異世界転移者のマイペース攻略記

なんじゃもんじゃ

058_旅をすると何故か……

 


 96式装輪装甲車クーガーをひたすら走らせた。道とは言えないような場所もあったけど、赤の塔の街からはかなり離れた。
 王家から命令書が赤の塔の街へ届いても俺ははるか遠方で家族とエンジョイしている最中だ。ざまぁ!


 王家の命令をあからさまに無視するのはまだ早い。赤の塔でやることがある現状ではよろしくないから、知らなかった呈でいく。王家や貴族たちも俺とインスがリアルタイムで会話ができるなんて思いもしないだろう。


 海が見たいので、隣国の港町を目指す予定だ。そのために山を越えようと思っている。
 山を迂回すると時間がかかるし、越境の際に検問もあるから山越えを選んだ。
 そこで俺は無駄遣いをした。いや、無駄遣いじゃないな。ヘリコプターは必需品だ! 俺は強くそう主張するぞ!


「これがヘピ……コンダーか?」
「ヘリコプター、だ」
「そのヘルポコタンは凄いのか?」
 リーシアめ、わざと言い間違えているだろ?
「ご主人様にはルビーがいるのに……」
少し大きくなったとはいえ、オウムくらいの大きさのルビーに乗れるわけないだろ!?


「操縦席は正副の二つで、座席は八つある。インスが改造してくれたから最高速度は時速六百キロメートルだ」
「このヘリコプターが空を飛ぶのですか?」
 セーラは不思議そうな顔をしてヘリコプターのボディーを撫でている。
「その上のブレードという羽根が高速で回転して浮上するんだよ。インスの改造で音は小さくなっているけど、それでもうるさいからヘッドホンを着用してくれ」
 リーシア、セーラ、サンルーヴの3人は空を飛ぶということが想像できないようだ。乗ってみれば嫌でも分かるだろうから、今はそれでいい。
 ルビーは相変わらずしゅんとしているが、乗れないのだから仕方がない。


 3人が乗ったのを確認した俺はヘリコプターのエンジンに火を入れた。独特なローター音が次第に音を大きくしていく。
 計器類に異常はない。燃料も満タンだ。残念なのは武装したヘリコプターはまだ買えなかったので、非武装の民間機なのだ。空を飛ぶ魔物もいるので、少し心配だ。
「飛ぶぞ!」
 3人に飛ぶと宣言して、ヘリコプターを浮上させた。3人は窓から遠のいていく地面を見て「おーーー!」と声をあげている。サンルーヴなんか、窓に顔をくっつけて外を見ている。そんな姿がとても愛らしい。
ルビーはつまらなそうにしているが、今は何もしてやれない。いつか、お前が大きくなって皆を乗せて飛べるようになったら、頼むからさ。


 インスの改造のおかげで、音は思ったほどうるさくなかった。それでもヘッドホンがないと声が聞こえづらい。
「凄いぞ、主!」
「グローセさん、これがヘリコプターという物なんですね!」
「かっこいいーワン!」
 飛ぶ前と後では3人の反応が全然違った。とても嬉しそうなので、山の上をぐるぐると回ってサービスをしてあげた。
 山の標高はインスによると3000m級だ。その山をヘリコプターのおかげであっという間に越えることができるのだから、便利なものだ。


「この山頂から先は隣国ですから、伯爵位の効果はありません」
 セーラが念のために教えてくれた。これまで、俺は必要以上に伯爵を名乗ったことはないので、安心してほしい。
 変わったのは周りの環境であり、貴族になったからと言って俺は何も変わらないのだ。


「主! あそこに何かあるぞ!」
 リーシアが何かを見つけたけど、俺は「あーあ、見つけてしまったか」と言った気持ちだ。
 リーシアが見つけたのは山の側面に鉱山のようにぽっかりとあいた穴だ。俺はその存在をインスから聞いていたので、知っていた。
 あの洞窟はダンジョンだ。何故か俺たちが旅をするとダンジョンに行き当たる。おかしいな、俺の幸運値は『100』なのに。


