絶望の世界で育成士が生き残れるのか!?

なんじゃもんじゃ

09・習熟

 


 神歴一年五月七日。


 ダンジョン探索に向けて二人の契約者を増やした朱雀は残りの一人を見つけるべく動き出す、ことはなく、そこは杏子や藤原姉妹に丸投げしてアーチェリーの練習を行っていた。
 最後のパーティーメンバーに要望するのは、前衛のアタッカーである。
 中後衛は秋葉の『魔術師』、詩織の『聖女』、そして朱雀が練習中の弓がある。
 それに比べると前衛は杏子の『盗賊』と保穂の『撲殺戦士』の二人で、杏子は直接的な攻撃より奇襲が得意だ。
 足りないのは前衛のアタッカーなのは明らかである。
 ただ、朱雀自身が戦闘向きではない、どちらかと言えば戦闘では役立たずなのであまり贅沢は言えなかった。


「随分と良くなったね」


 後ろから声がかかったので朱雀が振り向くと自衛隊員の新館にいだてが笑顔で立っていた。
 新館は朱雀にアーチェリーの使い方を教えてくれた人で以前はアーチェリーでオリンピックの強化選手になったほどの人だ。
 そして職業は『弓闘士』で恐らく『弓士』より上位の弓系職業だろう。


「新館、さん、おかげ、的、近く、当たる、ありがとう、ござい、ます」
「まぁ頑張ってよ、今は一人でも多く戦闘ができる人が欲しいからね」


 朱雀の片言には既に慣れたとまでは言わないが、ある程度の意味はくみ取れる。
 裏表がない人のようで朱雀を素直に応援してくれている。
 それなら銃をくれと言ったこともあるが銃は無理だた。


「昼からはダンジョン探索の説明会があるけど来るんだろ?」
「はい」
「うん、頑張ってくれ。でも無理はダメだよ。生きていてこそ人生を楽しむことができるんだから」
「はい」


 これで会話になっているのだ。
 新館も朱雀との会話に多くを望まない。


 昼前まで練習をして昼食を摂ったら自衛隊のダンジョン説明会が開催された。
 説明会に現れた民間人は朱雀たちを含め凡そ百名。
 この全員がダンジョンに向かうわけではなく説明を聞くだけで終わる人もいるだろう。


 自衛隊員から色々と説明があったが、簡単に言うとダンジョンでは朱雀たちの生活に必要な食料やアイテムが入手できる。
 そういった物を持って帰ると同時にダンジョンを踏破した時に何があるのか、何が起こるのかを確認してほしということだった。
 このまま基地で暮らすにしても物資は有限なのでダンジョンを探索して物資の補給ができるのであれば、しなければいつかは物資不足で首が回らなくなる。
 今ならまだ余裕があるので、今の内にダンジョンの奥へ行けるようにしておけばいざと言う時に役にたつだろう。


「私たちをダンジョンに送って自衛隊員は何をするのか?」
「我々自衛隊もパーティーを送ります。ただ、全員でダンジョンに向かうと周辺の警備や他の民間人の捜索・保護もできませんので部隊は分けることになります」


 この基地の自衛隊員だって数十万人といるわけじゃないので手分けしてできることを行う。
 寧ろ周辺の警備や民間人の捜索・保護はダンジョン探索よりも優先度が高い。
 そうなるとダンジョン探索に回せる人手は限られるので民間人に協力を要請する判断に至ったそうだ。


 それに対し誰かが自衛隊がダンジョン探索をして周辺の警備や民間人の捜索・保護を民間人に任せれば良いのでは?という声があがった。
 これには民間人からも反対の声が多くあがる。
 朱雀もその一人だが、素人に警備されるなんて夜もオチオチ寝られなくなるというのがその理由だ。
 それに捜索なんてヘリコプターを飛ばした方が確実で、民間人が対応できるとはとうてい思えない。
 多少のすったもんだはあったが、概ねスムーズに進んだ説明会を終え、杏子が最後のパーティーメンバー候補を朱雀に紹介する。


「彼女ははるかさんって言います」
「神流川朱雀、『育成士』、よろしく」
鴻池遥こうのいけはるかです。職業は『剣闘士』です、できればパーティーに入れて下さい」


 朱雀の片言をスルーし、自己紹介をする少女。
 遥は他のメンバーと既に顔見知りで後は朱雀が了承すれば晴れて六人パーティーの完成となる。
 セミロングのやや茶色がかった黒髪を後ろで束ねている遥は背がそれほど高くない。
 おそらく百五十センチメートル程度だろう。
 そんな小柄で華奢な見た目の彼女が剣闘士などという武闘派の職業なのが朱雀には信じられなかった。


(てか、何で皆女の子なわけ?杏子ちゃんに丸投げしたのは俺だけど男が俺一人ってのはかなり肩身が狭い思いだ。このまま了承すると秋葉ちゃんがまた「ハーレムぐふふふ」って言いそうだよ……)


「遥さんを入れると女性五人に男性は朱雀さん一人になります。構いませんか?」
「大丈夫」
(うが~、大丈夫じゃないよ~。何でそんなこと言うかな~俺)
「有難う御座います。これからは仲間なんで私のことは遥と呼んで下さい」
「よろしく、遥、ちゃん」


