ジュエリークラフター 【魔物を宝石に変えて魔王も倒せるけど勇者じゃないおっさん】

なんじゃもんじゃ

006B_ラーディア

 


 アイテムボックス(極)から焼きたてパンとチーズを取り出した。火でチーズをあぶって溶けたところをパンに載せて朝食にした。
「おとうさん、美味しいのです~♪」
「こんな物しかないけど、沢山食べるんだぞ」
「はいなのです」
「なんで私の分がないのよ!?」
 先ほどからうるさいな。まるで食べ物の回りを飛び回るハエのようだ。
「ほれ、食え」
「わーい。って、チーズが載ってないわよ!」
「お前の分なんか買ってない。パンが食べられるだけでもありがたいと思え!」
「あんた、罰が当たるわよ!」
「罰が当たったのは、お前だろうが!」
「ぐぅ」
 俺を無理やり転生させたことがアフロディーテさんに見つかって降格されたくせに何を言っているのだか。
「おねぇちゃん、これ食べる?」
 ユキが自分のチーズが載ったパンを悲し気な表情で差し出した。
「本当!? ありがとう、ユキ!」
 バシッ!
「いたっ!?」
「お前はユキの顔を見て言葉を吐け! このダメ神が!」
 ユキが楽しみに食べていたパンを取り上げようとは最早悪魔でしかない!
「うぅ……だって、私だってチーズが載ったパンが食べたいんだもん」
「お前は何歳だよ!?」
「女性に年齢を聞くなんてデリカシーがないわね!」
 女性って、お前はな……もういい。こいつと話していると気がおかしくなりそうだ。無視だ無視!


「ユキ、美味しかったな」
「はいなのです!」
「ぐぬぬぬ……」
 さて、テンポウに乗って、ユキも乗ったし、行くか。
「ちょっ! なんで動くのよ!? 私が乗っていないわよ!」
 テンポウの横腹に何かがしがみついているような……いや、何もしがみついていない。
「テンポウ。走れ!」
「ブル」
 俺たちがいるので急加速ではなかったが、テンポウは徐々に速度を上げて行った。
「ちょ、何してんのよ!?」
 何も聞こえない。何も見えない。俺の足に何かが手をかけたように感じたが、電撃剣で払いのけた。
「ぎゃぁぁぁっ! 止めなさいよーーー!」


 どれだけの距離を移動したかわからないが、けっこうな距離を稼いだ。それにそろそろ昼時なのでテンポウに止まるように命じた。
「お前もしつこいな。いい加減、諦めて帰れよ」
「帰れるものなら、帰ってるわよ!」
「俺はアシスタントなんかいらないから。今度アフロディーテさんに会ったらそう言っておくからさ、帰れよ。ダメ神」
「誰がダメ神よ? 言っておくけど、私からは逃げられないからね。アシスタントは決定事項なの!」
 自慢げに胸を張るダメ神の胸は揺れていた。
「な、何を見ているのよ!?」
「見てるも何も、お前が胸を突き出しているんだろ?」
「あんたは本当にうるさいわね!」
「おとうさん、おねぇちゃんも一緒に連れていってあげられないのですか?」
 優しいことを言える子で父は嬉しいよ。そこのダメ神、嬉しそうな顔をするな!
「ユキはいい子だな。だけど、このダメ神はきっと疫病神だから、連れて行かない方がいいと思うんだよ」
「疫病神?」
「そうだよ。こいつは疫病神なんだ。だから、一緒にいると不幸になるんだぞ」
「何言ってるのよ! ユキに嘘を教え込まないでよ!」
 うるさい奴だ。あのまま土の中にいればよかったのに!
 ため息を吐く俺を見てダメ神は嬉しそうだ。俺の困る顔が見れて嬉しいのだろう。
 俺はこいつから逃げられないのか……。
「どうか、この通りだ。帰ってくれ!」
 こいつに頭を下げるのは嫌だが、居座られるよりはいい。
「無理よ。私の意思では帰れないもの……」
「そんな~」
「そんな~、って言いたいのはこっちよ。神から降格させられて天使になったと思ったら、天上勤務から地上勤務よ。もう泣きたいわよ!」
 ぺたりと地面に座り込み「うえーん」と泣き出すダメ神。


「おとうさん、可哀そうなのです。連れて行ってあげられないのですか?」
 泣き止まないダメ神に優しいユキが手を差し伸べる。仕方がない、相手がダメ神でも女性に泣かれるのは俺もいい気はしないからな。
「お、おい、もう泣き止めよ。な、ほら、ウサギの肉食うか?」
「うえ~ん、たべりゅ~」
 お昼用に焼いていたウサギ肉をダメ神に与えた。女性の涙に弱いのは俺だけじゃないだろうと思うんだ。
「う、うぅ……じゃぁ、一緒にいていい?」
「あぁ、いいから、な、泣き止めよ……」
 女の涙には勝てない。
「ううぅぅ、本当に?」
「ああ、本当だ」
「うぅ、約束だよ?」
「約束だ」
「ヤッター!」
「えっ!?」
 今まで泣いていたのに、涙はもうなかった。
「やられた……」
 いきなり泣き止み飛び上がって喜ぶダメ神を見て、騙されたと気がついた。くそ、俺の弱いところを突いてきやがって!? それより何より、ユキを騙したのが許せない。拳を握り締めてダメ神を見た。
「何よ、女の私を殴るの? あんた鬼畜なの?」
「ぐぅ……」
 俺は歯噛みして悔しがった。


「今、いいって言ったからね。約束したからね!」
「……」
 騙されたとしても約束は約束だ。俺は約束は守るのが信条なんだ。しかし騙されたことは悔しいし、怒りを感じる。殴らないから、首を絞めてやりたい。
「ぐ、ぐるじぃぃーーー」
 あ、首を絞めていた……手が勝手に動いてしまったようだ。


 

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