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なんじゃもんじゃ

088 盗賊退治1

 


 イーストウッドは湖に人工島を作りその上に築いた湖上都市でもある。
 湖上都市だけあって移動には船が使えるように設計しており、堀兼用水路が縦横無尽に張り巡らされている。


 神聖暦515年が明けたある日、そんなイーストウッドに他国の使節団が現れた。
 この使節団はベルム公国という国からやってきたと言う。
 このベルム公国の使節団が開港どころか情報公開もしていないイーストウッドの港に船で乗り込んで来て直接交易がしたいと言って来たのだ。


 実を言うとイーストウッド湖(無名だった湖を命名)には2本の川が繋がっているのだが、その内の1本が大森林を横切り東の海に流れ込んでいるのだ。
 しかもこの川は川幅が広く水深も深いので外洋を航海できる規模の船でも十分に通行ができるのでベルム公国の船はその川を遡りイーストウッドにやってきたのだ。
 この水上ルートはまだ公にしていなかったのに何故分かったのだろうか? どこでこの水上ルートの情報を仕入れたのか、油断も隙もあったものではない。


 交易に関しては民間レベルの交易であれば別に問題ないのだが、国の使節団が来て交易がしたいなんて言われれば勝手に「はい、喜んで」とは言えない。
 だから先ずは南部総督である父上に話を通し、父上から使節団をブリュンヒルへお連れするようにと指示があった。
 まったく、アルスムに行ってくれれば使節団を護衛する兵を出さなくて済むのに・・・この人員不足のおりに迷惑な話だ。
 因みにアルスムって言うのは神聖バンダム王国東部の港湾都市であり、イーストウッドが正式に開港するまでは神聖バンダム王国で唯一の港街である。


 ベルム公国は神聖バンダム王国と敵対する4大国の1つである聖オリオン教国の北東に位置するゲンバルス半島の一部の地域を治めている小国で神聖バンダム王国とは国境を接していない。
 つまり聖オリオン教国の影響が強く属国とまでは言わないが同盟国であるので神聖バンダム王国と国交を結べば聖オリオン教国が黙っておらず、ベルム公国としてはマズイ事になるのではと思うのだけど良いのかな?
 何はともあれ使節団についてはブリュンヒルまでブリュトイース伯爵家が護衛し送る事になったので、その護衛はフェデラーに任せる。
 そしてブリュンヒルからはブリュトゼルス辺境伯家の騎士団が護衛をして王都を目指す事になる。
 本来はブリュトイース伯爵家の兵が王都まで護衛するのが筋なのだが、開発途上のイーストウッドから大人数の兵を長期に移動させるわけには行かないのでブリュンヒルまでの護衛で勘弁してもらった。
 貴族なら人手不足でも名誉や外聞を重んじる生き物だから王都まで護衛しろよと言う奴もいるだろう、実際にはそう言う奴が殆どなのだが、俺には貴族の名誉や外聞より優先するものがあるので構う必要はない。
 それに人手不足は国王タヌキの無茶振りのせいなんだから暫くは静かに領地経営をさせろよな。












 護衛は順調で無事にブリュンヒルまで使節団を送り届けた。
 しかし使節団の護衛途中で幾つかの村が盗賊の被害にあっていると言う情報があり、フェデラーから俺に報告が来た。
 俺の領地は広くタダでさえ人手が少ない為に周辺の村々の巡回の頻度を落としていた事に漬け込まれた形になる。
 フェデラーとて人手さえあれば巡回を密にしていただろうが、現実はそう甘くない。


 ベルム公国の使節団の事といい、盗賊の事といい、現地にいない俺に何でこんなに早く情報が伝わるのかって?
 それは簡単な話で俺が通信用のマジックアイテムを作ってブリュト島とイーストウッドと王都の主要メンバーに渡してあったからですね。
 それと父上にも渡してあったね。


 それで早速俺はフェルク砦に飛んで盗賊退治をする事にする。
 文字通り、一瞬で飛んでやった。
 俺の領地で盗賊がデカイ顔をしている事が許せないし、フザケタ行為をした報いを受けて貰おうと思ってる。
 地獄を見せてやるっ!


「何もお館様が直々に討伐隊を率いなくても宜しいのでは」


「フェデラーはイーストウッドに戻って向こうで指揮をしなければならないだろ?ウィックは砦から長く離れるわけには行かないとなれば私の出番じゃないか。それに領主が先頭に立ち盗賊を退治するってのは民の信頼を得る良いパフォーマンスとなる」


「ほう、まさかお館様が民の信頼を気にされていたとは」


 フェデラーめ、俺が民を気にしたらおかしいのかよ!
 俺だってこうなった以上は善政をしき、民を富ませてやりたいんじゃ。
 それに、それが魔技神の信奉に繋がれば言う事なしで民を思う領主の俺が信奉している魔技神を崇めてくれるかも知れないじゃん。
 そんな打算があっても良いでしょ?










