カードメーカー【最強の魔物をつくりあげろ!】
016 七層探索
七層に立ち入る。
そして六層で入手したカードを使う将磨。
「ゴブゴ、ランクアップだ!」
ゴブリンの影のカードをゴブリンシーフのゴブゴに向けて掲げる。
カードが光り、その光がゴブゴを包むとゴブゴは更に強い光を放つ。
光りが収まるとそこには顔に入れ墨のような模様があるゴブリンが現れた。
「ゴブゴか?」
「我はゴブリンシャドー。どうか新たな名をお与え下さい。マスター」
「……お前もかよ……」
テンのようなことを言う元ゴブゴにまた名づけをするのかと頭を悩ます将磨。
「えーっと……シャドーだから影丸でどうかな?」
「ありがたき幸せ。この影丸、マスターの御為、身命を賭して働く所存」
「口調が硬いよ……」
霧子たちは目をキラキラさせながら将磨と影丸のやりとりを見ていた。
七層ともなると出てくる魔物はゴブリンよりもゴブリンの上位種の方が多い。
他にもイビルキャットの群れも多くなっている。
霧子とゴブリンシーフが先頭を行き索敵と罠に警戒をする。
影丸の能力がまだ分かっていないので最初の魔物は影丸に戦闘をさせてみた。
そうしたら何と影丸は影を操り魔物を拘束してしまった。
残念ながら攻撃力は大したことがないが、それでも魔物を拘束できる手段ができたのは嬉しいことだった。
更に進み、影丸の能力をもっと検証してみる。
分かったことは半径三メートル程度の範囲であれば魔物を複数拘束できるというものだった。
攻撃に関しては今のところ将磨と同じ程度と言えるだろうが、影丸は影の中に入って移動もできてしまう。
「カゲちゃん、すごいね~」
「そうでもないでござるよ」
何故か美月と意気投合してしまった影丸は複数の魔物を拘束してくれる頼もしい奴だた。
スラっと背が高い霧子はぴっちりとしたパンツとシャツの上から革鎧を着ているので形の良いお尻のフォルムが将磨の視線を困らせる。
そのすぐ後ろには金属の鎧を身に纏っており背も高いことから女性なのか男性なのか見分けづらい美月がいる。
一応、男性にしては線が細いことから女性だろうと思われる感じだ。
〖探索者支援庁〗のロビーでそのような視線に晒され、美月にはそれが不満だった。
将磨の周りにはゴブリンメイジのゴブセブン、そしてビックキラーキャットのダークがおり、将磨を守っている。
「はぁ、やっぱり情けないよな……皆に守られて俺は……」
スキルが【カード化】なので将磨自身が戦闘には向かない。
逆にカードさえあれば将磨の周りはかなり強固な布陣となる。
事実、将磨の最強戦力であるテンは美月のやや後ろで将磨との距離を一定に保つように移動をしている。
「スキルスクロール、でないかな……」
スキルスクロールとは後天的にスキルを得るためのアイテムのようなものだ。
このスキルスクロールは魔物を倒すと現れることがあるが滅多に現れないし、現れても持ち帰ることはできない。
しかも現れてから三十分ほどで消えてなくなるのだから始末に悪い。
その為、魔物を倒した者以外でスキルスクロールを得ることができる者は非常に少ないのだ。
「ない物ねだりか。今ある物で戦うしかないよな……短剣の戦闘訓練を受けようかな……」
〖探索者支援庁〗では短剣や剣、その他の武器について扱いを教える戦闘訓練講座がある。
この戦闘訓練講座を受けて中堅探索者になった者も少なくない。
戦闘訓練講座は予約さえ入れれば一週間に一回のペースで行われており、探索者登録して一年以内の初心者に対しては五回まで受講料が無料である。
将磨の後ろにはゴブリンアーチャーのゴブスリーがいる。
ゴブスリーの役目は後方から接近する魔物の警戒だ。
ゴブスリーがいるから将磨は安心して前を向いていられる。
このような草原では四方から魔物が現れるので探索者にとって神経をすり減らす原因でもある。
それがないだけ将磨は恵まれていると思うようにした。
霧子が魔物を見つけたようで手を上げて合図する。
