ジュエリークラフター 【魔物を宝石に変えて魔王も倒せるけど勇者じゃないおっさん】
000B_異世界
俺は43歳だったけど日本では結婚などしていない。できなかったのだ。
高校がつまらなかったので自分の部屋でゲームをしていたら、いつの間にか出席日数が足りなくなって、中退することになった。両親はそんな俺を疎ましく思っていただろうが、特に何も言わなかった。
両親は俺にあまり興味がなかったのだ。両親はそれぞれ仕事を持っていて、俺よりも仕事の方が大事だったのだろう。
俺だって仕事はしていたぞ。自宅警備員だ。冗談だよ。
自宅警備員では金は稼げないから、自宅でアクセサリーを作ってネットで販売していた。これが意外と売れてしまって、自宅警備員をしながらなら生きて行くには困らない程度の収入があった。
ネットというのは本当に便利で、アクセサリーの材料などは全てネットで取り寄せることができたし、売るのもネットで全て事足りた。食事だって近くの仕出し屋が配達してくれたし、アクセサリーの発送も運送会社が取りに来てくれたので、家から外に出るのは年に何回あっただろうか?
そんな俺がゲームをしていた時だった。急に視界が真っ白になったのだ。最初は48時間不眠耐久ゲーム大会を1人でしていたから意識が飛んでしまったのだと思った。だけど、それが違うのだとすぐに認識することになったのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……」
気づくと何もない白い世界だった。
「ここは……」
床も白く、あるのかないのか分からない。そんな白い空間の中で俺は体を起こして胡坐をかく。
「俺は……あの時たしか……そうだ、急に視界が暗転して……それから……どうなった……?」
まずは落ち着こうと考えて、深呼吸をした。次第に落ち着き、冷静に考えていると、ある結論に至った。
「これが伝説の神の世界か!?」
つまり俺は死んでしまったのだと、思い至ったのだ。ちょっとくらい寝なくても大丈夫だったのに。過去には72時間ぶっ通しでゲームをしてから注文が溜まっていたので寝ずに24時間のアクセサリー作りをしたこともある。あの時は本当に死ぬかと思った。
だから48時間くらいで死ぬとは思ってもいなかったのだ。
「でもまぁ、死んでしまったのは仕方がない。神様でも出てくるのかな?」
などと考えながら少しわくわくしながら待った。早く俺にチートをよこせ!
『この状況を受け入れているのね。面白いわ』
結構待ったので、だらけてきたところに不意に声がかかり、体がビクッと反応した。おそらく女性の声だろう。やや甲高い声は耳に吸い込まれるように入ってきた。
ここで俺は思った。この声の主は神だ! 金髪超絶美女。それとも合法ロリ!? わくわくする!
「あー、神様でいいのかな?」
『そうよ』
ちょっとヤンが入っている感じだ。それはつまりデレがあるということなのだ!
「俺は死んでしまったのですか?」
周囲を見渡しても白い空間には自分以外の誰もいないけど、神様はいるのだ。絶対に顔を見てやるぞ。
『その答えはYesよ』
何の抑揚もない声で答えが返ってきた。Sなのかな?
しかし、本当に死んだと聞かされると、感慨深いな。色々と考えさせられた人生だったと……思わないけど。
「俺は異世界転生するのですか?」
『そうよ。この白い空間ときたら転生よ!』
死後に白い空間に呼ばれたら、転生するのは決まっているなんて、この神様もけっこうオタクが入っているな。
『さて、異世界転生先について話すわよ』
ばっちこーい!
異世界転生ときたらチートだ。どんなチートがもらえるのか今から楽しみだぜ!
『ここに貴方を呼んだのは別の世界に勇者として転生させるためよ』
えーーー、勇者? 嫌だな……異世界転生勇者は地雷がテンプレだしー。
勇者様とおだてられて魔王を倒したら邪魔にされて迫害される未来しか浮かばないよ。魔王がいなければ邪神だけど、とにかく勇者は悲惨な未来しか浮かばないから嫌だ。
『どう、楽しそうでしょ?』
「勇者以外でお願いします! 勇者だけは勘弁してください!」
勇者なんて碌な未来がないのが分かっている。だから、勇者以外で異世界転生させてほしい。
努力すればするだけ強くなれるとか、貧乏スタートでも構わないので勇者だけは嫌です!
『はぁ? 異世界転生の目的が魔王を倒すのだから、勇者に決まっているじゃない!』
「そこをなんとか、勇者以外でお願いします! 勇者じゃなければ賢者でも魔法剣士でもなんでもいいですから!」
誠心誠意頼んだ。勇者以外なら勇者の従者だっていいのだ。
『……とりあえず説明を聞いてくれるかな』
神様は諦めていないような口ぶりだけど、ここであまり心証を悪くするのは得策ではないだろう。よし、聞こう!