 希望通りの前衛アタッカーなので断る理由はない。
 既に杏子が朱雀の説明をしていたこともあり話はスムーズに進んだ。
 そして朱雀の技能である【契約】の説明を行い遥と【契約】する。


 揃った六人パーティーはバランスの良いパーティーとなった。
 前衛タンクが『撲殺戦士』の保穂、前衛アタッカーが『剣闘士』の遥、斥候が『盗賊』の杏子、ヒーラーが『聖女』の詩織、後衛アタッカーが『魔術師』の秋葉、そして補助支援が『育成士』の朱雀となる。
 こうして見ると朱雀以外は非常に期待できるバランスの良いパーティーになった。




 氏名: 鴻池遥こうのいけはるか
 職業: 剣闘士Lv6
 情報: 新人類、ランク1、女、17歳
 固有技能: 剣舞I
 技能: 剣闘術I、体術I
 契約者: 神流川朱雀


 武力43
 体力31
 知力20
 器用27
 俊敏28
 魔力11
 魅力21


 @剣闘士 剣の扱いに長けた闘士。体力がやや低いが武力は高い。


 @剣舞 踊るように剣を振るうことで常時の数倍もの攻撃力を発揮する。


 @剣闘術 剣闘士レベル1解放/剣による攻撃に補正。


 @体術 剣闘士レベル1解放/攻防時の体の動きに補正。






 ダンジョン探索の説明会が終わってから数日は各メンバーの特徴把握や連携の訓練をすることになった。
 これには朱雀の弓がまだ実戦で使えるものではないという判断もあった。
 六人は朱雀を除きできるだけ一緒に行動し、連携の訓練を行う。
 朱雀だけは一人で弓の訓練を黙々と続ける。
 せめて的に連続で当てるだけの技量は必要である。
 その程度の技能がなければ怖くて人の後ろから弓を射ることなどできない。
 そして何の確認もしない内にいきなりダンジョンに挑戦するほど朱雀たちは命知らずではなかったのだ。


 そんなある日、朱雀がいつものように黙々とアーチェリーの早朝練習をしていたらいきなり職業システムのアナウンスが現れた。


【固有技能【習熟】が発現しました。それにより技能【弓術】を覚えました】


(は?何だと!?ちょっと待て……)






 氏名: 神流川朱雀かんながわすざく
 職業: 育成士Lv11
 情報: 新人類、ランク1、男、28歳
 固有技能: 習熟I
 正技能: 契約II、経験値共有I、育成I、強化I
 副技能: 弓術I
 育成ポイント: 433GP




 @習熟 職業に就いていなくても努力次第で技能習得が可能となる。


 @弓術 弓士レベル1解放/弓矢による攻撃に補正。






 朱雀は目の前に表示されている自分のステータスを見て放心する。
 今まで『???』だった固有技能に【習熟】表示され、技能の欄が正副がある。
 しかも副技能に【弓術】があるのだ。
 自衛隊員を含め、少ない友好関係にある人が教えてくれた情報にない副技能。
 そして朱雀が望んでやまなかった戦闘の技能である【弓術】。


(ち、……チートきたーーーーーーーーーーーーーーっ!)


 数分間、朱雀は嬉しさのあまりその場で飛び跳ねて喜ぶ。


「はぁ、はぁ、やったぞ!これで俺も戦える!」
(あれ?【弓術】の説明文に『弓士レベル1解放』ってあるけど、俺は弓士じゃないんですけど?)


 色々な角度から考えてみたが、技能と職業の関連が分からなかった朱雀は考えるのを止めた。


 落ち着いたところで、朱雀は矢を連射する。
 そのどれもが的に命中した。
 今までは的に当たることさえ数回に一回程度だったので、明らかに今までの命中率を凌駕している。
 間違いなく副技能の【弓術】による補正がかかっていると見てよいだろう。
 ただし、的には当たるが連続でど真ん中に命中させるほどの精度はない。


 この【習熟】という固有技能があれば朱雀はもっと役に立てる。
 早く杏子、詩織、保穂、秋葉、遥に【習熟】について話したい。
 そうしたら秋葉が絶叫して倒れそうだな、などと想像を膨らませる。
 事実、秋葉は朱雀から話を聞いて盛大に倒れた。
 しかもその時はスカートだった為にスカートがめくれてパンツがまる見えとなったのだ。


(女子高生がクマさんパンツって……)


 目をそらしたが、しっかりと見てしまった。
 不可抗力である。


「しかし技能の欄に副技能が現れるとはね、『育成士』なのに弓も扱えるなんて秋葉じゃないけど反則だね」
「そうだよ、反則だよ、チートだよ!」


 詩織はよく分からないといった感じだったが、他の五人は朱雀のチートを歓迎した。
 朱雀が戦力として数に入ったのは喜ばしいことだった。
 弓の腕も【弓術】を取得したことで以前より安定している。
 六人は数日の連携訓練を経てダンジョンに挑戦するのだった。


 

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