カードメーカー【最強の魔物をつくりあげろ!】

なんじゃもんじゃ

006 夕食

 


 十月に入ると名古屋市もかなり涼しくなり、夜などは肌寒い気候へと移り変わっている。
 スーパーに買い出しに行く将磨も薄手ではあるが長袖に身を包み渋滞が始まっている道路を原動機付自転車で走る。


「あれ、神立君?」
「ん?」
 夜ご飯のオカズを考えながら食品を物色していた将磨に声がかかる。
 誰だと思い声がした方に振り向くと、そこにはクラスメートである八幡霧子が可愛らしい水色のワンピース姿で立っていた。
 一瞬、その可愛らしさに見とれる将磨だったが、次の瞬間には比較的家が近いのは知っていたが、まさか金曜日の夕方に同級生の霧子に会うとは思っていない将磨だった。
 その為、心の準備もできていない将磨は挙動不審に陥る。


「……八幡さん……」
「神立君も買い物?」
「え、あ、うん」
 あたふたしながら答える。週に何度かは一緒に帰る間柄となっているが、それ以上に進展はしていない。
 そして将磨も健全な男子なので基本的には綺麗な女性に興味がある。
 しかしどう接して良いかわからないし、友達をまた亡くすのは辛く同じ思いをしたくないと将磨を臆病にするのだ。


 気まずい空気が流れる。
「あ、あの……」
「……な、なに?」
「きょ、今日は両親が旅行に行っていて私だけの夕飯なんだけど……一緒に食べない?」
「へ?……」
「あ、いきなりでゴメン。迷惑だったらいいの」
「い、いや、そんなことはない!」
「本当?」
「本当!」
 急展開に頭が真っ白になった将磨は無意識に答えていた。
 後日、このことを振り返った将磨が悶えてしまったのは仕方がないだろう。
「よかった。一人だと何食べても美味しくないから……」


 将磨と霧子はスーパーで夕食の買い物をする。
 何が食べたい?と聞かれれば、何でも食べると答え、肉と魚どっちが好き?と聞かれれば、どちらも好きと答える。
 何ともじれったいが、ほのぼのとした時間が二人の間に流れている。
 もしここに美月がいたら「じれったい!」と言って買い物の主導権を握るのだろうが、今は二人しかいないのだ。


「沢山買っちゃったね」
「ゴメン、俺がお金出すから」
 〖探索者支援庁〗でカードが百万円で買い取ってもらったので財布の中は暖かだ。
 木崎に聞いた話だが、二百万円という買い取り金額はデマだった。
 実際には将磨と同じ百万円で買い取りしたそうだ。
 これは個人情報になるが、将磨はカードを売る側の人間として相場を知る権利があるからと教えてもらったのだ。
 ただ、将磨が大量にカードを持ち込めることが分かった以上、今後はかなり安くなるだろうと木崎は言っていた。


「私が誘ったのだから、気にしないで」
「じゃぁ、せめて半分でも……」
「大丈夫だから」
 美月がいなくて良かった。
 もし彼女がこの場にいたら甘ったるい空気に爆発していただろう。


 霧子の家はスーパーから歩いて十分ほどの場所にある。
 荷物を原チャリのシートの下にしまい込み、将磨が原チャリを押して霧子と並んで歩く。
 なかなか会話が盛り上がらない。
 それでも霧子はとても幸せな気持ちだ。
 将磨も気まずいので話しかけたいと思ってはいるが決して嫌な時間ではない。
 そこに霧子のスマホが着信を知らせる。
「あ、美月からだ。ゴメン、でるね」
「うん」
「もしもし、あ、うん、え?今から?うん、……うん。じゃぁ……」
 霧子と美月の間での会話は恐らく一方的に美月が喋り倒すのだろうと将磨は思わず苦笑いをする。
「ゴメン……美月が今からうちにくるって……」
「え、あ~じゃぁ、俺は行くの止めようか……」
「それはダメ。誘ってここまで来てくれたんだもの……もし良ければ美月も一緒に夕食を……ダメかな?」
「……俺はいいけど……いいの?」
「うん」


 暫く歩くと美月が歩いてくるのが見えた。
 どうやらタイミング良く三人が霧子の家に集結したようだ。
 ふと見ると美月と将磨・霧子の間には家が一軒しかない。しかもデカい。
 このデカい家……屋敷が霧子の自宅のようだ。


 美月は霧子を見て手を振ろうとしたが、立ち止まり固まった。
 どうやら霧子と将磨が一緒にいることに理解が追いつかなかったようだ。
「な~んだ、そういうことなら言ってくれればよかったのに~」
「そ、そんなんじゃないのよ!偶々スーパーで会って、ね、神立君!」
「え、あ、そうだ、スーパーで偶々会ったんだ」
「ふ~ん、へ~。そういうことにしておいてあげるよ」
 二人を半眼で見る美月は間違いなく勘違いしている。


