異世界転移者のマイペース攻略記

なんじゃもんじゃ

013_風雲急を告げる4

 


 夜間は魔物除けを大量に使用し魔物を寄せ付けなかったが、効果が切れ始める明け方近くになると徐々に魔物が街を攻撃し始めた。
 だから朝日が出るとほぼ同時に冒険者と魔物の戦闘が始まった。
 冒険者の数はやや減っているが魔物の数はそれ以上に減っている。


「昨日、グラスウルフを半分ほど討伐しましたが、冒険者も疲れておりますので今日が山場でしょう」
「アンブレラさんは冒険者が町を守り切ると考えておりますか?」


 目の下の隈が更に酷くなっているアンブレラさんと俺は双眼鏡を眺めながら話す。


「どうでしょうか?今年は数がやや多いように思いますし、ジェネラルやキングが出てきたら厳しさが増すでしょう」


 ジェネラルは将軍という意味でランク1のグラスウルフ、ランク2のグレーウルフとブラックウルフ、ランク3のブラッドウルフよりも高位のランク4の魔物だ。
 そしてキングはその種族を率いる支配者的なポジションでジェネラルよりもかなり強いらしい。


「ジェネラルやキングですか……出てこないことを祈りましょう」
「そうですね」


 戦いは一進一退と言った感じで昼が過ぎた。
 昨夜話をした日本人の三人組は今日も元気に最前線でグラスウルフを薙ぎ倒している。
 最前線で先頭に立って戦っている、と言えば聞こえが良いが彼女たちは他の冒険者たちと連携する気がない、と言うか出来ないのだろう。
 本格的な戦闘訓練を受けてないはずだから仕方がないのだろうが、他の冒険者はかなりへばっているから彼女たちに付いていけずに彼女たちが突出する危険性がある。


「あのままでは危険ですね」
「何が危険なのかな?」
「昨日の夜に会った三人が前に出すぎています」


 驚いたな、双眼鏡も使ってないのに数キロメートルも離れている戦場の個人を特定できるのか、セーラが持つスキルの【鷹の目】パネェな。


「彼女たちが危険なの?」
「このままでは魔物のド真中で孤立無援となるでしょう」


 セーラも俺と同じことを考えているようだ。
 こうして俯瞰して見ているから俺でも分かったが、セーラはこれまでの経験に基づいて判断したんだろう。


「主、助けなくて良いのか?」
「助けるにしても俺には何も出来ないぞ」


 俺には戦闘のスキルはない。
 【時空魔法】なら多少は戦闘の補助はできるが、それでもヘイストとスロウだ。
 ヘイストは対象の俊敏を上げ攻撃速度もアップさせるが、攻撃力は変わりない。
 それにスロウも対象の動きを遅くするが、これも攻撃力には関係ない。
 戦闘をしたくない俺にこれらの魔法は無用の長物だ。


「主が夜中にコソコソしていたのはこの為じゃないのか?」


 あら、バレテーラ。
 夜中に起きて【通信販売】で役にたちそうな物を購入していたのがリーシアにはバレていたようだ。


「そのことは私も知っていました」


 セーラもか!


「……分かった、助けにいこう」
「それでこそ我が主だ!」
「私もお供します」
「セーラはここに残っても良いんだぞ」
「何を言っているんですか?私はグローセさんの護衛ですよ?」


 四十分ほど掛けて城門へ辿り着く。
 道が混んでいて少し遅くなったが彼女たちはまだ無事だろうか?
 昨日の責任者の騎士がいたので声を掛け金を握らせると城壁の上に行くのを許してくれた。
 城壁の上からは戦場がよく見えた。観戦するなら特等席だがその分危険も多い。


 彼女たちはまだ無事で必死にグラスウルフを倒しているが、既に彼女たちだけグラスウルフのど真中で孤立した状態だった。
 彼女たちを援護できる場所まで城壁の上を移動する。


「セーラ、これ使えるかな?」
「これは?」
「俺の故郷で使われる複合弓だ。射程が長く威力も高い」
「……使って良いのですか?」
「その為に出したんだ」


 金属で補強された複合弓は射程が長く威力が高いのが特徴だ。
 しかし弦を引くのに力がいるので今まで短弓を使っていたセーラに扱えるかは分からなかったが見たところ問題は無いようだ。
 俺の横で軽々と弦を引くのだから流石は狩人だと思う。


