チートあるけどまったり暮らしたい
145.3 閑話3
振り向くとそこには幼女とその後ろには幼女よりは背は高いけど僕の基準からすれば背の低いがっしりとしたオッサンもいる。
恐らく小人族の女性と、ドワーフの男性だ。
「はい、僕はソウタ・フタバ少尉です。貴方たちは?」
「申し遅れました、私はセルカと言います。航空機開発の開発主任をしています。こちらにいるのは開発本部の本部長で―――――」
「グジャン・ガジャンだ。ワシのことは親方と呼べ」
「……だ、そうです」
セルカさんは丁寧な話し方で開発主任。
グジャン・ガジャンさんはぶっきら棒だけどこれはドワーフの特徴でもある。
それに親方と呼べと言っていることから分かるように職人気質だ。
「開発主任のセルカさんと親方さんですね」
「私のことはセルカと呼びすてにして下さい」
「ワシにもさんなど付けるな」
「……分かりました。セルカと親方ですね。僕のこともソウタと呼んで下さい。改めて宜しくお願いします」
「はい、宜しくお願いします。ソウタさん」
「おう、きばれや、坊主」
セルカさんはソウタと呼んでくれたけど、親方は坊主なんだ。
まぁ、気難しいドワーフだし気にしたらいけないな。
2人に案内されて巨大な倉庫のような建物にやってきた。
「これはフタバ少尉のIDカードです。これがないと建物には入れませんので、無くさないようにしてくださいね」
「はい、分かりました」
受け取ったIDカードは日本で見たことがあるそれと酷似している。
僕の名前と階級、それと顔写真もついていた。
いつ写真を撮ったのだろうか?
気にしてはいけないとそのIDカードを端末にかざすと重そうな金属製のドアのロックが解除される音がしてドアが自動で開く。
このブリュトイース家の施設はどこもセキュリティーがしっかりしているけど、この航空機開発施設はこれまでの施設など比べ物にならないほどハイテクなんだと驚く。
三度のIDチェックを経てやっと倉庫内に入れた僕が目にしたのは驚く物だった。
「マジか……」
航空機と言っていたからプロペラ機を想像していたけど、そこに在ったのは正にジェット機だ。
プロペラなんてなく、胴体の後方に一基のジェットエンジンを搭載したジェット機。
「現在、魔導エンジンの耐久テストをしております。上手くいけば十日後には耐久テストは終わり十四日後には試作機の飛行テストに移行できます」
「マジか……」
予想以上のことで出てくる言葉が貧相になる。
「ソウタさんには飛行テストまでに操縦のイロハを覚えて頂きます。それほど難しくないので頑張って覚えて下さい!」
セルカが両手を胸の前でグーをつくって俺にはっぱをかける。
やるしかないよな。
しかし何で僕がテストパイロットになったのかな?セルカに聞いてみよう。
「はい、お館様がソウタさんならテスト機が空中でトラブっても生きて帰ってくるだろうって仰っておりました」
「ぶっ!」
試験飛行時に操縦不能になること前提かよ!?
そんな前提の試験飛行なんてしたくないわ~。
「ガッハハハ、トラブルなんてそうそう起こらないから安心しろ」
親方がバンバンと背中を叩いてくる。
痛いから止めてほしい。それに本当に大丈夫なんだろうな?
