照魔ヶ学園☆心霊研究部

セエレ

4.最悪の朝


真っ暗な闇の中で、ポツリと一箇所だけ光っている場所がある。
近づいてよく見てみると、それは見慣れた照魔ヶ学園しょうまががくえんだった。
不気味な光を纏った学校は、ゆらゆらと不規則に揺れている。
(…嫌な気配やな)
本能的に感じた、負の気配。
近付いては危険だと、脳が警報を鳴らしている。
ふと視界の端に、金色が映った。
そちらに視線を移すと、何処かで見たことがある2人組が、学校に向かっている。
(バカ、学校に近づいちゃ…!)
言葉を発したはずが、息が漏れるばかりでまるで音にならない。
どうにか止められないかと思考を巡らせている間に、2人は1階の窓から校内へ侵入してしまった。
教室を抜け廊下を通り、2人が北側へ向かおうとしたその瞬間、凄まじい悪寒が体を駆け巡る。
心臓はバクバクと大きな音を立て、冷や汗が止まらない。
(やめろやめろやめろ!そっちへ行ったらあかん!!)
そう叫んだと同時に、学校がグチャリと歪み出す。
まるでこの世から切り離すかのように、彼らを飲み込んだまま形を変え、だんだん小さくなっていく。
(ああ…嘘やろ…)
ガチガチと奥歯が震え、力なく地面へ座り込む。
太陽が昇り、グチャグチャになった学校の南側に光が当たる。
一匹の猿が、2人をジッと見ていた。










グッショリと汗で濡れた寝巻きを見て、当真とうま 澄晴すみはるは舌打ちをした。
手の甲で額を触ると、まだじんわりと汗ばんでいるのがわかる。
(最悪や)
夢見は悪くない方だと思うのだが、たまにああいった夢を見る。
悪夢は誰だって見るさと、わからない人は言うだろう。
いっそ悪夢だった方が、どれだけ楽か。
いつまでも湿った寝間着を着ているわけにはいかず、澄晴すみはるはベットから起き上がり制服に着替えた。
普段なら朝飯を食べた後に着替えるのだが、今日は食欲がない。
携帯を開くと、時刻は8時を示していた。
(…嫌な予感がする)
この感覚は覚えがある。
あの時と同じじゃないか。
あの日、俺は────。
(…余計なことを考えるのはやめよう)
一階へ降り自分の弁当を鞄に詰め込むと、澄晴すみはるは家族への挨拶もそこそこに、急いで家を出たのだった。


(くそ…なんなんや…)
時間がいくら過ぎようと、澄晴すみはるの心の靄が晴れることはなかった。
寧ろ今ではその靄は、授業に集中出来ないほどに膨れ上がっている。
面倒ごとに関わるのは御免だ。
そう思うのに、放っておくことはできない。
見てしまった以上、澄晴すみはるの行動に選択肢など存在せず、授業が終わるのを黙って待つしかないのだ。
ゆっくりと息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
漸く授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、教室に残る奴もいれば、急いで出ていく奴もいる。
澄晴すみはるは静かに立ち上がると、誰にも声をかけずに教室を後に出た。
右へ向かって歩き始めると、夢の中で見たあの転校生がD組の扉の前でモジモジしているのが見え、声をかけようと近付いたのだがタイミング悪く教室内へ入ってしまった。
D組は見た目がチャラチャラした人が多く、正直あまり得意ではない。
仕方がないので、出てくるまで自分の教室の前で待つことにした。
「こんなところで何してんだよ、当真とうま
澄晴すみはるくんってば、彼女でも待ってるんですか〜?」
「な、ちゃう…違うっての!ちょっと用があるだけだよ…」
じっと廊下で黙って立っている澄晴すみはるに対し、友人達は色々声をかけてくれたのだが、今はそれどころではない。
からかってくる友人達を適当にあしらい、背中を見送っていると、右側から騒がしい声が聞こえてきた。
「おい、待てって!説明をちゃんとしてくれないと困るっつーの!」
「ふっふっふー!楽しみはとっておかないとだよ、赤葉クン。あ、今更だけどオレの名前は榎原 劉人えのはら ゆうり!よろしくな!」
「んなもん、今はどうでもーーー」
「おい」
自分の声を聞いた2人は、ピタッと動きを止めた。
ああ、腹が立つ。
お前らのせいで、俺は今日一日中、気分が最高に悪かったんだ。
ギロリと2人を睨みつけ、言葉を吐く。
「今日、夜の学校には行くな」
それだけ言って、澄晴すみはるは踵を返し歩き出した。
きっと彼らは、俺の忠告なんて無視して学校に向かうだろう。
面倒ごとに関わるのは御免だし、巻き込まれるなんて以ての外。
それでも放ってはおけない。
もう、あんな思いは2度としたくないから。
(今度は、助けてみせる)
拳を強く握りしめ、澄晴すみはるは決意を固めた。

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