ジュエリークラフター 【魔物を宝石に変えて魔王も倒せるけど勇者じゃないおっさん】

なんじゃもんじゃ

002B_アフロディーテ

 


 宿屋の部屋の中でどっかりと椅子に座った。
 外は日が落ちて暗い。部屋の中には夜の明かり用のランタンがあるが、そのランタンはマジックアイテムで使用するには魔石が必要になるので、魔石も買わされてしまった。魔石1個は銅貨1枚で、魔石1個で夜中まではランタンが使えるらしい。


 ウサギ獣人の子供が所在なさげに佇んでいる。
「どうした、座れ」
「でも、奴隷なのです……」
「ここには俺とお前しかいない。気にせずに座れ」
 俺がそう促すとウサギ獣人の子供は椅子に座った。こんなことをいちいち言わないといけないと思うと気が滅入る。
「まず、その傷を治療しよう。と言ってもポーションを飲むだけだがな」
 先ほど購入したポーション2本を机の上に置いてウサギ獣人の子供に飲むように言う。
「しかしなのです……」
「気にすることはない。お前が怪我をしたままだと化膿とかして治療費がかかるから、俺が損をすることになる。遠慮せずに飲め」
 もし怪我が化膿したり変なウィルスでも入って、このウサギ獣人の子供を治療しなければならなくなったら、多分ポーション2本どころの話ではなくなるだろう。
 こんなことは言いたくないが、このウサギ獣人の子供を買うのに金貨10枚も出したのだから、少なくとも元を取るまでは健康でいてもらわないとな。


 ウサギ獣人の子供がポーションを飲み干すと傷がじわじわと治っていくのが分かった。やっぱ異世界だなーと感心してしまった。
 2本目も飲ませたのでこれでひと安心だろう。
「次は汚れた体を拭かないとな」
 お湯で手ぬぐいを湿らせて体を拭いて、買った服に着替えるように言った。
「はいなのです」
 ウサギ獣人の子供はボロボロの服というのもおこがましいボロ布を脱いだ。
 ん? あれ? ついてない……。
「お、お前、女か!?」
「え? はい、そうなのです……」
 俺は慌てて後ろを向いて、ウサギ獣人の子供が服を着るのを待った。8歳くらいだけど、女の子の裸を見るのはよくない。俺は常識人なのだ。
 しかし、あまりにボロボロで汚かったので普通に男の子かと思っていた。考えたら、あの年ごろだと胸も大きくないし、男女の区別がしにくいのだ。
「急がなくてもいいから、しっかりと汚れを拭いてから服を着るんだぞ」
「はいなのです」
 しばらく待つと服を着ているような物音がした。
「服、着ましたのです」
 女の子だと思わなかったので麻のような素材のズボンとシャツを買ってしまった。買う前に性別を聞くべきだったと反省した。


「さて、次はお前の名前だ。何がいいかな?」
 さっきまで男の子だと思っていたので、男の子の名前をつける前に性別が分かってよかった。
「女の子だから可愛い名前がいいよな?」
 顔の汚れが落ちているので、よく見ると女の子だわ。決めつけはいけないよね。
 名前なんてつけたことないからな。この世界の名前はよく分からないから、地球的な名前になると思う。
 この世界の女性で名前を知っているのはカーシャ姫しかいないのだ。それ以外にどのような名前があるかなんて俺には分からない。
 可愛らしいウサギ獣人の女の子か……耳が特徴的だからミミは安直だよな? ウサギだから、うさぴょん……ぜってーあかんやつだ。
 はぁ、名づけがこんなに難しいとは……。
 この子の髪の毛は汚れでくすんでいるけど銀色っぽいから、そうだな、雪でいいか。
「ユキなんてどうだ? 俺の国では雪が降って積もった景色のことを銀世界って言うんだ。お前の髪の毛の色も銀色だからいいかなと思うけど」
「ユキ……うぅ……」
「え?」
 ウサギ獣人の子供が泣き出した。
「おい、どうした? どこか痛いのか? それともユキが気に入らないのか?」
「獣人の奴隷に名前を与えてくれたのです。とてもうれしいのです」
「お、おう……」
 なんだか庇護欲が全面に出てきてしまう。こんなに可愛い女の子に酷い扱いをするなんて、悪い奴もいるものだ。
「私は今からユキなのです。よろしくお願いしますなのです、ご主人様」
「ご、ご主人様……って」
「ユキのご主人様なのです」
 何も言えなかった。ユキが初めて俺に笑顔を見せてくれたのだ。泣きながらもとても嬉しそうだ。
 思わず、ユキの頭を撫でてしまった。ドントタッチロリータ主義だが、これは変な意味ではない。