不安しかない僕。
倉庫の隅にあるシミュレーターに案内され早速席に座らされた。
日本にいた頃に自衛隊の航空ショーを見たことがある。
ブルーインパルスの迫力のある飛行を見た時の感動は今でも忘れない。
あのブルーインパルスではなく、おそらくF-2戦闘機のような鋭いフォルムの機体だ。
セルカに機体スペックについていろいろ聞いた。
全長15m、全幅11m、想定最高速はなんとマッハ3.5だ。
ランクSのドラゴン種がマッハ2.8を出すらしく、その遊撃を想定しているためマッハ3.5もの速度を設計上は出すそうだ。
それなのに想定航続距離は七万Kmという。
地球の赤道の距離が約四万Kmなので地球を二周近くできるほどの航続距離だ。
「シミュレーターなので緊張しないで下さい」
「はい……これって本物のコックピットを再現しているのですか?」
「はい、全て同じになっております。では、説明しますね。これは―――――」
セルカは淀みなくスイッチから操縦レバーまで全てを説明していく。
スイッチはそれほど多くないし、しっかりと「パワー」とか「ON」「OFF」などと表示があるので覚えるのは難しくない。
それより驚いたのはモニターに映像が現れ僕の操縦に連動して映像が動くという説明だ。
まだモニターは起動していないが、ここは日本なのか?と思うようなハイテク具合だ。
初日は各部の名称を覚えることで終わったが、二日目からはシミュレーターを使った操縦訓練にはいった。
スイッチなどが少ないので操縦はそれほど難しくなかった。
一日中、操縦訓練をしていると慣れてくるほどだ。
「凄いですね。たった一日でここまでになるとは思っていませんでした」
セルカが褒めてくれる。
褒められるのは気分が良い。
「では、実際に荷重をかけた訓練に移行しますね」
「荷重?」
「はい、航空機が加速した時や旋回時にはGがかかりますから、そのGを操縦と連動させた訓練をします」
「……そんなことができるの?」
「はい、特別に御館様がお造りになりました」
「ははは……お館様が……」
不安だ。しかし実際と同じGが訓練でも味わえるのは良いことだ……と思う。
「ぐわぁぁっ!」
初めての荷重訓練は大変なことになった。
魔導エンジンの加速を想定した訓練では恐ろしいほどのGを僕にかけてきた。
その為、僕は操縦の途中で気持ちが悪くなり嘔吐することになった。
シミュレーターを掃除してくれている人たちに申し訳けないと想いながらも倉庫の片隅でベンチに横たわる。
どういう原理でシミュレーターであんなGをかけられるのか分からないけど、あのGに慣れないと操縦どころの話ではない。
あと十日余りで慣れることができるだろうか……。
「はぁぁー」
ため息しか出ない。
「双葉君、大丈夫?」
「え?」
ベンチで横たわって休んでいると声をかけられる。
聞いたことのある声だ。
目を開けるとそこには女神がいた。
「さ、佐々木さん?」
「久しぶりね。元気……ではなさそうね?」
そう、そこには僕と同じ日本人で一緒にこの世界に召喚された佐々木恵さんがいた。
どうして佐々木さんがここにいるのだろう?
ここは極秘プロジェクトに関連して立ち入り禁止区域に指定されている。
しかもこの倉庫には三度のIDチェックを受けないと入ってこられない。
「私もこのプロジェクトに呼ばれたの。回復要員が必要になるかも知れないって言われて」
「あー、なるほど……」
訓練中にゲロゲロした僕。
本当に飛んでいる時にトラブって怪我をするかも知れない僕。
その僕のために佐々木さんは呼ばれたんだ。
佐々木さんなら日本人なので飛行機に違和感はないだろうし、良い人選だ。
「今、気分が良くなる魔法をかけるね」
彼女は僕の方に両手を向けると詠唱を始める。
優しい佐々木さんの声が耳に心地よい。
それだけでも気分が良くなる気がする。
「彼の者を癒せ、ピュアヒール」
柔らかな魔力が僕を包み込む。
とても気持ちの良い、そして気分がウキウキするような魔力だ。
「ありがとう。気分がよくなったよ」
「双葉君が元気になって良かったわ」
佐々木さんは今日からこのプロジェクトに参加し、このプロジェクトが解散するまではここにいるそうだ。
佐々木さんがいてくれるだけで僕は心強い。
「あ、ソウタさん、元気になられたのですね!?」
僕と佐々木さんが話しているとセルカが声をかけてきた。
「ああ、佐々木さんのおかげで気分は最高だよ」
「良かったです!」
「訓練もすぐにでもいけるよ」
「はい、でも無理をしないで下さい。ですからあと30分休んで頂いてから再開しましょう」
「分かったよ。気遣いに感謝するよ」
「そんな、ソウタさんがいないと私たちも困りますから!」
セルカの気遣いで30分休憩できる。
セルカはパタパタと足音を立てて他のスタッフのところに行くのを見送り僕は再び佐々木さんの方を見た……。
あれ?怒ってる?何で?え?
「あ、あの……佐々木さん……怒ってる?」
「私が怒っているわけありません。そうです。怒っていませんとも!」
完全に怒っていると思うのだけど……。
どうしよう。何で怒っているの?