「リーシア、これをグラスウルフの中に投げることができるか?」
「この程度のものなら大したことはない」
「なら投げる前にこのピンを抜いてくれ。だが、抜いたらすぐに投げるようにな。それ爆発するから」
「ふむ、このピンを抜いてすぐに投げれば良いのだな?」
「冒険者の傍には投げるなよ、冒険者を巻き添えに爆発したら洒落では済まないぞ」
「問題ない。任せろ」


 俺がリーシアに渡したのは手榴弾だ。
 時限式の爆弾やプラスチック爆弾は【通信販売】で売られていなかったが、手榴弾は色々売られていたので購入しておいた。


「セーラは準備できたらドンドン撃っちゃってね。これ矢ね」
「了解!」


 セーラはグググッと弦を引き狙いを付けて矢を放つ。
 ヒュンッと小気味良い音が耳に残るとその矢は冒険者に襲い掛かろうとしていたグラスウルフの首筋に突き刺さりその命を刈り取る。


「良い感じです!」
「初めて使うのにその正確さは流石だね」
「弓と何より矢が良いですね。歪みがない矢じゃないと狙い通りの場所に命中させるのは難しいですから」


 地球の矢は品質が良いようで何よりだ。
 と思っていたら轟音とともに数匹のグラスウルフが吹き飛んだ。


「ほう、中々の威力だ。もっとくれ、主」


 リーシアの方も良い感じのようだ。
 俺の出す手榴弾を嬉しそうに手に取っていく。
 ただ、残念ながら日本人の三人娘への直接的な援護はできていない。
 彼女たちは既に城壁から三百メートル以上離れた場所で戦っており複合弓のセーラの矢は届くことは届くが殺傷能力が著しく低下している。
 そして手投げのリーシアの手榴弾も流石に三百メートルも離れているので届かない。


 だが、周囲のグラスウルフを駆除することで間接的に彼女たちの援護にはなるだろう。
 少しでもこっちに戻ってきてくれれば直接的な援護もできるのだけど、彼女たちは周囲を見ていないので猪突猛進するばかりだ。


「主、あの娘たちはドンドン離れていくぞ」
「後方のグラスウルフをリーシアが吹き飛ばして殲滅しているから後方からの圧力が減ったためだろうな……あの娘たちは状況判断ができない脳筋らしい」
「しかし不味いですね、ここからでは援護するにも限界があります」


 しかし城壁を降りては戦場が見えなくなる。困ったな。
 と、誰かが近付いてくる。


「援護、忝い」


 大きな体を揺らして近付いてきたのは髪の毛の殆どが白くなった男性だった。


「支部長!」


 支部長?どうやらセーラはこの大男を知っているようだ。


「ん、お前は確か……セーラだったか?」
「はい、セーラです」
「うむ、セーラ、そちらの御仁を紹介してくれぬか?」
「あ、はい。こちらは商人のグローセ・ヘンドラーさんと従者のリーシアさんです。私は今グローセさんの護衛をしています」


 セーラのテンションが半端なく上がっている。
 どうやら支部長と呼ばれる大男はセーラにとっては憧れの存在のようだ。


「ご紹介に与りましたグローセ・ヘンドラーです。商人をしております、以後お見知りおき下さい」
「ワシは冒険者ギルドの支部長をしておるゴウリキーだ。ヘンドラー殿とリーシア殿の援護に礼を言いにきたのだ」
「そうですか、態々有難う御座います」
「しかしあの爆発のお陰で数が多かったグラスウルフをかなり減らせた。あれは一体何なのだ?」
「あれは爆発する道具を投げているだけです。私は力がないので従者のリーシアに任せていますが、少しでも役に立てたなら幸いです」


 ゴウリキーさんは興味津々で手榴弾を見つめている。


「見ていたが奥のあの娘たちの所までは投げられないようだな。どうだろう、ワシに投げさせてくれぬか?」
「……構いませんが、支部長さんなら届くのですか?」
「やってみれば分かるよ」


