異世界転移者のマイペース攻略記

なんじゃもんじゃ

051_ヘンドラー伯爵

 


 王都の宿屋で寛ぐ。
 ロイヤルスイートの部屋なので家具の質が非常によく、ソファーなどは包み込まれる感じでそのまま寝そうになる。


 謁見の三日前にダンジョンから帰ってきた俺たちは謁見当日まで王都見物をしながら暇をつぶしていた。
 そして謁見の前日にザカライア伯爵から謁見時の最低限のマナーをレクチャーしてもらい、謁見の日を迎える。


 大きな扉を潜ると巨大な空間となっており、その空間の中央には真っ赤で毛足が長くフワフワする絨毯が一直線に玉座の前まで繋がっている。
 そして絨毯の左右には貴族や軍属といったお歴々がズラッと並んでおり俺に視線を向けている。
 ここにリーシアたちがいたら心強いけど、今日は俺一人でここにいる。


 覚束ない足取りだが一歩一歩着実に足を進めてザカライア伯爵から教えてもらっていた場所まで進む。
 そしてそこで片膝を付き、胸の前に片手を折りたたみ、頭を下げる。
 目の前には数段高い場所に据え付けられた金色の豪華に見える玉座に座る初老の男性。
 その男性こそこのオプレスト王国の国王であるフィギンス十五世だ。
 細身のその国王は目の前で跪いている俺に視線を向けている。


 静寂がこの謁見の間を支配する。
 数秒か、十数秒の短い時間だと思うが俺にはとても長い時間に感じる。
 心臓がバクバクと激しく活動し、口から飛び出しそうだ。


「赤の塔のスタンピードを沈めランク7のアースドラゴンを討伐せし英雄よ、―――――」


 国王ではなくその横の数段低い場所に立っている男性が羊皮紙に書き込まれた文章を読み上げる。
 国王より年上に見えるこの男性は筆頭大臣だとザカライア伯爵からあらかじめ聞いていた。


「この功績をもってグローセ・ヘンドラーを伯爵に叙するものなり」


 長々と口上をのたまう筆頭大臣殿がやっと話を終えた。


「励めよ、グローセ・ヘンドラー」
「あり難き幸せに存じ上げます」


 その後、俺は晩餐会に出席し、お歴々との顔合わせを行う。
 まぁ、成り上がりの俺に良い顔をしない貴族が多い中、赤の塔の街周辺に領地がある貴族は俺とお近づきになりたいようであからさま過ぎるよいしょをしてくる。
 そして経済的に強い結びつきをしたいと考えた貴族もいるようで、貴族の反応は二極化している。


 翌朝、俺は伯爵に関する権限や責任について講義を聞く。
 そして午後からはヘンドラー伯爵家の紋章決め、その他もろもろと忙しい。
 そして問題となったのは俺の妻のことだ。
 貴族の妻は正妻を一人しか登録できない。
 側室や妾などはいくらいても構わないが、正妻だけは国に登録する必要があるので、リーシアとサンルーヴ、そしてセーラの誰を正妻として登録するか迷う。


「それならセーラが良いだろう!」
「え、何で私なんですか!?リーシアさんの方がグローセさんとは一番長いお付き合いですよ!」
「俺はダメだ」
「私だって」


 二人とも正妻などというポジションは嫌のようだ。
 まぁ、正妻ともなれば貴族のご婦人とのお付き合いもあるから面倒なことばかりだろう。
 どう考えてもリーシアには向かないし、セーラも元は狩人だったことを考えれば社交界のハードルは高いかも知れないな。
 サンルーヴは……考えるのはよそう。そうなると……


『インス、俺の正妻にならないか?』
『光栄なことですが、私などで宜しいのですか?』
『三人の後で申し訳ないけど、インスさえ良ければ正妻になってほしい』
『不肖、インス、マスターの御為、全身全霊をもって正妻を務めさせて頂きます!』


 インスは元々実体化できた。
 しかしあまり実体化する機会はなかった。
 実体化すると俺の心の中で会話ができなくなるからだ。
 しかし、都合の良いことに『龍神の迷宮』を踏破し再び【ナビゲーターα】を強化することができた。
 だから今は【ナビゲーターβ】に昇華したインスが俺の中にいる。
 これによりインスが実体化しても今まで通り俺と心で繋がっており会話ができる。
 会話だけではなく、俺のスキルを使用することも可能なのでインスが二人いるのと同じ意味を持つのだ。


 インスの正妻登録も無事終わり、三日かけて色々なことを教えられた。
 全部に目を通すようにと多くの書類も持たされた。
 そして王都を発とうとしたところで国王からの呼び出しがあり、登城することになる。


「ヘンドラー伯爵、王都に屋敷を与える」
「……あり難き幸せ」


 一体、何だ?そんな話は聞いていないぞ。
 何故今頃になって屋敷を?


