カードメーカー【最強の魔物をつくりあげろ!】
019 将磨たち
秋が過ぎ、冬が来て十二月になった。
将磨たちは二学期の期末テストを終えた。
「あっぶな~古典ギリギリだったよ~」
「あははは、美月は相変わらず古典が苦手よね」
霧子は相変わらず上位を守り、今回の期末テストは学年二位だった。
それに対し美月は……順位は言わないが中の中だった。
これでも順位は上がっている。
「将磨っちは結構順位上がってたよね?」
「八幡さんに勉強を教えてもらったからね」
将磨はなんと上の中まで順位を上げている。
「なんか八幡さんが勉強する姿を見ていたら、勉強ってこうするのかって思って、真似したら結構成績上がっちゃったんだよ」
一応、三人の成績は学年の上半分には入っている。
美月も古典以外は成績をしっかりと上げているのだ。
「これで暫くはダンジョンに集中できるね~」
期末テストが終わったこともあり、三人は明日から休みに入る。
補習があるとまた別だが、三人は補習を受ける必要はないのだ。
最近はお馴染みとなったファミレスで明日からの休みの予定を確認する。
以前から数回はダンジョンに入ろうと言っていたこともあり、三人の予定を確認するためだ。
「う~んと、来週の火曜日と……あとは木曜日かな」
「そうだね、火曜日と木曜日なら私は大丈夫だよ」
「俺も問題ないよ」
この三人で一番忙しいのは霧子である。
休みなので親戚や知り合いのパーティーなどに出席する必要があるのだ。
上流階級の嗜みらしい。
美月もそれなりに上流階級だが、こういう話はないし、あっても行きたくなければ普通に断っている。
将磨に至っては言うまでもないだろう。
「じゃぁ、土日の次は火曜日で、その次が木曜日ね」
「うん」
「了解」
試験前は土日の探索は控えていたが、試験も終わったので土日探索は解禁となった。
三人はドリンクバーで三時間粘ってファミレスを後にした。
三人とも金持ちなのだからドリンクバー以外にも何か頼んでやれば良いものを。
霧子と美月の二人と別れた将磨は年末年始に行く予定の福井ダンジョン用の防寒具を買いに行く。
名古屋の冬と違い雪が多い福井県への遠征だから小学生が遠足にでも行くかのように楽しみにしているのだ。
「ダウンジャケットは必須だよな。他には……」
名古屋の冬だって年に一・二回は雪が降る。
それでも常に雪が積もっていることはない。
雪でも温かそうなブーツも買ったしダウンジャケットも買った。
温かい肌着も買ったしおやつはまだ早い。
土曜日、いつものように朝七時に〖探索者支援庁〗の前で待ち合わせる。
今の将磨たちは装備を一新して上級者のような装備になっている。
これもカードを〖探索者支援庁〗に売りまくった恩恵である。
それにサンドスコルピオを討伐した後、ステータスを確認したら【カード化】のレベルが上がっていた。
霧子の【聖弓士の心得】と美月の【聖騎士の心得】もレベルが上がっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
■ 個人情報 ■
神立将磨
人族 男 十八歳
■ ユニークスキル ■
カード化(二)
毒魔法(一)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
■ 個人情報 ■
八幡霧子
人族 女 十八歳
■ スキル ■
聖弓士の心得(二)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
■ 個人情報 ■
百瀬美月
人族 女 十八歳
■ スキル ■
聖騎士の心得(二)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サンドスコルピオを倒したあと、毒魔法のスキルスクロールは将磨が使うことになった。
これで将磨も魔法使いの仲間入りをしたのだ。
この毒魔法はまだレベルが一なので致死性の毒でも遅効性の毒しか使えないが、それでもスリップダメージを与えることができるので意外と重宝している。
他にも麻痺毒、溶解毒があり、どれも非常に有用な魔法である。
美月は更に防御力が上がり、攻撃力も上がっている。
今ならサンドスコルピオと対峙してもダメージを与えることができるだろう。
上がり幅で言えば霧子の方が凄いかもしれない。
おそらく、あのサンドスコルピオの甲殻も貫くのではと思う矢を放つのだ。
サンドスコルピオに溶解毒でデバフを与えれば甲殻を貫き矢が反対側から出てくるんじゃないだろうかと思えるほどの貫通力だ。
「おはよ~将磨っち~」
「神立君、おはよう」
「おはよう、八幡さん、百瀬さん」
バスから降りてきた二人と挨拶をすると〖探索者支援庁〗の中で着替えロビーで待ち合わせる。
将磨は毒魔法を使う魔法使いなので軽くて動きやすいオーガの革鎧を着ている。
オーガはランクCの魔物なので皮といえども防御力は高い。
そのオーガの革鎧の上に耐刃ベストを着ている。
この耐刃ベストには多くのポケットが付いており、用途ごとにカードを分けて入れているのだ。
武器は三十センチメートルほどの杖で、素材はランクCのヤングトレントだ。
ヤングトレントの杖は魔法攻撃力を少し上げてくれる効果があり、普段は耐刃ベストの専用フォルダーにしまっている。
将磨より少し遅れて霧子と美月もロビーへやってくる。
美月は金属鎧に大きな盾、そして武器は剣ではなく手斧に変わっている。
完全にパワーファイターの装備である。
鎧、大盾、手斧の素材は共に灼熱鉄鋼と言われるダンジョン内で採取可能な金属で、腕力を底上げする効果がある。
霧子は将磨とお揃いのオーガの革鎧を着こみ、トレントと絶氷鉄鋼の複合弓に変わっている。
複合弓は魔力を込めることで矢に氷系の属性が付与され追加効果が発生する。
三人の装備を一新したからパーティー貯金は空になった。
パーティー貯金は探索で出たカードを売った金額の四割を貯金して装備や薬品の購入に充てるという将磨たち三人のオリジナルルールだ。
残った六割を三人で均等割りすることになる。
「よ~っし!十一層を踏破しちゃおー!」
「はいはい」
「気合入ってるね」
美月のハイテンションに二人は付いていかなかった。
「ちょ、なんでよ~。ここは「おー」って言うところじゃないよ!」
二人は美月を無視して十一層に足を踏み入れる。
「ちょっと~まってよ~」
美月の声を無視して将磨はカードを外套のポケットから取り出す。
「眷属召喚!」
そこに現れたのはテンを始めとした将磨の眷属たちである。
召喚した魔物は次の通りである。
テン:ゴブリンデストロイ(?)