「こんなところに鉱山があるとも思えないですし、自然の洞窟にも見えませんね……ダンジョンでしょうか?」
 セーラさん、脳筋ダンジョン好きのリーシアの前で「ダンジョン」は禁句なんですよ!
 しかもこんな場所にあるダンジョンなので、誰も踏破していないのはほぼ確定ですよ。


「よし! 主、行くぞ!」
 そうくると思いましたよ。俺の肩に手を置いてがくがくするのは止めてくれ。操縦しているのだから!?
「ちょ、ちょっと待った!」
 俺の言葉にリーシアはとても悲しそうな表情になった。何も行かないとは言っていないのだから、そんな悲しそうな顔をするなよ。
「そろそろ昼だからご飯を食べてからにしよう」
「ごはん~ワン」
 サンルーヴは相変わらず無邪気な笑顔でご飯を喜んでくれる。椅子に座り足をぶらぶらさせる姿にはとても和ませてもらっている。


 ダンジョンから少し離れた場所に開けた場所があったので、ヘリコプターを着陸させて食事の仕度をする。
「今、用意しますので、少し待っていてくださいね」
 セーラは柔和な表情でサンルーヴに待つように言ったが、その姿がまるで母親のように見えてしまう。そそくさと食事の用意をするセーラの後姿を見て新妻の色香を感じてしまう俺は異常かな? いや、異常じゃない!


 食事が済んだので、リーシアが俺を見てくる。
「ダンジョンに入るのは構わない。その上でなんだが、高ランクの魔物が出てこないようなら、ミホたちを呼んで鍛えてやろうと思うが、どうかな?」
 赤の塔のゴーレムもよいけど、他の魔物と戦うのも訓練の内だしな。
「その程度のことなら全然構わないぞ!」
 ダンジョンに入れると思ってとても晴れやかな表情になったリーシアはとても分かりやすい性格だ。そんなキラキラした目で見なくてもちゃんと行くからさ。


「別に高ランクの魔物がいても私たちと一緒なら構わないと思いますよ」
 セーラの言う通り、俺たちと一緒ならほとんどの魔物に対応はできると思う。
 最悪、96式装輪装甲車クーガーや10式戦車で魔物を蹂躙できるはずだけど。
「守られてばかりでは成長しないと思うから、彼女たちに丁度よい魔物だったらでいいさ」
 守ってもらってばかりの俺が言うのもなんだが、成長するためには自分で何かをしなければならないと思うんだ。
 俺も最初は戦闘なんてできなかったし、したくなかったが、いつの間にか戦闘に慣れてしまった。
 それがいいのか悪いのか分からないけど、少なくとも戦闘に参加することで魔物から目をそらさない程度にはなれたし、非常識なスキルのおかげでかなりのステータスになった。
 俺のステータスならランク1や2の魔物であればグーパン一発で勝てるし、ランク3や4でも無傷で勝てるはずだ。


 とりあえず、ダンジョンの中に入ってみる。
 インスに任せれば罠や魔物を発見するのはたやすいけど、サンルーヴに任せることにした。インスはバックアップ要員として待機してもらった。
 ダンジョンは洞窟型かと思ったら、それは入り口だけだった。
 中に入ってみると20mほど洞窟の通路だったが、すぐに開けた場所に出た。
 赤の塔の中のように太陽があり、目の前には森が広がっていた。
「森ですか。木々が邪魔で戦闘がしにくいですね」
 セーラの言う通りで、木々がけっこう密集して生えていることから、大きな斧を振り回すリーシアにはあまり戦いやすい場所ではない。
 それに俺とセーラにしても木々が邪魔で攻撃がしづらいのは同じだ。


