カードメーカー【最強の魔物をつくりあげろ!】

なんじゃもんじゃ

011 テン

 


 会議室のドアをノックして木崎が入ってきた。
「そろそろ話はまとまったかな?」
「はい、三人でパーティーを組むことにしました。だからこれから二人の装備を揃えて試しにダンジョンに入ろうと思います」
「そうか、私が言うのもなんだけど、気を付けて探索してきてほしい」
「「「はい、有難う御座います」」」


 将磨、霧子、美月は木崎に礼を言い、装備を揃えるために会議室を出て購買部に向かった。
 購買部は将磨も二度しかきたことないので勝手がわからないが、美月や霧子は女性特有のショッピング感を生かして自分たちの装備を選んでいく。
 美月はスキルの特性を生かすために初心者装備ではなく魔物の皮と金属板を使った中級者用の鎧に金属製の盾を購入する。
 武器は扱いやすいと店員に勧められた片手剣をチョイスする。
「どう?」
「様になってると思うよ」
 美月が装備に身を包み将磨に感想を聞くが、女心の分からない将磨ではこの回答が精いっぱいだ。
 それを分かっているが、美月は非難じみた視線で将磨を見る。


 一方、霧子は皮の胸当てと武器には勿論弓をチョイスする。
 弓に関しては元弓道部なので家にもあるが、〖探索者支援庁〗で売っている物の中には魔物の素材を使っている弓があり霧子のスキルを生かすためにもできるだけ良いものを選ぶ。
「こんな感じですが、おかしくないですか?」
「八幡さんは何を着ても……問題ないと思うよ」
 綺麗だと言いかけたことをグッと飲み込む将磨。


 二人は将磨が最初に購入した初心者セットを購入しなかった。
 美月には防御力不足で霧子には無駄にゴテゴテしているので初心者セットでは不満があるからだ。
 因みに代金は将磨が出している。
 将磨が魔物のカードを〖探索者支援庁〗に販売しているだろうと美月にかまをかけられ口を滑らせて大金を手に入れているのがばれてしまったのだ。
 美月曰く出世払いである。


 女性用のロッカールームから出てきた霧子と美月を連れて〖名古屋第二 ダンジョン〗に入っていく。
 二人には初めてのダンジョンなので一層にしか立ち入ることしかできないが、スキルを使いこなせるのであればすぐにでも将磨と同じ五層に立てるだろう。


「ちょっと待って」
「どうしたの?」
 将磨は周囲に誰もいないのを確認し自分のバックパックのポケットからカードを取り出す。
「それが将磨っちのカードなの?」
「そうだよ。これから少し時間をもらいたい。そんなにかからないから」
「私は構わないわ」
「そうね、カードで魔物を召喚するところも見てみたいし構わないよ」
 二人に礼を言って将磨はゴブリンを十体召喚する。


「わ~お、本当に魔物を召喚できるんだね!?」
「こうして実際にみると凄いって分かるわ」
 そしてもう一枚、カードを取り出す。
(これが限定なら何も起きないだろうが、そうでなければ……)
「ゴブリン、合体だ!」
 ゴブリン十体に向けてカードを掲げると、カードが発光し更に十体のゴブリンも発光する。


「「きゃっ!?」」
 その発光はいつもの光よりも眩しく将磨たち三人は手で目を覆い隠す。
 十体のゴブリンから発せられる光は次第に寄せ集まり渦のように回転する。
 光の渦が立ち上り一本のスジとなると次第にその光は細くなっていき消える。


「「「……」」」
 光が収まり将磨たちは目を開ける。
 そしてそこには十体のゴブリンはおらず、一人の青年が立っていた。
 身長は百八十センチメートルよりもやや高く、筋肉質で腹筋などは六つに分かれているのに筋肉筋肉しておらず細マッチョといわれるようなスラっとした体形だ。
 そして髪の毛は明るい茶髪で耳にかかる程度のセミロング、肌は病気かと勘違いするような青白さというよりは薄いウグイス色だ。
 顔はイケメンなのだが残念なことに身に着けている物は腰蓑一枚でジャングルの王者を思わせる出で立ちである。


