絶望の世界で育成士が生き残れるのか!?

なんじゃもんじゃ

05・防衛戦

 


 大量のゾンビの姿を確認してから朱雀と杏子は生きた心地がしなかった。
 当初は此方に寄ってくる気配がなかったので暫くは交代で休憩することにしたが、その時はやって来たのだ。
 午前一時五八分、二時までもうすぐという時間帯でゾンビはとうとう朱雀たちが隠れるコンビニエンスストアーのガラスを叩き始めたのだ。


 その光景はまさに死者が生者を地獄に引き込もうとするほど恐ろしい光景に見えた。
 しかし朱雀と杏子も黙って殺されるのを待っている訳ではない。
 交代で休憩しながらゾンビたちが襲って来た場合の準備をしていたのだ。
 先ずはゾンビが嫌うはずの光を発生させる。この店の中にある物で光を発すると言えば懐中電灯で、二人はLEDの懐中電灯に電池を入れていた。
 そもそも此処はコンビニエンスストアーなので電池の在庫はそこそこある。
 だから一晩だけなら何とかなると思っている。


 それから消毒用にと考えていたアルコール類、これはそのまま消毒液として使えるならアンデッドに効果があるんじゃね?的なノリで朱雀が考えたものだ。
 そしてアンデッドと言えばお化け、お化けと言えば清めの塩!というノリで塩も用意した。
 コンビニに聖水的なアイテムが無い以上、朱雀たちの心の拠り所はこういったアイテムだった。


 コンビニの窓ガラスはそれなりに丈夫のようで何とか持ち堪えているがそれも時間の問題だろう。
 そしてそのガラスに罅が入ったのを合図に朱雀と杏子ちゃんがLED懐中電灯を点灯させる。


「グルゥゥゥゥゥゥ」


 予想以上に効果があったようでLED光の当たったゾンビは苦しみだした。
 しかしゾンビの苦しみはそれ程大きくはないようで苦しんではいるが、ガラスへの攻撃は続く。
 幸いゾンビの動きは緩慢なのでガラスを叩く腕も大した攻撃力を持っていないようでガラスは何とか持ちこたえている。


「ゾンビって爪とか牙に毒があると想定するべきですね?」
「うん、正し、い、と、思う。毒、が、無く、ても、確認、できない、ある、と、思う、良い」


 そして朱雀と杏子が話をしているとパリンという音と共にガラスが割れその破片が床に落ちて更に細かく割れる。
 ここからが本番だと朱雀は集中力をマックスに引き上げる。


 朱雀は杏子とアイコンタクトをとると塩を握った手を大きく振り上げてからオーバースローでゾンビに投げつける。
 塩は細かく飛散し複数のゾンビにふりかかると、ゾンビたちはかなり苦しそうにし後ずさりする。


「よし、効果あるぞ!」
「次は私ですね」


 朱雀の塩攻撃の効果を確認し直ぐに杏子がアルコールを投げつける。
 と言っても瓶や缶をそのまま投げているわけではなく、瓶や缶の方が殺傷力がありそうだが割れて中身が飛散する保証はないのでアルコール類はあらかじめ栓を開けてビニール袋に移し替えておいたものだ。


「グルゥグラァァゥゥゥゥゥ」


(おお、アルコールの方が効果が高いぞ!アルコールがかかった部位から煙のようなものを上げてゾンビたちが苦しんでいるよ。あ、ゾンビが倒れた……消えた!?)


「アルコール、スッゲー!」
「予想以上でした!」


 朱雀は杏子と抱き合って喜んだ。
 そう文字通り抱き合って喜んでいるのだ。


(あぁ、胸の柔らかい感触が……い、いかん!ゾンビたちはまだうようよしているんだ、次の手段を!)


