照魔ヶ学園☆心霊研究部

セエレ

7.部の結成


「だーかーらー!俺は、部には入らないって言ってるだろ!」
「なんでだよ!助けてくれるって言ってたじゃねぇか!」
「助けるとは言ったが、入るとは言ってない!」
「そこは入る流れだろ!!」
「俺は流れに逆らう主義なんだ!!」
このやり取りを見るのは、一体今日で何回目だろうか。
目の前で騒ぐ2人を眺めながら、赤葉はパンの入った袋を開けた。
(全く同じ内容で、こうもぎゃあぎゃあ飽きずに騒ぎ合えるなんて…逆に凄いな)
朝からずっとこの調子だ。
1時限目の準備をしていたら、澄晴を引きずった劉人が突然ズカズカと教室にやってきて、何事かと思う間もなく始まったこの茶番。
こいつらは…正確に言えば劉人だが、何故か毎回休憩時間に澄晴を連れてやってきては『部に入れ』だの、『俺はやらない』だの、全く進展のない会話を繰り返している。
昼休みくらいはゆっくりできるだろうと思っていたのだが、澄晴は弁当を、劉人は購買で買ったのであろうおにぎりをわざわざ持ってきてまでここの教室に来た。
そして、今に至る。
(買っといてよかった…)
赤葉は朝、コンビニで買ったパンを口に運びながら静かに思った。
普段はミサやマナ、または他の男子達と昼食を共にするのだが、今回はこの2人が自分の周りで騒ぐもんだから、皆は離れてご飯を食べていた。
自分もそちら側へ行って静かに食べたい。
しかし、劉人がずっと袖を掴んでいるので、身動ができないのだ。
(しょうがないなぁ…)
この調子では放課後になっても、この話題は解決しないだろう。
赤葉は非常に面倒だが、劉人に協力することにした。
「…当真、よく聞いてくれ。 この部にはお前が必要なんだよ」
「え?」
「この前のでわかっただろう?俺たちだけじゃ無理なんだ。頼む、俺たちを見捨てないでくれ」
赤葉は大袈裟に悲しみ、肩を落としてみせた。
(やりすぎたか…?)
自分でやっといてなんだが、めちゃくちゃ嘘くさい。
そっと澄晴の様子を伺ってみた。
赤葉からこんな事を言われるとは思っていなかったのか、ぽかんと口を開けたまま澄晴は赤葉を凝視していた。
「おい、す──」
「まあ、そこまで言うなら!入ってやらないこともないな!!」
澄晴はどこか照れたような様子で頭をボリボリとかいた。
この前の件で、何となく思ったことがある。
(こいつチョロいな)
正直これから仲間になる相手に言う言葉ではないが、チョロすぎる。
扱いやすいと言う意味ではかなり有難いが、今後のことを考えると少しばかりこのメンバーでは不安になってきた。
(でもまぁ、部ができないと話にならないしな…)
メンバーがどうであれ、これで3人になったので部は立ち上げることができるだろう。
あとは劉人曰く、真谷にこのことを報告すればいいだけだ。
「マジか澄晴クン!オレの説得はめちゃくちゃ断ってたのに!でも入ってくれるなら気にしねぇや!」
劉人は満面の笑みで、澄晴の肩を掴み揺らしている。
…若干揺れが激しいのを見ると、全く気にしてないわけではなさそうだ。
「そうと決まれば善は急げだぜ!早速、真谷にこのこと伝えてくる!」
「ちょっと待って、まだ入部の紙とか書いてないけど」
「自分も書いてない」
「それなら問題ない!オレが2人の分をもう書いといたからな!」
劉人は鞄から紙を取り出し、赤葉と澄晴の前へ広げてみせた。
確かにそこには自分の名前と澄晴の名前が書かれ、しかもよく見てみればご丁寧に筆跡まで変えている。
口を開いて何かを言おうとした澄晴を、赤葉は静かに止めた。
澄晴と同じように言いたい事は多々あったが、これ以上劉人の相手をするのは時間の無駄だ。
と言うより早急に真谷のところにでも行ってもらって、自分は穏やかで平穏な昼休みを今からでも過ごしたかった。
「手間が省けてよかった。じゃあ劉人、後は任せた」
「おう!行ってくる!」
劉人は勢いよく教室を飛び出したことによって、ようやく赤葉の元にいつもの昼休みが帰ってきたのだった。