 イーストウッドから北西に数百Km、この周辺の村で盗賊の被害が集中しているはずなんだけど、盗賊らしい反応がない。
 暫く暮らすだけの物資を得たから成りを顰めているのだろうか?
 いや、それなら俺の索敵に引っ掛からない理由はない。
 既に他の土地に移動したと考えるべきか?
 どちらにしろ、やりようはある。
 待っていろよ、盗賊共っ! 地の果てまで追いかけてやるからな!


 そんなわけで俺は千里眼で全方位索敵中だ。
 で、見つけたのがここから170Kmほど北東に行ったルーン山脈の洞窟だ。
 てか、170Kmなら俺の索敵範囲のはずなのに何でヒットしなかったんだ?
 何かのマジックアイテムを使い魔力を隠蔽しているのか?
 ふむ、何だこれは・・・ほう・・・
 面白いじゃないか、俺の土地でやってくれるぜ。


「北東に170Kmだ」


「了解です。移動するぞ!」


 俺は使節団の護衛組から一個小隊10人を指揮下に入れ、その小隊とフィーリアを率いて盗賊たちのアジトと思われる洞窟を目指す。
 この小隊を纏めるのは准尉に昇格したジャバンだ。
 このジャバンは俺の護衛をしていた騎士見習いで剣の才に優れた男だ。
 俺が爵位を受ける時に移籍してきてくれ当初は曹長だったのだが、その剣の才もあり早々に准尉へ昇格している。


「前方に500mに魔物だ。コボルトが30ほど」


「はっ!総員戦闘態勢!鏃陣っ!」


 ジャバンは俺の情報に反応し即座に指示を出して陣形を整える。
 鏃陣とは弓矢の先の尖った鏃の形を模した陣形で矢印のような形をしている。
 矢印の尖った部分、所謂先端の要の場所にジャバンが、その左右に3人ずつが斜めに続き、俺はジャバンの後方に下がり2人の兵とフィーリアをジャバンとの間に置き、俺の後方に1人と言う隊形になる。
 階級で言えば特務大尉であるフィーリアの方がジャバンより上で指揮権を主張すれば指揮できるのだが、フィーリアは俺の護衛なので小隊の指揮には一切口を出さない。
 勿論、俺に危害が加えられそうになればフィーリアも口を出すだろうが、それまでは口を出す事はないだろう。


 俺たちが騎乗しているのはタダの馬ではなく、大森林に棲息しているバトルホースと言う馬型の魔物だ。
 バトルホースは6本の足を持つランクDの魔物で、スピード、持久力、耐久力のどれをとっても普通の軍馬より上だ。
 ブリュトイース伯爵家の軍馬は全てこのバトルホースにしようと繁殖牧場も作っているが流石にまだ数が足りないのが現状なので、このバトルホースを与えられていると言う事はそれだけこの部隊が優秀なのだろう。


「見えたぞ、コボルトだ」


 ファンタジー物の定番の一角を担う魔物であるコボルトは犬顔の人型タイプの魔物だ。
 体長は160cmほどでゴブリンよりは背が高く力も強いしオークよりも背が低くスピードが速いバランスが良い?魔物だ。
 単体ではランクEの魔物だが群れで行動し、更に人型特有である武器や防具を装備し、僅かだが魔法を使う固体も存在する。
 知能もゴブリンよりは高く群れで行動するのは連携して狩りをする為で、自分たちよりも高ランクの魔物でさえ狩る事があるほどだ。
 そんなコボルトが30匹ほどで群れて俺たちの進行を邪魔をしている感じだ。


「抜剣っ! お館様に魔物を近づけるなっ!」


『オォォォォォォォッ』


 どうやらこのまま突撃をするようだ。
 しかしこんなにスッと陣形を組めるとは、やるではないかジャバン君よ。
 ブリュトイース伯爵家の兵は人員不足なので量を補う為に質の向上を目的としてマジックアイテムで武装している者が多く小隊でも30匹のコボルト程度なら蹴散らしてくれると思うけど、それでも連携は別物で訓練されていないとこのような動きはできないだろう。


 ジャバンを先頭にし、コボルトの群れに突撃した小隊はコボルトを切り伏せ、またはバトルホースで跳ね飛ばしたり踏みつける。
 突撃して中央突破したらそのままコボルトを無視して駆け抜ける。
 今回の目的は盗賊退治なのでコボルトの群れの殲滅に時間を掛けるよりは盗賊退治を優先すると言うのがジャバンの判断のようだ。
 それでもコボルトは十数匹の被害を出しているのでコボルトにしてみれば災難以外の何ものでもないだろう。


 ジャバンたち先頭の兵によってコボルトは絶命していたので、俺はコボルトに接敵する事もなく通り過ぎたのだが、俺の前に陣取ったフィーリアは時折槍を突き出し数m離れたコボルトの頭部を衝撃波により粉砕していた。
 流石は『殲滅』のフィーリアちゃんだ。
 フィーリアの武はブリュトイース伯爵家内でも抜きん出ており、その戦いぶりをお爺様が「フィーリアの殲滅力はワシを上回る」と評した事から『殲滅』と言う二つ名がついたのだ。
 年齢も見た目も少女のフィーリアには似つかわしくない二つ名だと俺は思っているのだが、フィーリア自身は満更でもないようなので俺はフィーリアの将来が不安だ。


 

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