ガベージブレイブ【異世界に召喚され捨てられた勇者の復讐物語】
ガベージブレイブ(β)_035_訓練生3
その群れはオーガ二十体、レッドオーガ四体、オーガジェネラル一体の構成となっている。
これまでオーガの群れにレッドオーガが一体か二体混ざっていることはあったが、オーガジェネラルが率いる群れとは初めての遭遇だ。
オーガのレベルは八十だが、レッドオーガは九十、オーガジェネラルは百なので今の訓練生のレベルを考えれば良い相手だろう。
ただ、これほどの群れがこんな浅い場所にいるのは少し違和感を覚える。
オブリの【精霊魔法】とシュバルツの【強射】によって戦いの火ぶたが切られる。
矢が一体のレッドオーガの胸を貫くと広範囲の敵にダメージを与えるカッタートルネドが猛威を振るう。
オーガやレッドオーガは竜巻に体勢を崩され更に全方向から風の刃が強靭な肉体を容赦なく切り裂く。
オーガジェネラルは流石にどっしり構えカッタートルネドに耐えているが、【強射】によって胸を貫かれたレッドオーガはこのカッタートルネドの追撃で絶命した。
『闘弓士』の【強射】は同じ弓と矢を使っても通常攻撃の倍の威力を発揮するスキルだ。
その分、命中率が低下するというデメリットがあるが、『闘弓士』には命中率を向上させる【集中】や確実に命中させる【必中】があるのでこれらのスキルと組み合わせて使えば問題ない。
カッタートルネドの範囲から漏れたオーガが訓練生目掛け走ってくる。
血走った目が理性など持ち合わせていないことを物語るのだが、普通の人間ならその目を見ただけで体を強張らせ直後には肉の塊に変わっているだろう。
近付いてくるオーガの胸に矢が刺さる。更に左の太もも、右の上腕にも次々と矢が突き刺さりエーデルの前に来るとブルガが発動した【爆槍】によって頭部を失い絶命する。
この【爆槍】は別に槍が爆発するわけではない。単純に槍を受けた部分に大きな衝撃が放たれ爆発したように見えることから【爆槍】というらしい。
列記としたスキルで普通の槍士ではこの【爆槍】のスキルは殆ど発現しないらしいが、ブルガの『闘槍士』だと高確率で発現するスキルだ。
カッタートルネドの効果が切れたことで傷だらけとなったオーガたちが落としていた武器を拾い上げ訓練生を目掛け走り出す。
武器を探し拾ってからこっちに来るのでオーガたちがバラバラになっているのが訓練生にとっては好条件となる。
エーデルに取り付いたオーガ二体のうち一体をゴリアテが一足飛びに両断すると、ロッテンは双剣の手数を生かしてオーガに反撃を与える暇を与えず倒してしまう。
この二人はレベル九十をすでに超えているのでダメージを負っているオーガなら時間をかけずに倒せてしまう。
近づいてくるオーガにはシュバルツが確実に矢を命中させているのでオーガは余計にダメージを負っているのだ。
数が多い群れなのでエーデルがオーガに囲まれる。
ヘイトを劇的に上げる【アンガーロック】を使っていないが、今のエーデルには【身代わり】というスキルがある。
この【身代わり】は味方の誰かがヘイトを上げる攻撃や極端な回復などをした時にその味方が上げてしまったヘイトを代わりに受けるというもので、今回はオブリがカッタートルネドで上げまくったヘイトを代わりに受けているのだ。
だからオーガたちはエーデルに集まり、他の訓練生が攻撃を受けにくい状態を作っている。
レッドオーガの特徴はオーガより一回り大きい体に赤黒い皮膚だ。
当然、オーガよりも力が強く頑丈さも上回る。
ドッガーン。
更にスピードも上なので突進力がオーガより高い。
エーデルの大盾は今持っているもので四つ目になる。
鎧も三つ目となっており、それだけ激しい攻撃を一身に受けているのだ。
伯爵家が支給している装備なのでエーデルの懐は痛まないが、それでも他の訓練生が武器を一度交換したのに対し、エーデルは盾を三度、鎧を二度交換し装備損耗率は激しい。
今回の戦闘前に新品に交換した大盾が悲鳴を上げるような衝撃を受け止める。