『マスター、それは正妻を王都の屋敷に置けという意味です。簡単に言うなら人質です』
『なっ!?それではインスを王都に置いていけと言っているのか!?』
『私は問題ありません。必要でしたら実体化を解除すれば良いのですから、それにマスターとはいつも繋がっておりますので』
『そんな……』
『心配しないで下さい。私の実体もマスターのスキルが使えるのですよ』
『そうだけど……そうか!?』
『はい、【時空魔法】を使えばいつでも実体がマスターの傍に向かえますから』


 インスには悪いことをしてしまったが、寧ろ正妻がインスで良かったと言えた。
 しかしこれが王侯貴族のやり方なのかとかなりムカついた。
 王がこれ以上俺たちに介入できないように何かしらの手を打たなければならないな。


『丁度良いので王都で他の貴族の情報を集めようと思います。私の実体を王都に置いたことを後悔させてやりましょう』
『流石はインスだ!』


 王の執務室を出ると今度は筆頭大臣に呼び止められた。
 何かと思ったら空席だった赤の塔の街の代官が決まったので紹介をするということだった。


「お初にお目にかかります。某、ヒヨリミー・カンリョーと申します」
「グローセ・ヘンドラーと申します」


 新代官は子爵で彼が赤の塔の街に赴任するとザカライア伯爵の部下は引き上げることになっている。
 しかし面倒な人事をしてくれる。
 この新代官を【サーチ】で確認すると黄色なのだ。
 黄色は完全な敵対者ではないが、場合によって敵性者になる可能性が高い色だ。
 筆頭大臣も同じ黄色なので何かしらの面倒な話が裏にあるのではと頭を抱える。


「おや、どうされましたか?」
「いえ、慣れないことばかりで少し疲れてしまったようで」
「それはいけませんな、今日は挨拶だけに留めておきますかな。私は明日、赤の塔の街に向けて出立しますが、一緒に如何ですかな?」


 馬車に合わせて移動なんて今の俺たちにはできない。
 それにこの新代官と一緒にいたくもない。


「せっかくのお誘いですが、他の街にも行ってみようと思いますので」
「そうですか。では、赤の塔の街で再会できますことを楽しみにしております」


 こうして新代官は踵を返し歩いて行った。
 そして俺は予定を変更し、赤の塔の街には向かわず他の街を何ヶ所か回り赤の塔の街に帰ることにした。


 国王から賜った屋敷は広かった。
 部屋数も多いし管理が大変だなというのが最初の感想だ。
 屋敷だけではなく、執事が一人と侍女が五人もセットのようだ。
 残念ながらこの六人も黄色なので信用はできない。
 だからインスによる人材登用が行われることになる。
 財布は俺のものだし、それを完全に管理しているのはインスなので好きなだけ人を雇えば良い。
 この屋敷はインスに全て任せておけば問題ないだろう。
 それに実体化したインスの戦闘力は半端なく高いので滅多なこともないだろう。


 俺は本当の意味での新婚旅行をした。
 インスに頼んで観光名所がありダンジョンがない場所のルートを厳選してもらった。
 ダンジョンがあると連行されそうだからルートは厳選したよ、ほんと。
 王都にいるインスにはすまないと思うが、俺の中にインスはいるのでインスにも楽しんでほしいと思う。
 数ヶ所寄り道をした帰りの道中、インスから家臣として百五十人ほど雇い入れたと報告がきた。
 この内、五十人は赤の塔の街の屋敷に向かわせたとも聞いた。
 インスが選んだ家臣なので有能なのだろうと思うが、多くね?


