕を抑え方膝を地面につく。
「グー……」
 次の瞬間、コボルトがどさりと地面に倒れる。


「いててて……」
 僕は振り向いてコボルトを見る。
 コボルトはまるで砂が風に飛ばされるように消えていく。
 これが魔物の特徴の一つだ。
 人間と違って、魔物が死ぬとすぐに死体が消えるのだ。


 僕はコボルトの爪がかすった左腕をさすりながらコボルトが消えた場所を見る。
「もう少し見切りをしっかりとしないといけないな……甘かった」
 僕は神の加護を持っているので、ある程度のダメージは無効化できる。
 だからコボルトの鋭い爪がかすっても怪我をすることはない。
 しかし神の加護も万能ではないので一定量のダメージは無効化するけど、その一定量を越えたダメージはそのまま通ってしまう。
 それに怪我はしないけど痛みは感じるので、痛みに弱い人は痛みで気絶する場合もある。


 僕は少し反省して次の魔物を探す。
 どこに魔物がいるか分からないので草原をあてもなく歩く。
 そして次に見つけた魔物はレギルン。
 120㎝ほどの人型の魔物だ。全身毛むくじゃらで、その毛は薄緑色。手には棍棒をもっていている。


 まだ気づかれていないので今度こそ後ろからの奇襲を成功させようとそろりと近づく。
 ぐさりと肉を突き破るような感触がした。
 レギルンの心臓を背中から突き刺す。
 一・二度ビクッとしたレギルンは力なく項垂れ地面に倒れる。
「よし、今度は上手くいったぞ!」


 真っ向から戦えば傷だって負うだろう。
 しかし気づかれずに近づいてぐさりとやれば安全だ。
 たった一人しかいないのだから無理な戦いはできない。
 最初のコボルトのように気づかれたら仕方がないが、気づかれなければ非常に有効な手段なんだ。


 暗黒神の加護はダメージを軽減してくれるだけではない。
 僕のような非力な人間には非力なりの力を与えてくれる。
 一対一の戦いや一対多の戦いは苦手だだけど、相手に気づかれずに近づき人知れず敵を倒すのが今の僕の戦い方だ。


 足音を消し、気配を消す。場合によっては影に隠れて敵を待つ。
 そうやって僕は魔物を倒していく。
 さすがにコボルトは耳や鼻がよいので何度か気づかれて戦闘になった。
 それでもコボルト八体、レギルン十一体を倒した。


 僕は草原の中でたたずみ、首から下げたクランカードを見る。
 塔の中なのに風が吹いているので、風が火照った躰の熱を下げてくれるようで心地よい。
 クランカードとはウィラー全員が持つ神のアイテムで、討伐した魔物から得たウィラーズポイント(WP)が表示されている。
 WPはソロモンの街内でお金としても使えるポイントだ。
 そしてもう一つ、クランポイント(CP)というポイントも表示されている。
 CPは魔物を討伐するごとに増えていき、このCPは三カ月ごとのクランランク更新時にリセットされる。
 これは使徒だけのクランカードにしか現れないものだけど、クランに所属している人が魔物を倒せば必ず使徒のクランカードに加算されていく。


 今現在、僕のクランカードには190WPと19CPと表示されている。
「わ~、190WPもある! すごいな~」
 僕がいつも食べる質素な食事であれば10WPで食べられる。
 19回の食事を摂れるだけのWPがあるけど、今の僕は暗黒神様を養っているので自分一人の時よりもWPの減りは早い。
 使徒は神の食事を用意しなければならないのだ。
 力を与えてもらう代わりに供え物という名目で神様を養うのだ。


「よし、今日は帰ろう。ユニクス様にご報告をしないと」
 ユニクス様とは暗黒神様の名である。
 暗黒神ユニクス様。原初の神であり夜の神としても知られている。
 ユニクス様の使徒である僕の神器は『常闇の剣ダークソード』だ。
 ユニクス様の使徒である僕のみが使用でき、僕が使う時にはユニクス様の神気を纏うことができる。


 神器は持ち主が成長すると一緒に成長する。
 今は短剣サイズだけど、成長すれば通常の剣の大きさになったり、僕の成長次第では剣以外の形態に変化することもあるとユニクス様が言っていた。