「マスター、我に名を与えたまえ」
「……マスターって俺のこと?」
「我を生み出したお方が我のマスターであられる」
「君は……ゴブリンなのか?」
「肯定であり否定であります。我はマスターによって生み出されたゴブリンの特殊個体であります」
「特殊個体……って、喋っているっ!?」
 ゴブリンは声を出すが泣き声のような感じで会話はできない。
 しかもこれまで将磨が倒してカード化したゴブリンを召喚しても泣き声どころか声を聞いたこともなかった。
 その為、今更だが目の前のイケメンゴブリンが喋っていることに驚く将磨。


 スライムからドロップした合体のカードを眺めていたときに気が付いた使い方、それはスライム限定ではなくどんな魔物にも使えるのではないかというものだった。
 それを十体のゴブリンを対象にして合体を試してみたのだが見事に思惑通りとなりゴブリンが合体した。
 しかもゴブリン十体が合体したことで、とてもゴブリンとは思えないほどの容姿と知性を持ってしまったようだ。


「あ、あの将磨っち……取り敢えず目の毒だから何か着させてあげてよね」
「え、ああ、ゴメン」
 腰蓑一枚のイケメンゴブリンを目の当たりにし顔を赤くした二人の美少女。
 美月はまだしも霧子は真っ赤な顔をして後ろを向いていた。
 そんな二人を気遣うことができないほどにゴブリンがイケメンになったり喋ったりすることは将磨にとってショッキングな出来事だったのだ。


 将磨はバックパックに入れてあったポンチョを取り出しイケメンゴブリンに羽織らせる。
 倒した魔物が全てカードになってしまう将磨には登山家が使うような大きなバックパックに魔物の素材を入れてかさ張るということがない。
 だから普段使わないが、ダンジョン内では何があるか分からないということで予備の短剣や野営に便利な毛布やポンチョなどが入っているのだ。


「もう大丈夫だよ……」
「確かに大丈夫だけど~、何か危ない人に見えるわ~」
「……靴を履いていないから違和感があるね」
 確かに素足にポンチョ姿は違和感しかない。
 女性がどこかの路地裏で出会ったら目をそらしたり小走りで逃げていくだろう。


「マスター、忘れておいでのようだ。我に名を与えたまえ」
「あ、名前ね……何が良いかな……」
「ねぇ~彼はゴブリン十体から生まれたんだよね?」
「ああ、十体のゴブリンを合体させて生まれたのが彼だよ」
「凄いね、カードでそんなこともできるんだ……国家レベルで秘匿するのも分かる気がする」
 名前を考えようとしたら美月と霧子が話しかけてきたのでその対応をする。
 だからではないだろうが、将磨の頭の中に浮かんだ名前は『X』である。
 ローマ数字で十を現すXで『テン』と読む。
「よし、今から君はテンだ。よろしくなテン!」
 その言葉でイケメンゴブリンがまた光り輝く。
 しかしその光は合体時ほどのものではなく、薄っすらと光る程度だったが将磨は自分の中から何かが抜けるような感覚とテンとなんだか繋がっているような感覚を覚えた。
「我はテン、マスターの眷属にして一の配下、テン!」
 妙な喋り方だが、喋れないよりはましだと思う将磨。
 そして美月と霧子はそんな二人?のやりとりを興味深々の目で見ている。


 思わぬほどにゴブリンが強化されたようで、その戦闘力を確認するためにダンジョンの一層をボス部屋に向かって進むと第一ゴブリンを発見した。
「あのゴブリンを倒してみてくれ」
「あの程度の雑魚など我の敵ではありませぬ!」
 そう言いながらゆっくりゴブリンに向かって歩いていくテン。


 ある程度近づくとゴブリンもテンに気づいて警戒したのか声をあげて威嚇をする。
 その瞬間、ゴブリンの頭部が破裂して無くなった。
 物理的に頭部が無くなったので血を吹き出したが次の瞬間にはカードに変わっていた。


