絶望の世界で育成士が生き残れるのか!?

なんじゃもんじゃ

12・強姦者

 


 初めてダンジョン探索を行ってから三回目の朝を迎えた。
 今日は神歴一年五月一七日。


 今日は二回目のダンジョン探索をしようと朝一でギルド(ダンジョン管理組合カカミガハラ支部)を訪れている朱雀たち。
 そして前回同様美人受付嬢が笑顔で朱雀たちを迎え入れてくれた。


 初日は戦闘時に保穂の被弾回数がそれなりに多いと気付いた。
 そのため翌日と翌々日はその確認と対策を考える時間にあてたのだ。
 そして今日、再びダンジョン探索をする為にギルドの扉を潜ったのだった。


 保穂の被弾対策として先ずは戦闘時の受け持ちの変更だ。
 当初、戦闘時の魔物のヘイトは保穂が一身で引き受けることになっていたが、魔物が三体以上の場合に限って遥が一体を引き付けるように変更した。
 一体なら前衛職の遥であれば捌けるだろうし、何より保穂の負担が減るからだ。
 そして四体、五体と魔物が現れた場合はできるだけ先制攻撃で敵戦力を減らすことも戦術に取り入れた。
 幸いなことに朱雀たちのパーティーには杏子のような斥候職が居るし秋葉の魔術と朱雀の弓で魔物へ奇襲を仕掛けるのがし易い。


 他には連携の再確認と朱雀の技能である【育成】で保穂の体力の底上げをした。
 体力を60まで上げたので被弾しても怪我を負いにくくなったはずだ。
 その他には杏子の俊敏、秋葉の魔力、遥の武力も上げておいた。
 これで殲滅速度を上げ結果的に保穂への被弾数を削減するつもりでいる。
 この【育成】だが、残念なことに朱雀自身を強化することはできなかった。
 それどころか、朱雀だけ各種の能力値が未だに把握出来ていない。






 氏名: 神流川朱雀かんながわすざく
 職業: 育成士Lv14
 情報: 新人類、ランク1、男、28歳
 固有技能: 習熟I
 正技能: 契約II、経験値共有II、育成II、強化II
 副技能: 弓術II
 育成ポイント: 278GP






 氏名: 茜部杏子あかねべあんず
 職業: 盗賊Lv9
 情報: 新人類、ランク1、女、16歳
 固有技能: 加速I
 技能: 隠密II、開錠I、地形把握I
 契約者: 神流川朱雀
 武力35
 体力27
 知力18
 器用37
 俊敏53
 魔力14
 魅力16


 @地形把握 盗賊レベル9解放/周囲の地形を把握し、一度訪れた場所では迷子になりにくい。






 氏名: 石津詩織いしづしおり
 職業: 聖女Lv10
 情報: 新人類、ランク1、女、8歳
 固有技能: 祈りII
 技能: 聖治癒術II、聖浄化術II、聖結界術I
 契約者: 神流川朱雀
 武力11
 体力11
 知力44
 器用15
 俊敏17
 魔力49
 魅力30


 @聖結界術 聖女レベル10解放/術者の許可なく出入りできず物理的・魔法的干渉を受けることのない結界を築く。






 氏名: 藤原保穂ふじわらやすほ
 職業: 撲殺戦士Lv8
 情報: 新人類、ランク1、女、21歳
 固有技能: ウォーサークルI
 技能: 撲殺術II、盾術II
 契約者: 神流川朱雀
 武力42
 体力60
 知力15
 器用20
 俊敏21
 魔力8
 魅力16






 氏名: 藤原秋葉ふじわらあきは
 職業: 火魔術師Lv8
 情報: 新人類、ランク1、女、18歳
 固有技能: 魔力増加I
 技能: 火魔術II、魔力操作I
 契約者: 神流川朱雀
 武力10
 体力12
 知力37
 器用22
 俊敏23
 魔力52
 魅力18






 氏名: 鴻池遥こうのいけはるか
 職業: 剣闘士Lv8
 情報: 新人類、ランク1、女、17歳
 固有技能: 剣舞I
 技能: 剣闘術II、体術II
 契約者: 神流川朱雀
 武力53
 体力35
 知力21
 器用29
 俊敏30
 魔力11
 魅力21