 朱雀は後ろ髪を引かれる思いで杏子を引き離し近付いてくるゾンビにアルコール類を投げつける。


「次、火、確か、める。杏子、ちゃん、寄っk「キャァァァァァァ」へ?」


 朱雀と杏子ちゃんが次の作戦について簡単な打ち合わせをしていると後ろから鼓膜を破りそうな悲鳴が聞こえた。
 後ろにいるのは詩織しかいないのでこの悲鳴は詩織のものだろうと直ぐに分かる。


 朱雀と杏子はほぼ同時に後ろを振り向き詩織を視線に捉える。
 暗くて分かりずらいが詩織はゾンビを見て脅えているのが分かる。
 無理もない、真夜中にゾンビお化けを見たら詩織でなくても悲鳴を上げるのは普通だ。


「こっちは何とかするから詩織ちゃんを見てやって」
「はい!」


 焦った朱雀は普通の口調にもどっていた。
 杏子も焦っていたためか、朱雀の口調には気付かずにいる。


 朱雀は詩織からゾンビに視線を移す。
 ちょっと目を離した隙にゾンビが再び近づいて来ていたので朱雀は慌てて持っていた塩の袋をぶちまけた。
 流石に塩の量が多かったようでゾンビが一体消えていった。
 それでもまだ三体が近くにいるので置いてあったアルコール袋を拾い上げて投げつける……前にゾンビが苦しみ消えていく。


 朱雀は手に持った投げる前のアルコール袋から視線を外し後方を見る。
 そこには杏子と詩織の姿があり、詩織は我を失って自分の周りにあった物を所かまわず投げていたのだ。
 そしてその一つがアルコール袋で上手いことゾンビに当たったのだ。
 そんな後方を気にしながら朱雀はゾンビに視線を向ける。


 そして杏子が何とか宥めるまで詩織の発狂モードは続いた。


「……やっと大人しくなったな……」
「何とか落ち着いたようです」


 詩織を抱きかかえている杏子はやや疲れた表情をしている。


「ん? もしかして……」
「そのようです……」


 朱雀と杏子は痙攣している詩織を見つめてある事実に行きあたる。
 詩織もまた朱雀たち同様に新人類になる試練インストールを受けているのだろうと。


 詩織が痙攣している間、ゾンビたちは接近してこなかった。
 詩織が色々投げている間に朱雀が雑誌や新聞紙に火を着けて店先に放り投げたからだ。
 ゾンビは朱雀たちの予想通り火が苦手のようで火から離れるように遠巻きに朱雀たちが立て篭もるコンビニエンスストアーを包囲している。
 しかし雑誌や新聞紙では炎が直ぐに消えてしまうのは想定外で当初の予定よりかなり早いペースで雑誌や新聞紙が消費されていく。


「取り敢えず後一時間程度は雑誌や新聞紙でもたせられると思うけど、その後はかなり厳しいと思うから今の内に休憩しようか」
「そうですね、詩織ちゃんも落ち着くとは思いますが暫くは様子を見ないとですし、できれば職業も確認したいですね」
「休憩しながら俺たちの職業レベルも確認しようか」


 朱雀たちは火を絶やさないようにしながら休憩と職業レベルの確認をすることにした。




 氏名: 神流川朱雀かんながわすざく
 職業: 育成士Lv4
 情報: 新人類、ランク1、男、28歳
 固有技能: ???
 技能: 契約I、経験値共有I、育成I
 育成ポイント: 86GP




 レベルが4に上がっている。それ以外は育成ポイントが86GPも溜まっていた。
 今、朱雀が行うことは戦力強化の一択だろう。
 そうとなれば杏子の能力を上げようかと考えたが、詩織も新人類となったのだから詩織の職業を確認してからでも遅くはないかと思い至る。


 痙攣から復活した詩織が目を開けるのを待ち、職業について確認をする。
 詩織からの答えは、聖女。


(わーおっ!来ました回復職!そして対アンデッドのスペシャリストの予感!)


