カードメーカー【最強の魔物をつくりあげろ!】
014 いけず
「はぁ……またですか?」
(いや、俺だって被害者なんだよ?)
将磨、霧子、美月は林原にボス部屋の情報になかったゴブリンシーフがいたことを報告し林原にため息を吐かれていた。
そして何故か冷たい視線を向けられる将磨だった。
「ため息なんか吐いたら美人が台無しですよ~」
「ちょっと美月、アンタは黙っていて」
霧子に窘められ舌をチロッと見せる美月。
その仕草は可愛いのだが、二十五歳独身彼氏無しの林原の癇に障る。
歪な笑顔を張り付けた林原がコメカミをピクピクさせて上司である木崎を呼びに行く。
林原が帰って来ると木崎の他に海野も現れる。
「やぁ、また情報にない魔物が現れたと聞いたけど、本当かい?」
木崎は挨拶もそこそこに本題に入った。
「はい、六層のボス部屋でゴブリンシーフが三体情報より多かったですね」
「ん~何だろうね。将磨君の時だけボス部屋の魔物の陣容が強化される感じだね?」
「神立君は何か心当たりあるのかな?」
木崎が頭を傾げていると海野が将磨に話しかける。
しかし将磨にそのような心当たりがあるわけもなく、首を横に振るしかない。
「まぁ、以前より戦力が増強されているから滅多なことはないと思うけど……」
将磨たちをバックアップしようと思っても毎回ダンジョン内についていくわけにはいかないし、対策の打ちようがないと木崎は困り果てる。
「できることと言ったら装備を強化することくらいですね」
海野が装備を良いものに変えるように勧めてくる。
確かに今の将磨の装備は初心者に毛が生えた態度なので良い装備に変えるのは安全を考えたら良い判断だろう。
霧子や美月は最初からそこそこ良い装備を購入したが、将磨に関しては装備を気にすることもないほどに霧子、美月、テンが強力だった。
「そうですね、装備を更新します」
幸いにも所持金には余裕がある。
「あ、そうだ、ゴブリンシーフについて報告があります」
木崎たちは一体何だろうと身構える。
しかし将磨から報告されたのはゴブリンシーフが罠の発見に長けているという内容だった。
「そうか、アーチャーの索敵能力は聞いていたけど、シーフは罠発見に能力を発揮すると言うのだね?」
「はい、そうです」
この内容には木崎たち三人は驚いた。
今までそう言う目でゴブリン系の魔物を見ていなかったのだ。
「これは……検討の余地があるな……」
木崎が何やらブツブツいっており、海野も何やら考え込む。
「そうだ、将磨君は年末年始はどうしているかな?」
木崎が急に顔を上げ将磨に質問をする。
将磨もいきなりのことなので驚いたが、年末年始の予定は今のところ入っていない。
「え?特に予定はないですけど……?」
「もし良ければ〖福井ダンジョン〗に行かないかな?」
その木崎の提案に将磨だけではなく、霧子と美月も驚いた。
それだけではない。林原と海野も木崎を見る。
「いや、そんなに難しい話ではないよ。ゴブリン十体を合体させたらテンのような特殊個体ができるのなら、他の魔物で合体を試してみるべきだと思っただけだよ」
「それでスライムが出るダンジョンの〖福井ダンジョン〗ですか」
林原が納得したように声を出す。
「私の権限で移動費と宿泊費は出せるからさ、どうかな?」
木崎の提案は将磨にとっても渡りに船だ。
しかし木崎の狙いをしっかりと確認しなければと思う将磨。
意外と用心深いのだ。
「〖福井ダンジョン〗に行くのは構いませんが、何が狙いですか?」
「ははは、そう身構えなくて良いよ。合体のカードが複数出たら〖探索者支援庁〗に一枚売ってほしいだけだよ」
これに林原と海野は納得した顔をする。
将磨たちもテンの凄さを分かっているので「なるほど」と納得できた。
「しつも~ん!」
「百瀬さんと八幡さんの分の経費もしっかりと出すよ」
美月の質問内容は言わなくても分かった木崎は先回りをして答える。
「何で分かったの?」
「美月、思いっきり顔に出てたよ。多分、皆さんも質問内容が予想できたと思うわよ」
「え~、そんなに顔に出てた?」
美月は自分の顔をペタペタ触り表情を確認する。
「返事は今しなければダメですか?」