 皆のステータスの確認をした時に気付いたのが、明らかに朱雀のレベルアップが早いことだ。
 この時は何故か分からなかったが、よくよく考えてみると【経験値共有】の効果ではないかと思い至る。


 この【経験値共有】は契約者の得た経験値を契約者本人は百パーセント得られ、それ以外に朱雀に六十パーセントの経験値が入るのだ。
 そしてダンジョン内ではパーティーメンバーが得た経験値はパーティーメンバーで均等配分されるので仮に六十の経験値を持っている魔物を倒した場合、パーティーメンバーはそれぞれ十の経験値を得る。
 だが、朱雀だけは他の五人から六十パーセントの経験値が追加で入って来るので自分の経験値である十と【経験値共有】が集めてきた経験値六×五人分=三十の経験値が得られ都合四十の経験値を得る計算になる。
 他のパーティーメンバーの四倍の速さで経験値が溜まっていくという経験値チートとなっているのだ。


 朱雀にとって四倍の経験値は非常に有難いものだった。
 しかもこの効果は契約者が増えれば増えるほど朱雀の得られる経験値が増えるので経験値チートがドンドン成長するのだ。


 但し問題もある。
 ダンジョン内には六人パーティーでしかはいれないのだ。
 つまりこれ以上はパーティーメンバーを増やすことができないという弊害がある。
 しかし打開策もある。それは魔物との【契約】だ。
 魔物はパーティーメンバーにはカウントされないと受付嬢から聞いている。
 だが、朱雀が魔物と【契約】できるかは不確定要素が多いのも事実であった。


 更に杏子と詩織が新しい技能を覚えた。
 杏子の【地形把握】は探索者には非常にありがたい技能で杏子がいることで道に迷うことはないだろう。
 同じところを何度も探索しなくても済むのも探索効率が上がって助かる。


 詩織の【聖結界術】、これは簡単に言うと絶対防御的な結界を張る技能なのだが、結界の出入りは詩織が都度許可をする必要がある。
 試しに使ってみて分かったことだが戦闘で保穂の周りに結界を張ると攻撃は結界に弾かれ受けないが保穂の攻撃も結界に弾かれるのだ。
 しかも結界は四角形の立方体でしか張れないし目にも見えないのでパーティー全体で見れば攻守共に邪魔になってしまう。
 ピンチに陥った時に使うのが良いだろう。


 山側に向かって進むとゴブリンと何度か戦闘し今回までの改善点を確認することができた。
 結果からいうと改善策はそれなりに効果を出している。
 三体目を遥が引き付けることで保穂の被弾数は目に見えるほどに減ったのだ。
 更には朱雀の育成士がレベルアップして十五になった。
 そしてとうとうあの技能を覚えたのだった。




 氏名: 神流川朱雀かんながわすざく
 職業: 育成士Lv15
 情報: 新人類、ランク1、男、28歳
 固有技能: 習熟I
 正技能: 契約II、経験値共有II、育成II、強化II、可視化I
 副技能: 弓術II、矢弾命中補正I
 育成ポイント: 302GP




 @可視化 育成士レベル15解放/対象のステータス詳細が確認できる。


 @矢弾命中補正 弓士レベル7解放/弓矢による攻撃の命中率に補正。


 【可視化】はファンタジー系の物語では定番となっている鑑定系の技能だ。
 試しに朱雀自身のステータスを確認したら今までステータス画面で見ることができていた情報以外に各種能力まで確認できた。




 武力25
 体力23
 知力37
 器用46
 俊敏35
 魔力25
 魅力103




 育成士と言うくらいなので魅力くらいはは高いだろうと思っていたが、朱雀の魅力値は突き抜けていた。
 他には恐らく【弓術】の恩恵を受けているであろう器用がやや高いがそれ以外は見るべき処がない散々な状況である。
 しかし【可視化】によって新人類だけでなく、魔物の能力が確認できるようになったことは非常に大きな出来事である。
 それだけで朱雀たちの探索は明らかに安全性が増すはずだ。


