ジュエリークラフター 【魔物を宝石に変えて魔王も倒せるけど勇者じゃないおっさん】
007B_ジュエモン
「……本当についてしまった」
テンポウに全力で走ってくれと命じたら、かなり早く森に到着してしまった。
「ちょっと、私を置いていくなんて、どういうつもりよ!?」
置いて行けるなら置いていきたかった。もう二度と会わなくてもよかった。無理だとは分かっていたけど、ついてこないでほしいと思った。
ダメ神をテンポウに乗せずに全力で走らせたのに、なぜこいつはついてきているのだ?
しかし歩いて5日の距離を数十分で踏破したテンポウはさすがだ。首をポンポンと軽くたたいて褒めてやった。
「ブルル」
テンポウは嬉しそうだ。
「おとうさん、ダメ神さんが可愛そうなので、乗せてあげてくださいなのです」
「そうか、ユキは優しいな。今度からは乗せてやるよ」
「はいなのです!」
「ちょ、ユキちゃん、なんでダメ神なの!? ラーディアおねぇちゃんだよ?」
ユキはダメ神の意味が分かっていないのだ。だからダメ神の名前がダメ神だと思っている。耳元で囁いていたかいがあった。
感慨にふけっていると顔にぽつりと冷たい物が当たる。
「……雨? ……さっきまで晴れていたのに……歩いて5日の距離は伊達じゃないってことか?」
先ほどまでいた場所は雲はあったが、青い空が見えていた。しかし森のそばでは黒い雨雲が空を覆っていた。
ぽつり、ぽつりと次第に雨脚が激しくなる。
「本降りになりそうだな……」
アイテムボックス(極)から俺とユキの外套を取り出して羽織った。
「ねぇ、私の分は?」
「お前の物なんて買ってないから、あるわけないだろ?」
「マジ!?」
「マジだ」
持っていても出したいとは思わないけどな。
「だったら、あんたのを私に貸しなさいよ」
「なんで俺が貸さなければならないんだよ」
「ユキちゃんの外套じゃ小さいでしょ」
こいつ、ユキから借りようと思っていたのか!? なんて腐った奴だ!
「この森に魔物が沢山いるのか?」
ダメ神の勝手な都合は無視して、話を変えてやった。
「そうよ、この森の中ならあんたの気配を感じても逃げないわよ」
「よし、ユキ、行くぞ!」
「はいなのです!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
俺とユキが気分よく森に入ろうとしたら、ダメ神が止めてきた。危うく無駄にデカい胸に飛び込むところだった。ちょっとくらいはいいか?
「なんだよ?」
「この森の中ではそのイノシシよりも強い魔物が沢山いるから、イノシシとユキちゃんは気をつけないとすぐに殺されるわよ」
なんだと!? そんなに強い魔物ばかりなのか?
「まったく、私がいないとダメね!」
ダメ神は俺の気づかなかったことに気づいたことで鼻が5㎝は高くなったようだ。その高くなった鼻をグーパンチで凹ませてやりたい。
「そうなると、ユキが一緒に行くのは危険だな……」
俺はダメ神を無視してどうしようかと考えた。
「おとうさんと一緒にいたいのです……」
うっ、そんなにうるうるした目で見ないでくれ。
くそ、ユキを一緒に連れて行くにはどうしたらいいんだ!? 待てよ、この森の魔物が強いなら、テンポウたちをこの森の魔物よりも強くすればいいんじゃないか?
「なぁ、テンポウたちの宝石の品質を上げたら、テンポウたちも強くなるのか?」
「あら、あんたにしては冴えてるじゃない。そうよ、宝石の品質を上げればジュエルモンスターも強くなるわよ」
さすが俺氏! ナイスなところに目をつけた! 今の俺なら極上よりも上の品質も夢ではないと思う。なんたって、俺はレベル1,000のジュエリークラフターなんだから!
さっそくテンポウを宝石に戻して品質を上げる為にMPを注ぎ込んだ。けっこうなMPを消費したので、品質を確認してみると国宝になっていた。よし、この調子でMPをもっと注ぎ込むぞ!
「きれいなのです……」
たしかに、MPを注ぎ込んでいくにつれシトリンの黄色が鮮やかになっていくし、透明感も向上する。
MPを半分ほど注ぎ込んだらレベルが上がった。もともとレベルアップ直前だったのか、それとも経験値がばんばん入って来るのかは分からない。
とにかくMPを注ぎ込んだ。俺のMPはレベルアップしたことで20万を越えた。そのMPを惜しげもなく注ぎ込んだ。
そうするとシトリンの放つ光が強くなってきた。なんだか楽しいから、もっとMPを注ぎ込んでやれと思いMPを注ぎ込んだ。
パリンッ。うわっ!
順調にMPを注ぎ込んでいたらシトリンが大きな音ともに割れて膨大な光の奔流が俺を襲った。MPを注ぎ込みすぎたようだ。テンポウごめんよ……。
「すごーいなのです! きれいなのですー!」
光の奔流が見た目にはよかったのだろう、ユキがとても喜んでくれた。
「……」
光が徐々に収まってきた。あれ、なんだか光の中から人が現れた? その人は跪いて頭を下げているので顔は見えない。
「……えーっと……」
誰だよ?
「我が君へご挨拶申し上げます。我はテンポウ。偉大なるエイジ・クルルギ様に絶対なる忠誠をお誓い申し上げます」
何これ? Why? テンポウって……あのテンポウだよな? なんで人間になってるの?
「あら、まさかここまでとは思ってもいなかったわね。やっぱりレベル1,000は伊達じゃないわね」
ダメ神は何かしっているようだ。説明プリーズ!
「何よ、説明してほしければ、ちゃんと頼みなさいよ」
ぐ、ダメ神のくせに生意気な!
「ほらほら、早く頼まないと私の気が変わって教えてあげないんだから~」
ムカつく顔しやがって! その開いた鼻の穴に指を突っ込んで鼻血ブーしたろか!?
「た……頼む、教えて……くだ……さい」
屈辱だ!
「え? 何? 聞こえなかったわよ?」
くそ、このダメ神が!
「ダメ神さん、おとうさんをいじめてはだめなのです!」
おお、天使だ! 天使が舞い降りた!
「もう、分かったわよ。ユキちゃんがそういうなら、教えてあげるわ。でもねユキちゃん、私はダメ神じゃなくて、ラーディアおねぇちゃんよ。いいわね」
「はいなのです。ダメ神ラーディアおねぇちゃん!」
「だから、ダメ神をつけなくていいんだって!」
おい、ダメ神、早く説明しろよ!
「ジュエルモンスターの宝石を最上級の神話まであげると、天界に属する種族が生み出されるのよ。だから、テンポウの宝石は神話まで品質が上がって、新しい種族として生まれ落ちたのよ」
おお、なんかすげー。さすがレベル1,000!
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