 その日、俺たちは宿の食事を食べて寝ることにした。宿代には食事は含まれていないので、2人分で銅貨2枚が飛んでいった。
 ユキはベッドで寝るなんてと恐縮しきりだったが、せっかくベッドが2つあるのに使わないと勿体ないと言い聞かせた。それでもベッドに入るとユキはすぐに寝息を立て始めた。疲れが溜まっていたのだろう。
 魔石が勿体ないので、俺も寝ることにした。金策については明日考えよう。


「……」
 俺はいつの間にか白い空間にいた。
 そしてこの空間があのダメ神の空間だと、すぐに気づいたのだ。今度はなんの用なのか? ウザくて舌打ちをしてしまった。


『そ、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか?』
 俺の舌打ちが聞こえたのか、とても丁寧な言葉使いの人が出てきました。いや、声だけなので出てきたとは言わないな。
「……口調が違う? あのダメ神じゃないのですか?」
『誰がダメ神よっ!?』
 その反応を聞いた俺は、「ダメ神か」と呟いた。
 こんなちょっとした挑発に乗るのはダメ神の証拠だと、思わず口に出しそうになったのは言うまでもない。


「それで、なんの用ですか?」
 ダメ神でも神らしいので、一応は丁寧に相手をしてやろう。
『スキルがないので貴方も苦労をしたでしょうから、私をバカにしたことを水に流してあげて、スキルを2つあげるわ』
 絶句した。今頃出てきて何を言うかと思ったら、こんなことかよ。思わずため息が出てしまった


「……要らないよ!」
 はっきりと言い切ってやった。こういう勘違いダメ神にははっきりと言っても分からないだろうけど、はっきり言わないともっと分からないからだ。
 今更スキルなんていらないし、勇者になる気もない。
 それにこのダメ神は「スキルをあげたんだから感謝しなさい」と言いそうだし。


『え?』
「だから、い・ら・な・い、と言ったのだ」
『な、何でよ!? スキルよ? チートよ? 俺Tueeeよ!? ハーレムだって、世界征服だって、なんだってできるかも、よ!?』
 声しか聞こえないが、ダメ神は盛大に焦っているようだ。
「スキルなんて、ないのが当たり前の世界なんだから、俺にはなんの不利にもならないだろ? だから要らない!」
 すぐに喚き散らかすと思いましたが、沈黙が流れている。そんなに予想外の回答だったのかな?


『……アンタ、バカ?』
「失礼なことを言うなよ。それに俺の国では『バカと言う奴がバカ』という諺があるんだぞ」
『神をバカにしているの!? 調子に乗るんじゃないわよ!』
 懐柔の次は恫喝かよ。安っぽい映画を見ているようだ。ならば言ってやろうじゃないか。
「勝手に転生させたくせに、何がスキルだ、このダメ神がっ!?」
 いくら俺が寛大でも我慢の限界があるんだぞ。
『きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!』


 このまま分かり合えずに別れるのだと思っていた。しかし、そうは問屋が卸さなかった。
『貴方は何をしているのですか?』
『あ、あ、あ、あ、アフロディーテ様!』
 よく分からないけど、ダメ神が盛大に焦った声を出しているのが分かった。


『申し訳ありませんが、こちらで少し話をさせて頂きますね』
「……ど、どうぞ」
 なにか、物凄い圧力を受け、背筋に冷や汗が流れた。割って入ってきたアフロディーテという人は本当に神なのかもしれない。ダメ神とはまったく違った威圧感を声だけで出せる本物の神だと。
 とりあえず、見えないところでダメ神とアフロディーテと呼ばれる神の2人が話し合いをしているようなので、静観することにした。


 

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