新・痛々しく甘いチョコレェト

山田 みつき

14

医師の発言が私を惑わせた。
携帯電話の検索で調べようと思ったが、事態は急変した。

真冬(麗華)「ねえ!私は誰なの?教えて!!教えて!解らない、愛する望と約束をしてるのに…!!」

すると長谷川さんが口を開いた。
私に向かってニヒルに笑った。

長谷川「面白くなりそうね。…だけど、貴方には到底追い付けない。彼女はね…苦しんだのよ!!貴方よりもずっと…!!」

私は、吉井真冬を助けてあげたのに。
何故、部長である長谷川さんにこんな事言われなきゃいけないのかって。

ずっとずっと我慢して来た。
いつの日だっただろう。

父「おーい、香澄。母さんと妹を見てろ。頼むぞ、俺は忙しいんだ。其れはお前達を育てる為なのだから。」

母「香澄の名前の由来はね、お祖母様が名付け人なの。これからどんな困難が貴方に訪れようと、貴方は一人で生きて行かないと駄目なの、香澄、理解しなさい!!こんな成績じゃ、生きて行けない!!」

両親の言葉を思い返した。
長谷川さんも、吉井真冬も嫌いだ。

私は編集部に向いていない。
暖かくて、当たり前の、普通の家庭が欲しい…。

その時だった。
憎らしいその美貌で吉井真冬が放った。
まるで私の心の中を手に取る様に。


真冬(麗華)「愛する人は…愛さないと駄目なんだよ。
あたしよりも…未だ…幼い顔色。きっと孤独を知らないから、孤独をひけらかすのでしょう。」

苛立った私は、長谷川部長に怨みを籠った瞳で、『もう二度と会社には戻らない』と伝えた。

長谷川さんは、ひたすらに彼女の手を握り締めていた。

長谷川「真冬…大丈夫。私が居る。目が醒めても、私が居るから。」

駆け出して行けなかった私は廊下から部屋を覗いて居た。
まるで親族の様で、不意に、母親に会いたくなったのは何故か解らない。
大嫌いな筈の私の母親。
何年ぶりに電話をしてみた。

私「お、お母さん…。私が誰だか解る?」

母「…何?いきなり連絡してきて。電話だったらまた今度にしてくれる?仕事中だと言っているでしょう?そもそも二度と連絡して来ない筈よ。貴方はもう井川家には存在しない事になっているの。」

私「あのね、お母さん。私ね、お母さんの事、ずっと憎かった。何故、お父さんの事を大切にしてくれなかったの?唯一、あの人が私を受け入れてくれていたかもしれないんだ。」

母は言った。

母「ねぇ、香澄。妹の桜の方がお利口さんだったのは忘れた?貴方は、私が居ないと何にも出来ない只の子どもじゃない。」

冷静に冷たくあしらう母の声。
幼い頃の私と妹との比較。
私は…其れでもきっと呼吸をしなければならないかと想うと、面倒になった。

私「お母さん…私が産まれて来て…すみません。」

母は言った。

母「前から言っているじゃない。桜は私の所でせっせと働いているのに、香澄はいつも自分の事ばかり。言えるものならば言い返しなさい。そして二度と私に電話なんてしてこないで。」

…プツッ、ツーツーツー。

そうだ。
私はもう『井川香澄』ではないんだ。
あの家を出てから、とても久しぶりの電話だった事に今更ながら実感し、やはり私には帰る場所がなかったんだと自己完結した。

私は、幼少期に飲んだくれた父親を想い出していた。
父は、酒浸りになって身体がダメになった頃から私を必要とする様になった。
きっと私は父の事を嫌いではなかった。

あの女、そう、私の『元母親』である恭子が邪魔だった。

でも何故だろう。
私はずっと頭を抱えて暫く動けずに居た。
モヤモヤして、引っ掛かる。
そして、我に返り病室を覗いた。

長谷川部長と、吉井真冬と眼が合った気がした。
まるで私を蔑む様に。

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