訓練当初はオーガの突進でも押し込まれたが、今はレッドオーガの突進さえも受け止めるエーデル。
熊の獣人なので二メートルを超える巨体だが、オーガやレッドオーガに比べれば小柄に見える。
このエーデルがこの訓練で最も成長しているのかもしれない。
オーガの首筋から血が飛び散る。
『隠密短剣士』のファルケンがオーガに気付かれることなく首筋を切り付け、血が飛び散る前に姿を隠した結果だ。
オーガと言えども大量の血を失えば絶命するが、生命力の強いオーガにこの攻撃は即効性はない。
しかし血を大量に失えば動きが悪くなるし、長時間その状態が続けばオーガであっても失血死するのでオーガを弱らせるには非常に効果がある。
致命傷ではないが、ファルケンの攻撃はオーガにとって非常に嫌らしい攻撃なのだ。
そして弱ったオーガはゴリアテやロッテン、更にはブルガのようなダメージ源によって刈り取られるのだ。
エーデルの周囲にオーガが固まっているのでオブリの【精霊魔法】は範囲攻撃ができない。
味方を巻き込む広範囲の魔法が得意な『精霊術師』にとっては地道にオーガたちにダメージを与える時間となる。
そんなオブリの視界に一体だけ皆から離れているオーガが移る。
「オーガジェネラル……やってみるか」
ぼそっと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
オブリは詠唱はしない。そんなことをするとオーガよりも恐ろしい教官である俺の鉄拳制裁がまっているからだ。
しかしイメージを固めるのに少し時間がかかっているようだ。
額に大粒の汗が浮かぶ。
そのオブリの横には未だ詠唱破棄ができない『治癒士』のアクラマカンと『魔導士』であるジャマランが唇を噛んでいる。
悔しいのだろうが、その気持ちが空回りしている感じは否めない。
そんな二人をよそにオブリが【精霊魔法】のイメージを固めたようだ。
「エレメンタリーストーム!」
轟音とともにオーガジェネラルを中心とした巨大な風の渦が立ち上る。
その巨大な風の渦は戦局を余裕の表情で見つめていたオーガジェネラルの巨体を浮き上がらせ更に風の刃によって大小様々な傷をつけていく。
オーガたちでさえ動きを止めるほどの絶叫を上げるオーガジェネラル。
「はぁ、はぁ、倒していないが、かなりのダメージを与えたはずだ……」
たしかにかなりの大ダメージを与えたのは間違いないだろう。
しかしそれはつまりオブリがオーガジェネラルのヘイトを一身に受けてしまったということだ。
オーガジェネラルは怒り狂った表情でオブリを目指して一目散に走り出す。
傷だらけの鎧を身に着けた巨体がドスンドスンと地響きをたてて突進してくる様はオブリだけではなく訓練生全員にとっても脅威だろう。
オーガジェネラルがエーデルたち前衛の横を通り過ぎようとするとエーデルが【アンガーロック】を発動する。
しかしオーガジェネラルはエーデルに見向きもせず真っすぐにオブリを目指す。
【アンガーロック】以上のヘイトを稼いでしまったようだ。
「マズイ、オブリ逃げろ!」
ゴリアテがレッドオーガと剣を合わせながら大声で叫ぶ。
「グオォォォォォォッ!」
「ひぃっっ」
オーガジェネラルが叫びながらオブリへショルダータックルを放つとオブリは盛大に吹き飛ばされる。
何度も地面に叩きつけられながら十数メートルを飛ばされたオブリは瀕死になるほどの大ダメージを受けただろう。
追いついてきたロッテンがオーガジェネラルに切りかかり、更にシュバルツが足の甲を縫い付けるように矢を放ったことでオーガジェネラルはやっと止まる。
俺とカナンはオーガジェネラルがこちらに向かってきた時点でオブリの傍を離れている。
同じくオブリの傍にいたアクラマカンとジャマランは半狂乱になってオブリの名を呼びながら弾き飛ばされたオブリに駆け寄る。
「死ぬなオブリ!今治してやる!」
アクラマカンは【回復魔法】を発動させオブリに治療を施す。
更に血だらけのオブリを見たジャマランが怒りに身を任せて【氷魔法】を発動させオーガジェネラルに氷の槍を何本も放つ。
「グオォォォォォォッ!」