「前方百メートル、ゴブリンが五体です!」


 朱雀が考え込んでいたら杏子が索敵から戻ってきた。


「了解、今まで通り行こう!」
「少し待って下さい」


 保穂が戦闘モードに移行しようとした時、杏子から待ったがかかる。


「ん?どうしたの?」
「恐らくですが、五体中三体は上位種です。一体は片手剣、一体は短剣、一体は弓をもっています。他の二体は棍棒なので今までのゴブリンだと思いますけど」


 いつかは来ると思っていた上位種との遭遇。
 ただのゴブリンからどの程度の能力がアップがされているのか不安だ。
 しかし今の朱雀には【可視化】がある。
 そのことを話すと即座に反応したのがある意味予想通りの秋葉だった。


「やっぱりハーレムリーダーはこうでなくっちゃっ!いたっ!」


 朱雀が思わずチョップしたのも無理はないと皆が思った。
 そんな一幕もあったが、朱雀がゴブリンの能力を確認すると提案すると朱雀に能力確認が一任される。


 朱雀は杏子と一緒にゴブリンが見える位置まで慎重に移動する。
 腰を低くし草むらを進むと五体のゴブリンが視界に入ってくる。
 ゴブリンも草むらの中におり、背が低いこともあり見づらい。
 しかし【可視化】の射程であった。




 職業: 強姦者Lv10
 情報: ゴブリン、ランク1、♂
 固有技能: 強姦術I
 武力28
 体力26
 知力10
 器用22
 俊敏19
 魔力8
 魅力3




 職業: 戦士Lv14
 情報: ゴブリンソルジャー、ランク1、♂
 固有技能: 強姦術I
 技能: 剣術I
 武力46
 体力40
 知力25
 器用38
 俊敏37
 魔力22
 魅力19




 職業: 弓士Lv14
 情報: ゴブリンアーチャー、ランク1、♂
 固有技能: 強姦術I
 技能: 弓術I
 武力41
 体力38
 知力30
 器用45
 俊敏40
 魔力23
 魅力18




 職業: 盗賊Lv14
 情報: ゴブリンシーフ、ランク1、♂
 固有技能: 強姦術I
 技能: 短剣術I、隠密I
 武力37
 体力38
 知力38
 器用42
 俊敏46
 魔力18
 魅力17






(ただのゴブリン、ヤバいだろ!もろ犯罪者じゃん!職業、強姦者は可哀相過ぎる。ファンタジー系の定番とは言え、ゴブリンの扱いが酷いぞ。まだゴブリンソルジャーたちの方がちゃんとした職業に就いているだけマシだけど固有技能にはしっかりと【強姦術】があるんだな)


 そして確認した強姦ゴブリンの能力で『武力』と『体力』が朱雀とほぼ同じだったことに凹む朱雀。
 気を取り直してゴブリンたちに見つからないようにゆっくり後退し皆のところまで戻る。


「ゴブリン2、ゴブリンソルジャー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンシーフ」


 ゴブリンの種族を聞き皆がやっぱりと納得する。


「ソルジャー、【剣術I】、アーチャー、【弓術I】、シーフ、【短剣術I】、ゴブリン……」
「ゴブリンは?」
 言いよどむ朱雀に杏子が先を促す。


「職業、『強姦者』、戦闘、技能、ない」
「うわ、予想を上回る職業ですね」


 声を上げたのは杏子だった。
 杏子は『強姦者』にかなり引いている。
 あまり分かっていない詩織以外の三人も同じようにドン引きだ。


「真っ先に倒すべきはソルジャーとアーチャーかな? 危険度からすると遠距離のアーチャーのような気がするけど、皆はどう思う?」
「じゃぁ、アーチャーは私が担当するね。一番射程が長い私が射程ギリギリからファイアランスをぶっ放すからハーレムリーダーは矢でソルジャーをお願いしますね」


 秋葉は朱雀をまだハーレムリーダーと言う。
 朱雀は保穂に注意をしてもらおうと見たがニコニコして秋葉と朱雀を見ていた。
 朱雀はその笑顔の意味を知りたいと思いため息を吐く。


「ソルジャーは朱雀さん、アーチャーは秋葉さん、シーフはどうしましょう……」
「シーフは私が受け持つ」
「遥が?私の方が良いんじゃないか?」
「シーフは速いから一対一の方が良いと思う」
「……分かった、シーフは遥に任せるよ」


