クランを追い出されたのでクランを作って最強になる

なんじゃもんじゃ

004

 


 コボルトの後方に気づかれないように立つ。
 そしてコボルトは首から血を吹き出す。
 闇を纏った僕は気配を消す能力が前日よりも上がっているのを感じた。
 全てを覆いつくすのが闇であり、それこそが暗黒神であるユニクス様の加護なんだ。
 本来は気配を消すものではないけど、気配も覆い隠すことで魔物に気づかれずに近づくことができる。
 この能力は夜の方が高い効果を出すけど、ユニクス様は昼間でも戦えるようにと課題を僕に出しているんだ。


「よし! 今日は300WPと30CPも稼いだぞ!」
 昨日よりも多くのポイントを稼いだことに喜びを感じる。
 意外とやれるものだと少し天狗になってしまうのを戒める。
 今の僕はソロモンの天支塔に入り魔物討伐ができることに至上の喜びを感じていた。


「じいちゃん、僕は最高のウィラーになれるようにガンバルよ」
 ソロモンの天支塔の中は普通のフィールドのように空がある。
 その空を仰ぎ見て他界したじいちゃんとの約束である最高のウィラーになると、決意を新たにする。


 足首まである草を踏み移動をする。
 本来でなら草を踏むと音がするけど、僕の足音は非常に小さい。
 僕の戦い方は奇襲や不意打ちといったものなので、加護が発動していなくても音や気配を消すように心がけているんだ。
 元々、田舎で狩人の真似ごとをしていたので本職とまではいかないまでも気配を消すのには慣れている。


「……なんだろう?」
 今日の魔物討伐を切り上げ出口に向かっていた僕だったが、背筋にいやな汗がながれる。
 周囲を注意深く窺うが、特に何もない。
「もう少しで出口のはずだから……」
 その時だった。首筋にチリチリとした感覚を覚えたので、何も考えずにその場を飛びのいた。
 急いで飛びのいたので僕は地面に転がってしまった。


 ガンッ。
 何かが地面を抉ったような音がしたので、今まで自分がいた場所を見ると黒い塊があった。
「な、何?」
 その黒い塊がゆらゆらと立ち上がると、その姿を露わにする。
「こ、コボルト?」
 たしかにコボルトだけど、違う点が一点ある。


「なんてデカさなんだ」
 そのコボルトは体長2.5mはありそうな大きさで、通常のコボルトに比べて倍ほどの大きさだった。


「ガルゥッ!」
 不意打ちを避けられて悔しいのか、極悪な牙の隙間から涎をたらし、僕を血走った目で睨むコボルト。


「まさか、ハグレ!? なんでハグレがこんなところに!?」
 巨大なコボルトはコボルトのハグレだと思う。
 ロッソムさんからハグレが出ると聞いてはいたけど、それは地下三層だったはずだ。
 なのに何故一層にハグレがいるのか、僕は不思議に思う前に逃げ出さなければ殺されると思い、一目さんにその場から逃走を図った。


「ぐあっ!?」
 もちろん、ハグレが僕を逃がすわけもなく、ハグレはその巨大な爪で僕の背中を切り裂く。
 背中を切り裂かれた僕は地面に倒れると、襲ってくる痛みに苦しむ。


「グルゥ」
 僕を切り裂いたハグレはトドメをさそうと、倒れて痛みに苦しんでいる僕に近づいてくる。
 嬉しそうに口を半開きにして涎をだらだらとたらして、口から見える牙が凶悪さを表している。
 僕にはそれが死神の微笑みに見えた。


 僕は加護のおかげで傷は負っていないけど、それでも痛みはそのまま感じるのでハグレに対して恐怖心が湧き上がってくる。
 こんなところにハグレが現れたことより、これから自分の身に起きるであろう悲劇を想像してしまう。
 死にたくない。でもハグレから逃げられるとは到底思えない。
「僕はこんなところで……」
 死んでしまうのかと、口にだしそうになったが、それを飲み込む。飲み込まなければ本当に死んでしまいそうで怖かったんだ。


 じいちゃんがよく言っていた言葉がある。その言葉を思い出す。
「どんな時も諦めてはだめだ。無理だと思っても足掻くことで活路が見いだせることだってある」
「じいちゃん……僕は……」
 僕は目を見開く。じいちゃんの言う通りだ!
 生を諦めたらそれで終わりだ! 生を渇望するんだ!


 僕に近づき爪を振り上げていたハグレの姿が僕の目に飛び込んできた。
 僕は素早く短剣を抜きハグレの足に切り付ける。
「グギャァッ!?」
 ハグレは油断していたようで、僕の反撃を受けて声をあげた。
 それでも傷はない……まさかハグレにも加護があるの?