オレンジ色に染まった職員室で、赤葉は今日は厄日ではないのだろうかと頭を悩ませていた。
劉人が教室を出て行ってしばらく経った後、眉間に深く皺を寄せた真谷が教室にやってきて「放課後、職員室に来なさい」と赤葉と澄晴を見て言った。
赤葉は劉人がまた何かやらかしたのかと思い、呆れながら放課後、職員室を訪ねてみて真谷に言われた第一声はこれだ。
「お前ら、弱みでも握られて脅されたのか?」
一体、真谷の中の劉人はどうなっているのか。
自分たちの意思でこの部に入りたいと思ったと何度伝えても、帰ってくる言葉はこれだった。
「だーかーらー!オレは弱みなんて握ってねぇつってんだろ!」
「お前の言葉なんか信用できるか!」
「んだと、この顎ヤスリ!」
「やめろ榎原、余計悪化する」
あらぬ誤解をされている当の本人がこの調子だ。
朝の澄晴の時といい、何故穏便な話し合いというものができないのだろうか。
澄晴を横目で一瞥してみると、全てを諦めたような表情で赤葉をジッと見つめていた。
(俺に任せる気か?)
そう思った瞬間まるで赤葉の心の声が聞こえたかのように、澄晴は無言で首を小さく縦に振った。
(この野郎…)
後で覚えてろと小さく呟いてから、赤葉は不毛な言い争いを続けている劉人と真谷の方へ渋々向き直った。
「…あのさ、真谷先生。何度も言うけど、本当に俺たち自身がこの部に入りたいと思ったんだって」
「いや、しかし」
人当たりのいい笑顔を浮かべ、赤葉は真谷の言葉を遮って続けた。
「てか、聞くけどさ。当真はともかく、仮に俺に弱みがあったとして…それ握られるようなヘマをするほど、俺は馬鹿じゃないんだけど」
笑顔のまま言葉に少し怒りを滲ませ、ピシャリと言い放つ。
これに気が付かないほど、真谷はバカではない。
「…本当にお前らの意思なら、いいんだ」
漸く折れた真谷を見て、赤葉はやれやれと肩を竦めた。
「これでやっと部を設立できるのか…」
「顧問は真谷先生がやってくれるんだろ?」
「そうだ」
真谷は重い溜息をついてから、3枚の申請書を眺めて言った。
「今日、この紙を生徒会に提出する。本来なら過半数の賛成で可決されるんだが…約束だからな、その辺は俺がどうにかしてやる。だが活動は来年の春からだ」
この前の夜、校内に忍び込んで既に活動してしまったがその事は黙っておこう。
「えー!春からなんて遅すぎる!今からでいいじゃねえか!」
「我儘を言うな。それがこの学校のルールだ」
「ちぇ〜…」
ルールとは言え、来年まで活動できないなんて確かに不服だった。
春休みまであと約2ヶ月もある。
ずっと我慢しろというのかと抗議の目を真谷に向けてみると、呆れたようにボソリと言った。
「……俺は面倒事は嫌いだからな。お前たちをずっと監視するなんて面倒な事したくないし、責任を負うのも嫌だ。だから、静かにしてろよ」
──つまり、絶対バレないように活動するなら、ということか。
(意外といい奴だな)
真谷の意図を理解した赤葉は、項垂れている劉人の肩を優しく叩いた。
「あ、そう言えば…部室ってどこの使えばいいんだ?」
「そんなもんはない」
「……は?」
幻聴でも聞こえたのだろうかと、赤葉は自分の耳を疑った。
(部室がないって、そんな馬鹿な)
「真谷先生、部室は?」
「だから、ないって言ってんだろ」
先程聞こえたものは、幻聴ではなかったようだ。
どうやらこの男、本当に部を結成できると思っていなかったらしく、部室を用意してなかったらしい。
「ホントにどうしようもねぇな、この顎砂利道!!」
「榎原、お前ぶっ飛ばすぞ!!」
またぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた2人に、赤葉は頭を抱える他なかった。
もう静かにしろと怒鳴ろうかと思ったその時、それまで黙っていた澄晴が口を開いた。
「部室、一個余ってますよね。それ使っちゃダメなんですか?」
澄晴に言われ思い出してみると、確かに一個余っている事に気がついた。
この学園にある部室の数は全部で6つで、部の数は、バスケ・サッカー・野球・囲碁将棋・農作部の5つ。
例えどこかの部が倉庫がわりに使っているとしてもこの学園の生徒数自体少ない為、荷物の数もたかが知れているだろうし、交渉してどかしてもらうことくらいできるはずだ。
「確かに一つ余ってたが…残念ながらそこは、夏に立ち上げられた美術部が来年から使うことになった」
「…美術部って部室使うの?」
「よくわからんが…まあ、色々置いたりするんだろ」
「なんてこったー!オレがもうちょっと早くここに来ていればっ!!」
劉人は悔しそうに頭を乱暴に掻き毟った。
「というか、お前らこそ部室あってどうするんだ。別に使わないだろ」
「んー、まぁ確かに…オレが欲しいのは、皆が相談に来れる場所なんだ。ここで心霊研究部が活動しているってのがわかる場所」
「あぁ。そういう事なら、3階にある開かずの間なんてのはどうだ?お前らにピッタリだと思うぞ…なんてな!」
ガハハと品のない笑い声を上げながら、真谷は机を叩いた。
どうやら、この学園に存在する開かずの間の噂を信じていないらしい。
(ま、一般人ならそれが普通か)
赤葉自身もこの間の無限階段の事件がなければ、たんなる噂くらいにしか思わなかっただろう。
この学園にある開かずの間と呼ばれる教室は、3階の1番右端…理科室の隣にある。
かなり危険な噂も耳にしたことがあるが、今はその話は必要ない。
横でキラキラと目を輝かせている劉人を見て、まさか本気で開かずの間を活動場所にするわけではないだろうなと、赤葉は睨みつけた。
そんなところを活動場所になんてしてしまえば、さらに人が寄り付かなくなってしまうことくらい容易に想像できるはずだ。
「とにかく活動は来年の春から。お前ら!くれぐれも静かに穏やかに過ごせよ!」
「へーい」
慌ただしかった1日は漸く終わりを告げ、今日は大人しく家へ帰ったのだった。

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