 俺のような爵位だけの貴族は国から俸給がでるし、伯爵だと百人までは家臣の給料を補助する制度がある。
 しかし俺にはその制度は適用されていない。
 その代わり他国への自由移動を認めてもらっているのだ。
 貴族が勝手に国を出ることはできないので、商人だから爵位はいらないと断っていたら特例として他国への移動の自由を得た。
 その代わり、こういった制度面の変更があったのだ。
 本当は面倒だから爵位なんていらなかったのだが、国側も必死で打開策を出して俺が断りきれないようにしてきたのだ。


 赤の塔の街に帰ってきた。
 既に新代官が赴任しザカライア伯爵の家臣は引き上げた後だ。
 一応、戻ってきた挨拶をしに領主館へ赴いた。
 そこで当たり障りのない話をして自分の屋敷に帰る。


 翌日、ルルとムーセルから不在の間の報告を受ける。
 その報告だけで一日が潰れた。


 更に翌日、孤児院を視察する。
 既に孤児院の受け入れは始まっており、今は三十人ほどの子供がいるそうだ。
 責任者はブラハムに頼んだ。
 強面だが彼なら人の痛みが分かると思うので、心に傷を持つ子供たちのことを任せられると思ったのだ。
 ここに王都でインスが雇った五十人の中から十人ほどをブラハムの部下につけるつもりだ。
 インスもそのつもりで雇った人材らしい。


 数日後、王都から家臣がやってきた。
 五十人の家臣とその家族もいるのでアパートには入りきらない。
 この街に戻ってすぐにキャサリンさんに頼んで他の土地を購入する手配をしているが、間に合わなかった。
 だから当面はアパートと孤児院に分かれて生活をしてもらうことにしている。


「初めて御意を得ます、それがしホーメンと申します。こちらは奥様よりの書状に御座います」
「ご苦労、妻から話は聞いている。ホーメン、ソナタには家宰として働いてもらう」
「は、あり難き幸せ!」


 俺も偉くなったものだと苦笑いが出る。
 家臣の陣容は文官が八人と武官が三十二人、後の十人は孤児院の先生だ。


 ここで今の俺たちのステータスをまとめておこうと思う。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 氏名:グローセ・ヘンドラー
 職業:デミウルゴス・Lv35
 情報:ヒューマン 男 21歳 伯爵
 HP:7000000(A)
 MP:8000000(EX)
 筋力:190000(A)
 耐久:200000(A)
 魔力:300000(EX)
 俊敏:200000(A)
 器用:300000(EX)
 魅力:300000(EX)
 幸運:100
 アクティブスキル:【鑑定(S)】【偽装(S)】【神器創造(D)】【テイム(S)】【使い魔(B)】【強化(S)】【サーチ(A)】【精密射撃(S)】【身体強化(A)】
 パッシブスキル:【生産品質向上(A)】【魅力向上(A)】【操縦(D)】
 魔法スキル:【時空魔法(B)】
 ユニークスキル:【通信販売(B)】【ナビゲーターβ】【魂喰い(C)】
 犯罪歴:
 称号:【C級ダンジョン踏破者】【強者喰い】【ドラゴンスレイヤー】【A級ダンジョン踏破者】


 UP ⇒ 【身体強化(A)】【通信販売(B)】【魂喰い(C)】
 昇華 ⇒ 【ナビゲーターβ】
 【操縦(D)】どんな乗り物でも操縦ができるが、熟練度はランクによって変わる。


<『龍神の迷宮』ダンジョンボス初回討伐特典>
 ナビゲーターのバージョンアップ ⇒ インスが実体化してもグローセとの繋がりは切れない。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 氏名:リーシア・オーガン
 職業:ガーディアン・デストロイ・Lv20
 情報:オーガ(変異種) 女 16歳 従者
 HP:500000(S)
 MP:20000(E)
 筋力:300000(S)
 耐久:300000(S)
 魔力:30000(E)
 俊敏:200000(A)
 器用:70000(C)
 魅力:70000(C)
 幸運:5
 アクティブスキル:【百武の守り(S)】【破壊の斧(S)】【鉄壁(S)】【気配感知(A)】【自己再生(B)】
 パッシブスキル:【身体強化(S)】【斧盾術(S)】【体術(S)】【破壊の極意(D)】
 魔法スキル:
 ユニークスキル:【絆】【万斧撃ばんぷげき(A)】
 称号:【C級ダンジョン踏破者】【A級ダンジョン踏破者】