 朱雀ははやる心を抑えできる限り細かく詩織ちゃんの職業や技能について聞いた。




 氏名: 石津詩織いしづしおり
 職業: 聖女Lv1
 情報: 新人類、ランク1、女、8歳
 固有技能: 祈りI
 技能: 聖治癒術I、聖浄化術I




 @聖女 神聖なる神の巫女、その癒しは他者の追随を許すことはないだろう。物理攻撃力や物理防御力は皆無に等しい。


 @祈り 神聖な力を増幅させ魔力の消費を抑える。


 @聖治癒術 聖女レベル1解放/怪我を治す術。通常の【治癒術】よりも効果が高い。レベルが上がるにつれ回復速度や回復量が上がり更に病気も治せるようになる。


 @聖浄化術 聖女レベル1解放/毒や麻痺などの状態異常を治す術。通常の【浄化術】よりも効果が高い。レベルが上がると呪いなども解除できるようになる。また、アンデッドの浄化作用もある。




(キターッ!【聖浄化術】が対アンデッドの切り札となる!これで俺たちの生き残る可能性がグンと上がった!)


 正直に言うとアルコール類の在庫が少なくなってきたし、雑誌などの燃える物もあまり多くない。
 こんな状況下で詩織のこの職業は朱雀たちにとって生き残るための切り札となった。


「詩織ちゃん、俺と契約をしてくれないかな?契約っていっても俺に敵対できない以外は何も制約はないから、良いかな?」


 暫し考えた後コクリと頷く詩織。
 朱雀は、早速【契約】を行使し、更に【契約者育成】を行使する。
 その対象は言うまでもなく詩織である。


【武力9 +-
 体力8 +-
 知力23 +-
 器用9 +-
 俊敏10 +-
 魔力31 +-
 魅力20 +-


 育成ポイント: 86GP


 ≪決定/終了≫


 能力値を上昇させるのにGPが必要になります。+-でポイントを振り分けて下さい】






(流石は聖女様!魔力値が明らかに突き抜けている。それに比べて武力や体力は低いが、それは俺だって同じようなものだ)


 聖女である詩織の技能である【聖治癒術】や【聖浄化術】は恐らく『魔力』を消費するものなんだろう、つまり『魔力』を伸ばすことで対アンデッド技能である【聖浄化術】が多く使用できると予想できる。
 朱雀は詩織の『魔力』の強化を優先させるべきだろうと結論づけ能力を触ろうとする。


 しかしここで朱雀の本能が何か違和感を感じる。
 そして詩織の能力について再考する。


(魅力はともかくとして知力が高い。魔力に次いで知力が高い、聖女だからと言われれば、そうなのかとも納得しそうだが、初期値で二番目に値が高いのが知力か……)


 もしかしたら知力は聖女にとって、いや魔力を消費する技能の行使に何らかの関連があるのだろうか?
 朱雀の記憶の中にあるRPGゲームのことを思い起こす。
 そのゲームでは知力が高いと魔法の威力が上昇するのだ。


(威力アップか……何だか俺の勘が知力が怪しいと言っている気がする。それが正しい判断なのか分からない。どうする?)


 考えの渦が朱雀の中で暴れる。


(こういう時の勘は大事にするべきだ。そう思うんだ。だから知力をアップする!)




【武力9 +-
 体力8 +-
 知力30 +- (7↑)
 器用9 +-
 俊敏10 +-
 魔力32 +- (1↑)
 魅力20 +-


 育成ポイント: 6GP


 ≪決定/終了≫


 能力値を上昇させるのにGPが必要になります。+-でポイントを振り分けて下さい】






 知力を30まで上げたら魔力に1を振って32にした。
 これで後戻りはできない。勘がが正しいことを祈るばかりの朱雀だった。


「詩織ちゃん、できればで良いのだけど、あの人たちに【聖浄化術】をかけてもらえるかな?」


 詩織は少し考えるとユックリ頷き外で火の結界雑誌の松明の外でこちらを伺っているゾンビに視線を移す。
 移した瞬間、「ヒッ」と小さく可愛い悲鳴をあげるが、その視線を逸らすことなくゾンビを直視する。聖女は伊達ではないよだ。
 それに今の朱雀たちが置かれている状況も分かっているようで、賢い娘でもある。




 

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