チートあるけどまったり暮らしたい

なんじゃもんじゃ

007 奴隷

 


 目的の雑貨屋に着いたので早速目当ての物を探す。
 座布団のようなクッションを探していると店の中が騒がしくなる。


「すみません・・・キャッ」


 ドカ ガラガラ ガッシャーン


 大きな音がした方に目を向けると鎧を着たゴッツイ男が女の子を突き飛ばしたのか、女の子は棚から落ちた雑貨に埋もれていた。


「キサマのような薄汚ねぇ奴隷が俺の剣に触りやがって、大事な剣を汚した落とし前をどう付けるんだっ? あぁぁ!」


 大男の身なりは騎士と言うにはやや見窄らしいが、実用的な鎧を身に着けている。
 恐らく冒険者か傭兵だろう。
 その大男に突き飛ばされた女の子は布切れ1枚を身に纏った10歳ほどの娘で、首には奴隷を示す首輪が着いていた。


 大男は女の子に追い討ちとばかりに腹部に蹴りを入れる。
 女の子がウッと声を上げる。
 女の子は蹴られ続け気を失っているようだ。これ以上は死んでしまうからそろそろ誰か止めろよと思うが店員もそうだが誰も止めに入ろうともしない。
 大男が怖いのと奴隷がどうなろうと構わないと思っているのだろう。


「もう良いのでは無いですか?それ以上やったら死にますよ」


 仕方が無いので俺が声を掛けてやる。
 別に他人がどうなろうと構わないが、まだ10歳ほどの子供を殺しそうな勢いで暴力を振るうこの大男が気に入らない。
 この神聖バンダム王国は差別が少ない国ではあるが奴隷は物扱いされている。
 奴隷だって人間だと言う事を皆が知っていても人間扱いしないのだ。
 俺は奴隷制度を否定をする気はない。
 ないが、物扱いは改善するべきと思う。
 まぁ、ここでこんな事を考えても仕方がない事なので目の前の事を片付けますか。


「なんだこの餓鬼は」


 俺の服装や周囲の護衛を見れば貴族だって解るだろうに・・・


「私が餓鬼ですか?・・・では、あなたはバカですね」


「何だとっ!」


 大男は俺の胸倉を掴み持ち上げる。
 何だよこのテンプレ的なバカ過ぎる動きは。
 貴族に対しての対応を一歩間違えれば大変な事になる事ぐらいは成人男性なら誰でも知っている筈なのにこの大男はバカを通り越して自殺願望者のようですね。


 流石に胸倉を掴まれていると苦しいので、雷属性の魔法のスタンを大男に放ってやると大男は俺の胸倉を掴んでいた手を離し俺は自然落下して床に尻餅をつく。
 ・・・護衛は何をしている?


「痛たたた。レビス、この者を捕らえて警備隊に引き渡せ」


 俺の言葉で護衛達が大男を取り囲む。


「なんだ貴様らは?!俺をランクBの冒険者だと知ってやろうってのかっ?」


 大男の右手はスタンの効果で痺れて暫くは使い物にならないが、抵抗しそうだったのでもう1度スタンを放ち全身の筋肉を麻痺させてやったので、取り押さえるのに労力は掛からなかったようだ。


「アナタの事はどこの誰かは知りませんが、アナタは貴族に手を出したのですからそれなりの処罰を受けて貰いますよ」


「な、なんだとっ!」


「レビス、この者の罪状を教えてやれ」


「はっ!貴族であるクリストフ様に対し暴言を吐き、暴力を振るった罪により死罪が妥当であります」


「し、死罪だと?俺が何をしたっていうんだっ?!」


「今、レビスが言った通りの事をしたのですよ。私に奴隷の首輪がついていますか?私のこの格好を見て、この護衛達を見て、それでもアナタは私に暴力を振るったのですよ?」


「そんなの知らん!ふざけるな!」


「五月蝿い、黙れ!・・・店主、この娘は店主の奴隷か?」


 大男の顔面に蹴りを入れてやり、この店の店主ぽい人に話しかける。


「は、はい。左様です」


「何故、この男の暴力を止めなかった?」


「も、申し訳ありません」


 店主は萎縮してしどろもどろの受け答えしかできなかった。


「今直ぐこの娘に回復をしてやれ」


「そ、それは・・・」


 この世界には回復魔法や治療院は存在するのだが、多くの金が掛かるので大金をかけて奴隷を回復させる者は少ない。


「店主、ものは相談だが、回復は私の方で手配するのでこの娘を譲ってくれるか?」


「え、ええ、それは勿論で御座います。このままでも死ぬしかないので治療をして頂けるのであれば貴方様に無償でお譲り致します」


「クリストフ様、お母上にご確認をしなくて宜しいのですか?」


 レビスが俺の耳元で囁く。
 このレビスは騎士団の小隊長をしている男で、イケメンだ。
 イケメンなので前世でもてなかった俺の敵である!
 冗談はさて置き、俺が大男に胸倉を掴まれていても動かなかった事は後で追及してやる。
 まぁ、俺の力を知っている者の1人なので放置したのだろうがね。


「この状態では緊急に治療が必要だ。母上には事後報告だが許してもらえるように説得する。・・・店主、警備隊を直ぐに呼んで来てくれ」


 店主が店員に指示を出すと店員は店の外に飛び出していった。


 さて、この娘の治療をしないとな。
 死んでしまったら助けた意味が無いしな。


「ハイヒール」


 声に出さなくても魔法を発動できるのだけど、あまり不自然にならないように一応声に出している。
 女の子の体を薄い光が包むと俺の魔力がスーッと抜ける感覚がした。
 ハイヒールは光属性の中級魔法で、このハイヒールなら内臓の損傷も癒してくれるしこれで大丈夫だろう。


 程無くして店員が警備隊を連れてやってきた。
 そして俺に対する無礼について伝え、店主にもその証言をして貰ったので大男の死刑は確定だ。
 俺に対して大した危害を加えていないのに死刑はやり過ぎだって思う人もいるとは思うが、この大男が生きていればまた同じような事をするだろうから、世のため人のために断罪するのが良いだろう。
 俺はこう言う輩に対して優しくもなければ寛容でもない。


「隊長さん、この奴隷ですが、治療をした代金として私が譲り受けました。隊長さんも証人となって下さいね」


「はっ、このカージル、しかと承りました」


 警備隊の隊長さんはカージルと言う名前ようだ。
 俺がブリュトゼルス辺境伯家の人間だと知った時の慌てようは見ていられなかった。
 まぁ、ブリュトゼルス辺境伯と言えば押しも押されぬ大貴族だから、粗相があれば隊長の進退問題にも成りかねないから焦るわな。


 奴隷契約の変更をする為に商業ギルドに赴き変更の手続きをしたが、女の子は気を失ったままである。


 仕方が無いので宿に戻り寝かせてやったのだが、母上が食いついてきてしまった。
 ただ、母上の食いつきは俺が連れてきた奴隷の女の子が可愛くて世話を焼きたいと言う感じだったので奴隷を連れてきた事自体には何も言わなかった。


 それで良いのか母上!


 

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