異世界転移者のマイペース攻略記

なんじゃもんじゃ

060_十層のボス部屋

 


 とうとう、四人娘はこのヘビダンジョンの最深部へ到達した。
 全十層の最深部には当然だけどあれがあった。そう、ダンジョンマスターの部屋である。
「ここがヘビダンジョンの最深部なのね!?」
 本当に見事なまでにヘビの魔物しかいないダンジョンなので、俺たちはこのダンジョンのことをいつからかヘビダンジョンと呼んでいた。
 ここまでで出てきた魔物で一番ランクが高かったのはランク6だ。四人娘はランク6の魔物相手でも良い勝負をして、僅差だけど勝つことができた。しかしランク6相手だと勝つには勝ったけど、一戦ごとに四人はかなり疲弊したので、連戦まではできない状況だ。


「今日はここでキャンプをして休もう。明日、ボス部屋にチャレンジするかどうかを話し合おう」
 四人娘はここまでの戦いで精神的にもかなり疲れているので、休ませることを優先した。はっきり言ってここまでできるとは思っていなかったので、ここまで来ただけでも十分だ。


 このダンジョンの中で三回目の夜を迎えているので、野営も三回目だ。俺の【時空魔法(B)】で転移すれば、家に帰って休むこともできるけど、それはしなかった。96式装輪装甲車クーガーの中で寝れるだけでもかなり優遇されているからだ。
 まぁ、96式装輪装甲車クーガーの中は下手な宿屋以上の設備が備えつけられているので、家に帰らなくても十分に休めるのだ。


「四人は寝たのか?」
 リーシアが四人娘の様子を見てきたので、聞いてみた。
「うむ、かなり疲れていたからな」
 そりゃ~、リーシア鬼軍曹のシゴキに耐えてきたのだから、かなり疲れているだろうさ。
 しかし、これだけヘビばかり出てくるダンジョンとなると、ボスもヘビだよな~? 多少は慣れたけど、ヘビは好きにはなれない。四人娘も心配だけど、俺だってそうとう精神疲労しているんだ。


「私たちもそろそろ寝ましょうか」
 セーラが俺の肩に手を置いて優しく話かけてくれた。俺がヘビ嫌いで精神的に疲れているのを分かってくれているのだ。俺は肩に置かれているセーラの手の上に俺の手を添えて、頷くのだった。


「ご主人様、いっしょにねるワン」
 俺の膝の上で俺に撫でられていたサンルーヴが嬉しいことを言ってくれた。こういう時は一人で寝るのが嫌なんだ。
「ああ、一緒に寝ような」
 サンルーヴはニコリと笑って鼻歌を歌い出した。ああ、癒される~♪


「サンルーヴだけずるいぞ! 俺も主と寝るぞ!」
「それなら、私もご一緒させて頂きますね」
 リーシアとセーラも一緒に寝てくれるそうだ。うん、いつもと一緒だね。でも、彼女たち三人がいるから俺は安心して寝ることができるんだ。
 ここにインスがいれば言うことないのだけど……。
 そうだな、インスを戻そう。そのためには早く赤の塔を踏破しよう。何が伯爵だ。俺にとってなんの価値もない爵位で俺を縛るだけではなく、インスを人質だなんて、フザケルな!
 はぁ、ダンジョン漬けになりそうだな……いつの間にか俺もリーシア化してきたよ。いや、それでいい、インスを取り戻すためなんだ!


 ダンジョン内は常に一定の明るさを保っているので、昼夜の区別はない。しかし、時計を持っている俺には時間の観念があるので、休憩時間や就寝時間を厳格に決めている。
 俺たちはしっかりと寝て、朝食をとってダンジョンマスターに挑戦することにした。四人娘にダンジョンマスターはまだ早い気がしたので、この十層で戦闘経験を積んでからでもいいと話したが、四人娘はダンジョンマスターに挑戦すると言った。


「そこで、お兄さんにお願いがあるけど、ポーションを沢山用意してもらえないかな」
 なるほど、ポーションのがぶ飲みでカズミにヘイトが移動するのを抑えようというのだな。ふむ、一応は考えているが……。


『インス、彼女たちはポーションがぶ飲みで勝てるかな?』
 心の友、インスに聞いてみた。
『勝つ確率は1割といったところでしょう。ミホがポーションを自力で飲むだけの余裕がなく、カズミの回復頼りになってしまいます。それによってカズミのヘイトが上がり、カズミが最初に死亡するでしょう』
 俺の考えていたことと、ほぼ同じ内容だな。さすがに勝率までは分からなかったけど。