 非常に広い庭を通り霧子の自宅に上がる。
 名古屋市の中心部からは外れているので地価はそれほどでもないだろうが、それでも大きな屋敷にビックリする将磨。
 庭には池があり鯉らしき魚が泳いでいるのが見えるし、ちょっとした日本庭園もある。
 そんな家のリビングに通され少し低めのソファーに促され座るとスーっと沈み込み将磨の体を柔らかく包むことに驚く。
 美月は何度も来ているのか普通に座っているが、間違いなく高級なソファーだ。
 リビングの中にはソファー以外にも高級そうな家具が揃っており、庶民の将磨には些か居心地が悪い。


 実を言うと、霧子はお嬢様なのだ。
 霧子の家は〖ヤワタ生産所〗という会社の創業者一家なので、霧子の父親はその〖ヤワタ生産所〗の常務取締役をしている。
 創業者は霧子の曾祖父であり、今の〖ヤワタ生産所〗の社長は霧子の伯父、会長が祖父である。
 この〖ヤワタ生産所〗は総売り上げが十兆円を超える大企業であり、創業当初は鉄鋼業のみだったが、時代の流れでグローバル化し今や世界各地に拠点を持っている巨大企業である。
 将磨は豪邸と思っている霧子の自宅だが、八幡本家はこ豪邸の数倍の規模もあるお屋敷である。
 霧子の自宅とは関係ないが、実を言うと美月もお嬢様の部類なのは将磨には知る由もなかった。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。気楽にして」
 自分の家でもない美月が言うのはおかしいだろ、と思う将磨。
 リビングからダイニングを挟んで離れているキッチンでは霧子がお茶を淹れて運んでくる。
「ちょっと待っててね。これから夕食を作るから」
 将磨と美月の前にティーカップを置く霧子の所作は堂に入っている。
 上流階級のお宅ではお茶はコーヒーではなく紅茶のようだとカップを見つめる将磨。
 ティースプーンの上にレモンの輪切りが添えられているのでレモンティーだ。
「俺、手伝うよ」
「大丈夫だから座っていて」
 時間は夕方の六時ちょっと手前なので夕食を作ればよい時間になるだろう。
 キッチンは大きなアイランドキッチンで本来は数人で料理ができるのだが、お客様の将磨に手伝いをさせることは霧子の頭の中にない。
「ん~相変わらずセレブリティで美味しい紅茶ね」
 こいつはマイペースだな、とちょっとだけ美月の図太さが羨ましいと思う将磨。


 霧子が食事の支度をしている間、容赦ない美月の質問攻めを受けヘトヘトになった将磨。
 しかし霧子が作った料理を見てそんな疲れが吹っ飛んだ。
「これ八幡さんが作ったの?」
「そうだよ、嫌いなものあったかな?」
「いやいや、これ凄く美味しそうだよ!」
「へへ~霧ちゃんの料理はプロ並みだからね!」
 何故か美月が胸を張る。
 そんな食事のメニューはローストビーフとサラダ、オニオンスープ、平目のカルパッチョ、洋ナシのシャーベット、フェレ肉のステーキ、フルーツの盛り合わせ、そしてエスプレッソだ。
「ゴメンね、時間がなかったからこの程度の物しか作れなかったの」
「十分よ。ね、将磨っち」
「ああ、十分すぎるほどだよ!」
 十人は掛けられるだろう大きなダイニングテーブルに並べられた料理。
 ダイニングテーブルを挟み霧子と美月の反対側に座る将磨。
 二人の美少女を前に気恥ずかしさを食欲が上まわる。


「そう言えば、もうすぐ私たち誕生日なの。スキルが出たら教えるからね」
 料理を堪能していると美月が不意に口を開く。
「あ~そう言えばそんなこと言っていたな……」
「だからチャンと覚えて帰ってね。私が十月九日、霧ちゃんが十月十二日ね」
 これはつまり誕生日を覚えて帰り、その日には誕生日プレゼントをくれという美月の無言のプレッシャーである。
「……覚えておく」
 思わぬことで三人で食事となったが、楽しいものだと思う将磨。
 そんな感じで楽しい食事やお喋りをして時間が過ぎていく。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 十月七日、土曜日。
 朝七時前に〖名古屋第二 ダンジョン〗の入り口前に立つ将磨。
 その姿は動きやすい革鎧を身に着け、装備自体は初心者を脱していた。
 現在、〖探索者支援庁〗では自衛隊の装備のような初心者装備と自衛隊の装備に毛が生えた程度のG級装備、そして中級者向けで魔物の素材が使われたF級装備、E級装備、D級装備、上級者向けのC級装備、B級装備、そしてエース級向けのA級装備とS級装備を取り扱っている。
 C級装備からは完全受注生産となるが、D級装備までは各〖探索者支援庁〗の庁舎で扱っている。
 今の将磨の装備はF級の革鎧となっている。


「お早うございます、神立様。お待たせしまして申し訳ありません」
「お早うございます。林原さん。待っていないので大丈夫です」
 挨拶をしてきたのは買い取りセンターの職員である林原である。
 そして二人の男性が林原の後ろに控えていた。


