ジュエリークラフター 【魔物を宝石に変えて魔王も倒せるけど勇者じゃないおっさん】

なんじゃもんじゃ

001C_初動

 


 カーシャ姫が住む城には城下町がある。それがこの町だ。俺はこの城下町で宝石商の店を回ってリサーチをしてみた。
 デザインや価格を調べてみたが、小粒のルビーの指輪が金貨1枚で売られていた。リングもシルバーだから、そんなに高い物ではないはずだ。
 しっかりと見たが、品質もそれほどいいわけではないのに、食事100回分だなんて。あれなら日本だと1万円程度なので、1,000円の食事10回分だ。
 これがこの世界というか、この国の宝石類の価値だと思うとかなり割高に思えた。
 他にも見たが、どれも俺の価値観よりもかなり高い値段設定だった。この世界ではジュエリーにはオシャレ以外に魔法的効果を期待しているそうなので、高くなっているようだ。
 この魔法的効果というのが曲者で、ジュエリーに防御力アップや筋力アップなどの身体能力上昇効果や、魔法の威力を上げる効果を期待しているのだ。


「腹減ったな。考えたらこの世界にきてからまだ何も食べていないし」
 宝石商以外にも色々な店を見て回ったことで、気づいたら夕方になっていた。
「宿屋を探さないとな。それに食事だ」
 宝石商をいくつか回ってこの町を見て分かったことは、この国が人間の国だということだ。町の中では人間は8割ほど、残りの2割が獣人だった。
 エルフやドワーフといった種族は今のところ見ていない。
 獣人は全員が首に黒い首輪をつけていた。あれがなんなのかは言わなくても分かる。あれは奴隷の首輪だ。可哀そうに獣人は全員ボロボロだった。
 人間の奴隷もいるけど、獣人のようにボロボロではないから、獣人の奴隷に対する扱いが悪いのは分かった。


 あ、串焼きの露店があった。やっぱ異世界転生では露店の買い食いがテンプレだよな。よし、買おう!
「おっちゃん、それ1本いくら?」
「あいよ、1本青紙幣2枚だよ」
「じゃぁ、2本くれるかな」
「あいよ~、2本だね」
 串焼きは見た目牛肉で、何かのタレで味付けされているようだ。大き目な肉の塊が串に3個刺さっているので、1本でも腹に溜まりそうだけど、お腹が空いたので2本買った。
「まいどあり~」
 銅貨を1枚渡して青紙幣6枚をおつりで受け取った。
 匂いはとても香ばしくて食欲を誘う。かぷりと齧りつくと、程よい弾力が歯を通して感じられた。肉を噛み切って咀嚼すると醤油のようなタレの塩気と肉の甘味がなんともいえないコントラストとなってとても美味しい。
「おっちゃん、美味しいよ」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ~」
「ところで、ここら辺に宿屋はないかな?」
 おっちゃんは機嫌よく宿屋の場所を教えてくれたので、俺は串焼きを食べながらおっちゃんに別れを告げて歩き出した。


 3つ目の角を右に曲がってと。露店のおっちゃんの言う通りに道を進むと何やら人だかりができていた。
 その頃には串焼きを1本食べ終えて、2本目を食べようとしたところだった。
「これはなんの集まりですか?」
 集まっていた俺より年上の男性に聞いてみた。
「ああ、奴隷の投げ売りだよ」
「奴隷の投げ売り?」
 随分と物騒な言葉だ。
「あんた知らないのか?」
「ええ、この町にきたのは今日が初めてでして。できれば教えてくれませんかね」
 そう言うとそっと銅貨を1枚その男性に渡した。
「お、兄ちゃん、分かっているじゃないか」
 銅貨1枚だけど、予定外の収入に嬉しそうに教えてくれた。
 男性の話によれば、売れ残りの奴隷を路上で安く売るそうだ。そのほとんどが獣人なのは、獣人の国と戦争をしているからなんだと。
 てか、この国は獣人の国と戦争していたのか。まさか魔王っていうのが獣人の王だという落ちではないだろうな。
 あのダメ神の世界だからあり得ると思ってしまう。


