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なんじゃもんじゃ

129 進撃のペロン1

 


 オリオン北部方面軍に大量の義勇兵が合流した。その数、凡そ18万人。
 本来は嬉しいことだけど数が多過ぎて逆に困っているんだ。つまり指揮官が不足しているんだ。
 兵がいてもその兵を指揮する指揮官が居ないのでは軍として成立しない。
 そのことを協議して会議は紛糾中。あ、クリストフ君が僕を見た……嫌な予感がする。


「皆の言いたいことは分かった。オリオン北部方面軍総司令官の職権で本日只今ペロン・フォン・クック男爵の幕僚総長の任を解き、義勇軍総司令官の任を与える。副司令官にゲール・クド・フビス男爵を充て参謀にエグナシオ・クド・デシリジェムを」
「お、お待ちください!」
「これは決定事項です。ペロン・フォン・クック男爵は直ちに義勇軍を再編するように」


 異論を唱えようとしたフリード中将の言葉を遮って強い言葉で言う。いつも皆の意見を聞き、その意見にそった指示を与えるクリストフ君の強い意志を込めた言葉を聞いては誰もこれ以上は異論を挟めない。
 でも僕が義勇兵とは言え、軍の司令官だなんて……。


 会議が終わり僕はクリストフ君に続いてクリストフ君の執務室に入る。僕の後ろにはブリュトイース公爵家の家臣たちが続いている。


 バンッ。


「どう言うつもりなのっ!?」


 カルラがクリストフ君に食って掛かる。随分とお怒りのようだ。


「ゴメンよ、勝手にペロンに大役を押し付けたことは謝るよ。そんなに怒らないでくれるかい、カルラ」
「クリストフはいつも勝手に……」
「カルラ、もう良いから座りなよ」


 クリストフ君はカルラには言い訳せずに平謝りだ。言い訳したらカルラのお小言が長くなるのを分かっているからね、僕もクリストフ君も。


「必要な物があれば出来る限り融通するから、許してほしい」
「……言質はとったわよ!」


 クリストフ君が「しまったっ!」と言う顔をした。僕の奥さんは強かなんだ。皆は見ないふりをしている。


「それで、ゲールさんとエグナシオさんだけなの? 他には?」
「……ペロンが必要だと言う人材も出来る限り配置転換するから」




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 クリストフ君の雰囲気が変わった。あれは怒っているのだと思う。
 ベルム方面軍から人のゾンビ化という異常な報告を受けた直後、明らかにクリストフ君が不機嫌になった。
 クリストフ君は表情に出していないけど、いつものほんわかとした雰囲気が明らかに刺々しくなっているのが分かる。相当怒っているみたいだ。


「ジャバンを援軍に」


 クリストフ君が言葉少なくフェデラーさんに指示をする。


 暫くして準備を整えた竜騎士隊を見送る。出発前にジャバンさんに何かを渡し言葉を交わしていたがクリストフ君は今でも怒っているのが分かる。
 ジャバンさんたち竜騎士隊が飛び立った。あっという間に姿が見えなくなる。そんな時だった。


「ペロン、侵攻速度を上げる。これからは一切容赦しない」
「……了解しました。そのように各部には通達致します」


 いつになく強い口調のクリストフ君だった。
 共にジャバンさんの出立を見送ったカルラ、クララ、プリッツ、フィーリア、ウィックさん、それにキクカワ中将もクリストフ君の指示をハッキリ聞いたと思う。


 皆が館に戻ると僕はクリストフ君に呼び出された。
 執務机の書類に目を通しサインをする。それを3回ほど行って僕の座るソファーの反対側に向かい合わせで座るクリストフ君。


「……」
「……」


 無言。珍しくクリストフ君が迷っているように見える。何度か口を開けるけど言葉を飲み込む。
 何を迷っているのだろうか? 聞くまでもないか……聖オリオン教国をどう滅ぼすか、それだけだと思う。


「ペロン……」
「何?」


 一瞬、間が有って言葉を続ける。


「私も多くの者を殺すだろう……」
「……怖いんだね?」
「ああ、怖い。正直、逃げ出したいくらいだ」
「逃げても良いと思う」
「……」
「……でもクリストフ君が逃げ出したらもっと多くの人が死ぬより辛い人生を送ることになると思うよ」


 戦争をすれば人が死ぬのは仕方がないことだ。でもクリストフ君なら人を死なせるより人を生かす方が多いと思うんだ。根拠だってあるよ、だってクリストフ君は神様なんだから!


