絶望の世界で育成士が生き残れるのか!?

なんじゃもんじゃ

18・セリヌ草を求めて

 


 基地から僅か五キロメートルほど東に行くと何故か出来たばかりの森の入り口に到着する。
 塔が現れたあの日、目立たなかったけどこの森も現れたようです。


 森の中まで道路は続いていますが道路のアスファルトは破損し穴があいています。
 しかも草木が生えていて道の呈をなしていません。
 今まで存在した近代的な木造建築物は朽ち果てていて僅かに建物があったような跡が残っているだけです。
 コンクリート建築物は辛うじて建物の原形を保っていますが、それでも人が住めるような状態ではありません。


 森に入ると大木が日差しを遮り薄暗く雨も降っていないのにややジメッとしています。
 道路だった場所を真っすぐ進むけど腐葉土が沈み込んでとても歩きにくいです。
 更に倒木などもあって進行速度は非常に遅くなってしまいます。


 私は【隠密】を使って気配を消しながら魔物の存在する場所を探します。
 今回の目的は『セリヌ草』の採取なので魔物との戦闘は極力避けたいと思っています。
 ですから魔物の気配を感じるとその場所を避けて進みます。
 戦闘をした場所が『セリヌ草』の群生地だったら最悪ですから。


「東に五十メートルほど行くと『回復柴草』が群生しています」
「了解、私たちはそっちに向かうね」
 森の中で太陽光もあまり降り注がないので東と言っても分からないかもと思っていましたが、保穂さんはコンパスを持ってきていました。
「はい、私は他の場所を確認してきます」
「頼むよ」


 私が見つけた『回復柴草』の群生地に皆が向かってから目的の『セリヌ草』を探して他の場所を探索します。
 左側に何か気配を感じます。
 技能もないのに最近は少しだけ気配が分かるようになりました。
 気配からするとゴブリンではないと思うので動物系の魔物の可能性が高いと思います。
 私は注意しながらその気配の主が視認できる場所に移動します。


「あれはイノシシの魔物ですか、大きく尖った牙が四本もあるから刺さったら痛いでは済まないでしょうね」


 自分一人での戦闘は得策ではないでしょう。
 私はあのイノシシの魔物を始めて見たのでその強さが分からないからです。
 戦闘を仕掛けるのは愚かと言うべき行為でしょう。
 皆が居る場所からそれほど遠くもないので警戒を呼び掛ける為に一度皆の元に戻ることにします。
 朱雀さんのように魔物の強さが見られたら良いのですが、残念ながら私にはその技能はありません。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 杏子から報告を受け私たちはそのイノシシの確認とできれば討伐することで意見がまとまった。
 イノシシなので鼻がきくだろうから私たちが傍にいることはその内分かってしまうと考えたのだ。
 私たちは現在、『回復柴草』の群生地で採取をしている。
 『回復柴草』の採取が終われば別の場所に移動するが、今現在は行動範囲が限られているので危険要素は早めに取り除くのが吉だと考えた。
 避けられるようならそうしたけど、イノシシは食料としてもほしいところだ。


「保穂さん、気配が近付いてきます!」
「了解!」


 私はライオットシールドを構え警戒を最上位に上げ前進する。
 前進すると暫くしてイノシシの化け物が現れる。
 イノシシを見たことがないから正確には分からないけど恐らくただのイノシシよりも大きい体で体高は一・五メートルほどもあり横幅もある。
 普通のイノシシとの違いは明らかで口から牙が四本も生えている。
 イノシシがこちらに気付き前足をかく仕草をする。




 職業: 暴走野郎Lv26
 情報: リトルボア、ランク1、♀
 固有技能: 嗅覚強化II
 技能: 突進II、牙突きII、体力強化I
 武力54
 体力81
 知力5
 器用8
 俊敏55
 魔力15
 魅力6




 朱雀さんが【可視化】でアイツのステータスを確認して教えてくれる。
 あの大きさでリトルボアと言うらしい。
 私の常識の外側のネーミングセンスだし随分とトンガッタ能力だこと。
 レベル的には私よりも上だけど能力は私の方が上だ。
 元々私の職業である『撲殺戦士』は体力が高かったけど朱雀さんと契約したことで更に強化されているから能力で上回っているのだと思う。
 今の私ならこのイノシシの化け物程度の攻撃は受け止めることができるはずだ!


 来いっ、勝負だっ!


 私は砂煙を上げながら突進してきたイノシシをライオットシールドで受け止める。
 受け止めた瞬間、ライオットシールドを通じて膨大な力が私の左腕に伝わってくる。
 イノシシの圧力で私が五十センチメートルほど押されてしまうが、体勢は崩していない。
 体重差によって押されただけだ。
 どう見たってイノシシの体重は百キログラムを超えているだろうし私の体重は……まぁ良いか。
 体力でも武力でも上回っているのだから押される理由は技能の【突進】と百キログラムを超える体重によるものだ。


「こんのぉぉぉぉぉっ!」


 私は持っていた鉄パイプ改を振り上げイノシシの体に振り下ろす。
 金属同士が打ち合ったような音がして私の手に大きな衝撃が伝わってくる。
 イノシシは私の攻撃を気にした素振りも見せずライオットシールドを押してくる。
 止められてもまだ進もうとするなんて、猪突猛進とはよく言ったものだ。
 だが、止めた以上はこれ以上私を押せると思うな!