影丸:ゴブリンシャドー(?)
ゴブワン:ゴブリンナイト(F)
ゴブツー:ゴブリンナイト(F)
ゴブスリー:ゴブリンスカウト(F)
ゴブフォー:ゴブリンアサシン(F)
ゴブゴ:ゴブリンコマンダー(F)
ゴブロク:ゴブリンハイメイジ(F)
ミドリ:エヴィルバイパー(F)
ダーク:ビックキラーキャット(F)
カード化のレベルが二に上がっても召喚できる数は変わらなかった。
しかしランクFのゴブリンナイト、ゴブリンアサシン、ゴブリンハイメイジが加わっているので以前よりも陣容は厚くなっている。
問題はゴブリンコマンダーだ。
ゴブリンテイマーの上位職なので能力はあまり期待できないと将磨は思っている。
名前が同じでもカードは変わっている。
新しいカードを召喚して数字を書き直すだけだから簡単だ。
この〖名古屋第二 ダンジョン〗は十一層からダンジョンの配置が変わる。
そして魔物の配置も変わるので初めて見る魔物が現れる。
「ブヒィ」
オークである。
体長二メートルほどの青みかかった肌の巨体で、でっぷりとしたお腹、そして豚鼻が特徴の人型の魔物だ。
手には丸太のような棍棒を持っていることからも分かるようにパワータイプである。
オークはランクFの魔物でゴブリンナイトと同じランクになるがゴブリンナイトの体長は百六十センチメートルほどである。
美月の大盾にオークの棍棒があたりドラのような音が響く。
体の大きさを考えれば体重が半分もない美月がオークのフルスイングを受け止めるのは明らかにおかしいが、美月は涼しい顔をしてそれを受け止める。
「よゆーよゆーっと」
大盾で棍棒を受け止められたオークは美月を睨みつけ吠える。
下手な探索者だとオークが吠えたことで体を強張らせるが、美月は気にする素振りも見せずに片手斧をオークの左腕に叩き込む。
「ブモォォォォォォッ!」
オークの左腕がボトリと地面に落ち、その痛みでオークが悲鳴をあげる。
そこに霧子の矢がオークの胸に突き刺さり追加効果で胸の周囲が凍る。
明らかに動きが悪くなったオークの首筋に美月の手斧が唸りをあげて叩き込まれその太い首を断ち切った。
オークの首から僅かな出血があるだけである。おそらく霧子の矢が心臓も凍らした結果だろう。
美月が「うげ~」と首のなくなったオークの体を見下ろす。
そしてオークの巨体が消えカードが残る。
将磨のカード化のレベルが上がった効果でパーティーメンバーである霧子と美月が魔物を倒してもカードになる。
これによって将磨たちのカード回収率は今までの三倍になった。
その大量のカードを売れば大金が手にできるのだ。
九層と十層を踏破してから十一層へ行く前に装備を揃えようと十層を何度か周回して金策をしていた将磨たちである。
次に出てきたのはゴブリンナイトに率いられたゴブリン種五体だ。
この五体には将磨の眷属たちが当たる。
ゴブリンナイトに同じゴブリンナイトのゴブワンが相対する。
鎧と盾、そして片手剣と装備はまったく同じ二体のゴブリンナイト。
しかしその見た目は明らかにゴブワンの方が良い。
まず何と言っても髪の毛がフサフサなのが良いだろう。
それに顔も醜悪な野良ゴブリンと違って整っていて、人間でも通じる容姿だ。
剣と剣が交差する。
そのまま鍔迫り合いが始まるが、ゴブワンが押している。
これがカード化のレベルアップの二つ目の効果で、カードから召喚した魔物の方が能力が高くなるようなのだ。
数値化できないのでどれだけと言われると分からないが、体感として一割から二割程度は強化されていると将磨は考えている。
ボス部屋で魔物が強化されるのとほぼ同じ上がり幅だと考えている。
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