曰く、転生先の世界の名称はジブリス。
曰く、転生でも勇者として能力を上げやすいように18歳の体で転生する。
曰く、転生勇者は他に5人いて、俺を合わせて六人になる。その6人で魔王を倒すのが目的だ。
曰く、転生後は現地人が迎えにくるので、その場で待っていればよい。
曰く、ジブリスには魔物が存在し、人間には人族の他にも獣人族や魔人族など多くの種族が存在する。
曰く、転生者にはスキルを2つ与えるが、ジブリス人はスキルを所持できない。それが神の加護でもある。
曰く、能力は職業とそのレベルに左右され、必要な経験値を得ることで職業レベルが上がり能力も上がる。
曰く、職業には職業アーツという能力があって、剣士系の職業なら剣技のアーツなどが使える。
曰く、戦闘系職業はレベルを上げれば上げるほど強くなれるし、生産系職業なら生産物の品質などがよくなる。
曰く、現地人には才能によりレベル上限が存在するが、転生者は職業やスキルのレベルに上限はない。
曰く、転生者は言語理解というスキルを覚えた状態で転生する。これは2つのスキルに含まれない。
等々。
一般的な異世界転生の枠組みに近い。職業システムやアーツも理解できるし、神の加護であるスキルは現地人にないのも理解できた。
『じゃぁ、貴方の職業とスキルを決めるわよ』
「ちょっと待ってください」
『ん? 何? 今、いいところなんだから話の腰を折らないでほしいな』
神の声がちょっと不機嫌なものに変わった。これは俺が勇者以外の転生にしてほしいというのをうやむやにしようとしていたのではないだろうか。
「俺はそのジブリスとか言う異世界に勇者転生したくないのです。勇者でなければ受け入れますけど」
『もう、何言っているのよ!? 勇者転生なのよ? 最強になれるかもしれないのよ!』
神は先ほどまでとは全く違った声色で、かなり砕けた言葉使いになった。これがこの神本来の口調なんだろう。
「勇者転生なら断ります!」
『馬鹿言ってんじゃないわよ! 私が転生って言ったら転生なのよ!』
おい、乱暴だな! 本人の意思は無視かよ?
「なんか、押し売りみたいだ……」
心の声がポロっと漏れてしまった。
『なんですって!? 偉大なる神であるこのラーディア様に向かってよくもそんなことが言えたわね!?』
完全に怒らせてしまったようだ。こんなに沸点が低い神が治めているのだからぐちゃぐちゃな世界なんじゃないかと思ってしまい、余計に行きたくなくなってしまった。
急激に異世界転生への欲求がなくなってしまったのでお断りを入れることにした。
「申し訳ありません。こんな私を勇者にして転生なんてとんでもありませんから、転生はなかったことにしてください」
丁寧にお断りをしたつもりだ。俺って大人だよな。
『うるさいわよ! あんたは私が決めたことを平伏して受け入れればいいのよ!』
そんなぁー……。なんだよこの神は。これじゃぁ神じゃなくてダメ神じゃないか!
「貴方……本当に神様ですか?」
つい、聞いてしまった。俺のバカ。
『はぁ、何言ってるのよ、あんたバカァ?』
誰がバカだ、このダメ神が! 初めて会ったダメ神にバカと言われる覚えはない!
「私が嫌がることを無理やりする方が神だとは思えません。貴方は悪魔で私を騙しているのですね!?」
『言うに事欠いて悪魔とはなんてことを言うのよ! あったまきた!』
しまった、ダメ神を完全に怒らせてしまった。反省しなければ!
「随分とお怒りのようですが、本当のことを言われて逆切れですよね?」
『むきぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! 言ったわね!』
あれ? なんで怒るの? 変なこと言ったかな? まぁいいや。これは収まりそうにないから、逆にもっと怒らせて勇者転生をなしにしよう。
「悪魔でもそんな沸点が低いわけありませんよね? 大悪魔なんて人間を騙すためのノウハウが沢山ありそうですから、貴方は悪魔でも小者ですね?」
ブチッと何かが切れたような音が聞こえた気がした。
『あーもー、ムッカついたんだから! アンタなんてこうだ、こうしてやって、あーっはははー、こうしてやる! っざっまぁ~』
「な、何しているんですか!? ちょっと、見えないからって変なことしないでくださいよ!」
『いぃぃぃっひひひひ。異世界転生セット完了! 向こうに行ったら『ステータスオープン』って言えば、ステータス見れるから確認しなさい! じゃぁ~ねぇ~』
「ちょっと、俺は勇者転生したくないって言ってるじゃないですか!」
『あーーーっはははは! 転生しろやーっ!』
「おい! 俺の話をきけって!」
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