 UP ⇒ 【気配感知(A)】【自己再生(B)】【破壊の極意(D)】【万斧撃ばんぷげき(A)】


<『龍神の迷宮』ダンジョンボス初回討伐特典>
 ドラゴンスレイヤー(斧) ⇒ 対ドラゴン戦において攻撃力大幅増、不破壊。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 氏名:サンルーヴ
 職業:NINJAマスター・Lv1
 情報:狼獣人(ブラッドウルフ種) 女 16歳 従者
 HP:150000(A)
 MP:100000(B)
 筋力:150000(S)
 耐久:50000(B)
 魔力:80000(A)
 俊敏:150000(S)
 器用:150000(S)
 魅力:150000(S)
 幸運:5
 アクティブスキル:【立体起動(S)】【回避(S)】【鉄斬り(S)】【罠解除(C)】【鍵解除(C)】
 パッシブスキル:【脚力強化(S)】【隠影術(A)】【気配感知(S)】【暗殺術(A)】【双短剣術(A)】
 魔法スキル:
 ユニークスキル:【絆】【神速(B)】【NINJAの極意書(E)】
 称号:【C級ダンジョン踏破者】【A級ダンジョン踏破者】


 UP ⇒ 【立体起動(S)】【回避(S)】【鉄斬り(S)】【脚力強化(S)】【隠影術(A)】【気配感知(S)】【暗殺術(A)】【双短剣術(A)】【神速(B)】
 【罠解除(C)】罠の解除ができる。罠の種類によっては解除に失敗することもある。
 【鍵解除(C)】鍵の解除ができる。鍵の種類によっては解除に失敗することもある。
 【NINJAの極意書(E)】NINJAを極めし者にのみ発現するスキル。想像せし忍術を使いこなす。


<『龍神の迷宮』ダンジョンボス初回討伐特典>
 NINJA武装 ⇒ 隠密効果大幅アップの効果がある黒装束と苦無。共に傷を受けても自己修復する。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 氏名:セーラ
 職業:大賢者・Lv1
 情報:ヒューマン 女 17歳 従者
 HP:80000(B)
 MP:200000(S)
 筋力:30000(C)
 耐久:30000(C)
 魔力:150000(S)
 俊敏:60000(B)
 器用:150000(S)
 魅力:120000(A)
 幸運:20
 アクティブスキル:【視力強化(S)】【集中(S)】【魔物鑑定(S)】
 パッシブスキル:【弓術(B)】【気配察知(S)】【魔力操作(S)】
 魔法スキル:【風魔法(A)】【炎魔法(S)】【氷魔法(A)】【雷魔法(A)】【神聖魔法(B)】
 ユニークスキル:【絆】【炎の神髄(C)】【合体魔法(E)】
 称号:【C級ダンジョン踏破者】【炎の聖女】【A級ダンジョン踏破者】


 UP ⇒ 【視力強化(S)】【集中(S)】【魔物鑑定(S)】【気配察知(S)】【魔力操作(S)】【風魔法(A)】【炎魔法(S)】【氷魔法(A)】【雷魔法(A)】【神聖魔法(B)】
 【炎の神髄(C)】炎を操る者が高みに到達した証。炎の威力が大幅に増す。
 【炎の聖女】強力な炎の魔法を操る女性を称える称号。スキル【炎の神髄】を覚える。
 【合体魔法(E)】二種類以上の魔法を合体させ発動する。威力が半端なく上昇する。


<『龍神の迷宮』ダンジョンボス初回討伐特典>
 賢者の魔導書 ⇒ 全ての魔法を網羅した魔導書。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 氏名:ルビー
 情報:リトルフェニックス ランク5 女 0歳 グローセの使い魔
 HP:10000
 MP:50000
 筋力:3000
 耐久:8000
 魔力:9000
 俊敏:8000
 器用:5000
 魅力:7000
 幸運:50
 アクティブスキル:【飛行(C)】【癒しの風(C)】【炎の羽ばたき(C)】【加速(C)】
 ユニークスキル:【復活(C)】【情報共有】


 UP ⇒ 【飛行(C)】【癒しの風(C)】【炎の羽ばたき(C)】【加速(C)】【復活(C)】


<『龍神の迷宮』ダンジョンボス初回討伐特典>
 グローセの使い魔なので特になし。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 氏名:インス・ヘンドラー
 職業:高速情報処理師・Lv100
 情報:エルフ型天使 女 20歳 ヘンドラー夫人
 HP:1000000(S)
 MP:1000000(S)
 筋力:300000(S)
 耐久:300000(S)
 魔力:300000(S)
 俊敏:300000(S)
 器用:300000(S)
 魅力:300000(S)
 幸運:50
 アクティブスキル:【情報処理(S)】【高速演算(S)】
 パッシブスキル:【物理攻撃耐性(S)】【魔法攻撃耐性(S)】【状態異常耐性(S)】
 魔法スキル:
 ユニークスキル:【多重存在】【グローセ補助】




 

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