『どうしたら勝てる確率を上げられるかな?』
『まずは、マスターの【時空魔法(B)】によってミホたちを補助して、ダンジョンマスターを弱体します。他にセーラの補助と弱体も必要です。それで勝率を3割ほどに上げることができます』
 それでも3割かよ。ダンジョンマスターはやっぱり別格だよな。同じランクの魔物でもダンジョンマスターだと、かなり強化されているらしいし。


「四人だけでダンジョンマスターを倒せる可能性は、かなり低い。ミホはポーションを飲む余裕がないはずだ」
 俺の言葉を聞いた四人娘の表情が曇った。君たちも力不足を感じているんだろ?
「勝てる見込みが少ないのは分かってる。だけど、ぬるま湯の中で強くなっても、いつか頭打ちになると思うの。だから、挑戦しなければいけないと思うの!」
 ミホが熱く語り、他の3人も頷いている。
 俺は挑戦を否定はしないけど、無謀な挑戦には賛成しかねる。今はどうしても戦わなければいけない時じゃないから。


「せめてランク5の魔物に余裕をもって勝てるようになれ。今のままでは挑戦ではなく、ただの自殺志願者だぞ」
「「「「……」」」」
 不満か? 不満なら俺を納得させるだけのものを見せてみろ。そうすれば、俺は反対をしない。
「分かった! ランク5だろうと、ダンジョンマスターだろうと、私たちは勝つ! ね、皆!」
「「「うん!」」」


 これからの四人娘は鬼気迫る感じで魔物を狩りまくった。集中を切らさず、ランク5の魔物を余裕をもって倒せるほどになるのに、2日を要した。
 しかし、たった2日でランク5の魔物をほぼ無傷で倒せるようになったのだから、素晴らしい成長だろう。


「いくよ!?」
「「「おーーー!」」」
 ミホが先頭でボス部屋に入っていった。もちろん、俺たちもついていく。
 ボス部屋はかなり広くて壁にいくつもの穴があいていた。その穴の中からヘビの魔物がぞろぞろと出てくる光景は、鳥肌ものだ。多分、10や20ではきかない数のヘビの魔物が出てきている。しかもその中にダンジョンマスターはいないのだから、たちが悪い。


「ボス部屋がモンスターハウスなんて、悪意しか感じられないわよ!」
 アサミが槍を構えながら、ヘビの魔物たちに毒づいた。
「これぐらい、問題ない。皆殺し」
 弓に矢を番えたカナミが言葉少なく物騒なことを言っているが、皆殺しにしなければダンジョンマスターは現れそうにない。
「ヘビは嫌いだけど、やるしかないのよ!」
 ヘビの大群を見て顔を青くしたカズミが杖を構えて詠唱に入った。
「さぁ! やるわよ! こんなところでつまづいていられないんだから!」
 ミホが剣を抜いて盾を構えた。


「「「「GO!」」」」
 カズミは仲間たちにバフをかけると、ミホ、アサミは走り出し、カナミは矢を放った。戦いの火ぶたが切って落とされのだ。


 ヘビの魔物はとにかく数が多いので、囲まれてしまってはいけないとミホは動きを止めないように心がけているようだ。こういう時に攻撃魔法がないのは戦術の幅が狭くなってしまう。
 俺たちならセーラの圧倒的な火力、サンルーヴの圧倒的なスピード、そして96式装輪装甲車クーガーや10式戦車の火力によって制圧できるが、四人娘にはない。
 今後のことはわからないけど、今現在ない物を嘆いていても仕方がないので、今ある戦力で少しづつでも前に進むしかない。


「ミホ、左後ろ!」
 ミホの死角から飛びかかろうとしていたヘビの魔物がいたので、カナミが大声で知らせた。弓魔導師のカナミは視界が広く、後方から戦場を見ているので司令塔として丁度よいのだ。
 日頃から言葉が少ないカナミだけど、必要最低限の言葉で指示をしている。 


 ミホの言葉でヘビの魔物の攻撃を躱したミホは、躱すと同時に剣で反撃までしていた。この2日で心のどこかにあった甘さが抜けて戦いが安定してきた。それに攻撃力も上がってきていているのか、ランク3の魔物だったら一撃で大ダメージを与えている。


 ヘビの魔物を3割ほど倒したミホたちだが、肩で息をしだした。3割といってもその数は10匹以上になるので、連戦だと疲れが溜まっていく一方だ。
 しかし、前衛のミホとアサミにカズミからスタミナを回復する魔法がかけられた。これでまたミホたちは戦えると剣や槍を持つ手に力を入れた。


「ミホ、右。アサミ、左。カズミはミホへ回復」
「「「了解!」」」
 矢を放ちながら同時にメンバーたちに指示を出すカナミの元で、なかなかに統率された動きを見せる四人娘。これに関してはカナミの意外な一面を発見できたと素直に喜びたい。俺たちにもない強みだ。


 

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