カードメーカー【最強の魔物をつくりあげろ!】

なんじゃもんじゃ

023 十四層

 


 十四層に入った将磨たち。
 オークリーダーはゴブリンコマンダーよりも配下の能力を上げる効果がわずかだが大きかったのが確認できた。
 ランクFのゴブリンコマンダーとランクEのオークリーダーの違いなのかも知れないが、詳細は分からない。


「あ~ゴブリンコマンダーのゴブゴの天下は短かったねぇ~」
「三日天下って感じだよね……」
 美月と霧子はオークリーダーに取って代わられてしまったゴブゴを憐れむ。
 しかし取って代わられたのはゴブワンとゴブツーのゴブリンナイトコンビも同じでオークの豚一郎とんいちろう豚二郎とんじろうが召喚されている。
 因みにオークリーダーは豚太郎とんたろうと名付けられた。


 豚太郎には金属鎧と盾を、豚一郎と豚二郎には初期装備を装備させてみる。
 三体とも特注の金棒が武器で見分けはテッパチに書かれた数字と豚太郎は『太』の字だ。
 豚一郎と豚二郎は金棒を両手で扱うが、豚太郎は片手で扱える。
 見た目はあまり変わらないが、ランクの差がこれで分かる。
 傍からみたらゴツイおっさんが三人いるように見える。


 十四層ではオークの比率が高くなってくる。
 ゴブリン種は色々な種類があり面倒だが、オークは皆棍棒装備のパワー型なので戦いは単調になってくる。
 それでもそのパワー頼みの攻撃はこれまでのゴブリン種よりも危険だし、耐久力も上である。


 そして十四層のボス部屋。
 本来であればオーク二体とゴブリンナイト、ゴブリンアサシン、ゴブリンスカウト、ゴブリンハイメイジ、ゴブリンコマンダーがそれぞれ一体だ。
 しかし将磨たちのボス部屋戦が普通の相手だけで終わるわけがない。


「あれは……鳥?」
「猛禽類でしょうか?」
「ローグイーグルだと思う」
「「ローグイーグル?」」
「えーっと、たしかランクEの魔物で風の刃を飛ばしてくるはずだよ」
 ランクEの魔物だけでも面倒なのに遠隔攻撃がある飛行タイプの魔物だ。


「これって林原さんの予言のせいだよね!」
 美月は先日の林原の言葉を思い出す。
 そして林原のせいだと思うことにしたのだ。


 将磨はやっぱり来たか、と思った。
 林原の言葉もあるが、将磨もそろそろだとは思っていたのだ。
 鳥の魔物がいることは知っていたので、対応は考えていた。
 サンドスコルピオとの戦いがかなりきつかったのでどんな魔物が現れても良いようにシミュレーションはしていたのだ。


「八幡さんはローグイーグルを牽制して。百瀬さんとテンでオークを一体づつお願い。豚太郎はゴブリンスカウトとゴブリンハイメイジを優先にゴブリン種を潰して。影丸は豚太郎部隊の支援を頼むよ」
 将磨の指示で皆が飛び出していく。
 将磨自身も毒魔法をローグイーグルに放つために詠唱に入る。
 この詠唱は日本語のような地球上の言語ではない。
 毒、麻痺、溶解が毒魔法にはあるが、これらの三種類の魔法を撃ちたいと思うと何故か知らない言語で詠唱をするのだ。
 最近はイメージを明確に持てば持つほど効果が高くなると考えるようになった将磨はローグイーグルが麻痺して飛べなくなった姿を思い浮かべ麻痺の毒魔法を詠唱する。


 最初に接敵したのはテンだった。
 圧倒的スピードでオークに迫るとその巨体に拳を突き出す。
 恐怖に歪むオークの顔が見てとれたが、魔物でも怖いんだなというのが素直な感想である。
 オークはテンに殴られ首が百八十度回転した。
「うわ~、テンのパワーの前にはオークの太い首も関係ないねぇ~」
 首が百八十度も回転したのでオークは反撃できるわけもないが、テンは容赦なくラッシュを繰り出しオークを完全に沈黙させる。


 次は豚太郎に率いられたゴブリンスカウトのゴブスリーの矢がゴブリンハイメイジの胸に刺さった。
 ゴブリンハイメイジは痛みでのたうち回り、詠唱が中断された。
 更にゴブリンアサシンのゴブフォーはゴブリンスカウトの右手を切り付けたので矢を落とした。
 そこにゴブリンハイメイジのゴブロクの火の球が命中してゴブリンスカウトは火に包まれる。
 ゴブフォーは火に包まれたゴブリンスカウトを無視して苦しんでいるゴブリンハイメイジのトドメを刺す。


 やや遅れて豚一郎と豚二郎が走ってくる。
 豚一郎がゴブリンナイトへ金棒を横薙ぐと、ゴブリンナイトは盾でそれを受け止める。しかしパワーの違いもあり盾は大きく弾かれる。
 そして隙のできたゴブリンナイトの頭に豚一郎の金棒がめり込んだ。
 オーク+金棒=極悪、だった。


 ゴブリンアサシンは次々に倒されていく味方をしり目に走っていた。
 目指すは一番奥で魔法詠唱をしている将磨である。
 しかしそんなゴブリンアサシンの足に何かがまとわりつき動けなくなる。
 それはゴブリンアサシン自身の影だった。
 影を操る影丸によってゴブリンアサシンは動けなくなり、そこに豚太郎が金棒をフルスイングした。
 影を引きちぎり、まるでバットで打たれた野球ボールのように空中を飛んでいくゴブリンアサシンはそのまま息絶えた。