「ペロン、君は私を助けてくれるかい?」
「愚問だよ。僕はクリストフ君の家臣の前に親友だからね」
「……有難う」


 クリストフ君はお茶を口に含むと1度頷く。


「ペロンに私の行く道を綺麗にしてほしい」
「……分かったよ。クリストフ君の行く道は僕が綺麗に掃除するからクリストフ君はユックリと、そして堂々と進軍してほしい」


 その夜のことだった。
 僕はベッドで寝ていたのだけど、妙にリアルな夢を見たんだ。
 多分だけどあれはベルム方面軍だと思う。大量のゾンビと戦う兵士たちがエンジェルによって救われ、そして一瞬にしてゾンビが浄化され消滅するさまを。
 そしてゾンビを操っていた聖オリオン教国軍を大地が飲み込む様も。
 エンジェルは神の御使いであり、神国と自負している聖オリオン教国ではエンジェルの影響力は計り知れない。
 そのエンジェルが神罰を与えたのが聖オリオン教国軍だった。もしこの夢が聖オリオン教国の人々も見ていたとしたら……聖オリオン教国は荒れるだろうね。


 翌朝、あの夢が夢じゃなかったと確信した。
 カルラもクララもプリッツも他に聞いた人たち皆があの夢を見たと言っていた。
 そう言えば……クリストフ君、怒っていたもんな。
 精神的に追い込んで行くんだろうな……。


 翌朝、僕は元奴隷だった義勇兵を集め結成された義勇軍を率いて進軍を開始した。この義勇軍は解放された土地の奴隷だった人たちが同族の解放を掲げ参戦した戦士たちだ。
 先ずは抵抗を続けるエバラスター卿を討伐する。と言ってもあの夢のお陰で戦力は殆ど残っていないらしい。
 エバラスター卿は此方の戦力が18万人と知って城に立て篭もった。しかも城壁の上には獣人やエルフ、ドワーフなどの奴隷を配置して此方に攻撃させない姑息な構えを見せる。
 だけど、こんな所で足踏みをするわけには行かない。僕はクリストフ君より預かった戦力を使うことにした。


「ゴーレム隊、前進!」


 クリストフ君はゴーレム召喚用のマジックアイテムである召喚の指輪を30個僕に預けてくれた。この召喚の指輪を嵌めた者はゴーレムを召喚できるのだけど、ある程度の魔力がないと召喚できないしゴーレムを維持することもできない。だから魔力の多いエルフがゴーレム隊には多いけど、ヒューマンと狐獣人もそれぞれ1人いる。


 召喚されたゴーレムはスピード重視のミスリルニンジャゴーレムが5体。遠距離攻撃が得意なミスリルスナイパーゴーレムが10体。近接攻撃力と防御力に特化したアダマンタイトファイターゴーレムが15体だ。
 ミスリルニンジャゴーレムは2mほどの身長で人型なのにスマートな体型をしており、クリストフ君がステルスと言っていた認識しにくい機能が付いた暗殺者タイプのゴーレムだ。
 ミスリルスナイパーゴーレムは両肩に砲門、両手の先にも小型の連射型射撃武器が仕込まれている遠隔攻撃特化のゴーレムで、迷彩柄と言うらしい緑や茶色などの色とキャタピラと言う駆動部が特徴の全長5m体高も6mもある比較的大型のゴーレムだ。クリストフ君はガ〇タンクとか言っていたけど僕には良く分からない。
 アダマンタイトファイターゴーレムは体長3mほどの人型ゴーレムで動きは人とあまり変わらないけど、その攻撃力は大岩を軽々と砕き、防御力も上級魔法程度では傷も付かないほどのインファイター型のゴーレムだ。


 先ずはミスリルスナイパーゴーレムによって雷鳴弾を撃ち込む。この雷鳴弾が着弾すると周囲にいる人に麻痺効果を与える。クリストフ君お手製の無力化兵器だ。
 山なりに雷鳴弾を撃ち込む。壁にされている奴隷たちには当てないように、そして仮に当たっても死なない雷鳴弾を使う。
 ミスリルスナイパーゴーレムが間断なく撃ちまくる雷鳴弾は壁の向こうで安心していた聖オリオン教国の騎士や貴族と思われる立派な装備をした者たちを無力化していく。


 敵が浮足立つ。
 ここでアダマンタイトファイターゴーレムを投入する。アダマンタイトファイターゴーレムはユックリとそして重厚な足音を立てて進む。
 アダマンタイトファイターゴーレムが城壁に取りつく。そしてそのこぶしを城壁に打ち付ける。ガンガンと拳を打ち付けることで城壁を削って行く。
 城壁に防御用の結界が施されていてもそのパワーで圧倒し城壁に使われている岩をあっと言う間に粉砕する。


 奴隷たちは石や丸太をアダマンタイトファイターゴーレムに投げつけるがその程度ではアダマンタイトファイターゴーレムの行動を阻害するものではない。
 城壁に穴が開いた。全部で15個の穴だ。
 そのままアダマンタイトファイターゴーレムを城壁の中に侵入させ聖オリオン教国兵を殴り殺していき、その全身に纏った雷によって立ちはだかった奴隷を感電させ無力化も忘れない。


 アダマンタイトファイターゴーレムに立ち向かう聖オリオン教国兵は僅かだった。元々戦意がどん底状態だった所にゴーレムたちによる蹂躙劇。
 最後にはミスリルニンジャゴーレムが逃げ出そうとしていたエバラスター卿や首脳陣を捕獲した。


 

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