チートあるけどまったり暮らしたい
106 クリストフたちの日常2
結婚式も披露宴も何事もなく終えた俺とドロシー。
ん? ドロシーって呼び捨てにして偉そうにだって?
良いんだよ、俺はドロシーの夫なんだから!
それと俺の爵位が公爵となっている。
俺が直接統治するのはブリュトイース地域とブリュト島だけだが、公爵となった事で王家直轄領であるクレバース侯爵領からの税収が得られる。
これはブリュトイース伯爵領の人口が少ない事で公爵に対する補填であると考えればよい。
このクレバース侯爵領の扱いはある意味俺にとってありがたいもので、部下が少ない俺にクレバース侯爵領まで統治しろと言われても難しいし、それにクレバース侯爵領の税収が得られる事でブリュトイース伯爵領の開発も予算が増えるのだ。
あ、勘違いしないでほしいのだが、クレバース侯爵領の税収を得られるとはいえ、得られるのはクレバース侯爵領の統治に必要な経費を差し引いたもので満額ではない。
満額得られていれば有り難いのだが、それではクレバース侯爵領が立ち行かなくなるので最低限の経費が引かれた税収がブリュトイース家に入ってくるのだ。
新婚生活?
そりゃぁね、俺も元はおっさんだし、結婚はしたことないけど夜のほうはしっかりと経験を積んでいるしね。
おかげでドロシーには他に女がいるんじゃないかって疑われたけど、それは良い思い出になるだろう。
で、そろそろドロシーにも俺の正体を明かそうと思って今こうしてドロシーと面と向かって座っているわけよ。
「つ、つまり・・・クリストフが・・・魔技神様だって事・・・かしら?」
「そうだね」
ぶっちゃけてから言うのも何だけど、自分の夫が魔技神だって言われてもそりゃ~信じられないわな。
あ、それとドロシーにも俺の事は呼び捨てにさせている。
夫婦間で「様」や「伯」って付けて呼び合うのなんかごめんだからね。
「素晴らしいっ!」
「え?」
「クリストフが魔技神様だなんて、神様ですよ! 私の夫が神だなんて、あぁ~何て幸せな事でしょうっ!」
あれ? 思っていたより簡単に受け入れてくれたよね?
てか、受け入れるどころか、俺が魔技神だって事を喜んでいるよね?
「それで、フィーリアさんはクリストフの眷属なんですよね?」
「そうだね」
「では私も眷属にしてくださいっ!」
「はい?」
「だって妻である私よりフィーリアさんの方がクリストフに近しい存在だなんて何か悔しいじゃないですか?」
あ、そういう考え方なんだ?
でも俺の眷属ってことは俺が死んだらドロシーも死んでしまうってことだ、それは避けたいのだけど、この勢いだとそんな事はお構いなしって感じだね。
とはいえ、その事はしっかりと説明してできるだけ眷属化は避けようと思ったけど・・・
「クリストフが死ぬのなら私も死にますっ!」
やっぱりこうなったか。
何度か説得を試みるも答えには変わりなく、仕方がなくだけどドロシーを俺の眷属とする事にした。
「あああああっ! 力が湧いてくるようですっ! うふふふふ、私もこれでクリストフの横に立てる力を得たのですねっ!」
何かドロシーのイメージが・・・
それに俺の横に立つのに態々眷属になる必要はないだろうに。
「ドロシーは私の妻だ、私の横に立つのに眷属になる必要はなかったのに・・・」
「いいえ! クリストフは分かっていませんっ! カルラさんやペロンさん、それにクララさんにプリッツさん、彼女らは私よりも魔法の才に溢れいつもクリストフの横にいました! 私はそんな彼女らがとても羨ましかったのですっ! あなたの、クリストフの横に私も立ちたいのですっ!」
ってなわけでドロシーは俺の眷属になり、ドロシーのお願いを聞いて俺とフィーリア、リリイアの4人で大森林の東、イーストウッド川の河口付近にやってきている。
ドロシーが俺の眷属になったので力を試したいというもんだから丁度現地調査をする予定であったこの大森林にやってきたのだ。
大森林には獣系の魔物や昆虫系の魔物が多く棲息しているので魔物には事欠かない。
到着してすぐに遭遇したのはラムチョップという羊の魔物だ。
ラムチョップの攻撃手段は突撃しての頭突きと後ろ足で立ち上がってからの前足のパンチだ。
因みに前足のパンチはその動きからチョップしているようにも見えるのでラムチョップと言われているとか何とか・・・決して食べ物を表しているわけではないのだ。
ランクEの魔物で集団行動をする事でも有名なラムチョップ、現に今も俺たちの目の前には30頭以上のラムチョップが群れをなしている。
群れのボスが戦闘する、しない、を決定するのがラムチョップの群れの掟のようだ。
で、ボスは俺たちと戦うと決めたらしい。
30頭以上のラムチョップが前足で地面を何度も蹴る仕草をしており目が血走っている。
「ラムチョップの肉はとても美味しいと聞きました!」
フィーリアとリリイアが前衛を務め槍と剣でラムチョップの突進をいなし、その間にドロシーが魔法を撃ち殲滅していく。
俺は後方からドロシーの動きを注意深く見守る。
ドロシーの魔力量は俺の眷属になった事で数倍に跳ね上がっており、更に身体能力も軒並み上がっているのでランクEの魔物程度であれば遅れをとる事はないだろうが、流石に数が多いのでフィーリアとリリイアが前衛としてドロシーが魔法を撃つ時間稼ぎをしている。
「・・・」
「どうしたんだい?」
30頭以上のラムチョップを屠ったドロシーが押し黙る。
「何か違います!」
ふむ、どうやら気が付いたようだな。
「と、いうと?」
「体の芯から沸き上がる魔力の感覚は今でもあります。でも、しかし、何かが違うのです! これではカルラさんたちの足元にも及びませんっ!」