「私が双葉君なのにセルカさんはソウタさんなんですね。私は怒っていませんよ!」
「……」
「アハハハ、私、ソウタさんて呼びたいなんて、ちっとも思ってませんから!」
「えーっと……佐々木さんにはソウタって呼んでほしいな……」
佐々木さんの雰囲気が変わりパーッと花が咲いたような笑顔になった。
「えー、そうですか?双葉君がそう言うならソウタ君って呼ぶね。私のこともメグミって呼んでね!」
「え、あ、うん。メグミさんだ「メグミって呼んでね!?」……うん、メグミ……」
「はい、ソウタ君、何かな?」
「……ハハハ……これからも宜しくね」
「うん。ソウタ君も宜しくね!」
僕は生き残れた気がした。
いったい何だったのだろうか。
何か急に呼び方を変えることになったけど、まぁ、いいか……。
佐々木さんの補助もありこの後の訓練は順調に進んだ。
まぁ、時々僕が胃の中の物を吐き出すことはあったけど五日もするとそれもなくなった。
十日目になると完全に操縦を覚えたと自分でも思えるほどになっていた。
「ソウタさん、魔導エンジンのテストも順調でしたので、予定通り、四日後に飛行訓練に入りますね」
「分かったよ、セルカ」
そしてとうとう試験飛行の日になった。
「魔導エンジンは問題ありません。各部のチェックも済んでおります」
「了解だ」
試験飛行用の試作一号機はカラーリングがされておらず無機質な金属がむき出しになっている。
その試作一号機の前で皆が僕に声をかけてくれる。
その僕は完全にトップガン的な容姿でパイロット用のツナギに革ジャンだ。
「坊主よ、一号機を壊すでないぞ!」
「ははは、親方は僕より機体の方が大事ですか」
「ガハハハ、当然じゃ!」
豪快に笑いながら僕の背中を叩く親方。
親方なりの激励なんだろう。
てか、痛いです。
「ソウタ君、無事に帰ってきてね」
「メグミの世話にならないように無事に帰ってくるよ」
僕はサムズアップしてメグミに笑顔で答える。
これがフラグだったのかも知れない……。
操縦席に乗り込み自分でも各部のチェックをする。
オールグリーン。魔導エンジンも順調だ。
『こちらブラボーワン、これより滑走路へ入る』
『こちらアルファゼロ、了解。滑走路への侵入を許可する』
ヘルメットに内蔵されている通信機を通じ本部とのやりとりをする。
ゆっくりと滑走路に入っていく俺と試作一号機。
『こちらアルファゼロ、滑走路上に障害物なし。離陸を許可する。繰り返す、離陸を許可する』
『こちらブラボーワン、了解だ。これより離陸シーケンスに入る』
魔導エンジンの出力を上げる。
斜め前方ではグリーンフラッグを振っている職員が見える。
キュイーンという甲高いエンジン音と振動が体に伝わってくる。
『こちらブラボーワン、発進する!』
その瞬間、僕はブレーキを解除する。
グッと体がパイロットシートに沈み込む。
加速によるGが僕の体重を数トンにまで増やす。
滑走路の長さは約2Kmあるが、この試作一号機は100mで離陸できる機体設計になっている。
それはこの試作一号機が空母の離着陸を想定した設計になっているからだ。
とは言え、航空機なんて初めて造るので無駄に長い滑走路になっているらしい。
『こちらブラボーワン、離陸完了、機体に問題は見られない』
『こちらアルファゼロ、こちらでも離陸を確認しました』
現在の速度は時速650Km。
高度は1500m。
雲一つない青空をコックピットから眺める。
鳥はいない。魔物もいない。
気持ちが良い。まるで大空の王になった気分だ。
高度を上げていく。高度10000m。
今回のテスト飛行では音速を超えることはない。
段階を踏んで音速を超える予定だ。
無事に離陸したので旋回性能のテストを開始する。
急旋回ではなく普通の旋回試験だ。
操縦桿をやや右に倒す。
旋回と言う程ではないのでGはそれほどかからない。
「ひゃっほーーーーーーっ!」
テンションが上がる。
そして僕の意識はここで切れた。
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