「え? なんで? 魔物には神の加護はないはずなのに!?」
 驚いたのはハグレだけではなく、僕もだった。
 しかし驚いてばかりはいられない。
 ハグレに神の加護があろうと、なかろうと、今は生き残るために足掻く時間なのだ。
 だから考えるよりも先に行動しなければならない。


「加護があろうと、どっちでもいい。こともないけど、いい!」
 痛みを受けて驚いているハグレに短剣を突き出すとお腹の辺りに命中する。
 痛みは与えたようだが、また加護に阻まれて傷は与えられなかった。
 その攻撃でハグレも我に返ったのか、僕を切り裂こうと爪を振り下ろす。


「避けられない。だったら受けるだけ!」
 僕は暗黒神ユニクス様の加護を信じて爪を加護で受けることにした。
 そして爪を振り下ろそうとしていたハグレの無防備の脇腹に短剣を突き刺す。
 お互いに強烈な痛みを感じ、顔を歪める。
 しかしここで怯んだら負けだと思ったので手数を増やす。
 お互いに防御を捨て攻撃だけに力を注ぐ。
 意識が飛びそうになるほどの痛みを受けても攻撃の手を緩めない。
 もし攻撃の手を緩めたらもう二度と攻撃できない気がしたからだ。


 いつ加護が切れるか分からない。
 だから早くハグレを倒したい。しかしハグレの加護もなかなか分厚い。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!」
「グラァァァァァァッ!」
 お互いに一歩も引かずに攻撃を繰り出す。
 短剣を持つ僕の右手がいくつも見える。
 こんな攻撃ができたんだと自分でもびっくりする。
 ハグレも負けじと両手の爪をフル回転させる。


 だけどその瞬間は唐突にやってきた。
 加護切れ。今まで痛みは感じていても傷を負うことはなかった。
 それが痛みと同時に躰に傷がつき始める。
「グラァァァァァァッ!」
 自分の躰に傷がつき血が噴き出したのを見てハグレが雄叫びをあげる。
 しかし僕は攻撃の手を決して緩めない。


「まだまだぁぁぁぁぁっ!」
 僕はさらに手数を増やす。
 今までも限界を越えた攻撃を繰り出していた。
 でもさらに手数を増やすのは自殺行為だと分かる。
 しかしハグレの躰から真っ赤な血が噴き出しているのを見たら、さらに手数を増やしたいと、早くハグレを倒したいと心が叫ぶんだ。


 腹部を中心におびただしい血を流しているハグレのその顔は苦痛で歪んでいるが爪を繰り出すのを止める気配はない。
 僕の加護もこれまでのダメージが蓄積されているので長くは持たないと思う。早く決着をつけないと。
 そんな時、僕の右腕のあちこちから血が噴き出した。
「ぐわっ!?」
 とうとう加護が切れたのかと思ったけど、右腕にハグレの攻撃は受けてはいない。
 その血は限界を越えて酷使した右腕が耐えきれなくなったためのものだった。
 加護は外的な要因での傷は追わないけど、内的な要因の場合は話は別だ。


 僕が地面に膝をついたのを見てハグレは爪の攻撃を入れてくる。
 そしてとうとうユニクス様の加護が切れたのを実感した。
 短剣はなんとか持っているが右腕が上がらない。
 絶望しかなかった。もう少しで倒せたと思ったのに……。


 ハグレは地面に膝をついて絶望している僕を見て口角を上げる。
 そして爪を振りかぶろうとしたけどハグレもその場に膝をついた。
 ハグレも限界を迎えたのだ。
 それでもハグレは爪を振りかぶる。
「くっ、ここまで……なのか……」
 振り上げられた爪を見つめ僕は短い人生を思い起こす。
 15歳の短い人生だった。走馬灯のようじいちゃんと過ごした記憶が頭の中に流れる。
「じいちゃん……ごめん……」
 僕は目を閉じ、ハグレの爪を受ける覚悟を決めた。


「何をしとるかっ!? 諦めるなっ! 右腕が使えないのなら左腕があるだろっ!」
 脳裏にじいちゃんの声が聞こえた気がした。
 その声で我に返った僕は目をカッと見開き、左手で短剣を握って突き出す。
 同時にハグレの爪も振り下ろされる。
 僕の左頬を爪が抉りザックリと四本の傷が刻まれる。
 焼けるような強烈な痛みに顔を歪める。
「……」
「……」


 僕はその場に倒れた。
 その僕の姿を見下ろすハグレは勝利を確信してにやりとする。
 だけどハグレも口から大量の血を吐き出し、後方にそのまま倒れた。
 ハグレの胸には深々と短剣が突き刺さっていた。
 お互いに死力を尽くした死闘はこうして終焉を迎えた。


 しばらく倒れたまま息を整える。
 ポーチからポーションを取り出そうと思ったけど、右腕が動かなくて取り出すのに苦労をした。
「いててて……」
 左手でなんとかポーションを取り出し飲む。
 飲んだポーションは低価格の物なので効き目はあまりよくない。
 それでも飲むのと飲まないとでは全然違ってくる。


 ポーションの効果で右腕と左頬の傷から流れ出ていた血は止まった。
 だけど完治には程遠い。右腕は全然動かないし、左の頬の傷痕もずきずきとうずく。
 上半身を起こして周囲を見ると僕とハグレの血が飛び散った痕が広がっていた。
「僕は……生き残れた……」
 ハグレが倒れた場所を見る。
 コボルトのような魔物が倒れた場合、ほとんどの場合は魔物が消えてなくなるだけだ。
 だけど今回はハグレが倒れた場所に何かが落ちていた。
 重い躰を引きずってその落ちている物がある場所まで移動する。
 そこには銀色に輝く腕輪が落ちていた。


「……そう言えば、ハグレの右腕に……」
 この銀色の腕輪と同じ物をハグレが右腕に嵌めていたような気がする。
 先ほどまで死闘を繰り広げていたハグレの生前の姿を思い起こす。
 その記憶にあるハグレの右腕に嵌められていた腕輪と同じ物だった。


 

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