ドロシーの魔力量は多い。
実際の話、今のドロシーは俺の眷属になった事で魔力量はペロンやカルラより多いのだ。
ただ、眷属になる前の状態でもプリッツにやや劣る程度なので人類の中ではかなり上位の魔力量だったはずだ。
しかし魔力には属性があり、更に所有している属性には適正や階級がある。
元々ドロシーの才能は光属性の特級を筆頭に風属性、水属性、無属性があった。
最も階級が高い光属性は回復系の魔法が主なので攻撃にはあまり向いていない。
前世の知識がある俺なら色々と改良し光属性でも高威力の攻撃魔法を繰り出せるがドロシーではそうはいかない。
その為にドロシーは風属性で魔物に攻撃をしていた。
ドロシーの豊富な魔力量であれば階級が低い属性でも力押しができるが、それは効率的ではないし、もっと言うならば無駄が多い。
「私は・・・一体何を・・・」
「ドロシー、私の話を聞いてほしい」
「・・・はい」
ドロシーの手を取り目を見つめて俺はゆっくりと話しはじめる。
「俺は半人前だが神だ、神の世界にも善もあれば悪もあるし、火の神も居れば水の神も居る。俺は善でも悪でもない魔技神で魔具を造る事は得意だし他にもできる事はそこそこあるが・・・」
ここまでいうとドロシーは俺が言いたい事に気付いたようで、繋いでいた手に力が入る。
「・・・つまり・・・クリストフにもできる事と・・・できない事があると・・・」
「そうだ」
「では、私にできる事とは・・・一体・・・」
それを教えるのは簡単だが、それを自分で気付けるとより成長できると思うよ。
ドロシーは唇を噛み悔しそうな表情だ。
結局、ドロシーは自分の特徴を理解するには至っていない。
それで良い、苦労して自分にできる事を見つけてほしい。
って、あまり苦労した記憶がない俺がこんな事をいうのは烏滸がましいかな。
俺の眷属になれば魔法が得意になると考えたのはあながち間違いではないが、何でもかんでもというわけではない。
それをしっかりと認識してくれれば良いのだ。
イーストウッドの人口は148,463人。
これは先月末の人口統計だが、この統計には奴隷は含まれていない。
これに奴隷を含むと157,384人となる。
奴隷は8,921人だが、この内聖オリオン教国の戦闘奴隷は5,947人で残りはそれ以外の奴隷だ。
俺が構築したシステムにより住人の戸籍などを管理しており、それにより人口が正確にわかるようになっている。
そして誰であろうとイーストウッドに入る時にこのシステムに登録する義務を負わせているのだが、最大の特徴はこのシステムに魔力を登録させる事だろう。
魔力は指紋のように個々で同じものがないから個人を判別するのに非常に都合が良い。
これによりシステムに登録した者がイーストウッドに出入りする度に自動で入出記録がされるのだ。
つまりシステムに登録さえすればイーストウッドへの出入りを自由にできるようにしたので入門の待ち時間が大幅に短縮できるというわけだ。
「戦闘奴隷を投入したおかげで野菜の収穫量が跳ね上がっております」
「このまま収穫期になればキャベツの価格が暴落する可能性もありますね」
「それなら収穫量を調整し価格を維持すれば良いではないですか?」
ウードの部下で開拓担当のニキータはエルフの女性である。
そのニキータは大量の戦争奴隷を投入した開拓事業が上手くいき大量のキャベツが収穫できると報告してきた。
それに対して物資担当の熊獣人のデリマンが価格の暴落を懸念するとヒューマンで財務担当のベドマスが収穫量の調整をして価格の維持をと投げかけた。
そんなやりとりの決着をつけたのはウードである。
「収穫したキャベツの余剰分は地下倉庫に眠らせる。地下倉庫なら時間経過がないからな。そして野菜が不足しがちな時期にかけて倉庫から出す!」
そうすれば収穫期のキャベツよりも高値で売れるとウードは言う。
そりゃそうだ、季節外れの野菜の貴重さは下手な宝石以上は言い過ぎだけど、冬に野菜を安定的に供給できるのであればブリュトイース伯爵家、今は公爵家か・・・の収益は計り知れないだろう。
ウードも上手いことを考える。
「では、次の議題です。イーストウッド内の犯罪が増加傾向にあります。人口が増えているのである程度は仕方がないとしても何かしら手を打つべきでしょう」
「それに関しては警備の人員を増やす必要があります。流石に今の人員では限界がありますので」
全員が俺を見る。
人員を増やすのは吝かではないのだが、その人員がいない以上は増やしたくても増やせないのよね。
「人員は優先的に警備部に回してくれ。末端の者については警備部の責任者であるレビスに任す。必要な人員を登用する経費についてウードと相談して2人で判断してくれ。それと聖オリオン教国の戦争奴隷の中で人格的に問題ない者であれば警備部の補助に使っても良い」
これに関してはレビスとウードに丸投げする!
ウードが働き過ぎて目が血走っていた頃に比べれば今は大分落ち着いているのでこの程度は対応できるだろう。
レビスに関してはもっと働け! と言いたいね。
それに俺が末端の事まで全て判断する必要はないしね。
こんな感じで開発著しいブリュトイース領について色々と決めていくわけだ。
そして領地の規模が大きくなればそれを管理する組織も大きくなるし、それぞれの権限も大きくなる。
俺は優秀で信用にたる者を配下にして、その配下に適材適所の仕事を与える事で楽ができるってわけだね。
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