照魔ヶ学園☆心霊研究部

セエレ

8.初めての訪問者


心霊研究部が立ち上がってから早数日。
特に目立った動きはなく、澄晴は平穏な日々を過ごしていた。
(あ〜…平和や…)
午後の眠たくなるような授業さえも幸せに感じる。
このままこんな日常が続けばいいのになんて呑気に考えていると、窓の外から金髪が見えた途端、儚い夢だったと澄晴は落胆した。
「澄晴クン、元気?」
「あー……さっきまでは」
失礼な態度をとったとわかっていても、申し訳ないとは思わない。
何故ならチラッと劉人の顔を見た瞬間、とてつもなく嫌な予感がしたからだ。
こんな顔をしているときの劉人は、たいていろくなことを考えていないことを短い付き合いながら澄晴は理解していた。
嫌味を言われたことに気付いていないのか、はたまた気にしていないのか、劉人は笑顔のままこちらを見ている。
というか、何故こいつはここにいるんだ?
(授業はどうしたんだよ、授業は…)
澄晴の心配とは裏腹に、劉人は堂々と話しかけてきた。
「澄晴クン澄晴クン!この授業終わったら、D組に集合な!」
「…っ、バカ。声がでかーーー」
「榎原ぁあああああ!!」
「やっべ!んじゃ、澄晴クン放課後に!」
廊下に響き渡る真谷の声を聞いた劉人は、ご丁寧に自分の名前を大声で叫んで、そそくさとその場を離れていった。
「………当真、この問題を解きなさい」
「…………」
(絶対、ぶっ飛ばす)
澄晴は黒板の前で静かに、劉人への復讐を誓った。






「さてさて。来年の部活動説明会に向け、我々はもっと実績を増やさねばならないと思うのだが…赤葉クン、どう思うかね!」
「はーい、異議なーし」
「………」
放課後さっそく赤葉のいるD組に集まり、活動を開始している。
1月に結成されたばかりのこの心霊研究部には実績がなく、そこが劉人には不満らしい。
新入部員をゲットする為にも、今日からさっそく怪奇現象を見つけていきたいそうだ。
……本来は活動してはいけないのだが、赤葉曰く"真谷に迷惑をかけなければ良い"ということらしい。
案外、真谷もいい加減な男だ。
「とか言っても、どうしたらいいんだろうな………晴ちゃんはこの前みたいになんかわかんないの?」
「…晴ちゃん?」
赤葉に突然いつもと違う名前で呼ばれ、澄晴は怪訝な顔で赤葉を見つめた。
「今日からちゃんと部として活動するわけだし、これからよろしくねってことで」
「お、おう…?」
それでどうして晴ちゃんになるのかはわからないが、今後のことを考えれば赤葉の言うことには一理ある。
せっかく同じ部として活動するのであれば、仲良くなるに越したことはない。
「晴ちゃん…?なんだそれ」
「当真のあだ名。劉人はゆーちゃんな」
「………!」
ゆーちゃんと呼ばれた劉人は、まるで初めてあだ名を付けられたかのように喜んでいた。
「んじゃ、話を戻すか。さっきも聞いたけど、晴ちゃんはなんかわかったりしないの?」
「うーん…そう言われてもなぁ」
実のところ、何もわからない。
この前の無限階段の件だって、あんな夢を見たのは久々だったからだ。
「オレはね、2階にある音楽室が怪しいと思うんだ〜。なんか、プンプンすんだよ!」
「はいはい」
椅子から立ち上がってキラキラと目を輝かせながら言った劉人を、赤葉は軽い調子で受け流した。
劉人の根拠のない自信だけでは動くだけ無駄なので、赤葉が知っているこの学園の噂話を聞いてから、その中のいくつかを今日は実践して終了ということになった。
「うぇー?!オレは音楽室って言ってんのにー!」
「わーったから。ほら、ゆーちゃん行くぞ」
駄々をこねる劉人を無理矢理連れ、3人はD組を出た。


それから暫く検証してみたが、やはり何も起こらない。
ふと窓の外を見てみれば、いつの間にか日は落ち、辺りは薄暗くなっていた。
今日はそろそろ帰るか…何て話をしながら再びD組に戻って荷物を抱えていると、廊下の奥から微かにバタバタと走っているのであろう足音が聞こえた。
その足音の主は人を探しているのか、教室のドアを開けては閉め、次の教室でも同じようなことを繰り返している。
「なんだなんだ?」
劉人と赤葉は不思議そうに音のする方向を見て首を傾げていると、ガラッと音を立てて自分達のいる教室の扉が開かれた。
扉の先に現れたのは、綺麗な緑色の髪の女の子。
忘れ物でも取りに来たのかと思ったが、明らかに様子がおかしい。
女の子は3人を見て安心したのか力が抜け、地面へと吸い寄せられるように体が傾いた。
「危ないっ!」
澄晴が言葉を発するよりも早く、劉人が素早く女の子を受け止める。
「大丈夫か?」
「…ありがとう」
劉人に肩を支えられ、なんとか呼吸を整えてから女の子は喋り出した。
「助けて、欲しいの」
彼女の言葉を聞いた途端、劉人が微かに笑ったように見えた。

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