雄叫びを上げるオーガジェネラルはロッテンの剣撃、シュバルツの射撃、そしてジャマランの【氷魔法】による集中砲火をあび反撃をしようにも思うように反撃ができないでいる。
「死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、オブリィィィィ」
アクラマカンは必死の形相で【回復魔法】を何度も発動させ、涙を流している。
ジャマランも魔力が切れるまで氷の槍を撃ち続け倒れる寸前だ。
それでもオーガジェネラルは
倒れない。
満身創痍の体だがオーガの将軍であるプライドが地面に膝を付くのを防いでいるのだ。
ただし誰にでも限界はある。
オーガジェネラルが粘りに粘り矢で縫い付けられた足を一歩前にだしたところでジャマランが倒れ、そしてオーガジェネラルも大の字に倒れる。
ズゴーーンと大きな音を立てて倒れたオーガジェネラルと膝から崩れるように地面に伏したジャマラン。
駆け付けてきたゴリアテたち前衛。
全てのオーガを駆逐してジャマランやオブリの状態を見てホッとする。
ジャマランは魔力の使いすぎで気絶したのだ。
オブリは死にそうだったがアクラマカンによる回復が間に合い一命をとりとめた。
俺は今でもオブリの傍で尻を地面につけ茫然自失としているアクラマカンの前に立つ。
俺のことに気付いたアクラマカンが俺を見上げる。
「やればできるじゃないか、今の感覚を忘れるなよ」
「え……?」
アクラマカンは自分が詠唱破棄をしていたことに気付いていないようだが、オブリの状態を確認していたゴリアテが「よくやった!」とその巨大な手の平でアクラマカンの背中をバンバン叩くので次第に我を取り戻し嬉し涙を流す。
その涙が詠唱破棄ができた喜びのものなのか、ゴリアテに叩かれてのものかは分からない。
オブリは一命をとりとめたがアクラマカンの【回復魔法】がただのヒールの連打だったので折れた骨がおかしな方向を向いて治ってしまっていた。
だからカナンに【光魔法】で骨の状態を元通りにするように指示を出す。
俺も甘いなと思う。
まだまだ未熟だがアクラマカンとジャマランも詠唱破棄ができたので訓練を打ち上げることにした。
後はアルグリアに戻って各自が自分を磨けば良いだろう。
そんなゴリアテたちの前にそいつは突如現れた。
コンドルに似た大型の鳥類。
種族名はグレートバード、レベルは百四十。
オーガジェネラル以上に強い魔物だ。
バサッと音がしたかと思ったらオーガの死体を一体鷲掴みにして大空に羽ばたいていった。
ゴリアテたちは驚いて反応もできなかったが、カナンは冷静にグレートバードの翼を撃ち抜いた。
翼を撃ち抜かれたグレートバードは地面に墜落したが、まだ生きている。
それを見たゴリアテは剣を構えるが、その前にグレートバードが【風魔法】を放ってきたのでカナンが魔法障壁を張る。
「おい、その鳥はレベル百四十のグレートバードだ。お前たちでやってみろ」
レベル百四十と聞いたゴリアテたちは躊躇したが、空を飛べないグレートバードに何を恐れているか!
ケツを蹴り上げてやったら俺の方が恐ろしいと気付いたようで、グレートバードに斬りかかっていった。
グレートバードは上空にいてこそその強さを発揮する。
しかし地上ではオーガにも劣る強さだ。
勿論、グレートバードの【風魔法】は十分に警戒する必要はあるし、【羽カッター】も強い。
しかし一定方向への範囲攻撃など周囲を囲んでタコ殴りにすれば封殺できる。
グレートバードが足掻いたことでエーデルとゴリアテが吹き飛ばされたが、怪我は大したものではない。
ブルガが自慢の槍で喉を突いたことでトドメとなりグレートバードは沈黙する。
「よし、こいつの肉は美味いぞ!帰ったら宴会だ!」
『おぉぉぉぉぉっ!』
レベルは百四十と低いがグレートバードの肉は非常に美味い。
しかしこんな場所に現れる魔物ではなかったと思う。
ちょっと気になるな。
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