 火だるまになっていたゴブリンスカウトにトドメを刺したのは豚二郎だった。
 火に包まれていても関係なく、金棒を振り下ろしたのだ。
 弱っていたゴブリンスカウトに耐えることなどできなかった。


 ゴブリン種を率いていたと思われるゴブリンコマンダーは呆然と仲間の死を見つめていた。
 残念なことに配下のいなくなったゴブリンコマンダーは翼をもがれた鳥も同然である。
 剣は持っているが、ゴブリンソルジャーやゴブリンナイトのように剣の扱いに長けているわけではないのだ。
 そんなゴブリンコマンダーに迫るのはゴブスリーの矢だった。
 胸に一本、足に一本刺さると、次はゴブロクが放った火の球が命中する。
 火に包まれてもだえ苦しみ死んでいったのだった。


 将磨の眷属たちが活躍しているが、美月も負けてはいない。
 オークに接敵した美月は棍棒を盾で受け流して手斧を振る。
 手斧は見事にオークの左手を切断する。
 痛みで喘ぐオークが火事場の馬鹿力なのか棍棒を右手でブンブンと振り回す。
 しかし美月はそれを冷静に見て盾で受け流して手斧をオークの脇腹に叩き付ける。
 肉と肋骨を絶つ手ごたえを感じた美月は二度、三度と手斧を叩き込む。
 四度目に手斧を叩き込もうとした時にオークが足から崩れ落ち地面に倒れた。
 オークの太い胴体の四割程が絶たれ、内臓が飛び出し、出血も酷いありさまで、オークはそのまま息絶えた。


 皆が戦っている頃、詠唱を終えた将磨の毒魔法が放たれる。
「痺れろぉーーーーっ!」
 そんな将磨より早く霧子によって矢が放たれる。
 矢はローグイーグルに向かって飛んでいき、もうすぐで刺さるというところで失速した。
 ローグイーグルが風魔法を使ったようだ。


 更に将磨の毒魔法が発動してローグイーグルにどす黒い霧がまとわりつく。
 風魔法を放った後で、それが隙になったのか、ローグイーグルは毒魔法をレジストすることなく麻痺状態になった。
 そうなると翼が思うように動かせないローグイーグルは地面に墜落して強かに体を打ち付ける。


 もともと、空にあって風魔法を駆使しながら地上の敵を一方的に攻撃するのがローグイーグルの戦い方である。
 そういった嫌らしい戦い方をするから強いと思われがちだが、肉弾戦はあまり得意ではない。
 鋭い爪や鋭い嘴による攻撃もできるが、それは敵が弱り反撃できなくなってから使うことが多いのだ。
 体が痺れて思い通りに動かせないローグイーグルが地上にいる。
 これは将磨たちの格好の餌食となる。


 墜落したローグイーグルに霧子の矢が深々と刺さる。
 矢が刺さっても痛みを感じない程にローグイーグルは麻痺していた。
 そんなローグイーグルにミドリが巻きつき締め上げる。
 ミドリに締め上げられているために身動きができないローグイーグルの首筋にダークが噛みつき肉を食いちぎる。
 虫の息となったローグイーグルは何とか一矢を報いようとするが、ミドリに巻きつかれているので身動きができない。
 そこに霧子の矢が刺さり逆に一矢によって絶命する。


「完勝!」
 美月が吼えた。
 まさかランクEの魔物を無傷で倒せるとは思っていなかった将磨もガッツポーズをする。


「あ、宝箱!」
「やったね!」
「今日はいい日だね」
 将磨たちの前に宝箱が現れたので喜び合う三人。




 @ローグイーグル
 説明:ローグイーグル〈ランクE〉を召喚できる。
 レアリティ:★
 残数:二十五




 @隠蔽の外套
 説明:隠蔽の外套を着ると他人から姿が認識されにくくなる。
 レアリティ:★★★★
 残数:一




「これはまた……」
 将磨たちの戦果を確認した林原は絶句する。
 今回、宝箱から得られた隠蔽の外套は十五年というダンジョンの歴史の中で二着の発見例があるアイテムだ。
 その能力故に一着は発見者が使い、もう一着はオークションに出品されて何と三億円もの高値がついた。
 今、出品をしたら、その貴重さ、希少さによって三億円を超えるのは間違いないだろう。
 〖探索者支援庁〗ではダンジョン産で高額取引が見込めるアイテムはオークションにかけることが慣例となっている。
 過去には十億円を超えるアイテムもあったほどだ。


「これはオークションに出品しますか?」
「……考えさせてください」
「そうですか、オークションは二カ月に一回行われます。今月は終了しましたので次は二月になります」
「あ、聞いたことがあります。父も何度か出席したことがあると言っていました」
 霧子の父親は大会社の重役なのでお付き合いや会社の業務などで出席したことがあったそうだ。
 その話を霧子は聞いたことがあったのだ。


 正直な話、将磨たちはこの隠蔽の外套をあまり必要としていない。
 霧子や将磨の場合はあればあったで便利だが、共に隠密行動をする戦闘スタイルではないし、美月の場合は目立ってなんぼの戦闘スタイルだ。
 それでもオークションへの出品を渋るのは海野から聞いた話があるからだ。


 

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