 自信満々なゴウリキーさんにNOと言えるわけもなく、扱い方を説明して手榴弾を渡す。
 ピンを抜いた手榴弾を大きく振りかぶりプロ野球のピッチャー顔負けの投擲をする。
 全く目で追えないスピードで飛んでいった手榴弾は最前線で孤立していた三人娘の後方で爆発して何匹かのグラスウルフを吹き飛ばした。


「すげー」
「馬鹿力」


 これリーシアよ、そのようなことを言ってはいけません。


「ガハハハハ、これは良い!ワシでも遠くの魔物を殺せるじゃないかっ!」


 嬉しそうだ。どう見ても近接戦闘のゴウリキーさんは手榴弾をバンバン投げる。
 三人娘も自分たちの周囲で爆発が起こりかなり焦っているようだ。
 こでれ冷静になって引き返してくれれば助かるんだがな。


 しかしゴウリキーさんは凄い筋力だな。そして器用さも高いようだ。
 周囲のグラスウルフが少なくなったので前進しようとしていた三人娘の行く手を阻むように手榴弾を投擲する。
 上手いこと彼女たちを誘導し冒険者がいるエリアまで戻した。
 見た目によらずこの筋肉ダルマのゴウリキーさんは精密な投擲をなさる。
 ゴウリキーさんの誘導によって仕方なくという感じで戻ってきた彼女たちを冒険者ギルドの職員と思われる人が後方に連れていき、休憩させている。


「さて、ヘンドラー殿、この道具を売ってはくれぬか?」
「今回は例外でして、この道具をお売りする気はありません。但し、今回のスタンピードが終わるまで協力は致します」
「ふむ……分かった。ではスタンピード中の協力を頼む」


 前線はゴウリキーさんによる手榴弾の投擲で冒険者が態勢を立て直す時間が作れ、情勢は人間たちに優位に動き始めた。
 三人娘は休憩しながら説教をされており、ウンザリしているようだが、ゴウリキーさん曰く昨日も説教をしたらしい。
 人の意見を聞かず迷惑をかける……俺の嫌いな人種だ。
 あの上司を思い浮かべてしまうじゃないか。


 陽がかなり傾いてきた頃、それは現れた。
 前線を構築していた冒険者の一団がそれによって瓦解しあろうことか城門が破壊されたのだ。
 それによって町中にグラスウルフが流れ込む。


「あれはジェネラルウルフ!」




 情報:ジェネラルウルフ ランク4 男 33歳
 HP:55300
 MP:1000
 筋力:2100
 耐久:1700
 魔力:1200
 俊敏:3100
 器用:1300
 魅力:1000
 幸運:30
 アクティブスキル:【牙術(C)】【爪術(C)】【加速(D)】
 パッシブスキル:【脚力強化(C)】【統率(C)】




 うん、無理。あんなのどうすれば倒せるんだよ?


「A班はジェネラルの足止め、B班は門を守れ!」


 前線で指揮を始めていたゴウリキーさんの怒号が響き渡る。
 大きな斧を持ったゴウリキーさんが指示する事で混乱が少ない冒険者が動く。
 既にグラスウルフはほとんど残っておらずランク2のグレーウルフやブラックウルフが三十匹ほどにランク3のブラッドウルフが数匹が残っているだけとなった。


「セーラ、町の中に入り込んだウルフを狙い撃てるか?」
「やってみます!」
「主、俺は何をする?」
「流石に町中で手榴弾を使うわけにはいかないから遠距離攻撃の手段がないリーシアは待機だ」
「む……分かった」


 町中に入り込んだウルフはそれほど多くない。
 数は二十匹も居ないだろう。町中のウルフは領主軍に任せてセーラに援護させれば問題ないはずだ。
 問題はゴウリキーさんや三人娘が対峙しているジェネラルに率いられた上位ウルフたちだ。


 セーラが町中の援護をしているから城壁の外側への援護ができない。
 リーシアに手榴弾を投げさせるか?いや、数が少ない事で冒険者との距離が近くなっているので手榴弾は危険だ。
 サブマシンガンのMP7では倒せないけど、援護にはなるか。
 やってみますか。


 

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