ジュエリークラフター 【魔物を宝石に変えて魔王も倒せるけど勇者じゃないおっさん】

なんじゃもんじゃ

001A_初動

 


「おじさん……って!? 18歳で転生するって神様が言っていたと思うんだけど、なんでおじさんのままなのっ?」
 ユーリアが何か不思議なものを見るような目で俺を見てきた。
 そう言えば、さっきからおじさんって呼ばれていたな。
「若返っていないのか?」
 ユーリアは持っていたポーチから手鏡を取り出して俺に向けてくれた。


「……死んだころの俺だ」
 見慣れた中年おっさんの俺が鏡に映っていた。俺だけ18歳になっていない。43歳のままのおっさんだ。
 本当にあのダメ神は転生特典なしで俺をこの世界に転生させたようだ。まぁ、それはいい。勇者じゃなければ転生特典なんていらない。
 あったらあったで便利だとは思うけど、なければないで問題はないでしょう。こっちの世界の人だってスキルは持っていないのだから。


 ユーリアは神妙な面持ちで俺を見ているし、カールたちも可哀そうな者を見る目だ。
 でも、俺は逆に嬉しい。職業だってジュエリークラフターなんだから、生前に身につけた技能が役に立ちそうだし。
「まぁ、ない物は仕方がないよ。勇者じゃないから5人とは一緒に戦えないけど、陰ながら応援しているから」
 君たちが勇者のテンプレ末路を踏襲しないように祈っているよ。
「スキルもないおじさんが生きていけるほど、この世界は甘くないと思うけど……」
 カールが言いよどんだ。心配してくれているようだ。いい奴だな。
「大丈夫ですよ。この世界の人だってスキルは持っていないんだから」
 魔王を倒すスキルもなければ、魔王と戦う気もない。彼らとは近い将来に道を分かつことになるだろう。
 今出会ったばかりだけど、出会いあれば別れもあるのが人生だ。


「とりあえず、迎えが来るまでここで待つしかないから、能力について検証しないかな?」
 俺のことをひとしきり話したので、今度は彼らがどの程度強いのか興味が移ったようだ。カールがそう提案した。
「どうやって能力の検証をするの?」
「えーっと、シャオだったよね。おじさんと一緒の国の……」
 中国の上海出身のシャオは俺と同じ黒髪黒目だけど、中国系の顔立ちをしているので俺には彼女が中国人だと普通に分かる。
 しかし他の4人には俺とシャオの出身国の違いは分からないようだ。東洋系の顔なんてなんでも同じに見えるのだろう。
「違う。私はチャイナ、おじさんはジャパンよ」
「あ、ごめん」
 本当に申し訳なさそうに謝るカールは素直な性格なんだろう。


「スキルのないおじさんなら一般人の能力じゃないかな? おじさんと比較すれば分かると思うんだ?」
 カールは俺が神から能力ももらっていないと思っているようだ。多分、それは正解だと思う。
「おじさんのHP、MP、SPを教えてもらえないかな?」
 俺はカールに請われるままにステータスを教えた。隠す必要はないだろう。
 俺のステータスを聞いた五人が絶句した。その顔を見れば声に出さなくても分かってしまう。俺の能力がかなり低いのだと。
「僕はHP、MP、SPの三つとも1,500だったよ。職業は剣の勇者だよ」
 俺に申し訳なさそうにカールは自分の能力を教えてくれた。予想はしていましたけど、俺の15倍ですか。凄い差なんだろうな。


「私はHP3,000。MP500。SP1,000だった。職業は斧の勇者だ」
 カールの次はアキムが自分の能力を話してくた。予想はしていましたけど、アキムも凄くよいステータスだ。
「僕は槍の勇者で、HP2,000。MP1,000。SP1,500」
「私は魔法の勇者。能力はHP500。MP3,000。SP1,000よ」
 ピヤリオに続きユーリアもよいステータスだ。
「HP1,000。MP2,000。SP1,500。癒しの勇者です」
 最後にシャオが発表して俺を含めた6人の能力が出そろった。


 俺はジュエリークラフターで、能力はHP100。MP100。SP100だ。
 これがこの世界でどの程度の能力か分からないが、5人に比べると明らかに低いのは分かった。
「おじさんの職業はジュエリークラフターだから、生産職だよね」
 ユーリアは不思議そうに首を傾げた。美人のそういう仕草は絵になるね。おじさん惚れてしまうよ。
「生前、アクセサリーを作っていたので、その流れの職業なんだろうね」
「そうなんだー。今度私にもアクセサリーを作ってね」
 美少女にウィンクをされるとドキッとする。おじさん、頑張ってアクセサリーを作っちゃうぞ。


 さて、この戦いが普通にある世界で俺はジュエリークラフターという生産職に就いた。これはあのダメ神の嫌がらせなんだろうけど、俺には嫌がらせになっていない。
 この職業であれば、戦いを要求してくるような馬鹿はいないだろう。ただし、俺を無能だと言って殺しにくる馬鹿はいるかもしれないと、考えておくべきだ。
 そうするとだ、5人には悪いけど、5人の陰に隠れて状況確認をさせてもらうのが一番なんだろうと思う。
 俺を取り巻く状況が分かってから、どうするかを決めていいだろう。それに職業のジュエリークラフターの使い勝手も確認しないといけないからな。


「おじさん、気を落とさないでね」
 俺が考え込んでいたので、ユーリアが落ち込んでいると勘違いして慰めてくれた。いい娘だね。
 俺としては特に気落ちしているわけではないので笑顔で気にしていないと返しておく。その笑顔がユーリアたちには痛々しく見えたようだ。


 そこで建物のドアが開き鎧を着た兵士がどかどかと入ってきた。兵士が入ってくるとドアの両端に二列に並んだと思うと、ドアから太陽の光を浴びてキラキラと光り輝く金色の髪の毛の、まるでフランス人形のような可愛らしい少女が現れた。


 

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