「今、何があったの?」
「テンが消えたと思ったらゴブリンの頭が無くなっていたのだけど……」
 霧子と美月、そして将磨もテンの動きを目で追えなかった。
 しかしテンが何かをしたのは間違いないだろう。そうでなければゴブリンがカードになるわけがないのだ。
「マスター、これをお受け取りくだされ」
 妙に時代がかった喋り方が定着してきたテンはゴブリンのカードを将磨に差し出してきた。


「え~っと、今何をしたんだ?」
「正拳を放ったにすぎませぬ。もっとも直接殴らなくても拳圧のみで倒せる雑魚です」
「「「……」」」
 拳圧だけでゴブリンの頭を吹き飛ばしたと言うテンの規格外さに驚く三人。
 これがゴブリン十体分の破壊力なのかとうすら寒いものを感じたのだった。


 気を取り直し進み出すのに数分を擁したが、三人と一体はボス部屋に向けて進む。
 テンの強さはゴブリンで測るにはゴブリンがあまりにも脆弱だったので美月と霧子が主体となり進む。


「あ、そうだ、忘れていたよ!」
「どうした~?」
「何を忘れていたの?」
 将磨はカードを取り出し十体の魔物を召喚しようとしたが、九体は召喚できて手には一枚のカードが残った。
「やっぱテンはカード一枚枠なのか」
 もしかしたらテンは別枠かな、と思ったが違ったようだ。


「あ、二人ともこのカードを召喚してくれるかな」
 二人にカードを渡して魔物を召喚してほしいと頼む。
 これは将磨が十体の魔物を召喚している状態でパーティーメンバーも魔物を召喚できるかの検証だ。


「OK~」
「分かりました」
 二人はカードを召喚しようとした。
 しかし二人が持ったカードは反応を見せなかった。
 カードは将磨以外でも召喚できるのは確認されている。
 それが召喚できないのは二人に問題があるのか、もしくはパーティー内で召喚される魔物の数に制限があるか、のどちらかだろう。
 将磨は後者だと思っているので将磨の召喚した魔物をカードに戻して二人に再度召喚を頼んだ。
 二人のカードは見事に反応して魔物を召喚できた。


「どうやらパーティーで十体しか召喚できないようだ」
「無制限に召喚できたら軍隊ができちゃうからね」
「でも~パーティーの認識がなければ無制限に~召喚できるんじゃない?」
「この先のことは〖探索者支援庁〗へ任せれば良いと思うよ」
「そっか~態々将磨っちが検証しなくても〖探索者支援庁〗がやってくれるんだ~」
「便利ですね……」


 検証を終えた将磨たちは歩き出す。
 次は美月の番で、美月は盾を構えゴブリンに突撃する。
 接敵した瞬間に盾を大きく薙ぐとゴブリンが吹き飛んだ。
 吹き飛ばされ転がるゴブリンを追撃して剣で胸を刺すとゴブリンは動かなくなる。
「意外とやれるものね~」
 将磨などは最初の戦闘でゴブリンを倒した時には嘔吐したのに美月はケロッとした表情で剣を肩の上でトントンと弄ぶ。


 次は霧子でゴブリンを見つけると木と鉄、そして魔物の素材の複合弓に矢を番える。
 矢を今にも放たんとする引き絞られた弦がその力を開放するとヒュンッという軽やかな音とともに矢がゴブリンに向かって飛んでいく。
 その矢は真っすぐ進みゴブリンのこめかみを射抜きゴブリンが倒れる。
 正に瞬殺である。


「二人とも一層のレベルじゃないぞ……」
「レアなスキルをゲットしたからねぇ~」
「スキルのおかげですよ」
 ゴブリンを解体するのは将磨の役目だ。
 残念なことに霧子と美月が倒した魔物はカードにはならなかった。
 将磨は強力な従魔を召喚できるが、自身の強さは大したことないのは自覚している。
 だから霧子と美月が倒した魔物を解体して魔石を取り出すのを買って出たのだ。
 テンが将磨にそのようなことはさせられないと解体をやろうとしても将磨はそれを制止して自分で行う。


 一層のボスはあっという間に倒され将磨たちは晴れて二層に足を踏み入れることができるようになった。


 

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