 どうやら鈍器では分厚い毛皮と肉に阻まれあまりダメージを与えることができないようなので私はイノシシを止めることに注力することにした。
 私がイノシシの圧力をライオットシールド越しに止めていると横から遥が攻撃を仕掛ける。


「セイッ!」


 遥がアイツの首筋に刀を振り下ろし、返す刀で斬り上げようとするがその前にアイツの首から血が噴き出した。
 遥はその血飛沫に構わず刀を振り上げアイツの首に深いX状の傷を付けた。


 遥の武力は私よりも高く更に【剣闘術】や【剣撃強化】、それに武具の『武士の籠手』によって補正がある。
 そんな彼女の攻撃を受けてイノシシは瀕死の重傷を負った……と思ったけど、イノシシはライオットシールドに更に圧力をかけてきた。
 何故だ?イノシシより私の方が能力が高いのだから私が押される理由はないはず。
 なのにアイツは私を後ろに少しずつだけど押している。


「ファイアランス!」


 私を徐々に押し込んでいたアイツの脇腹に炎の槍が突き刺さる。秋葉の魔法だ。
 脇腹に刺さったファイアランスが相当効いているようでアイツはこの戦いで苦悶の表情をつくる。
 イノシシに表情があるのかと聞かれれば分からないと言わざるを得ないが、私にはそう見えた。


「ブモォォォォォォォッ!」


 くっ、アイツの圧力が更に増す。
 何故だ、何故私を押し込める。
 私の方が能力が高いのに何故押される?


「クソッ!負けるか!」


 言葉が汚いのはこの際どうでも良い。
 私は押されるわけにはいかないのだ。
 私の後ろには守るべき仲間がいるのだ!


「大丈、夫、みん、な、いる」


 私の肩に手を置いた朱雀さんが私に囁く。
 何故だろう、片言の彼の言葉が凄く安心する。
 彼の手から力が送られてくるような錯覚を覚える。
 とても暖かくそして優しい力、安心できる力だ。
 気付くと私はライオットシールドを押していた、イノシシを押し返していたのだ。


「ハッ!」


 秋葉が与えた傷口に遥が刀を突きさす。
 一瞬、ビクッとしたイノシシは数秒後に力なくその場にへたり込む。
 どうやら刀が心臓を貫いたようだ。


「皆さん怪我はないですか?」


 杏子が皆に怪我の確認する。
 本人は否定しているけど杏子は細やかな気遣いができる。
 最初は朱雀さんの通訳的なポジションだったが、徐々に頭角を現してきた。
 今では朱雀さんの秘書兼影のリーダーだ。


「皆~、ドロップアイテムを見てみてよ!」


 考え事をしている間にリトルボアは消えてなくなり、代わりにドロップアイテムを残した。
 ドロップアイテムを確認していた秋葉が何か見つけたようだ。私も確認してみる。




 銘: リトルボアの肉
 説明: やや歯ごたえがある食用の生肉。赤味が多いのでヘルシーである。


 銘: リトルボアの皮
 説明: 鞣し加工することで丈夫で軽く耐靱性のある防具の材料となる。


 銘: リトルボアの牙
 説明: 短剣や牙のアクセサリーに加工ができる。




 朱雀さんの【可視化】は便利だな。
 アイテムだろうと魔物だろうと詳細が分かるのは非常に便利で助かる。
 ダンジョン内や森が出来る前の街中で出会った魔物からは魔石はドロップしていたけど、まさか食肉や防具に武器の材料がドロップするなんて無かったはずだ。
 まぁ、今まで出会った魔物はゴブリンやゾンビ、それに犬とかだったから食べられる物がドロップしても考えてしまうけど。


「獣型の魔物は私たちに恩恵を齎してくれる~ってか?」


 秋葉がおどけた感じで呟く。
 でも森は獣型の魔物が多く生息していそうだから色々な素材が入手できるのかも知れない。


「そんじゃぁ~、色々と狩ってみようよ! 他にも色々ドロップするかもよ?」


 確かに秋葉の言う通りかも知れない。


「『セリヌ草』は探さないの?」


 詩織が秋葉に疑問を投げる。
 それもそうか、私たちは『セリヌ草』を探しにきたのだから。
 私はどうしたいか……朱雀さんなら何て言うだろうか?


「ハーレムリーダー、どうしようか?」
 秋葉は朱雀さんをハーレムリーダーという。
 確かに女性の中に一人だけ男性だから傍から見たらハーレムに見えるだろう。
 しかしパーティーメンバーの秋葉がそれを言うのはどうかと思う。


「秋葉、いい加減ハーレムリーダーは止めなって」
「だって~」
「だって~、じゃない!」
 ピシリッと言ってやった。
 まったく、秋葉は調子に乗るから。


「それはそうと、朱雀さん、どうします?」
 遥はハーレムリーダーというところはどうでもよさそうだ。
 自分がハーレムの一員に数えられているのが分かっているのだろうか?
 私は構わないが、詩織や遥はアウトだろう。


「『セリヌ草』、探す、ついでに、獣、倒す」


 朱雀さんの考えはいいとこ取りだった。


 

コメント

  • 茶々丸

    更新楽しみにしてます

    0
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