ハンドサインにより魔物の数は六体でゴブリン系の魔物だと将磨は読み取る。
「しかし八幡さんの動きはハンドサインでも洗練されているよな。それだけなのに見惚れてしまうよ」
スラっと背が高く女性らしい体形が強調されるその装備は後ろから霧子を見ることの多い将磨には目に毒である。
七層のゴブリンは一度に現れる数が増えているだけで、個体の強さは六層までと変わらない。
だから六体と言えども今の将磨たちには瞬殺である。
と言っても将磨が直接攻撃することはないのだが。
霧子が矢を射ると同時にテンと美月が走り出す。
幸い、この場に罠がないことは影丸とゴブフォーによって確認されている。
どうやら影丸は罠の感知に敏感なようでゴブフォーよりも感知の範囲が広い。
重い金属鎧を着ている美月が走るとカシャカシャと金属鎧の擦れる音がする。
つまり霧子が放った矢がなくてもゴブリンたちは将磨たちに気付くのだ。
「うりゃ~っ!」
美月が気合を入れて剣を振り下ろす。
ゴブリンの体がスパッと真っ二つに分かれる。
明らかにオーバーキルである。
美月が到着してゴブリンを一体斬り捨てる頃にはすでに他の五体は息絶えている。
霧子の矢によって二体、テンの拳によって三体が餌食となっている。
「う~ん、やっぱ金属鎧はハンデだわ~」
将磨にしてみれば美月は贅沢なことを言っているように聞こえる。
美月にはその自覚がない。配慮が足りないのもあるかも知れないが彼女は天真爛漫なのだ。
七層のボス部屋まで魔物を瞬殺して進む将磨たち。
ボスはゴブリンアーチャー二体、ゴブリンテイマー二体、イビルキャット四体、グリーンバイパー十体と数が多い。
しかしそれは〖探索者支援庁〗の情報であり、何故か将磨にはあてはまらない。
恐らくは予定外の魔物が現れるだろうと将磨は予想している。
それで想定外のことが起こらなくても問題ないし、起こったら起こったで粛々と対応するだけである。
「準備いいかな~?」
「準備完了!」
「私も問題ないよ」
美月が先頭になりボス部屋に入る。
その後に美月が続く。
女の子二人の後を行くのが情けないと思いつつも将磨も続く。
現在の将磨の戦力はダークがオフェンス。
ゴブリンソルジャーのゴブワン、ゴブツーがディフェンスとして将磨の周囲に陣取る。
そして遊撃としてテンがゴブリンアーチャーのゴブスリー、ゴブリンシーフのゴブフォー、ゴブリンメイジのゴブセブンを率いる。
そして影丸は戦闘力は皆無なので将磨の傍で戦局を見守る。
金属音を立てながら勢いよくボス部屋に入っていく美月はそこで「やっぱり~」と声をあげる。
霧子も「想定内です」と呟く。
つまり二人にはボス部屋に本来いるはずのない魔物がいると認識したのだ。
「あ~、やっぱりか~。緑色の杖を持っているから風魔法を操るゴブリンメイジだね」
将磨は異物であり本来は存在しないゴブリンメイジを観察して情報を皆に与える。
「八幡さん、メイジから倒して!」
「了解です!」
ゴブリンメイジに魔法を使わせると面倒なので、その前に倒すように指示する将磨。
戦闘において将磨は司令官となる。
そういったポジションを確立していかないと戦闘において将磨の存在価値がなくなってしまうと感じているからだ。
霧子と美月もそれを受け入れているので三人の歯車はしっかりとかみ合っているといえるだろう。
シュパッと矢が放たれると、その矢は将磨が指示したようにゴブリンメイジの胸に突き刺さる。
ドサッと倒れたゴブリンメイジを横目に美月とダークがゴブリンテイマーに操られるイビルキャットとグリーンバイパーの群れに突っ込む。
どかりと盾を構え剣を振り鬼神の如き働きを見せる美月と高速のダーク。
大量のイビルキャットとグリーンバイパーは美月に任せると、遊撃隊を従えたテンは迂回してゴブリン種に接敵した。
勢いのまま拳を振り切るとゴブリンアーチャーの頭が爆散してなくなる。
更に勢いを止めずに次のゴブリン種に狙いを定める。