 帰りがけに数体の魔物と遭遇したけど、危なげなく一撃で倒してWPとCPを加算する。
「よう、ゼクス。今、帰りか?」
「はい。今、帰ってきたところです。ボンズさん」
 声をかけてきたボンズさんは肉屋のオヤジさんで、お金のない僕にくず肉をただ同然で売ってくれる気のよいおやじさんだ。
 半年も雑用をしていたから、買い出しとかは僕の仕事だったので、こう見えても僕は顔が広いのだ。


「今日もいつものでいいか?」
「あ、今日は奮発してばら肉をください!」
「お、儲けたのか? あんまり無理するなよ!」
「はい!」
 ばら肉を購入した僕はボンズさんにお礼を言って次の店に向かう。


 数軒、買い物をして家に戻った。
 僕の家はソロモンの街の外れにある屋根が半分ないボロボロの家だ。
 街は石造りの家が多いけど、ここまでくると木でできた家もある。
 ボロ家だが小さいながら庭もあるその家はお金のない僕がただ同然で借りている物だ。


「ユニクス様、ただいま戻りました」
「お帰り、ゼクス」
 ユニクス様は家の一番奥にある個室にいたけど、僕の声を聞いて部屋から出てきた。
 家の中でも黒色のマントを頭から被っており顔は分からない。
 しかし声は若々しい女性のものだ。


「またそんなマントを被って」
「これが落ち着くのだ」
 ユニクス様は黒いマントを被っていないと落ち着かない性格でいつもこのマントを被っている。


「すぐにご飯にしますから」
「うむ、丁度お腹がすいたところだ」
 窯の火を熾すと買ってきたばら肉を串に刺して軽く塩胡椒をしてからあぶりだす。
 しばらくすると肉の焼ける良い匂いがしだす。
 ユニクス様はテーブルの椅子に腰掛けて僕が肉を焼く姿を眺めている。
 黒いマントを深々と被っているので表情は分かりにくいけど、肉が醸し出すよい匂いに嬉しそうだ。
 小柄なユニクス様は椅子に座ると床に足がつかないので、気分がよい時は足をぶらぶらさせる癖があるのを僕は知っている。


 食事の仕度をしていると外は夜の帳が降り、綺麗な星空が広がっていく。
 窯に火が入っているものの僕たちは明かりをつけない。
 明かり用の油が意外と高いのもあるけど、仮にも暗黒を司る神であるユニクス様とその使徒の僕は暗がりの中でも目が効くのだ。
 それどころか暗い夜の方が僕の能力は高まる。
 それでも昼間にソロモンの天支塔に入るのは、あえてユニクス様が僕に与える試練なのだ。


「ソロモンの天支塔はどうだったのだ?」
「コボルト十体とレギルン十二体を倒しました」
 帰り際に倒した魔物を含めて二十二体を倒した。
「ほう、最初の戦闘で、しかも昼間の戦闘でその戦果はなかなかだな」
 褒められると少し嬉しい。それに僕の背中を見ているユニクス様も嬉しそうだ。


「焼けましたよ」
 肉が焼けたので皿に置き手際よくナイフで肉を切り分ける。
 こういうのは慣れたものである。
「今日は220WPも稼いだのでばら肉を買ってきましたよ」
「おお、いつもの筋張った肉ではないのか!?」
「はい。パンも白パンにしてみました!」
 そう言って白パンを机の上で切り分けると、先ほど切り分けた肉、そして溶かしたチーズを載せてユニクス様の前に置く。
 自分にも同じように肉とチーズを載せたパンを用意する。
 肉の厚みは明らかにユニクス様の方が分厚いのは大事だ。
 僕がこうしてソロモンの天支塔に入れるのも全てユニクス様のおかげなんだ。
 だから感謝を込めて食事も多めにするんだ。


「さぁ、いただきましょう!」
「うむ、いただくのだ!」
 僕たちは肉の載ったパンに噛りつく。
「「っ!」」
 いつものくず肉より上等なばら肉なので香も味もよいし、何より噛むと肉汁が出てくる肉はとても美味しく感じられた。


 

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