「なにかくるワン」
 ピコピコと動くケモ耳が可愛いサンルーヴが魔物の接近を察知したので、サンルーヴが見ている方向を俺も見た。
 木々を縫うように俺たちに接近してきたのは、ヘビの魔物だった。
 巨大な体で器用に木々の間をするすると移動してきたヘビを見て俺は鳥肌がたつのが分かった。ヘビは嫌いなんだよ。


「マッドバイパー、ランク4の魔物です。【毒牙術(C)】に気をつけてください!」
 緑色に赤色のブチがある、いかにもといった感じの毒ヘビの魔物の情報をセーラが教えてくれた。
 しかしいきなりランク4の魔物か。この分だと高ランクの魔物がうようよいそうだな。四人娘を呼び寄せるのは止めておこうかな。
 そう考えながら、俺はマッドバイパーに照準を合わせて引き金を引いた。
 MP7から弾丸が射出されると、俺の手に衝撃が走った。今の俺にとってこの衝撃はちょっとした振動程度にしか感じられない。
 鳥肌ものの毒ヘビでもランク4ならMP7で事足りる。瞬殺だ。


「あっ! 最初の魔物だったから俺が殺ろうと思っていたのに!?」
 俺の攻撃によって頭部が大きく抉れて絶命したマッドバイパーを見て、リーシアは可愛く頬を膨らませた。
「今度はリーシアに任せるから、怒るなよ」
「むー、仕方がないな。きっとだぞ!」
「はいはい」
「「はい」は一回だぞ、主!」
「は~い」
 リーシアが頬を膨らますと美しい顔が可愛く見えるから、好きだ。だから、ついついからかってしまう。


 それからはリーシア、サンルーヴ、セーラが順番に魔物を倒していった。
 そして、このダンジョンに感じたことは―――。
「ヘビばっかだな」
 出てくるのはランク3とランク4のヘビの魔物ばかりだ。
 中には綺麗なエメラルド色をした皮のヘビもいたので、ヘビ革の財布を作ろうかと思ってしまった。
 この世界では財布は一般的ではなく、お金は革袋や巾着のような物に入れて持ち歩くのが一般的だ。帰ったら本気で作ってみよう。


「最初はランク4の魔物が出てきたので、どうかと思ったけど、この分なら4人を呼んでも問題ないかな」
「構わんぞ! 俺が鍛えてやろう!」
 こうして俺は4人娘を呼び寄せることにした。


 どうやって4人を呼び寄せるかと言うと、簡単である。俺のスキルには【時空魔法(B)】があるから、インスに転移先の状況を確認してもらい、誰にも見つからないように4人娘のそばに転移すればいいのだ。
 いやー、便利なものですよ!


 俺が転移して姿を表すと4人娘はびっくりしたけど、大声を出したりはしなかった。風呂場でなくてよかったよ。
 どうやらパーティーの方針やダンジョンに入る日程を話合っていたようだ。
「急にすまない。隣国に移動途中で未発見のダンジョンを見つけたので、4人も一緒にそのダンジョンの踏破をしてみないか?」
「「「「え?」」」」
 4人娘に未発見のダンジョンを見つけたと言うと、驚いて固まってしまった。


「えーっと、未発見のダンジョンてそんなに簡単に見つかるものなの?」
 ミホが不思議そうに質問をしてきた。
「以前にも赤の塔の街とハジメの町の間にあった未発見のダンジョンを発見したけど、クリア特典が結構おいしかったぞ」
 俺がそう言うと、4人は顔を見合わせてニカッと笑った。
「「「「行きます!」」」」


 あと、気になった新メンバーについて確認してみた。
「まだ、調整段階ですから大丈夫です! 一週間後に最終確認することになっています」
 まぁ、向こうには向こうの都合というものがあるだろうから、ゆっくり考えて結論を出せばいいさ。
「よし、それなら今すぐ行けるか?」
「防具をつけるから30分ほしいよ!」
 鎧はつけるのに時間がかかるからな。
「じゃぁ、30分後に迎えにくるから」
「「「「はい」」」」


 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品