照魔ヶ学園☆心霊研究部

セエレ

2.退屈な日常


平凡で、平和で、いつも変わらない日々。
この平和でのどかな小さい村に不満などはなかったが、緋雨ひさめ 赤葉あかはは少々退屈していた。
同じことを繰り返し、そして時間だけが過ぎていく。
──何か特別なことでも起こらないか。
そんなことばかり考えていたある日の夜、ふと目が覚めて何の気なしに窓の外を見てその光景に驚愕した。
狂ったように鳴いている無数のカラスたち。
森はざわめき、不気味に輝く赤い月。
"何か"が始まる予感がした。
それから数日後、この村に珍しく転校生がやって来た。
金髪にピアス、ヘアバンドをつけてブレザーの下にパーカーを着た男。
(パーカーとか…初日から校則違反かよ。先生たち、よくそのまま舞台に上げたなー)
第一印象はチャラチャラした、如何にも都会から来ましたって感じの同級生としか思わなかった。
しかし緊張しながらも校長の紹介に真面目に応えようとする姿は、何だか見た目と随分違って面白い。
でも、それだけ。
やはり興味は湧かなかった。
(…つまんないの。早く終わらないかな)
意識を転校生から今日の昼食へと移したその瞬間、それは起こった。
「えええええええええ?!嘘だろ?!」
突然響いた大声に、誰もが視線を発信源へと向けた。
それはもちろん、赤葉も例外ではない。
(な、なんだ…?!)
舞台上には転校生と校長がいるのみで先程と状況は変わらないが、唯一違うところと言えば、その転校生が校長に掴みかかっているというところだけだ。
「おかしいだろ!?なんで心霊研究部がねぇんだって!普通あるだろ!常識だろ!!」
常識ではないだろとツッコミを入れなかったのは、その転校生が本気で言っていることを感じたから。
(心霊……)
見たことのない景色が、突然脳内をよぎる。
真っ赤な柱に小さな祠、そして白い──……。
「他の部活も面白いとは思うが、心霊研究に勝るもんはねぇのに!つか農作部はあるのに、何で心霊研究部はないんすか?!」
「……っ!」
再び上がった大声によって、意識が呼び戻される。
(今のは、一体…?)
一瞬浮かんだ光景は、もう思い出すこともできない。
意識を舞台へと移すと、相変わらず転校生と校長がぎゃあぎゃあ騒いでいる姿が見えたが、舞台袖から真谷が登場して転校生を無理矢理連れて行けば、体育館は静寂に包まれた。
しかしそれも長くは続かず、体育館は再びざわつき始める。
至る所で転校生についての話ばかりが聞こえてきた。
転入早々問題を起こしていった転入生に呆れた感情を抱いていると、隣に座っている愛美が話しかけてきた。
「あっくん、あっくん!なんかヤバイ奴が来ちゃったね!」
クルクルと髪の毛を弄りながら、愛美はくすくすと嘲笑した。
「こら、マナ。そう言うこと言わないの」
愛美の後ろにいた美咲は、軽く愛美を小突く。
「でもでも、サッちゃん。本当のことでしょ?高校生にもなって幽霊がいるとか…絶対ヤバイって!」
「サキもそう思うのか?」
「いや…まあ、それは…」
「ほらー!ね、あっくんもマナと同じ意見でしょ?幽霊なんているわけないって!」
「俺は…」
『えー、最後はD組。速やかに教室に戻りなさい。繰り返します──』
落ち着きを取り戻した校長の声が、マイクから響き渡り3人の耳に入る。
キョロキョロと辺りを見回せば、残っているのはいつの間にか自分たちのクラスだけ。
絡んでくる愛美を美咲と2人であしらいつつ、赤葉は教室へと向かったのだった。







あの衝撃の始業式から数日。
特になんの変哲もない、いつもの日常が続いていた。
「あー、ヒマヒマー…つまんなーい」
「うるさいよ、マナ」
「サッちゃんてば、チョーきびしー…」
机の上に突っ伏し、髪の毛を弄りながら愛美は気怠げに答えた。
その様子を美咲は呆れながら眺めていたが、相手をする気がなくなったのか…黒板に視線を移してからは適当に相槌をうつのみで、視線が愛美の方へ向くことはなかった。
「あっちゃん、あっちゃん」
頬っぺたを膨らませ袖を引っ張ってくる愛美の姿はお世辞にも高校生には見えず、赤葉はつい小さく笑ってしまった。
しかし愛美には気づかれると面倒なので、とっさに口元に手を当て欠伸を我慢している風を装い誤魔化した。
「…どうした、マナ」
愛美は特に話す内容を決めていなかったのか、暫く赤葉の袖に付いているボタンをいじっていたが、何かを思い出したのかパッと顔を上げた。
「校内に貼ってあったチラシ見た?」
「チラシ?」
「『心霊研究部!』ってデカデカと書いてあったチラシのこと! あっちゃん見てないの?」
「あぁ、なんだ。それのことか」
そのチラシは廊下や教室のいたるところに貼られており、嫌でも視界に入る。
目に止まらないわけがなかった。
例の転校生が同級生に声をかけまくり、心霊研究部とやらに入らないかと勧誘しているという噂も聞いている。
あのチラシを見る限り、思ったような成果は出ていないのだろうなと赤葉は思った。
それにしてもあれだけの量を、いつ貼ったんだろうか。
「やっぱり変な人だよねー。あんなの貼ったって誰も興味持たないし、自分がさらに浮くだけじゃん!華子さんとか、旧校舎とか嘘ばっかり」
「…いや、あながち嘘とは言えないと思う」
愛美は赤葉の言葉を聞いて驚いている様子だった。
それはそうだろう。
愛美相手にその手の話は、一切したことがなかったからだ。
「あっちゃん…それ本気で言ってるの?」
「世の中には科学で証明できないことだってたくさんある。生憎、俺は見たことがあるわけじゃないが…この村自体にそういった噂があるのは、昔から知ってたからな」
赤葉は窓の外を眺めながら、ポツリと呟いた。
「赤葉、噂っていうのは?」
黒板と睨めっこしていたはずの美咲も、少し気になったのか、赤葉の方へと顔を向けた。
「華子さんや旧校舎…それ以外にも色んな霊がよく出てたみたいだ。随分昔に、神主が封印してからはピタッと出なくなったらしいが」
「なるほど…だから私達は一度も見たことがないのか」
「ちょ、ちょっと!サッちゃんまで何言ってるの?!」
愛美は授業中だということを忘れているのか、声を張り上げた。
お陰で3人まとめて教師に怒られる羽目になってしまい、その後は一切、転校生の話題に触れることなく授業を終えた。
美咲が愛美に声をかけようとしていたが、どうやら自分の意見が2人に合わなかったのが気に入らなかったのか、別の友達の場所へと向かっていった姿が見えた。
(全く…子供じゃないんだからさ)
愛美が不貞腐れること事態、別段珍しいことでもない。
どうせ数時間経てば、寂しくなってまたこちらに戻ってくることだろう。
美咲もそれがわかっているので特に気にした様子もなく、席で悠々と本を読んでいた。
(さて…喉乾いたし、自販で何か買うか)
赤葉は席を立ち、教室を出ていった。

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