 俺は男性に礼を言って奴隷の投げ売りがよく見える場所へ移動した。
 そこには長い耳の折れた獣人の子供が座らされていた。どうやらウサギの獣人のようだ。
 その子供は随分とボロボロな格好で、生傷が体中にあった。可哀そうだけど、これが奴隷なんだと納得する。わけない。
 まだ10歳にもなっていないような子供なのに奴隷なんて、可哀そうだ。俺は博愛主義者ではないが、こんな光景を見て気分がいいわけがない。
 お腹が大きく膨らんだ奴隷商人がウサ耳を掴んで声を張り上げた。
「さぁ、最後の奴隷だよ。本来は金貨30枚のところを、今日は特別に金貨10枚だ!」
 俺はその声に思わず手を上げていた。なぜそんなことをしたのか自分でも分からない。嫌な光景だけど奴隷を買う余裕なんて俺にはないのに。
「はいよ、そこのお兄さんに売った!」
 買ってしまった……。ヤバい。巾着の中には金貨が10枚入っていたけど、金貨が全部なくなってしまった。
 残ったのは銀板貨以下の金ばかりでだ。どうしよう。
「兄さん、奴隷の首輪に触ってくれ」
 奴隷商人の言うように奴隷の首輪に触ると、奴隷商人は呪文のようなものを唱えた。
「はいよ、これでこの奴隷は兄さんの物だ。好きなようにしてくれ」
 金貨10枚と引き換えにウサギ獣人の子供を買ってしまった。
 奴隷は異世界テンプレだけど、俺が奴隷を買うなんて……しかもこんな子供を……どうしよう……。


 とぼとぼと道を歩く俺のすぐ後ろをウサギ獣人の子供がついてくる。その目には光がないので罪悪感が半端ない。
「どうしたものか……」
 立ち止まってウサギ獣人の子供を見た。ウサギ獣人の子供は俺に何かされるのではと、かなり怯えているようだ。
 とりあえず、服と怪我の手当だよな。宿屋って奴隷も泊まれるのかな?
「はぁ……」
 ため息が出るよ。お金足りるよな? まだ銀板貨があるし……。
 そんなことを考えているとウサギ獣人の子供の視線が俺の左手の先に固定されていた。そう言えば、串焼きを持ったままだった。
「食うか?」
 ウサギ獣人の子供は目を見開きどうしたらいいのか考えているようだ。
「俺はさっき食ったから、これはお前が食え」
 そう言って串焼きを渡したら、ちょっとだけ躊躇したけどウサギ獣人の子供は肉の塊に噛りついた。すごい勢いで肉を食っていくウサギ獣人の子供だけど、ウサギって肉食なのか? なんてことを考えてしまった。獣人だから関係ないのかな。
 そう言えば、この子の名前も知らないな。
「お前、名前はなんて言うんだ?」
「名前はないのです」
 先ほどまでは力なく項垂れていたけど、食事をして少し元気が出たようだ。
 しかし、名前がないなんて……どこまで奴隷に厳しいのだか。
「今までなんて呼ばれていたんだ?」
「おいとか、お前とか、クズとか、役立たずとか……」
「もういいよ。苦労したんだな……」
 目頭が熱くなった。俺も生前はクズとか役立たずと近所の人たちに噂されていたんだろうな。引きこもりで親のすねかじりなんて人間のクズとか思われていたんじゃないかな。
 そうだ、この子に名前をつけてやろう。
「名前がないのは悲しいことだ。だから名前をつけてやろうと思うけど、希望はあるか?」
「分からないのです……」
「それじゃぁ、ここでつけるのもなんだから、宿屋に行ったら考えようか」
「はいなのです……」
 基本的に素直ないい子じゃないか。なのになんでこんなに傷だらけになるまで暴力をふるっているんだよ。信じられないぞ。


 宿屋に入る前に丁度いいというか、薬屋があった。中に入ると店主にウサギ獣人の子供の体の傷を治せる薬はないかと聞いた。
「それならポーションでいいさね」
 ポーションがあるんだね。やっぱ異世界だな。
「それ1本で足りますかね?」
「奴隷だし1本でいいんじゃないか? 2本飲ませば完全に治りそうだけど勿体ないぞ」
「そうですか? では、俺の分も含めて2本もらえますか」
 ポーション1本が銀貨1枚だった。銀貨が2枚も飛んでいったけど、怪我をしたままで化膿とかしたら大変だし、買った。
 その後、服屋もあったので服を買ったけど、服が高かった。子供用の服が1着で銀貨3枚もしたんだ。2着買ったので銀貨が6枚も飛んでいった。
 どんどんお金が減っていく。


 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品