「今すぐじゃなくても構わないけど、年末年始なので宿とか移動手段の手配とかがあるから返事は早めの方が助かるかな」
今から宿の手配をしても遅いくらいじゃないか、と将磨などは思うが腐っても公的機関なので伝手があるのかも知れない。
それでも返事は早い方が良いだろう。
「三人で相談して決めます。今日は保留でお願いします」
「良い返事を期待しているよ」
思わぬ提案があったが、三人は無事に家路につく。
将磨は原動機付自転車で帰るが、霧子と美月はバスで帰る。
「じゃぁ、明日学校で」
「うん、気を付けて帰ってね」
「将磨っち~事故るなよ~」
二人がバスに乗り込むのを見送り席に着いた二人がバスの中から手を振るので振り返す。
傍から見たら「リア充め爆発しろ」と言われそうだな、と走り出したバスの後部を見送りながら思う将磨。
「はぁ、今日も無事に終わった。夜ご飯何にするかな~?」
どこかの主婦のようなことを言いながら原動機付自転車を始動させ走り出す。
もう十一月になるので夕方の風はそれなりに冷たい。
街並みが赤く染まる中をアパートの近くにあるスーパーに向け走らせる。
「スライムのカードはほしい……かな。でもスライムは結構強いからな~回復手段がほしいところだね」
メイン盾の美月がおりダメージ源の霧子とテンがいる。
攻撃魔法がほしければゴブリンメイジもいる。
索敵は霧子やゴブリンアーチャー、罠発見ではゴブリンシーフ。
将磨たちのパーティーに不足しているのは回復役なのは明らかだ。
将磨が回復魔法が使えれば安定するが、そう簡単に回復魔法のスキルスクロールが出るわけがない。
この先、安全を考えると回復手段がポーションだけでは不安がある。
とは言え、多くの探索者パーティーに回復役はいない。
魔法使い自体が珍しいし、その中でも回復魔法を扱える者は極めて少ないのが現状だ。
「ゴブリンにプリーストは存在しないもんな~……」
ゴブリンの上位にはプリーストはいない。
但しゴブリンクイーンが魔法ではないが回復手段を持っているのは〖探索者支援庁〗の情報で知っている。
ゴブリンクイーンの回復手段は同族にしか効果がないのも知っている。
つまり霧子や美月、ゴブリン以外の従魔が怪我をしても回復できない可能性の方が高い。
アパートに戻ったら回復系の魔物がいないかネットで探そうと思う将磨であった。
翌日、学校の帰りにファミレスで打ち合わせをする将磨たち三人。
「私はOKだったよ~」
美月が元気よく年末年始の福井遠征について両親との調整ができたと報告をする。
勿論、将磨も福井遠征に支障はない。
ただし、霧子は別であった。
「私は……」
「あ~、霧ちゃんのお母さんかぁ~。やっぱダメだった?」
「本家に新年の挨拶やお父さんの部下の方がみえるから……」
「大会社の創業者一族だもんね~、色々面倒なことが多そうだよね~」
グローバルな大企業である〖ヤワタ生産所〗の創業者一族である霧子の年末年始は忙しいのだ。
探索者をしている従姉も年末年始は本家に挨拶に出向くことから霧子だけと言うのは非常に難しい。
「仮病は……無理か……お母さんが厳しいもんね……」
「無理なのは仕方ないよ。それに卒業したら遠征だって自由に行けるわけだし、今回は俺だけ行くよ」
「何でよ~私も行くよ~」
「「え?」」
霧子がいないことから将磨は一人で行こうと思った。
しかし美月は霧子が行けなくても福井遠征に行くという。
それは二人で福井へ行くということだ。
つまり二人っきりで年末年始を一緒に過ごすということなのだ。
「……美月……」
霧子の瞳がウルウルとする。
そう、将磨は霧子の思い人であり、その将磨が自分の親友でパーティーメンバーとは言え美月と二人っきりで福井旅行に行くというのだから不安になるのも当然のことだろう。
「霧ちゃんが心配しているようなことはないから!」
美月はアハハと笑いそう言うが霧子の不安が消えるわけがない。
そんな恋する乙女である霧子を少しからかい反応を見て楽しむ美月のいけずさ。
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