カードメーカー【最強の魔物をつくりあげろ!】
001 始まり
地球のある次元と並行世界の次元が重なり、地球上にダンジョンが現れ人類に襲い掛かってきてから十五年。
人類はなんとかダンジョンと共生する体制を整えたようにみえた。
『〇×ダンジョンが探索者パーティー〖戦乙女の剣〗によって二十八層まで踏破されました。〖戦乙女の剣〗は女性だけの八人パーティーでトップパーティーです。〖戦乙女の剣〗の今後の活躍に期待します』
毎日のようにダンジョン関連のニュースがテレビから流れる。
ダンジョンの各層にはフロアボスと言われるその層で現れる魔物よりも強い魔物が存在する。
そのフロアボスを倒すとその層を踏破したことになるのだ。
そしてダンジョンを放置すれば魔物がダンジョンから溢れ出し一般人を巻き込んだ災害となることから日本国政府はダンジョンで創り出される魔物を駆除する目的の探索者と言う職業集団を組織した。
ただし、ダンジョンに対する方針は各国でまったく違うものだった。
日本はそんな中でもダンジョン対策に成功した側と言って良いだろう。
失敗した国で言えば、中国やロシア、そしてアメリカが挙げられる。
これらの国は軍事大国でもあることからダンジョンへ軍隊を派遣したのだ。
軍人は戦闘のプロフェッショナルであることから当初は非常に良い戦果を挙げていた。
しかし初期の一層や二層、十層程度までは問題なかった軍隊の侵攻だったが、十層を超えるころから戦死者を出し始め、十五層以降へは簡単に進めなくなっていた。
ダンジョンが見つかってから二年。戦闘に特化した組織である軍隊が十五層付近で大きな被害を出しながら足踏みをしている中、日本で組織された探索者は二十層を超えていた。
このことからも分かるように国によってダンジョンへのアプローチはまったく違ったものになっている。
しかし悪いことばかりではないと人類は知っている。
ただ、大きな声で言うのが憚られるだけでダンジョンが有用な資源を産出しているのも事実なのだ。
ダンジョンからはこれまでのエネルギーとは全く違う新エネルギーである魔石が大量に産出されるのだ。
これによって石油や天然ガスなどを輸入に頼っていた日本はエネルギーを他国に依存することがなくなったのも事実である。
発電所では火力や原子力に頼らない発電が可能となり、自動車のエンジンもガソリンや軽油から魔石を燃料とするものに替わりつつあるのだ。
そしてある時、全世界のダンジョンが人類に牙をむいた。
それがスタンピードと呼称される魔物の氾濫である。
軍隊を送りこんでいた軍事大国はそのスタンピードに対応しきれずに地上に多くの魔物が排出されたことで甚大な被害を被った。
ダンジョンは比較的人口の多い都市の付近に発生する傾向があるようでダンジョンから排出された魔物は都市の機能を奪うだけではなく、多くの人の命をも奪いさったのだ。
中国などは自国内であるにも関わらず核を使用するという暴挙を犯した。
それによって地上の魔物はほぼ一掃されたと思われた。
しかしダンジョンは新たな魔物を地上に送り出した。それがドラゴンである。
そのドラゴンは中国古来より伝わる姿をしており、蛇のように長い胴体に見合わない小さめの前足と後ろ足がある。
しかし胴体のサイズが優に五十メートルを超えることからその四本の足は人間の一人や二人は鷲掴みにできるほど大きい。
深緑色の鱗に守られたドラゴンを遊撃する為に中国は再び核を使用したが、核攻撃を受けてもドラゴンは健在だった。
その後、中国は核攻撃に激怒したドラゴンによって蹂躙されることになる。
幸いなことにドラゴンは中国以外の国へは行かず、中国国内だけで活動をするという謎の生態のようで他国には被害は出ていない。
但し、核を使用したことで深刻な大気汚染が他国に影響を与えることになった。
これにより国連は中国に対する非難決議を行ったが、既に中国政府は政府として機能しておらず中国国内は人間同士で内戦状態に陥っていたのだ。
これにより中国は幾つもの国家に分裂して今に至っている。
日本は探索者によるダンジョン攻略を進めていたことから一部のダンジョンでスタンピードが発生したが、ほとんどのダンジョンではスタンピードが見られなかった。
これらのスタンピードが発生しなかったダンジョンは探索者によって比較的深い層にまで探索が進んでいたダンジョンばかりである。
このような状況から日本国政府はダンジョン内の魔物をしっかりと駆除できていればスタンピードの発生を抑えられるとの見解を発表し、各国にも情報を提供した。
