ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】
ガベージブレイブ(β)_055_再会
久しぶりにアルグリアに帰ってきた俺はその足で伯爵の屋敷に向かった。
門番が俺の顔を覚えていたのか、俺を見ると走って屋敷へ入っていった。
しばらくすると執事が出てきて俺を案内してくれた。
ソファーで寛いでいるとアリーの気配が近づいてくるのが分かった。
「お久しぶりですね、ツクルさん」
ちょっと見ない内に美しさに磨きがかかったな、アリー。
「急に訪れて悪いな。アリー」
「いいえ、ツクルさんならいつでも歓迎いたしますわ」
ちょっとした世間話をして本題に入る。
「そうですか、そんなことが……父は今、王都へ赴いておりまして不在なのです……」
「王都へ? あの伯爵の件か?」
「はい。王家よりフーゼル伯爵家に対する処罰が申し渡されることになりましたので」
「伯爵やアリーの気が済むような処罰になりそうなのか?」
「はい。ツクルさんのおかげで不正の証拠が沢山ありましたから。少なくとも当主は死罪、家もよくて降爵、悪ければ取り潰しでしょう」
「アリーたちがよいなら、よかった」
アリーは少し寂しそうな表情をした。ドルチェのことを思い出したのだろう。
「ツクルさんの知り合いの方の件はこのアルテリアスが責任を持ってお引き受けいたします」
「伯爵がいない時に悪いな」
「いいえ、ツクルさんがいなければドルチェの仇は取れませんでしたから、この程度のことはさせて頂きます」
アリーは貴族なのに優し過ぎるな。もっと家の利益を考えて条件を出すなりしないと。
「先ほども話したが十人は異形の姿をしているから町の外で構わないので、住めるように頼む」
「そのことも含めて事前に皆さんにお会いしたいと思います」
アリーとの会談後、帰ろうと屋敷内を歩いていたら……。
「教官殿!」
暑苦しい奴がやってきた。
「おう、ゴリアテか。元気にしていたか?」
「この通りです! 一手御指南を!」
会って早々に御指南ときたか。相変わらずだな。
「悪いな、急いでいるんでまた今度で頼むわ」
「む~、次は絶対にですぞ」
ゴリラが拗ねたような顔をしても可愛くないぞ。むしろ殴りたくなってきた。
「いてっ! 何するんですか!?」
「その顔を見てたらついな」
体が勝手に動いていたよ。
翌日、町の外で待っている俺たちの元にアリーがやってきた。護衛はゴリアテの他十数人。
そして化け物勇者の姿を見たゴリアテたちが騒めき剣を抜きそうになった。
「止めなさい!」
アリーの一喝でゴリアテたちが冷静さを取り戻した。
アリーの肝っ玉の太さもそうだが、一声でゴリアテたちを落ち着かせたのには驚いた。本当にちょっと見ない内に成長したようだ。
「ゴホン! ツクル君はあの女性のような人が好みなのかな?」
「え、いや、そんなことはないぞ……」
背中に嫌な汗が流れるから、変なことをいわないでくれ。それに俺の……それはいいか。
俺は【等価交換II】を使ってちょっとした家を創っておいた。大きな体の化け物勇者たちが入れるほどの家だ。
化け物になっても家は必要だろうと、優しい俺は思ったわけだ。それに吹きっさらしの中でアリーと交渉はできないと思ったのだ。まぁ、こっちがメインだけどな。
「先ほど、お話をさせて頂きましたが、しっかりと自我もあるようですね。我が領の法に従うのでしたらこの地に住むことを許可しましょう」
家に入る前にアリーはサルヤマたちと言葉を交わした。その際にアリーの美しさに見入ってしまったサルヤマが挙動不審だった。
他の九人は緊張していたけど問題なく受け答えできていた。サルヤマはイチノセじゃなくても美人に弱いのがよく分かった。
化け物になっても本質は変わらないってことだな。
「ああ、法を無視したら法に照らして罰してくれて構わない。手を煩わせてすまないな」
この世界の法を守る気のない俺が言うのもなんだが、アルグリア近郊に移住して伯爵の庇護を受けようと言うのだから法は守らないといけないだろう。
伯爵家を滅ぼしてアルグリアを占領するわけでも、領地の一部を奪うわけでもないのだから。
「それで、そちらの女性二人と男性一人はどうされるのですか?」
アリーがイチノセ、ハヤマ、フジサキを見て聞いてきた。
「男はフジサキっていうが、町で働かせてやってほしい。職業が狂戦士なので、できれば血を見ないような職場が助かるんだが」
狂戦士は強いがもろ刃の剣だ。血を見ない職場の方がフジサキにとっても、周囲の人にとっても安全だ。
「女性のお二人はどうされますか?」
「私はフジサキと一緒に町に残ります。スズノンはツクルンと一緒に行くんでしょ?」
「ミキ……」
え? そうなの? なんでイチノセは俺と一緒にくるんだ?
