ジュエリークラフター 【魔物を宝石に変えて魔王も倒せるけど勇者じゃないおっさん】

なんじゃもんじゃ

004C_白銀のドラゴン

 


 街道を行くと俺たちがテンポウの上に乗っているものだから、すれ違う旅人と商隊がかなり驚いたり警戒していた。中には武器を構えて攻撃をしてきそうな物騒な連中もいたけど、なんとか刃物沙汰にならないように収めた。


 魔物に関しては見敵必殺サーチアンドデストロイだった。ユキの耳には遠くの魔物がたてる物音も聞き逃さないのだ。
 一度俺が戦おうとしたけど、ホーンラビットに剣が当たらなかった。雑魚らしいホーンラビットだけど、俺の会ったホーンラビットはおそらくカスタマイズされた三倍の速さのホーンラビットだったはずだ。ホーンラビットの「当たらなければ、どうということはない」という声が聞こえた気がした。
 魔剣である雷撃剣を持っていても、当てなければ勝てないのがよく分かったよ。
 まぁ、ユキがそのホーンラビットを瞬殺した時に俺は直接戦闘には向かないのだと気づかされたさ。


 結構落ち込んだ俺だったけど、なんとか気持ちを持ち直した。そして再び街道を進んでいると、俺の前で座っているユキの耳がぴこぴこと頻繁に動くのが分かった。これは近くに何かがいるという合図だのだ。
「ご主人様、盗賊のようなのです」
「盗賊……」
 そうだった、ここは異世界、盗賊はテンプレだった。しかし、俺に盗賊を殺せるのだろうか? 殺さなければ俺が殺されるのは分かるけど……無理だわー。
 ユキに任せるのもダメだ。もしかしたらユキなら盗賊を倒せるかもしれないけど、ユキに人殺しをさせるわけにはいかない!
 ジュエルモンスターに……いや、ここは逃げるのが一番だな。


「逃げるぞ」
「ユキが―――」
「ダメだ。ユキに人殺しをさせるわけにはいかない!」
「でも―――」
 俺たちが話しているうちに街道沿いの森の中から盗賊らしき人たちがわらわらと出てきた。このままでは街道が封鎖されてしまう。
「テンポウ、走り抜けろ!」
「ブル!」
 テンポウが速度を上げると、あっという間に高速走行に入った。多分、時速100Kmは出ているだろう。風がまるで壁のようにぶち当たってくる。
 思わず、ユキをぎゅーっと抱きかかえてテンポウの毛を鷲掴みにした。
「はぅ、ごしゅじんさま……」
 ユキが何か言っているけど、風切り音で何も聞こえない。
 テンポウは街道を真っすぐ、とにかく真っすぐ進んだ。イノシシだから曲がれないのかもしれない。それ以前に急に曲がられたら俺が吹き飛んでいくだろう。
 街道を塞ごうとしていた数人の盗賊がテンポウの前に立ちはだかったが、盗賊はボウリングのピンのように弾き飛ばされていた。走っているテンポウの前に飛び出してきたのだからこれは不可抗力で、こちらは悪くない!
 それに日本でもダンプの前に飛び出して無事なのは百回プロポーズする人だけだ。
 盗賊が何か叫んでいたけど、そんなことはお構いなしにテンポウを走らせる。とにかく、夕日に向かって走れだ!


 かなり走った。走ったのはテンポウだけど、俺はテンポウの背中で必死にしがみついていただけなんだけど、めちゃくちゃ疲れた。テンポウの毛を鷲掴みにしていた右手の握力がない。
「ここまでくれば盗賊も追いかけてはこないだろう。テンポウ、ゆっくりと速度を落としてくれ」
 急に止まられたら間違いなく俺は飛んでいっただろう。だから、ゆっくりと速度を落とさせた。
「ふー。無事に逃げられた。ユキ、大丈夫か?」
「ふにゅー」
 俺の腕の中でユキが項垂れている。どうしたんだ? まさか盗賊が矢とか魔法を放って、それが当たったのか!?
「ユキ、大丈夫なのか!?」
「ひゃい、だいじょうぶにゃのでしゅー」
 なんだかユキの顔が赤い。盗賊が怖かったのだろう。うんうん、よく分かるぞ。