ゴブスリーの矢がゴブリンシーフを射抜くと、動きが悪くなったゴブリンシーフにゴブフォーが襲い掛かる。
その間にテンはもう一体のゴブリンアーチャーを蹴り付け十数メートルも吹き飛ばす。
テンの蹴りを受けた時点でゴブリンアーチャーは絶命しており、テンのパワーが窺い知れる。
美月を援護する霧子は確実に一体、また一体とイビルキャットとグリーンバイパーを倒す。
テンのパワーも大概だが、霧子の矢も殺傷能力は非常に高い。
美月に飛び掛かろうとしたグリーンバイパーの頭部に的確に矢を命中させるその精度も素晴らしいだろう。
しかし数が多かったこともあり一体のイビルキャットが美月をすり抜け将磨の元に向かった。
この中で一番弱そうな将磨を狙ったようだ。
「あ、待てっ!」
美月はそのイビルキャットを認識したが、グリーンバイパーを倒そうとしていたことから対応ができなかった。
それに待てと言って待つ魔物はいないだろう。
そもそも人の言葉を理解しているのかも怪しいのだから。
「神立君!」
霧子もイビルキャットを阻止しようとしたが、矢を放ったばかりだったことから対応が遅れた。
「大丈夫だよ!」
将磨はイビルキャットが向かってくるのは分かっていたので短剣を構え迎え撃つ体勢を整える。
しかしイビルキャットは足元から現れた影に絡み取られる。
こうなっては機動力が武器のイビルキャットはどうしようもなく、将磨の短剣によって首を切り裂かれ絶命する。
「……結局、俺はトドメを刺しただけか……影丸、ありがとうな」
「マスターを守るは我の役目、攻撃力がないのが申し訳なく」
逆に謝りだすので将磨は慌てて制止する。
ボス戦が終わると、結局は圧勝であった。将磨以下全員に怪我はない。
影丸がいることで中後衛の将磨や霧子も安心である。
問題なくボス部屋の掃討が終わった将磨たちの前に珍しい物が現れた。
「宝箱!?」
美月のテンションが異常に高くなる。
霧子も将磨も嬉しいが、美月の喜びようは異常なほどである。
「取り敢えず影丸、罠の確認を頼むよ」
「了解でござる」
影丸が影の中に入ると暫くして影から顔を出す。
地面から顔だけがにょきっと生えているのを見ると生首みたいで怖い。
「マスター、罠はありません」
「了解、ありがとう」
宝箱は木のリンゴ箱のような安っぽい見た目だ。
宝箱の種類は木の箱、銅の箱、銀の箱が確認されている。
木の箱の中に入っているアイテムはたいして高額ではないが、それでもわくわくする三人。
「罠はないようだから百瀬さん開ける?」
「え、いいの!?」
「ダメよ。最初の宝箱は神立君が開けるの!ちゃんと決めていたでしょ!」
「俺?」
「む~分かったよ~。将磨っち、開けちゃって~」
どうやら霧子と美月の間で宝箱が出た時、最初に開けるのは将磨だと決めていたようだ。
二人に促されて将磨が前に出る。
本当に良いのかと振り向いて二人を見るが、ウンウンと頷く二人を見て将磨が宝箱のすぐ前まで進み出る。
恐る恐る手を伸ばす。誰かが唾を飲み込む音が聞こえた気がする。
蓋に手をかけ力を入れて開ける。
キキキキッと金具が錆付いたような音がした。
「……」
将磨は怪訝な顔で宝箱の中をジーっと見つめる。
将磨のことを見ていた霧子と美月の二人はどうしたのかと顔を見合わせる。
「参ったな……」
ポツリと将磨が呟く。
「ど、どうしたの?将磨っち」
「罠か何かなの?」
二人は恐る恐る将磨と宝箱に近づく。
苦笑いを浮かべた将磨が二人に視線を向け、また宝箱の中に視線を戻す。
どうやら二人に中身を見てほしいようだ。
「……」
「……」
二人が宝箱の中を見ると声を失う。
そして三人で顔を見合わせて笑いあう。
「ハハハ、まさかこうなるとはね~、将磨っちだからかな~?」
「うふふ、神立君だからかな?」
「俺のせい?」
美月が宝箱の中に手を伸ばしその底に鎮座する物を取り出す。
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