俺とくるよりもアルグリアにいたほうが安全なんだけどな。
う~ん、ここはイチノセにもアルグリアに残ってもらうように説得をしよう。
「ツクル君。説得は無駄だからね。私はツクル君についていくから! もう離れないから!」
「……」
凄い剣幕だ。それ以前になんで俺が説得をしようと思っていたのが分かったんだ?
そんなことはいいのだけど、本当についてくるのか……。
「私がついて行くと迷惑?」
上目遣いでそんな聞き方をするのは卑怯だと思います。断れないじゃないか……。
アリーたちが町に帰って行くのに俺たちは同行した。
あ、そうだ、化け物勇者たちは種族名から『クリエイター』と呼ばれることになった。
別に物作りが得意なわけではないが、作られた存在なので十人の総称として使われるだけなので構わないだろう。
俺たちが先ほど会談していた家がクリエイターたちの家であり、拠点だ。
あとは自分たちで塀を作ったりしてくれ。
町中に入るとアリーたちと別れてサイドルの店に向かった。
「おおおお! これはこれは、スメラギ様! お久しぶりですな」
「サイドル、元気だったか?」
「ええ、この通りピンピンしております!」
「おじ様!」
「カナンも元気そうで何よりだ!」
サイドルは相変わらずだった。
店先で騒いでいても悪いので、奥へ通してもらった。
そしてフジサキとハヤマのことを頼んでみた。
「計算もできますし文字も書けますので、私には異存はありません!」
この世界は文字の読み書きや計算ができない人も多い。
異世界人の俺たちは何故か読み書きができるし、教育水準が高い日本の高校生だったので算数程度であれば問題ない。
「私の方は今日からでも構いません。社員用に寮もありますから、身一つで来て頂ければ構いませんぞ!」
「フジサキ、ハヤマ、どうする?」
俺はフジサキとハヤマの意見を聞いてみた。
「サイドルさん、よろしくお願いします!」
フジサキはいい顔だった。死線をくぐり抜けて一皮むけたのかな。
「私もよろしくお願いします!」
ハヤマは一ノ瀬と別れて独り立ちを決意した、いい顔をしている。
俺はサイドルに礼を言ってフジサキとハヤマを任せて店を出た。
そして俺たちが泊まれる宿に向かう。そこで問題となったのが部屋割だ。
色々とすったもんだした。凄い揉めた。
「ご主人様の回りに女性が沢山なのです……」
「ここで一度、私たちの立場を明確にするべきですかね?」
カナンとハンナは何を言っているのかな?
「ご主人様、第一奴隷はこのカナンです!」
「ハンナは第一メイドです!」
そんなに気合を入れなくてもいいと思う。
「それでしたら私は第一幼馴染です!」
何故そこにイチノセが参加する? 俺はなんと言えばいいのだろうか?
「「「だから一緒の部屋に泊まります!」」」
「そうか、じゃぁ、一人部屋と三人部屋をたの―――」
「「「四人一緒だよ(ですよ)!」」」
「いやいやいや、それおかしいよね?」
……俺の話は聞いてもらえなかった。
宿屋のおばちゃんがにやにやしながら「若いねぇ~」とか言っていたし。
たしかにおばちゃんよりは若いけどさ、そこは良識ある大人として止めるところじゃね?
「それでツクル君はどこに行く予定なのですか?」
部屋で寛いでいるとイチノセが聞いてきた。顔、近いよ。
「ラーデ・クルード帝国の神殿に向かう予定だ」
「神殿って、私たちが召喚された、あの神殿?」
「ああ、あの神殿だ」
イチノセは不思議そうに首を傾げた。
まぁ、俺がボルフ大森林に捨てられたことや、クソジジィが実はエンシェントヒューマンでめちゃくちゃ強くて、俺を庇ったサーニャを殺したことを話した。
「そんな人だなんて思ってもみなかったよ……」
イチノセはクソジジィの裏の顔を知ってかなり動揺していた。
夜中、三人が寝静まったのを見て、俺はベーゼを呼び出した。
「化け物勇者たちがこの地の法を犯したら捕縛できるように部下を配置しておけ。抵抗するようなら両手両足を斬り落としてゴリアテに預ければいい。だが、不当に差別されて暴力を受けたことがきっかけなら、ゴリアテに預けずに無力化して俺の指示を仰げ」
「承知しました」
ベーゼはヌーっと消えて行った。相変わらず低音で渋い声だ。
これであの十人が暴れたとしても、アリーに大きな迷惑をかける前に死霊軍団が捕縛するだろう。
アリーに頼んだ以上は、化け物勇者を監視するのは俺の責任だろう。化け物勇者が死霊軍団の手を煩わせないでくれると、いいのだがな。
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