 こうして遥がシーフを受け持ち、ゴブリン二体は保穂が受け持つことになった。
 これで全ての受け持ちが確定したので朱雀たちはゴブリンたちに気付かれないように進み朱雀の弓矢の射程まで移動する。
 朱雀の弓矢の射程まで近づいたのはその射程であれば秋葉の魔術も届くからだ。


「いくよ?」


 秋葉が声を殺し皆に戦闘開始を宣言する。


「ファイアランス!」


 秋葉の魔術が発動すると朱雀も矢を放つ。
 二人の攻撃がほぼ同時にゴブリンアーチャーとゴブリンソルジャーに命中する。
 それを合図に保穂と遥が残った三体に向かって走り出す。
 三体のゴブリンも当然朱雀たちに気が付くがいきなり二体が倒れたことで混乱をしているようだ。
 しかしそれでも上位種であるゴブリンシーフは立ち直りが早く自身に真っすぐ向かってくる遥に殺気だった視線を固定する。


「はぁぁぁぁぁぁっ!」


 遥がゴブリンシーフに刃を振り抜く。
 しかしゴブリンシーフもそれを黙って受けるわけもなく、右に飛びのき躱す。
 遥は両足を踏ん張り急停止するとクルリとゴブリンシーフの方に向き今度は一足飛びにゴブリンシーフに接近すると突きを放つ。
 流石のゴブリンシーフも遥のその動きについて行けずに胸を貫かれる。


 遥がゴブリンシーフと戦っている同時刻、秋葉のファイアランスを受けて大ダメージを受けたゴブリンアーチャーが悶え苦しんでいた。
 そんなゴブリンアーチャーに音もなく忍び寄る影があった。
 その影がゴブリンアーチャーに触れたと思ったらゴブリンアーチャーの首から血が勢いよく吹き出した。


 次は矢が刺さって痛がるゴブリンソルジャーに影が触れると同じように首から血が噴き出す。
 その二体のゴブリンにトドメを刺したのが【隠密】を発動させた杏子である。
 杏子はこの【隠密】によって非常に高い暗殺能力を持っていると言えるだろう。


 更に同時刻、保穂が引き付けた二体のゴブリンの一体は頭から血を流していた。
 これは保穂のライオットシールドによる攻撃を頭に受けたからだ。
 ゴブリンにとって幸いだったのはライオットシールドは頭を掠っただけだったので一命はとりとめたが、それでも傷を負い出血してしまったのだ。


「落ちなっ!」


 保穂が鉄パイプを振り下ろすと怪我をしていないゴブリンの肩に命中し骨を砕く音とともに感触が伝わってくる。
 そのゴブリンを蹴り上げ頭から血を流しているゴブリンの棍棒をライオットシールドで受け止める。


「邪魔なんだよ!」


 保穂は容赦なく鉄パイプを横薙ぎゴブリンの脇腹にめり込ませる。
 ゴブリンはろっ骨が数本折れ肺に刺さったようで口から血を吐きうずくまる。
 それを見逃さない保穂は鉄パイプをゴブリンの頭部に振り下ろす。
 傍から見たら容赦ないが、ここで手を緩めたら自分たちが怪我をすることを保穂は分かっているのだ。


 先ほど保穂に蹴り上げられたゴブリンはフラフラと立ち上がったところを杏子によって首を切り裂かれ絶命している。
 杏子もゴブリンには容赦がない。
 最初の出会いが悪かったのだろうと朱雀は思うのだった。


 五体のゴブリンが消え去ると詩織のヒールが保穂を癒す。
 二体のゴブリンを相手した時に一度だけ棍棒を受けてしまったのを詩織は見逃していなかったのだ。
 それを最後に朱雀たちは戦闘モードを解除する。
 そして秋葉はすかさずドロップアイテムを確認する。


「あ~ゴブリンの剣があるよ。それにゴブリンの短剣もあるね」


 それ以外はゴブリンの魔石だけだったので今まで通りだが、剣や短剣がドロップアイテムとして手に入るのは六人にとって新鮮なことだった。


 

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