「〖探索者支援庁〗支援課所属の宇喜多です」
「同じく支援課所属の内田です」
「こちらの宇喜多さんと内田さん、そして私、林原が神立様に同行させて頂きます」
 相変わらず事務的な喋り方の林原だが、彼女は鑑定系のスキルを所持しているので同行することになったのだろう。
 宇喜多と内田は金属鎧と盾、剣で完全武装していることから護衛だというのはすぐに理解できた。


 実をいうと将磨はあの日以来ダンジョンには入っていない。
 入っても探索者が多く探索どころの話ではなかったのでほとぼりが冷めるのを待っていたのだ。
 カード発見による混雑は〖探索者支援庁〗から追加発表がされ、鎮静化していた。
 〖探索者支援庁〗はゴブリンカードは【カード召喚】のスキルを所持している探索者の能力が必要で、一層で見つかったカードは偶々落としたものだと発表したのだ。
 その通りなので嘘はないが、暫くは信じられないという探索者もいたそうだ。
 しかし諦めが悪い探索者がボス部屋に入り浸ってもゴブリンカードを得ることはなかったことでやっと鎮静化したのだ。
 そして十月に入ってやっと下火となったことで木崎からそろそろ大丈夫だと将磨に連絡があったのだ。


「では早速行きましょう!」
「はい」
 宇喜多が先頭でダンジョンに入っていく。
 今の将磨は四層までしか解放されていないので、四層を探索することになっている。
 四層に入ると将磨は十枚のカードを取り出しゴブリンたちを召喚する。
「話では聞いてはいたが、実際にこの目で見ると壮観だな……」
「ええ、ゴブリンとは言え十体も召喚するのを見ると凄いと思います」
「……」
 宇喜多と内田は素直に驚き、林原は表情を崩さず現実を受け止める。
 そしてここでもう一枚カードを取り出す。
 そのカードは三層のボス部屋で入手したゴブリンボウのカードだ。
 将磨はゴブリンボウを召喚すると普通のゴブリンに持たせる。
 ゴブリンボウを持ったゴブリンは光り、そしてその光が消えるとゴブリンアーチャーにランクアップしていた。


「これは……ゴブリンアーチャーに……」
「アイテムで進化?ランクアップ?するのか……」
「そのようなことは聞いておりませんでしたが?」
 その光景を見た三人からは感嘆の声があがるが、林原は聞いてないぞと将磨をひと睨みする。
「え、あ~その、出すタイミングがなくて……」
「他にもゴブリンをランクアップさせるカードをお持ちなのですか?」
「……え~っと、もうないです」
「本当ですか?」
「えーっと、こういうカードならあります……」
 林原の剣幕に押された将磨は思い出したように魔石のカードを出す。
「魔物以外にもカードがドロップするのですね?」
「はい、どうもレアリティが★★★まであるようで、少なくともゴブリンからは『ゴブリン』『魔石』『ランクアップ系アイテム』の三種類のカードがドロップするようです」
「なるほど……今後はちゃんと教えて下さいね」
「はい……」
 探索者のスキルについては報告する義務はないのだが、林原の剣幕に押され素直に報告することにした将磨だった。


 因みに将磨が木崎の要請で〖探索者支援庁〗に販売したゴブリンのカードだが、職員が調べたところダンジョンの外ではゴブリンを召喚できなかったそうだ。
 何故かは不明だがダンジョン内でしか召喚はできなかったし、ダンジョンから連れ出すこともできなかった。
 ダンジョンからゴブリンを連れ出そうとするとダンジョンを出たところでカードに戻ってしまうそうだ。


「そうなんですか?」
「神立様は知らなかったのですか?」
「スキルはダンジョンの外で使ってはいけないと思っていましたから試してもいません……」
「ははは、真面目で結構ではないですか」
「そうそう。それから時間も惜しいのでそろそろ行きましょうか」
「あ、はい」
 話し込んだのは将磨の責任ではないが、何故か恐縮してしまう将磨。


 ゴブリン六体、ゴブリンソルジャー二体、ゴブリンシーフ一体、ゴブリンアーチャー一体の十体のゴブリンと将磨たち四人は探索を開始する。


 カード騒ぎが鎮静化したので今の四層に探索者はいない。
 このダンジョンは十層までは殆ど稼げないので、探索者はボス戦を終えるとすぐに次の層へ行くからだ。
 それでもダンジョンがこの世界にできたころは四層でも賑わっていたそうだが、既に十五年も経っているので新人しか四層をうろつく探索者はいない。


 二月から六月ごろまでは高校や大学を卒業した新人探索者が多くみられる繁忙期なのだが、今は十月で閑散期となる。
 脱サラした探索者もいるにはいるが、そういった脱サラ組はスキルを持っていないことも多く、三層までで諦めてしまう者も多い。
 つまり四層から十層までは本当に探索者が少ない層となるのだ。


 

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