そして各国も日本に倣って探索者に類する職業集団を組織し保護対象としたのだった。
『次のニュースは△□総理の不倫問題で野党からの追及が厳しさを増しております』
相変わらず日本の政治家は呑気なものでくだらないスキャンダルが話題となっている。
それでも日本は全世界が二回目のスタンピードの発生を迎えた時に一部のダンジョンから魔物があふれ出したことから〖探索者の運用に関する法律〗を大幅に改正し、探索者の地位向上を含めた保護政策に舵を切った。
この法改正では探索者を保護する為に年齢制限(十八歳未満のダンジョン立ち入り禁止)を始め、探索者がダンジョンから持ち帰ったアイテムの買い取り制度や税制優遇制度などができた。
そしてそれまで探索者支援業務を行っていた部署を〖探索者支援庁〗に昇格させ、関係する各省庁からの人員の出向も行い日本全国のダンジョンの管理を行うことにしたのだった。
「今日で十八歳だ。これで……ステータス」
アパートの自室で朝日を受け目を覚ました少年が自分の持っているスキルを確認する。
今のこの世界では十八歳になった時点で自分のステータスを確認できる可能性がある。
■ 個人情報 ■
神立将磨
人族 男 十八歳
■ ユニークスキル ■
カード化(一)
「やったぜ!スキルがあるぞ!ん?ユニークスキル?……【カード化】?……って何だよ?」
通常のスキルとは明らかに違う〖ユニークスキル〗。
スキルはこれまでの統計として、十人に三人程度の割合で発現すると言われているのでスキルが無い人の方が多いのは知っているが、〖ユニークスキル〗と言うスキルカテゴリーは聞いたことがない。
そしてその〖ユニークスキル〗にカテゴライズされる【カード化】とは一体どういったスキルなのだろうかと不安になる。
「参ったな、こんなスキル知らねぇよ」
スキルは使い方が分からないと使えないのだ。
知らないスキルが発現した場合、その人自身がスキルの使い方を検証しなければならない。
スキル名からある程度は予想ができる場合もあるが、スキル検証は簡単ではないと言われている。
「しかし……まぁ、スキル名からして厨二心をクスグルじゃないか」
確かに【カード化】とういスキル名から想像する効果は将磨をワクワクさせるに足る。
「この【カード化】というスキルを使いこなさないと異世界へ行けないからね、やるしかないよな」
ダンジョンの三十層には異世界に通じる扉があると言われている。
その扉を通れば異世界へ行き地球人とは違う人間と会えるという。
そして地球とは違う異世界を満喫したいと将磨は思っているのだ。
将磨は五年前に発生した〖さいたまダンジョン〗のスタンピードによって両親を亡くしている。
これまでは保護者として親戚に名前だけを借りていたが、十八歳になった今ではその保護者も不要となる。
今の日本は十八歳で成人となっているからだ。
これはスキルが発現する年齢が十八歳だったことで世論の高まりもあり成人年齢の引き下げに関する法改正が行われたのだ。
スキルは十八歳で自然に発現する場合と、ダンジョン内で魔物を倒して得られるスキルスクロールというアイテムを使うことで得られる。
同じスキル名であれば効果も同じだが、スキルスクロールのドロップ率は決して高く無いことから十八歳でスキルを発現しなかった者がダンジョンの探索を生業とする探索者になることは少ない。
「さて、ご飯も食べたし〖探索者支援庁〗に行くかな」
将磨が口にした〖探索者支援庁〗とは二回目のスタンピード以降に日本政府が設立した探索者の支援組織であり、ダンジョンから得られるアイテムの買取やそのアイテムを素材とした様々な発明を行っている機関である。
ダンジョンの入り口の傍にはこの〖探索者支援庁〗の支所が必ず設置されており探索者のダンジョンへの出入りを管理を行っている。
それだけではなく、探索者登録もこの〖探索者支援庁〗の支所でできるのだ。
「今は原チャリだけど荷物もあるから早めに自動車の免許も取らないとな~」
原動機付自転車は十六歳で免許を取得できるのは変わりないことから既に原動機付自転車の免許証を取得し某メーカーの五十ccバイクも購入しているが、日本では相変わらず自動車の運転免許証は十八歳以上でないと取得できない。
「んじゃ、行くか」
ジャケットを羽織り意気揚々〖探索者支援庁〗を目指す将磨。彼は無事に探索者になれるのだろうか?
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