「けっこう走ったな。街道からも外れてしまったようだ。ここはどこだろう?」
 周囲を見渡しても何もない平原だった。
「もうすぐ夜だから、ここで野営をしようか。盗賊もここまでは追いかけてこないだろうし」
「はい、なのです……」
 まだ少し顔が赤いユキと一緒にテンポウから降りた。
「テンポウ、ありがとうな。助かったよ」
 今日一日、俺とユキを背中に乗せて歩いたり走ったりしてくれたのでテンポウも疲れただろう。だから宝石に戻した。


「よし、ユキ、野営の準備をしようか」
 普通ならそこでユキが返事をするのだが、返事がない。どうしたのかとユキを見ると、なにやら夕日の方を見ていた。
「どうした? 何かいるのか?」
「あばばば……ごしゅじんしゃみゃ……」
 様子がおかしい。こんなユキは始めてだ。俺もユキが見つめている夕陽を見てみる……。
 地平線の向こうに沈もうとしている太陽からの日差しが途切れる。
「……」
 俺は太陽の日差しを遮るものを見て、体をこわばらせた。
「……やっぱり、いるんだよな……ドラゴン……しかも白銀?」
 太陽の光を浴びて全身が光り輝いている白銀のドラゴンが俺たちの方に飛んでくる。
 これは……ヤバい? 俺たち、死んじゃうかも?


 巨大な体の白銀のドラゴンが俺たちの前でホバリングした。
「ワイショウナル ヒトノ コヨ ワガ ナワバリニ ハイッタ ムクイ ヲ ウケヨ」
 片言ながら、俺にもわかる言葉を喋る巨大なドラゴン。まるで山が飛んでいるかのような巨大さに顎が外れそうになった。
 夕陽をあび、白銀の鱗が怪しく鈍い光を放つ。トカゲのような姿だが、体長は30mはあるだろう巨体だ。口から巨大で凶悪そうな牙がみえるし、額あたりに大小二本の角が生えている。背中には三対六枚の蝙蝠のような翼がゆっくりと交互に動いている。


「そう言えばアフロディーテさんが言っていたな……こいつが銀竜か……」
 アフロディーテさんに聞いていたのに、すっかり忘れていた。俺の落ち度だ。くそ、俺だけなら死んでも仕方がないけど、よりによってユキがいるときに現れるなんて。
 今更それを言っても遅いよな。どうやってユキを逃がすか考えないと……。


 凝視する俺たちに対して、白銀のドラゴンは極悪な牙が生え並ぶ口を開けると数秒の溜を作った。
 巨大な白銀のドラゴンは俺に対して、その凶悪極まりない口を開いてブレスを吐こうとしていた。
「……まさか? ユキ!?」
 これで俺の人生も終わるんだなと、短い異世界転生人生を振り返った。
 ……俺はいい、俺はいいが、この子だけは助けられないだろうか!?
 俺は銀色の髪の毛にウサギの耳が生えている可愛い少女を抱きしめて、白銀のドラゴンのブレスから少女を護ろうとした。
 こんなことでユキを護れるとは思わないが、もしかしたら……。


 俺はとっさにユキを庇うように抱きかかえた。その瞬間、ドラゴンの口から光が滝のように激しく流れ出したのだ。
 俺は死んだ。と思った。こんなところでユキを巻き添えにして死ぬなんて、なんて馬鹿なおっさんだろうか。後悔してもしきれない。
 例え俺が勇者だったとしても白銀のドラゴンのブレスに耐えきれるとは思えない。


 まるで太陽のフレアのような高熱と光の奔流が俺たちを包み込む。草が覆っていた地面はまるでマグマのようにドロドロと赤くなり、高熱によって空気中の酸素が消費されているのか息苦しい。
 あまりの熱さと、苦しさと、恐ろしさで俺は……。


 

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